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確定申告は“事前準備”が重要 いまからやっておきたい対策

個人事業主やフリーランスにとって毎年向き合わなければいけない確定申告。しかし、最近では確定申告の電子化や、確定申告に対応した会計サービスの登場で、確定申告の作業は飛躍的に楽になりました。

かくいう筆者も、会計サービスの1つ「freee」を愛用しており、毎年3月中旬の提出期限が近づいてから重たい腰を上げ、1年分の会計処理から確定申告までをまとめて一気に片付ける、というやり方でなんとか乗り越えていますが、こんなずぼらな処理でなんとかなるのは、収入や支出をクラウドへ自動で取り込むといった準備を事前にしているからに他なりません。

今回はfreeeプロダクトマネジャー兼税理士の高木 悟さんにもアドバイスをいただきながら、事前準備をしっかりしておくことで確定申告を気軽に乗りこえられるコツを紹介します。

freeeプロダクトマネジャーで税理士の高木 悟さん

銀行口座やクレカは事前の自動取り込み設定が鍵

確定申告を簡単に乗り越えるためにもっとも重要なのは事前準備です。事前準備ができていれば、確定申告の作業自体は数日で終えることもできますが、逆に準備ができていないと作業がとても煩雑になります。

確定申告が終わったばかりで「ホッと」してるという人も、来年以降の申告を楽に終えるため、今の時期から準備をしておきましょう。

まず、できるだけ早く準備したほうがいいのが、手持ちの銀行口座やクレジットカードをクラウド会計サービスなどに登録することです。freeeでは、大手の銀行やクレジットカードは自動連携に対応しており、毎月何もしなくても銀行口座の入出金やクレジットカードの支払いを自動で取り込んでくれます。今回は筆者が使っているため、freeeでの使い方を紹介しますが、準備の基本はどのサービスでも同様です。

さまざまな銀行口座やクレジットカードに対応。詳細はこちら

また、自動連携に対応していない銀行口座やクレジットカードの場合も、明細をCSVなどのフォーマットで出力してアップロードするだけでfreeeに取り込めます。自動連携に比べると多少手間はかかりますが、明細をすべて手入力するのに比べると作業を大幅に軽減できます。

自動登録未対応の場合はCSVでアップロード

freeeはオンラインショップやSuicaなど電子マネーの自動取り込みも対応していますが、オンラインショップの場合はクレジットカードで決済していると、クレジットカードの明細と二重になってしまい、片方を消し込むなど手間がかかります。

オンラインショップや電子マネーも対応

また、電子マネーも、プライベートと仕事で同じSuicaを使っている場合、プライベートの移動が多いとこれを消し込むのも大変です。オンラインショップや電子マネーは「プライベートと仕事、どちらで使うことが多いか」で、自動取り込みするかどうかを判断しましょう。

なお、銀行口座やクレジットカードの自動取り込みは、稀に取り込みエラーが発生する場合があります。銀行口座など明細が数カ月しか保管されない場合、放置していて該当期間の明細が消えてしまう、ということもありますので、エラーが通知されたらすぐに確認するようにしましょう。

また、自動取り込みを開始するより前の期間は当然ながら明細は自動で取り込まれません。自動取り込みの設定が終わったら、いつから取り込まれているのかを確認し、それより前の明細は通帳に記帳しておくなどの準備を忘れずにしておきましょう。

確定申告に必要な各種書類は大事に保管

確定申告の時期が近づいたら確認しておきたいのが、確定申告に必要な書類です。具体的には会社の源泉徴収や生命保険料控除証明書、ふるさと納税の寄附金受領証明書などです。

これらの書類は記載された数字を入力するだけなので難しい作業は必要ないのですが、書類がないと税金の控除が受けられないこともあります。確定申告の直前になって書類がないと大変ですので、これら書類は1カ所にきちんと保管するよう心がけましょう。

また、病院の診療費や薬代は、年間で10万円を超えると控除を受けることができます。年間10万円はかなり大きい金額なので、大きな病気や怪我、出産などがないと超えることはなかなかないかもしれませんが、1年を通して何が起きるかわからないので、これらの領収書もきちんと保管しておきましょう。年間で10万円を超えないとわかったら、まとめて廃棄してしまっても構いません。

自動取り込みしている明細も、年明けくらいには一度チェックしておきましょう。通帳の記載もれなどがあり、さらに通帳にも記帳していなくて明細がないというときは銀行に問い合わせると過去の明細を送ってくれますが、どうしても1〜2週間程度は時間がかかってしまいます。確定申告の締切ギリギリであわてないよう、これら明細も年明けにはチェックすることもをおすすめします。

また、e-Taxを利用する場合は、マイナンバーカードやe-Taxのための手続きが必要になります。郵送に比べて提出する書類も少なく、後述しますがスマートフォンからのe-Taxは手続きも非常に手軽なのでおすすめですが、これらの手続きも直前では間に合わない場合があるので、遅くとも年明けには手元に用意しておきましょう。

なお、e-Taxやマイナンバーカードにはさまざまなパスワードや暗証番号が必要です。パスワードを数回間違えるとロックがかかり、最寄りの役所に行かないとロックが解除できない場合もあります。確定申告の期限直前でパスワードがわからなくなってしまうと大変ですので、設定したパスワードはしっかり管理しておきましょう。

領収書はクラウドへアップロード

確定申告の中で面倒に感じると思われる領収書も、クラウドに集約することで後の処理が楽になります。

物理的な領収書については、freeeのファイルボックス機能がお薦めです。領収書をスマートフォンアプリで撮影すると画像がファイルボックスに保管され、写真から取引日や金額を自動で入力してくれます。また、ファイルボックスに保存した領収書から取引を登録することもできます。

領収書をスマートフォンで撮影してアップロード、で領収書の保管は終わり

2022年1月施行の改正電子帳簿保存法により、領収書は物理的な保管だけでなくデータとして保管することも可能になりました。freeeのファイルボックスはこの電子帳簿保存法に完全対応しているので、領収書やレシートは写真やスキャナでデータ化してファイルボックスに保存しておくと便利です。

ただし、クレジットカードで支払った際の領収書を取り込むと、前述のオンラインショップや電子マネー取り込みと同様、取引が二重になってしまうことがあります。クレジットカード支払いの場合は取引には登録せず、データとして保管しておくといいでしょう。

オンラインショップでの購入や請求書もクラウドで一括管理

オンラインショップなどネットで購入した製品や利用したサービスの場合、クレジットカードで決済していれば明細自体は自動的に取り込まれていますが、税務署の調査が入った時のためなどに利用明細書も必要です。

Amazonや楽天など大手のオンラインショップは購入履歴を過去に遡ることができますが、オンラインショップによっては利用明細書が一定期間で削除されてしまう場合もあるため、できる限り手元にデータを保存しておきましょう。

Amazonなど大手オンラインショップは過去の購入履歴も確認できる

ファイルボックスは領収書だけでなく請求書などさまざまな書類を保存できます。freeeの有料プランの場合、月額980円の「スターター」では月に5枚まで、月額1,980円の「スタンダード」では1カ月に10GBまでファイルがアップロードできます。

請求書もクラウドに集約すると便利です。freeeの請求書機能を利用して請求書を発行すると、実際に入金があったときに請求額と付き合わせて処理できます。作成した請求書はPDFとして出力したり、1通150円で郵送代行を利用することもできます。請求書の送付が苦手な人にはとても嬉しいサービスです。

freeeの請求書作成機能。作成した請求書の郵送代行機能も

クラウドに保存した収入や支出を「取引」として処理

収入や支出をすべて取り込んだら、今度はそれを経費や収入として処理ししましょう。具体的には収入と支出に対して、勘定科目や金額、税区分などを「取引」として登録する作業です。

取引の登録を始める前に、まずは事業かプライベートなのかを分類します。仕事でもプライベートでも銀行口座やクレジットカードを利用していると、明細も個人と仕事が混ざってしまいますが、このときに便利なのがfreeeの「プライベート」という機能です。

明細のうち、仕事に関係ない明細は、「プライベート」を選択すると、事業の支出とは別、として簡単に分類できます。このプライベートは実際には「事業主貸」「事業主借」という勘定科目として処理されています。ここで詳しい説明は省略しますが、プライベートとして登録した明細をあとから確認したい時には、「事業主貸」「事業主借」という勘定科目で分類されている、ということだけ覚えておきましょう。

収入や支出を「取引」として登録

個人と事業の分類が終わったら、事業に関わる取引を登録していきますが、取引登録でもっとも悩むのが勘定科目の分類でしょう。しかし、基本的には細かい勘定科目の分類はそこまで必要ありません。

何を設定していいかわからないという人は、freeeの「自動で経理」という機能が便利です。これは明細の名前から推測して最適な勘定科目を提案してくれる、という機能です。

勘定科目を自動で推測してくれるfreeeの「自動で経理」。タクシーの明細は「旅費交通費」と自動で判断された

それでも不安な場合は、freeeの「取引入力ナビ」も活用しましょう。例えば「アマゾンプライム会費」をどういう勘定科目にすればいいかというのも調べることができます。

freee 取引入力ナビ
https://navi.freee.co.jp/

自宅の事務所利用を経費にできる「家事按分」や固定資産の処理も忘れずに

個人事業主の人にとって取引登録以外に注意したほうがいいポイントも紹介しておきます。

1つは「家事按分」です。これは自宅を事務所にしている場合、家賃や水道代、電気代なども経費にできる、という制度です。自宅であれば面積の何%を仕事場としているか、電気代であれば1カ月のうち何時間くらいが仕事の時間か、をパーセンテージで設定して経費にできます。パーセンテージは厳密に決められているものではありませんが、仮に税務調査が入って説明を求められたとき、きちんと説明できるパーセンテージにしておきましょう。

家事按分の登録画面

また、パソコンなど10万円以上するものは、「消耗品」ではなく「固定資産」として処理する必要があります。固定資産は償却年数や耐用年数などを入力する必要があり、勘定科目も複雑なため難しく感じるかもしれませんが、freeeなら資産の名前に応じて最適な勘定科目を推測してくれる機能があり、画面に従って操作していけば登録できるようになっています。

固定資産の登録画面

また、現在は30万円以下のものであれば、1年で少額償却する、つまり消耗品とほぼ同じを処理することもできるようになっています。固定資産がよくわからないという人は、1年で償却しておくのもいいでしょう。

準備が終わっていれば確定申告は簡単。e-Taxはスマホが便利

1年間の明細処理が終わればいよいよ確定申告の手続きですが、これはfreeeの確定申告機能が便利です。画面に表示される設問に答えていき、該当の箇所はガイドにしたがって入力するだけで簡単に該当項目を入力することができます。

freeeの確定申告登録画面

例えば源泉徴収は、どの欄をどこに入力すればいいのかが細かく書いてありますし、保険料の控除も金額をどこ入力すればいいかが丁寧に説明されています。

勤務先から受け取った源泉徴収票はどの数字を入力すればいいかを丁寧に解説

地代家賃は自動では反映されないため、「家事按分」から転記します。また、源泉徴収されている収入についても取引を取り込む機能がありますが、取引登録にミスがあると正しく取り込まれないこともあります。支払調書をもらっている場合は、支払調書を元に金額が正しいかを確認しましょう。

地代家賃の入力画面

freeeのガイドに従って入力が終わったらいよいよ確定申告です。freeeの確定申告はスマートフォンまたはパソコンから行なえますが、NFC対応のスマートフォンがあればマイナンバーカードを読み取るだけで申告手続きを進められるので非常に楽です。対応機種も幅広く、iPhoneシリーズのほかAndroidも数多く対応しています。

マイナンバーカード、マイナンバーカードに設定した暗証番号、そして対応スマートフォンがあれば、あとはfreeeアプリからマイナンバーカードを読み取り、画面に従って操作するだけで確定申告が完了します。パソコンと比べてカードリーダーが不要で、スマートフォンでの申請はとても手軽なため、ぜひ試してみてください。

事前準備すれば確定申告は手軽

筆者は個人事業主として開業してから10年近くになりますが、freeeをはじめとしたクラウドサービスの充実で、確定申告はどんどん楽になっています。前回の確定申告も、個人も仕事も一緒くたにほぼ1年間放置していたにもかかわらず、確定申告は着手してから1週間もかからず終わらせることができました。

繰り返しになりますが、経費の処理や確定申告の手続き自体は、事前に準備さえしておけばとても手軽です。むしろ毎年困るのは直前になって「あの書類がどこにいったかわからない!」「あの領収書が見つからない!」といった、確定申告以前の問題だったりします。自分への戒めもこめて、事前準備や書類の保管をしっかりしておき、毎年不安になる確定申告に備えましょう。