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活動を続けたいすべての漫画家に。集英社×はてな「マンガノ」が作る新しい世界
2021年5月27日 08:20
集英社の少年ジャンプ+編集部とはてなの協業という形でスタートしたマンガ投稿サービス「マンガノ」。集英社のマンガのノウハウを活用する一方で、“ジャンプ"の名を打ち出さない、ニュートラルさが特徴のサービスで、それまでとは異なる意識から生み出されたサービスになっている。
活動・ジャンル・キャリアによらない、全漫画家が対象というマンガノについて、担当者にそのコンセプトや展望を聞いた。取材では、集英社 週刊少年ジャンプ編集部 少年ジャンプ+ 副編集長の籾山悠太氏と、はてな サービス・システム開発本部 副本部長の石田樹生氏の2名に対応していただいた。
“ジャンプ”ではフォローできない市井の漫画家に
まず、マンガノが“ジャンプ”の名前を冠していない点について。これは、インターネットやスマートフォンの進化で、マンガを描く・発表する・読むという手段が多様化していることや、商業誌に掲載しない“同人活動”が日常的に行ないやすくなり、それらが読まれやすくなっていることが関係している。
籾山:なぜジャンプの名を打ち出さずにやろうと思ったのかについてですが、時代が大きく変わっていることに起因しています。昔はマンガの掲載媒体として商業誌が多くの割合を占めていましたが、インターネットやスマートフォンの普及で、ひとつの“大きなメディア”に集まることは減り、今は作家と読者がソーシャルサービスでつながっているという状況です。同人誌をはじめTwitterなど、いろんな場所で活躍する漫画家さんが増えてきました。
マンガと読者にいかに貢献するかと考えたとき、ネットのマンガメディアにいかに人が集まるかという取り組みが「少年ジャンプ+」ですが、それだけではなく、そこではフォローできない部分を手掛けたかったのです。例えば、商業誌の連載や大きなメディアで連載をしたいとまでは思っていない人たちです。
そういう時代でも、「週刊少年ジャンプ」のように、大きな“メディア”に読者と漫画家を集め人気マンガを生んでいくWeb上での取り組みを、「少年ジャンプ+」として行なってきました。創刊して8年目に入り、大ヒット作品も生まれ、読者も漫画家さんも集まる場として一定の成果を感じています。今だからこそ、むしろ“ジャンプ”の価値が高まっているとも思っています。
ですが、時代の変化によって、“メディア”を軸にした取り組みだけでは、読者と漫画家さんに貢献しきれていないのではないか、と思うようにもなりました。
TwitterなどSNSで自由にマンガを発表し続ける漫画家さんや、同人活動と商業媒体での活動を自在に行き来しながら活動する漫画家さんなど、漫画家さんの活動は今、とても多様になっています。どんな活動をしている漫画家さんにでも使ってもらえるような、スタンダードで自由な漫画家のためのツールを作ることで、今の時代に新たにマンガを盛り上げることができないか、と考えました。
マンガノは、漫画雑誌のような媒体をWeb上で作る、少年ジャンプ+のような取り組みとは少し異なります。そこで今回は、集英社だけでなく、ソーシャルサービスやユーザー投稿型サービスに知見のあるはてなさんと共同で開発・運営をするという体制で動いています。
2週間で1,000作品、若い世代も好反応
4月21日のサービス開始から2週間が経過し(取材時点)、手応えについて聞くと、予想以上という答えが返ってきた。
籾山:サービスを発表・開始して、予想を超える反響がありました。マンガ投稿・公開サイトの「ジャンプルーキー!」で1カ月間に投稿される数(※)と同じぐらいの数が、マンガノのサービス開始から数日で投稿されました。漫画家に需要があると考えていたいくつかの施策の評判もいいようで、手応えを感じているところです。
※平均で1,000件弱、話数ではなく作品数
石田:漫画家・作品の幅が広いのもいいですね。ジャンプの名前を冠すると少年マンガなどジャンルに偏りが出ると思いますが、マンガノでは4コマの商業誌出身の漫画家さんや、女性向け作品を描く漫画家さん、同人活動がメインの方など、幅の広さも出ています。
若い世代の方からの反応が良いのも嬉しいところです。幅広く誰にでも使ってもらいたいと考えていましたが、期待以上だった部分です。マンガの投稿プラットフォームは、決定版が無い時代がここ5年ほどずっと続いています。TikTokのように、自分たちの世代に合った、自分たちの世代で出たツールというのは、若い世代の方たちにとって大事なことなのではないかと思います。
トップページ、ポートフォリオ機能など準備中
サービスのトップページは現在、漫画家や作品の投稿にフォーカスしたつくり。今後、こうした見せ方の部分も変わっていくという。
石田:次はトップページを作ることですが、準備しているところです。すでに、作品を探しやすくしてほしいという声は頂いています。読者にとってもそうですが、投稿する漫画家さんにとっても、どういう作品が投稿されているのかは気になる部分だと思います。今はこうした必要な機能を順次追加していくという時期ですね。
籾山さんから、ユーザーに刺さる機能ではないかと提案され開発しているのが、商業作品と同人作品など、いろんな活動をひとつにまとめたページを作れるポートフォリオ機能です。漫画家さんにとって、発信基地になるようなページを作れるのではないか、というものですね。
このアイデアを籾山さんから提案された時は、正直ニッチな機能かなと感じていたのですが、実際に発表してみると、ユーザーさんから期待しているという声を頂いたんです。普段から漫画家さんと接している集英社さんならではの視点で、自分たちだけでは気づけなかった部分です。そうしたニーズを想定して機能の開発ができるのは、集英社さんとご一緒させていただいているマンガノの強みだと思います。
このポートフォリオ機能は優先度を上げて開発しているところです。商業と同人の垣根をインターネットで超えていくというテーマは、開発終盤の大きなテーマでしたし、今後1年間でいろいろな機能を追加していきます。
そういったマンガノにしかない機能があると、「せっかくだからマンガノで更新を続けよう」と考える漫画家さんも増えると思います。投稿サービスは面白い作品・投稿が増えれば増えるほど、加速度的に大きくなっていくという特徴があると思いますので、最初に投稿してくれるような漫画家さんに刺さるような機能をどんどん追加していきます。
出版社が運営するような既存のマンガ掲載メディアの場合、読者がひとつの作品だけを目当てに読みに来るというケースも多いと思いますが、マンガノのような投稿プラットフォームでは、話題の作品を読みに来た人が、「自分も投稿してみよう」と新しく投稿する側にもなれます。作品が新しい投稿者を呼び、投稿者が作品を投稿し……というサイクルです。こういう盛り上がりは、集英社さんと機能を追加しながら実現していきたいですね。
モチベーションを損なわない「やわらかコメント機能」
籾山:漫画家の環境が、時代に応じて変化していく中で、その時々に出てくる要望をできるだけマンガノで実現していきたい、そういうサービスであり続けたい、と考えています。
例えば以前、ある漫画家さんから、Web上で作品を発表して反応をもらえるのは嬉しいけど、ネガティブなコメントには凹んでしまう。優しいコメントが集まる場所だったら投稿したい、という声をもらいました。これは多くの漫画家さんが感じていることだと思います。そこでマンガノでは、コメントは全件を人力でチェックして、ポジティブなコメントだけを表示できる機能(※)も用意しました。
こういったように、漫画家さんとファンとのコミュニケーションやマネタイズなど、活動する上での要望は、できるだけ耳を傾けて、採り入れていきたいですね。
※設定でオフにもできる
準備中の機能は夏までにどんどん追加
石田:トップページやポートフォリオ機能など、今要望のある機能や大きい機能は、夏をめどに、どんどん追加していきたいですね。今までは、漫画家さんにとってのYouTubeや「小説家になろう」にあたるようなスタンダードな投稿サービスが無かったので、不便な状況だったと思います。機能を提供すれば、要望も増えてくるという状況だと思いますし、マンガノがそういうサービスになれればと思います。
自分たちが考え提案する機能ももちろん追加を予定していますが、投稿サービスを長年手掛けてきた経験からすると、そういう機能の中にはハズしてしまうものもあるんです。そのような場合は真摯に反省して次につなげていきたいですね。同人活動をしているスタッフも開発に参加していますので、自分たちなりに情報収集をして、同人界隈で活躍されている漫画家さんのニーズもどんどん追加できたらなと思います。
成人向けは今後も対象外の方針
マンガノは利用規約で成人向けを対象外としているが、サービス提供の背景などもあり、これを変更する予定はないという。
籾山:成人向け作品の取り扱いについては、現時点では利用規約を変更する予定はありません。
石田:成人向け作品は数も多いですし、販売しているお店・Webサイトもたくさんあります。人気があるので、逆にそのような場所では、全年齢向けの作品の漫画家さんからは「居場所がないと感じる」という声を聞くことも多いです。そういう声は大事にしたいなと思っていますし、成人向け作品を扱う予定がないという前提で運営するほうが、「居場所がない」と感じている漫画家さんにたちにとって良い場所になるのかなと思います。
ジャンル分けは慎重に
全年齢向けでも、恋愛、コメディ、バトルなどさまざまなジャンルが存在しているが、まずはジャンル分けではなく、レコメンド機能を充実させる方針。ジャンル分けはプラットフォームに“色”を付けてしまう可能性があり、慎重に考えられている。
籾山:具体的にはこれから作っていくのですが、漫画家さんは公開した作品を多くの人に読んでもらいたいですし、読者にとっては自分が読みたい作品が次々と探せるようなものにしていきたいです。
どう見せていくかですが、ランキングを大きく表示するような形はあまり考えていません。どちらかというとパーソナライズされたもので、この漫画家が好きならこれも、という形や、SNSですでにフォローしている漫画家のアカウントの情報と連携する形など、新しい探し方・探され方を追求していきたいと思います。
石田:最終的に毎月数千件という投稿の規模になれば、ジャンル分けがないと探しにくくなると思いますが、そういう規模になるまでは、既存のサイトとは違う、パーソナライズを軸にした部分を大事にしていきたいですね。
開発を通して籾山さんがずっとこだわっていらっしゃったのは、漫画家さんに「自分には関係ないツール」と思われないようにする、ということです。例えば、あまり投稿数が多くないジャンルを用意して、実際に投稿数が少ないと、このジャンルはこのサービスでは受け入れられないのかな、と漫画家さんに避けられてしまう。マンガノを使うきっかけを悪い意味で損なってしまいます。ジャンルの設定や分け方にはそういう難しさもあるので、慎重にやっていきたいです。
籾山:どこかのタイミングでジャンル分けはすると思いますが、できるだけ色がつかないような、スタンダードなものにしたいというのが意向です。
活動、ジャンル、キャリアによらない、漫画家さんだったら誰でも使えるものにしたいのです。
もちろん成人向けなど対象にならないジャンルはありますが、基本的にはすべての作品、全漫画家さんのインフラになるようなツールにしたいというのが根底にある発想です。この点は注意深く取り組んでいきたいですね。
石田:マンガノでは、なにか新機能を追加する時も、ほかのマンガ投稿サービスにはない機能を作ることが多いので、例えばYouTubeにこの機能はあるのか・ないのかということはよく考えるようにしています。先ほどのジャンルも、YouTubeでは上位のメニューで動画のジャンルが細かく分かれているわけではありませんよね。投稿サービスの決定版になるためにも、機能を開発する姿勢はそういう部分も意識しています。
今感じている課題
予想以上のスタートをきったということだが、課題と感じている部分はどこだろうか。知名度の向上、アナリティクスの提供などについて、今後取り組んでいくという。
石田:気づいてもらって、触ってもらえた方には満足していただけるサービスを作れたという手応えは感じていますが、ターゲットとしている、幅広い層の漫画家さんたちにしっかりとサービスの存在が届けられているとかというと、まだまだ届いていないね、という話はしています。マンガノというサービスがあること自体、もっと気づいてもらう必要があります。
集英社さんの「ジャンプ」をはじめ、「はてな」だったり「ジャンプルーキー!」だったりというブランドを使わずに始めたので、もし使っていれば、知名度は最初からもう少し高かっただろうなと予想できる一方で、投稿者の幅はこれほど広くならなかっただろうな、とも思います。
籾山:既存のブランドを使わなかったのは、目指す方向が違うからですね。
課題という部分ですが、今は読まれた傾向が詳細な数字で取得できるので、漫画家さんにとって役に立つ数字を提供できるようになればいいですね。漫画家さんにも、商業と同人の両方をしている人、同人だけの人、かつて描いていた人など、形はさまざまで、それぞれに適したものを提供して、自分がしたい活動をマンガノを通してできるようにしたい。
読者の反応は特に重要だと思いますし、反応を見て作品を描いたり方向性を決めたりすることもあると思います。それは、ジャンプのアンケートハガキで読者の反応をみながら展開を考えていく手法に近いですね。個人でも、数字と反応・声をみながら、展開を考えていけるというツールになれば、マンガノがより漫画家さんに貢献できるサービスになれると思います。
石田:「少年ジャンプ+」でも、詳細な分析ができるツールが整備されていて、仮にそういうものをマンガノでも提供できれば、マンガのプロである集英社さんと組む意味がさらに出てくると考えています。そういうプロの視点を提供する、というのは目指したい部分です。
最近はリアルなイベントが開催されていないので、リアルな反応に飢えている漫画家さんが多いのではないかと思います。5ページ目でいいねをしてくれたとか、仮にそういうことが分かれば、オンラインらしい楽しみ方・喜び方につながるのかなと。
マンガノのゴールは全漫画家のツールになること
最後に、マンガノのゴールの姿と、マンガノの投稿者・読者へのメッセージを聞いた。
籾山:Web上で発表されるマンガが、すべてマンガノのツールを使って公開されるというのが、最終的な目標です。シェアを独占したいという意味ではなく、漫画家にとってマンガノを使うことが一番、自分がしたい活動ができる、創作活動をモチベーションを持って続けられる。そうなってくれればいいなと思っています。まずはこれまでに描いたマンガを投稿して、触ってもらえたら嬉しいです。
石田:国内でイラストや小説、ブログを書いている人の数と比べて、マンガを描いている人は桁が少ないと想像しています。マンガノは、個人的には、マンガを描く人を増やすサービスであってほしいですし、使い続けてほしい。YouTubeが誕生して、動画を配信する人が生まれて、増えたように、マンガノを通してマンガを描く人、描き続ける人が増えればいいなと思っています。
運営としての目標は別にあると思いますが、個人的には毎月1万人が投稿してくれるようなプラットフォームというのが、ゴールとして目指したいところです。
マンガは小説やブログとはまた違う制作の大変さがあるものだと思うので、はてなブログで培ってきたノウハウがそのまま活かせる訳ではないですが、ブログと同じように、表現手段として面白いものだと思っていますし、ブログや小説と同じように万単位の投稿者のいる規模になれば、インターネット上にもっと面白いコンテンツが増えると思います。
(サービスイン直後の)ゴールデンウィーク中にマンガノに投稿してもらった作品を読んでいたのですが、すごく面白い作品がありました。と同時に、Twitterに投稿されていたら、はたして読んだだろうか、とも思いました。漫画家さんにとってTwitterへのマンガの投稿は、不便だけど我慢して使っている、という状況が何年も続いていたと思います。読む側も快適とはいえませんし、こういう状況を苦々しく感じていました。
少なくとも、Twitterにマンガを投稿するよりマンガノに投稿した方が、読みやすい、使いやすいと思ってもらえるレベルのクオリティは確保してリリースできたのかなと思います。Twitterはマンガ投稿に特化したサービスではないので、両⽅に投稿してマンガノをアーカイブとして利用してもらってもいいですし、マンガノに投稿してTwitterで紹介するという形でもいいですね。普段Twitterにマンガを投稿している方にとっては、そのように活用してもらうことで投稿や管理がしやすくなりますし、ぜひマンガノを活用していただきたいですね。