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日経・読売・朝日の電子版それぞれの長所と短所 スマホ時代の「新聞」を使い倒す(4)

本連載では、日経、朝日、そしてサービス本格化から間もない読売を加えた合計3紙について、有料電子版サービスの内容を比較してきた。それぞれの特徴をコンパクトに列記すると、こんな感じだ。

日経

・3紙の中では最も料金が高い
・アプリの使い勝手は3紙の中ではベスト(筆者主観)
・バックナンバーも1カ月読める

読売

・紙版契約者限定のサービスだが、追加料金不要
・スマホアプリがない
・紙面ビューアーで夕刊が読めない

朝日

・価格は中間だが特典充実
・テキスト記事・紙面ビューアーの連携にこだわりを感じる
・広告が少ない

第1回:日本経済新聞電子版
第2回:読売新聞オンライン
第3回:朝日新聞デジタル

「紙の新聞」に意義を感じるなら、理想の課金体系は読売

3紙の電子版サービスは、筆者の金銭感覚で言うと「高い」。紙版の宅配を受けようが受けまいが、結局のところ月4,000円前後の出費はかかると考えてもらってよい。主要プランで比較するなら、朝日の「デジタルコース」(紙版の宅配はなし)が最も安いがそれでも月3,800円かかる。

では、それに見合うだけの価値はあるのか?──こう問われると、本当に答えるのが難しい。新聞を読む習慣が一切なかった人が、購読をはじめたその初日からお得感を感じるかと言えば、それは無理だと思うし、長年の読者でも「惰性で契約しているだけ」とおっしゃる方は少なからずいるだろう。

これを踏まえた筆者なりの方針はこうだ。「2人以上が暮らす世帯なら紙版・電子版セットを購読すべき。一人暮らし世帯は懐事情に応じて契約するもしないもよし」。

詳しくは後述するが、「紙の新聞の宅配」にはそれなりの価値があると筆者は考えている。ただ、それは「周りに同じ新聞を読んでいる人がいる」ことによって真価を発揮する。それこそ家族との間で「今日の料理欄見た? 美味しそうだったよね」「昨日見た映画の出演者が、新聞でインタビュー受けてたよ」といった具合に、日常の中での回し読みで自然とコンテンツの“共有”ができるからだ。

新聞と一緒に届けられる「折り込みチラシ」にこそ、新聞宅配の真理があるのだと説く人も……

最近はどうか知らないが、筆者がまだ新社会人だった約20年前は「就職したら日経くらい読んでおけ」みたいなアドバイスが飛び交っていた。日々の勉強が重要だという視点に加え、同じ新聞を読んでおけばなにかと話題が弾むという事だったのではないだろうか。

また単純に世帯内に読み手が多ければ、購読費を割り算できるので、計算上の1人あたりコストはどんどん安くなっていく。同居する人数でなく、あくまで世帯単位で請求されるNHK受信料が、1人暮らしでは割高に感じるのと理屈的には同じだ(余談だが、新聞社はなんとかして1人暮らしがおトクに使えるプランを新設すべきと思う)。

加えて、宅配される新聞には大抵、折り込みチラシが付いてくる。スーパーの特価セール、ニューオープンの店のクーポン、求人情報など、地元の情報を仕入れるにあたって、折り込みチラシはバカにできない存在で、それこそ筆者の周囲には「折り込みチラシが多いから読売を購読する」と断言する人までいる。

2019年4月の現時点で、価格戦略とユーザー利便のバランスが最も適当だと筆者が考えているのは読売だ。電子書籍がこれだけ増えた時代でもまだ紙の書籍が流通するように、紙の新聞にもキッチリと利便性がある。一方で、これだけ社会生活にスマホが根ざしている以上、電子版も使えて当然であるべきだ。日経・朝日のように、紙版の料金に1,000円をプラスしなければ電子版が読めない時代が長らく続いた中、それを覆した読売の決断には賛辞を贈りたい。

「新聞体験」は3紙おおむね共通、細かな違いを気にするかどうか

ただ、読売はトータルな低廉性の一方で、機能的には他の2紙と比べてやや劣ると連載2回目に書いた。アプリは公開されていないし、紙面ビューアーで読めるバックナンバーは7日分で、これは日経の30日分と比べると相当少ない。しかしそれでも、紙版・電子版セットが5,000円を超えてしまう日経・朝日よりは安い。絶妙な落とし所ではないだろうか。

とはいうものの、機能面の差は一般的な新聞利用の中では些末な違いともいえる。当日ないし前日のニュースを、一般的なネット記事やブログを読むのとほぼ同じユーザーインターフェイスで読みたいだけなら、あとはもう好みの問題に過ぎない。

それでもなお、スマホでの新聞体験に優劣を付けろと言われるなら、日経を1位にあげる。機能をフルに使うとなると、標準アプリ、紙面ビューアー用アプリの2つインストールしなければならないのだが、その連携が特に複雑ということもない。

また、24時間体制・分単位で常に新着記事が追加されていく「電子版」とは別に、「朝刊・夕刊」のタブがあるので、各日の重要記事が後追いで把握しやすい。となると、30日分のバックナンバーが見やすく保存されている意味も増す。「何日か前に経済面で見た記事が思い出せない。検索にも上手く引っかからない」といった時に、重宝するはずだ。

日経では、用途に応じて2つのアプリを用意
「朝刊・夕刊」タブの存在が、日経アプリが優れていると感じさせる

朝日のアプリは日経と違い、1つで通常テキスト記事・紙面ビューアー記事を両方読める。当日の朝刊・夕刊をテキスト記事で読むのは簡単なのだが、ただ前日の朝刊に載った記事をひとまとめに読もうとすると、えらく面倒になる。こういったところが前述の“些末な違い”。仕事の都合で新聞を読まなければならない人には、気になる違いかも知れないが……。

PC・タブレットがあれば紙面ビューアーは実用的なのか

新聞のレイアウトをほぼそのまま表示し、ドラッグ&ドロップでスクロールさせて閲覧する紙面ビューアーは、ビジュアルのインパクトが本当に強い。有料の新聞電子版と聞いてまず連想する人も少なくないだろうが、やはりスマホの小画面で閲覧するには限界がある。そう毎日利用する機能ではない……というのが筆者の率直な感想だ。

では、スマホではなく、PC・タブレットでの閲覧ならばどうだろうか?

確かにスマホと比べてタブレットなら閲覧性は上がる。下の写真は画面サイズ9.7インチのiPad Air初代モデルで朝日新聞の紙面を閲覧しているところだ。視力、老眼の有無によっても異なるだろうが、筆者にとっては文字サイズがやや小さく、ピンチイン・ピンチアウトで拡大縮小させなければ記事が読みづらい。7.9インチのiPad miniではさらにツラそうだ。

朝日新聞デジタルの紙面ビューアーをiPhone 7とiPad Airで比較。見出しの見やすさは向上するが、新聞1ページ分を拡大縮小なしでそのまま読むのはツラい
iPad Airで1ページまるごと表示した状態の文字サイズ。手の大きさを基準にしてみると、だいだいの感覚が伝わるかと思う

こちらは27インチのPCモニター(横配置)で、読売の紙面ビューアーを全画面表示した状態。画面の縦サイズは実寸で約34cm。12.9インチのiPad Pro(外形寸法の長辺28.6cm)をはるかに超えるサイズだが、個人的にはそれでもまた厳しいと感じる。

27インチのPCモニター(横配置)で、読売の紙面ビューアーを表示。一般的な卓上カレンダー(右下)と文字サイスを比べてみてほしい

今後タブレットの大画面化が進み、20インチ超のディスプレイが当たり前の時代がくれば、紙面ビューアーの位置付けも変わってくるだろう。そうなると今度は持ち運びの問題が出てくる。家のリビングでは問題なくても、屋外には簡単に持っていけないだろう。

しかし、新聞記事との付き合い方を考えれば考えるほど、「あらゆる姿勢・場所で新聞を読めるか」がいかに重要か、気付かされるのだ。

デジタル版の魅力とは「いつでもどこでも片手で手軽に」

今回の集中連載にあたっては、約3週間に渡って、日経・読売・朝日のデジタル版にじっくり触れてみた。朝食を食べながら、あるいは取材先へ向かうための電車の中で、昼時の公園で、ファミレスで夕飯を食べ終えた後で、洋式トイレに腰掛けながら、そして布団に潜り込んで眠りにつく直前など、とにかくあらゆるシチュエーションで電子版を読んでみた。

「スマホで新聞」の意義は、常に肌身離さず持ち歩いているスマホで、好きな時に好きなだけ、それこそ片手でも新聞を読める点にある。

言うまでも無く、紙の新聞は(物理的に)大きい。日本の新聞の多くは「ブランケット判」を採用しており、1ページの大きさ(横×縦)は406×545mm。見開き状態では横幅がさらに倍になる。大きな食卓がある部屋はともかく、オフィスの机だったり、喫茶店の2人掛けテーブルなどではページを開くのに苦労する。

もちろん、新聞はその紙面の大きさに依拠した表現手段を持っている。見出しの文字サイズや色、写真の大きさで、ニュースの重要性を伝えられる。それこそ8年前の東日本大震災に際しては、新聞各紙の1面に、その横幅をすべて使って極めて大きく「地震」の見出しが躍った。

とある日のマクドナルドにて。新聞を読みながら朝食をとったのだが、トレーやカップが並んだ状態だと、4人掛けのテーブルでも新聞を開くには狭く感じる

持ち運びのしやすさも、今となってはそれほど高いとは言えない。駅で買って読み捨てるならともかく、自宅に届いた新聞を持って朝出かけるのは少数派だろう。

スマホは画面こそ小さいが、その可搬性は抜群で、枕元に置いて寝る人も多いはず。先にも少し触れたが、「布団の中で仰向けになって新聞を読む」という体験は、紙の新聞では事実上難しい。寒い冬の朝、ポストに足を運ばず、布団の中で丸まったまま、当日の天声人語を読みたいとしたらどうすればいいのか? 「それくらい我慢して起きろよ」という声が聞こえてきそうだが、いやスマホと有料の電子版の組み合わせなら、難なくやれる。対して、紙の新聞やPCではほぼ無理。タブレットなら何とかなろうが、スマホに比べて普及度が劣る以上、同列には語れない。

これは極端な例だが、かといって一笑に付すこともできないと思う。動画配信サイトが徹底したマルチデバイス対応で顧客との接点をとにかく増やそうとしているのを、新聞社は横目で見ているだけでいいのか? 読者に「少しでも多く記事を読んでもらいたい」「新聞がない生活はイヤだと思ってもらいたい」のなら、タッチポイントを増やさなければならない。つまり、電子版を読みやすくするための戦略(価格、アプリの使いやすさなど)が不可欠で、実際に推し進めるべきだ。

新聞で情報経路の多角化を

それこそImpress Watchをはじめ、ウェブ専門のニュースメディアは星の数ほどある。しかし、その多くは専門分野ごとにターゲティングされている。IT専門だったり、通信関係だけ、あるいは車やエンタメだけといった具合だ。

これに対して、新聞の魅力は(業界紙を除けば)明らかに「総合力」にある。社会的な事件・事故を筆頭に、スポーツの結果、宝くじの当選番号、人生相談、料理レシビ、読者投稿などなど……。くまなく検索すればそれこそネットで、無料でかき集められる情報かも知れないが、これらを1パッケージに読みやすくし、毎日届けてくれるのが、新聞に他ならない。

IT系のデジタル媒体が仕事場の筆者にとっては、「国際」「文化」などのジャンルは新聞・テレビに頼ってばかりだ。こちらは朝日新聞のアプリ

そこへ「情報源としての信頼性」も加味される。例えば大きな火災があって、その様子が動画で撮影されてSNSで出回ったとする。現代ならではの現象で、情報伝達の速さの面では確かに新聞が太刀打ちできるところではない。ただそれでも、怪我人が出たのか、どれくらいの範囲が燃えたのか、周囲にどれくらい影響が出たのかをトータルに把握したいとなると、そこはやはり新聞社の取材体制が強みを発揮する。

陳腐な結論で恐縮だが「情報源は複数あってこそ」。ウェブのニュースサイト、ウィキペディアがあれば、それなりの調べ物できるかもしれない。しかし、テレビで見た情報であったり、専門書で学んだ内容、そして新聞で読んだ記事も加わっていく事で、物事に対する理解は深まっていく。

筆者ならコレを選ぶ──将来的な価格戦略に期待

やや観念的な話になってしまった。最後に、筆者が独断と偏見で選んだのは───読売新聞だ。なにより重視したのは、紙版を月額4,400円で契約さえしていれば電子版が無料でついてくること。筆者宅では、紙の新聞を読む習慣がある人物が2名いるので割安感がある。家では紙版を読み、必要なら出先で電子版をスマホで読む。無料(?)ゆえの機能不足には目をつぶることにする。

筆者のオススメは読売新聞。今回オススメした3紙の中では、紙版・デジタル版セットが最も安いのが最大の要因だ

単身世帯なので古新聞整理が面倒とか、そういった事情があれば、とにかく値段重視で朝日新聞のデジタルコースを選ぶのも1つの手だろう。

新聞電子版の行く先を占うのは、やはり価格だ。折しもアップルは3月25日、月額9.99ドルのニュース読み放題サービス「News+」を米国で発表した。雑誌の読み放題も含まれるとのことで、新聞の全記事が読めるのか、バックナンバーはどうなっているかなどの疑問は残るが、国際的な動向として注目せざるを得ない。

また米国のワシントンポストやニューヨークタイムズの電子版サービスを調べてみると、1カ月で10ドルだったり、1週間で2ドル(4週間8ドル)程度の設定だった。米国の新聞事情は日本とは大きく違うと言われるが、それでもやはり価格差が目に付く。紙の新聞の部数減が続く日本で、果たしてどういう道が選択されるのか? 今後も注目していきたい。

米国ワシントンポストのサブスクリプションプラン。日本の主要紙の約半額といったところ