文具知新

高級ペンの見た目で330円! 三菱鉛筆の「ユニボール ワン F」

仕事や日々の暮らしに欠かせない文房具。なにげなく使っているその小さなボディには、驚きの最新テクノロジーや、工業製品としての知恵と工夫の歴史、作り手の粋な(ときどき過剰な)心づかいなどがこれでもか!と詰まっています。本連載「文具知新」では、知ればもっと使うことが楽しくなって、思わずお店で手に取ってみたくなる、文房具のちょっぴりマニアックな魅力をお届けします。

デジタル化やペーパーレス化の時代と言われ続けてひさしい昨今ですが、それでも仕事で、家庭で、筆記具を手に取る場面は少なくありません。今回は、筆記具の中でも特に使う機会が多いボールペンの中から、三菱鉛筆の「ユニボール ワン F」をご紹介します。

くっきり書ける新インクを搭載

ユニボール ワン Fは、「ユニボール ワン」シリーズに連なるゲルインクボールペンです。このシリーズは、「ノート、くっきり決まる」というキャッチフレーズの通り、発色が鮮やかで、濃い筆跡でくっきりハッキリ書けるインクが最大の特徴となっています。

色濃い文字が書ける秘密は、インクに新技術のビーズパック顔料を使用していること。ボールペンのインクに色をつける材料を色材といいますが、その色材が特殊な粒子(ビーズ)の中に閉じ込められているのです。これにより、色材の粒子サイズが従来よりも大きくなるため、色材が紙に浸透しにくい、という効果が生まれます。

浸透しにくいということは、色を出す粒が紙の上に残ってのっかっている状態になるため、くっきり発色する、というわけです。ユニボール ワンの黒インクは、「世界で最も黒いゲルインク」として、2023年7月にはギネス世界記録にも認定されているほど。実際に書いてみると、たしかにパッキリとしたクリアな筆跡を楽しめます。

左利きにも嬉しい速乾性

このインクのもうひとつの特徴は、速乾性です。通常、速乾性をうたうインクは、紙に素早く浸透する性質を持っています。水分を素早く紙に引き込むことで、表面が乾く仕組みです。ただその代償として、紙によっては裏抜け(筆記面の裏側にまで色が抜けてしまうこと)が起こりやすくなる、というデメリットがあります。これは、水分と一緒に色材も紙の中に引き込んでしまうことによって起きる現象です。

ユニボール ワンの場合、ここでもビーズパック顔料の良さが効いてきます。液体成分は素早く浸透するけれど、色のついたビーズは紙の繊維に引き込まれず表面に残るので、速乾性の高さと裏抜けのしにくさを同時に実現できるのです。

速乾性が高いということは、横書きだとどうしても書いた文字の上に手が乗ってしまう左利きの人にも便利だということ。また右利きの人であっても、擦って汚したくない履歴書などの重要書類の記入や、縦書きでの筆記においてそのメリットを実感するはずです。

ちょっと高級な「ユニボール ワン F」

今回紹介するユニボール ワン Fは、ユニボール ワンのちょっと高級なバージョン、という位置付けの製品です。ちなみに「F」は「Feel(感じとる、感覚)」を意味しているのだそう。

ユニボール ワンとの大きな違いのひとつは、ニュアンスあるカラーの軸色です。ユニボール ワンの軸色は、基本的に白(黒インクのみ黒色の軸あり)。上部にある一部のパーツだけが内部のインクに合わせた色になっています。

一方、ユニボール ワン Fは軸全体が今っぽいニュアンスカラーで、色名も「花霞」「日向夏」「霜柱」など詩的な雰囲気です。これは、日常で目にする身近な色を表現しているのだそう。ちなみに、筆者が愛用している黒(色名は「消炭」)だけはクリップまで黒のワントーンで統一されており、洗練された大人っぽい雰囲気で気に入っています。

「ユニボール ワン」(画像:三菱鉛筆プレスリリースより)
「ユニボール ワン F」(画像:三菱鉛筆プレスリリースより)
「消炭」はクリップまでオールブラックで大人っぽい!

ユニボール ワン Fは軸色に関わらず、初期状態で搭載されているインクの色は黒のみです。ただし、ユニボール ワンと替芯は共通なので、自分で好きな色の替芯を購入して入れ替えることは可能です。

このデザインで330円は超お買い得!

筆者が個人的にいちばん驚いた点は、330円という価格です。いわゆる単色のボールペンで一般的に売られているものは、100円台のものがほとんど。そこからちょっといいペンが欲しいな、と思って高級ペンと呼ばれるジャンルに目を向けてみると、価格帯は一気に1,000円〜3,000円程度にまで上がります。その中間的な価格帯である300円台というのは、意外と並ぶものが少ない立ち位置なのです。

いわゆる「高級ペン」は、その価格に見合うよう、軸の素材に金属などを使ったり、クラシカルで凝った装飾のデザインであったり、という作りになっています。もちろんそうしたペンも素敵ですし、持つことに対する憧れもありますが、ビジネスの場面でもすっかりスーツを着なくなってしまった昨今、普段使いのペンとしてはちょっとかしこまりすぎかな?という印象もあります。

その点、ユニボール ワン Fは、逆に装飾を削ぎ落とすことで高級感を出している、というのが今の気分にちょうどよくマッチしていると思うのです。Tシャツの上からジャケットを羽織るような、リラックスしたビジネススタイルにコーディネートするペンとしてもぴったり。ファッションブランドに例えるなら、シンプルでありながら上質な「Uniqlo U」のようなイメージでしょうか。

また、ペンというのはついうっかりどこかに置き忘れて失くしてしまう、なんてこともままあります。あまりに高級なペンだと紛失した際の精神的なダメージが大きいですが、300円くらいだとギリギリ「まあいいか……」とあきらめがつくというのも、普段使いの道具として気兼ねのないポイントではないでしょうか。

ラバーグリップがないことのメリット

究極にシンプルなデザインのユニボール ワン Fの軸には、ユニボール ワンにはついているラバーグリップもありません。これをどうとらえるかは、各々の好みによる部分もあると思います。手汗が多くてペンが滑りやすいという人にとっては、ツルツルして持ちにくいというデメリットに感じるかもしれません。

一方、滑りやすいことにはメリットもあります。社会人になると、学生時代のようにペンケースをいつも持ち歩くわけではないけど、紙とペンだけは必須、という方も多いと思います。そんな時には、ペンを1本だけ持ち運ぶため、手帳やノートのカバーについているペンホルダーを使用することになるのではないでしょうか。

しかし、このペンホルダーが意外とくせものです。ラバーグリップがあるペンの場合、引っかかってしまってスムーズに抜き差しできない、なんて経験はありませんか? 特にビニールのカバーだと、勢い余ってペンホルダーごと引きちぎってしまう、なんてこともあったりなかったり。ユニボール ワン Fはグリップがなく滑りが良いので、ペンホルダーに差しておくペンとしても最適なのです。

ペンの重さが書き心地の高級感につながる

もうひとつ、ユニボール ワン Fにあってユニボール ワンにない特徴は、「スタビライザー機構」という先端の金属パーツです。

これがあると何が良いのかというと、ペンがちょっと重くなることです。実は高級ペンの書き心地の良さには、重さが一役買っています。ボールペンは手や指の力で先端を紙に押し当てることで筆記が可能になりますが、このときペン自体に重さがあると重みが力を補助してくれるので、軽い力で書ける、というわけです。

高級ペンは軸全体を金属にしたりすることで重さを出しますが、ユニボール ワン Fの軸はプラスチック製でありながら、先端にのみ金属パーツを追加して重みを加えたところがミソ。この構造のおかげで、軽やかな見た目でありながら、高級ペンの書き心地を味わうことができるのです。

ただ気をつけなければならないのは、金属パーツが入っているのは先端部分だけなので、重心の位置がやや前よりになっている、ということ。バランスがユニボール ワンなど、全体がプラスチックのペンとは少し違うので、持ち方によっては合わないと感じるかもしれません。ペンの持ち方にクセがある人は、購入前にお店で試し書きをしてみることをおすすめします。

カジュアルだけど良いペンが欲しい人は買い!

まとめると、ユニボール ワン Fは、見た目と書き心地では高級ペンにも引けを取らないのに、価格は330円とワンコインでお釣りが来るというコスパの高さが魅力的なゲルインクボールペンです。

「商談や打ち合わせで人から手元を見られる機会が多いので、ちょっとスタイリッシュで良いもの感のあるペンが欲しい」という方、「ビジネスカジュアルやミニマルなファッションが好きだから、小物もそれにマッチするもので合わせたい」という方には、特におすすめです。

定番展開されている軸色は全7色ですが、それ以外にもトレンドをおさえた限定カラー・デザインの軸が発売されることがありますので、文房具売り場に足を運んだ際には、ぜひペンのコーナーをチェックしてみてください。

ヨシムラマリ

ライター/イラストレーター。神奈川県横浜市出身。文房具マニア。子供の頃、身近な画材であった紙やペンをきっかけに文房具にハマる。元大手文具メーカー社員。著書に『文房具の解剖図鑑』(エクスナレッジ)。