中小店舗のキャッシュレス対応

第7回

キャッシュレス比率がいきなり爆増! ポイント還元事業の影響大

10月1日に消費増税と軽減税率制度が開始となって1カ月ほど経過しました。筆者の家族が経営する店、紀の善でも、10月1日以降、キャッシュレス決済を利用するお客様がかなり増加しました。そこで今回は、この1カ月間にキャッシュレス決済がどのように推移したのか、紹介したいと思います。

キャッシュレス決済比率が4割を超える日も!

消費増税と軽減税率制度が開始となったのが10月1日です。そして、同時に、キャッシュレス・ポイント還元事業(キャッシュレス・消費者還元事業)が開始されました。2019年10月1日から2020年6月30日までの期間限定ではありますが、対象店舗でキャッシュレス決済で買い物をすると、決済額から最大5%が還元されるというものです。紀の善では、最大となる5%の還元となっています。

消費増税は8%から10%ですので、増税分を上回る還元率となり、軽減税率対象となる商品を購入した場合も適用となるので、消費者にとって非常におトクな制度と言っていいでしょう。

また、キャッシュレス・ポイント還元事業が行なわれている間は、店が負担するキャッシュレス決済時の決済手数料のうち1/3が補助されることになります。つまり、お客様だけでなく店にとってもおトクな制度となっているのです。

制度の是非はともかく、キャッシュレス・ポイント還元事業は、お客様と店舗双方におトクな制度となっている

筆者の家族の店では、10月1日の制度開始に間に合うように早めに動いていたこともあって、9月中に対象店舗として登録され、10月1日からキャッシュレス・ポイント還元が行なえました。そのため、10月1日以降は、それまでと比べてキャッシュレス決済のお客様がかなり増えると予想していました。

その予想どおり、10月1日のキャッシュレス比率は約33.5%と大きな伸びを示したのは、前回紹介したとおりです

その後の動向についても、レジ担当の店員に聞いてみたところ、明らかにキャッシュレス決済を利用するお客様が増えたとのことでした。

というわけで、10月1日から10月31日までのキャッシュレス比率のどう推移したのか、見ていきましょう。

下のグラフが、店での実際のキャッシュレス比率の推移です。まず、10月1日に約33.5%を記録しましたが、翌日の10月2日には38.5%を記録。その後数日はやや落ちて30%ほどとなりましたが、キャッシュレス・ポイント還元事業が始まって初めての週末となった10月5日には一気に増えて40.6%、翌日の10月6日も40.4%と、比率が40%を超えました。ここまで大きく増えるとは予想していませんでしたので、この伸びにはかなり驚きました。

ただ、それ以降はやや落ち着きを見せています。ほとんどの日で30%を超えてはいますが、30%を切る日も見られました。10月1日前後は、テレビなどで盛んに消費増税や軽減税率制度、キャッシュレス・ポイント還元制度などについて報道されていましたので、お客様も意識してキャッシュレス決済を利用しようとして、比率が増えたのではないかと思われます。

表1:10月のキャッシュレス比率の推移

とはいえ、前月までと比べると、キャッシュレス比率は大きく伸びています。最終的に10月全体のキャッシュレス比率は約33.1%となりました。9月のキャッシュレス比率は22.5%でしたので、10ポイント以上の伸びとなりました。このようにキャッシュレス比率が大きく伸びたのは、もちろんキャッシュレス・ポイント還元が大きく影響しているのは間違いないでしょう。

報道によると、キャッシュレス・ポイント還元は1日あたり10億円という規模になっているそうです。このままいくと予算が足りなくなるかも、とも言われていますが、このことからも、想定以上にキャッシュレス決済が活用されていると言えます。制度の是非はともかくとして、お客様がおトクにお買い物できるという点が大きな魅力となるのは当然ですし、店でのキャッシュレスの伸びも納得です。

キャッシュレス決済の方が客単価が高い

さて、上で紹介したキャッシュレス比率は、金額ベースで出しているものです。この計算をしている時に、ふと決済回数ベースでのキャッシュレス比率がどうなっているのか、急に気になってしまいました。そこで、決済回数ベースでのキャッシュレス比率もチェックしてみることにしました。

10月の1カ月間の決済回数は8,429回でした。そのうちキャッシュレスでの決済回数は2,625回でした。つまり、決済回数ベースでのキャッシュレス比率は30.8%だったことになります。金額ベースでは33.1%でしたので、決済回数ベースではわずかに比率が下回っていることになります。

せっかくなので、日ごとの比率の推移も出してみました。その結果が下のグラフです。基本的に金額ベースでの比率とほぼリンクしてはいますが、ほとんどが金額ベースの比率を下回っていることがわかります。

表2:金額ベースと回数ベースでのキャッシュレス比率の推移

このことから言えるのは、現金決済のお客様よりも、キャッシュレス決済のお客様のほうが単価が高くなっている、ということです。実際にそれぞれの客単価を計算してみたところ、キャッシュレス決済の方が11%ほど高くなっていました。過去のデータもチェックしてみたところ、キャッシュレス決済を開始した3月は現金決済とキャッシュレス決済の単価にほぼ差がなかったものの、4月以降はキャッシュレス決済の単価が現金決済の単価と比べて10~30%ほど高くなっていることがわかりました。

表3:現金決済単価に対するキャッシュレス決済単価の比率

また、キャッシュレス決済を行なっていなかった2月のデータと比較してみると、4月以降は現金決済の単価が落ち込んでいることがわかりました。つまり、単価の高いお客様ほどキャッシュレス決済を選択する割合が高いということになります。キャッシュレス決済を利用する場合には、あまり金額を気にすることなく比較的気軽に買い物ができるという話がありますが、それを裏付けするものと言えるかもしれません。

ところで、9月と10月はそれ以前と比べてキャッシュレス単価が落ちています。おそらくこれは、9月と10月は台風や大雨をはじめとして天候が不順だったことが大きく影響しているものと考えられます。

ちなみに、キャッシュレス決済の単価が高いという部分が、直接売上増につながっているといいのですが、今のところ売上げの推移については全くチェックしていません。今はまだキャッシュレス決済導入から1年も経っていませんし、時期尚早と考えています。ですので、売上げの変化についてはもう少し時間を置いて検証したいと思います。

平澤 寿康