鈴木淳也のPay Attention

第108回

KDDIの地味な新金融サービスが“画期的”な理由

沖縄にあるスーパーチェーンで見かけたau PAYの“のぼり”

KDDIとauじぶん銀行は8月26日、「金融新サービスに関するオンライン説明会」と題して両社の現況ならびに、新施策に関する発表を行なった。

要点だけいえば、従来までauじぶん銀行とauカブコム証券の口座連携で得られた0.099%の普通預金金利優遇に加え、新たにじぶん銀行口座とau PAYの連携、そしてau PAYカードの引き落とし口座指定でそれぞれ0.05%の金利優遇が追加され、トータルで最大0.2%の普通預金金利が受けられるほか、au PAYの残高に対してあらかじめ設定された金額と頻度でじぶん銀行口座への自動払い出しを無料で行なえる機能が追加される。

auじぶん銀行、PAY・カード・証券連携で金利0.2%。PAY→銀行自動払出も

単にそれだけで、普通預金金利以外の華がないような発表にも思えるが、長らく議論が続いてきた「資金移動業者が提供する決済アプリの『疑似預金』」と「銀行口座」の関係に一定の解をもたらす仕組みとして、非常に興味深いと筆者は感じている。

同時に、シェアの面では完全に優劣がついてPayPay以外は「残りのその他」という状況になりつつあったスマートフォン決済の分野において、KDDIは「ポイント経済圏ではなくグループの事業連携でユーザーを囲い込む」という明確な指針を示して活路を見出しつつあるようにも思える。

8月26日に開催された説明会でKDDIとじぶん銀行が発表した新サービス。見た目は地味だが、「スマートフォン決済」の枠組みを変える非常に画期的な仕組みだといえる

なぜKDDIの発表が画期的なのか

au PAYを含むスマートフォンを使った「決済アプリ」は、資金決済法で定義される「資金移動業」の仕組みを使って提供されるサービスになる。

銀行業のような免許制とは異なり、あくまで許認可事業であり、参入ハードルが低く設定される一方で、銀行業で可能なサービスが提供できないなど規制を受ける。詳細は「間もなくやってくる『給与デジタル払い』とは何か」の記事での解説にあるが、いわゆる「預金」に相当するサービスは提供できない。同記事ではKyashの残高“利息”サービスが中止に追い込まれた背景で触れているが、本来資金移動業では資金が各アカウントの口座に“滞留”することを良しとせず、送金や支払いなどの目的に対して円滑に運用されるよう求めている。

これは2021年春以降にスタートした改正資金決済法でより明確化されており、「具体的な送金指示を伴わない資金の受入れを禁止」となっている。資金移動業自体が3つの種別に分けられ、100万円以上の送金が可能になるという規制緩和の反面、残高として即時の送金指示を伴わない100万円以上の資金の受け入れが不可能になったため、春以降に「決済アプリ」サービスを提供する各社で「100万円以上の残高を保持するユーザーは即時引き出すように」との注意喚起が行なわれた。

上記のように、こうしたサービスにおいて「残高が長期間残る」という運用はあまり推奨されない状況が生まれている。

改正資金決済法での資金移動業に関するポイント(出典:金融庁)

理由の1つとしては銀行の保護がある。厳しい規制で運用も含めて負担が大きいにもかかわらず、同種のサービスを参入障壁の低い資金移動業者に提供されてはビジネスとしての公平性が保てない。預金保護など利用者の安全性確保の面で差はあったりするものの、資金移動を円滑で活発に行なうために設定された資金決済法や資金移動業が銀行業務を食ってしまうのでは意味がない。この線引きが明確なされたのが2021年だと考えていい。

話を戻すと、au PAYはもともとグループ会社として「auじぶん銀行」があり、例えばau PAY支払時に残高が足りなかった場合、じぶん銀行口座から自動チャージして必要分を充填する機能がある。いわゆるデビットカード的な使い方が可能なわけだが、ケータイジャーナリストの石野純也氏のTwitterへの投稿にもあるように、KDDI側の意図としては毎月一定の“お小遣い”を残高として入金したうえで、余ったぶんをじぶん銀行の口座に自動払い出しで差し戻して貯蓄に回すといった使い方を想定しているようだ。

ただ石野氏が指摘するように、デビット口座的にau PAYを利用している場合は残高が残らないので、本来は意識する部分ではない。au PAYのチャージ方法は口座連携以外にも複数存在しており、KDDI自身も「さまざまな手段を通じて利用いただいている」(KDDI金融決済ビジネス部長の長野敦史氏)と特定のルートに偏っていないことを示唆しており、今回の施策で従来までの手動操作では有料だった振込手数料が、自動設定では無料になるという払い戻しのルートを確保することで、じぶん銀行との口座連携をプッシュする狙いがあると考える。

つまり残高はau PAY側に残さず、なるべくじぶん銀行側の口座でやりくりしてほしいというわけだ。資金移動業の昨今の規制を考えれば、妥当な流れだといえる。

KDDI金融決済ビジネス部長の長野敦史氏(左)とauフィナンシャルホールディングス代表取締役副社長兼auじぶん銀行代表取締役社長の臼井朋貴氏(右)

経済圏とライバルとの差別化

グループ内に銀行を抱え、出入金手数料のかからない仕組みを提供しているからこそのサービスではあるが、他の「スマホ決済」サービスにはないユニークな仕組みだ。例えば楽天は楽天銀行があるし、PayPayにはPayPay銀行や間もなく設立されるLINE Bankのような事業があり、今後より密な連携サービスの提供が可能だと思われる。

ただ、KDDIの強みの1つはグループ内で抱える事業群であり、これらを契約すればするほど特典が付くというサービス体系を敷いており、ライバルの楽天やドコモのような「ポイント経済圏でユーザーを縛る」という流れよりも、「系列サービスの契約を増やしてユーザーを周辺事業全体で縛る」という方針が明確になっている。

超低金利時代において、普通預金金利の0.20%というのは競争力がある。KDDIによれば「一時的な施策ではない継続的な商品性のあるもの」というが、この金利を得ること自体3つのサービスの契約が必須になっている。

インターネット銀行である「あおぞら銀行のBANK支店」でも同様の年率0.20%金利をサービスとして打ち出しており、決してKDDIグループ独自のものではないものの、KDDIのサービスを普段から利用するユーザーにとっては充分だろう。一連の施策の目標の1つは「auじぶん銀行のテコ入れ」だが、結果としてこの銀行事業を中心にビジネスがまわる形となる。

契約するサービスが多いほど普通預金金利が高くなる
au PAYゴールドカードでも契約するサービスが増えるほど還元ポイントも増加する

冒頭の説明にもあるように、コード決済分野におけるPayPay一強状態が明確化するなか、ライバル各社は次の対応に追われている。

特にMPMの店舗設置型QRコード決済サービスにおいては、(PayPayの)1.98%の決済手数料がボトムラインに設定されたことにより、CPMのようなゲートウェイを含む代理店や加盟店からの手数料引き下げのプレッシャーは今後さらに強くなることが予想される。PayPay自身が「決済で稼ぐつもりはない。トントンでいい」(PayPay取締役副社長執行役員COOの馬場一氏)というように、そもそもこの手数料水準ではほぼ利益が出ない。つまりPayPayは「スマホ決済」をユーザーや加盟店との対話チャネルとしか考えておらず、これが波及することでライバル各社は決済での利益追求を諦め、周辺事業でビジネスを営むほかなくなる。

筆者の見立てとして、KDDIはau PAYのMPMでの事業拡大をあまり重視しておらず、あくまで「ユーザー利便性を向上させるチャネルの1つ」と位置付けているのではないだろうか。だとすれば、仮にPayPayが仕掛ける“罠”に業界がはまったとしても、au PAYの事業継続性が高くなる。仮にコード決済事業が今後業界全体でフェードアウトしていったとしても、KDDIはグループ内の“決済”事業としてauじぶん銀行やカード事業を引き続き抱えているわけで、金融ハブとしての機能は失われない。

悩める銀行

このように、今後「アプリ決済」の分野において、手数料に大きく依存したビジネスは先細りしていく可能性が高い。カード会社のビジネスモデルについては本連載でもたびたび触れているが、手数料収入は全体の4-5割ほどで、残りはリボルビングなどの金利手数料や年会費収入が占めている。

海外ではリボ払い手数料などが比較的大きな比率を占めているが、決して片手団扇のビジネスではない。メルペイについても「メルカリ」という事業があり、それが決済やウォレットサービスに紐付いているからこそ成り立っている。この分野での手数料の横並び比較はあまり意味がなく、今後はよりビジネスモデル全体を見据えた検証が必要になる。

今後より厳しさを増す「アプリ決済」の世界だが、この“チャージソース”となる銀行もまた悩みを抱えている。銀行は口座や預金を抱えつつも、こと「決済」という分野では自社発行のカードしか手札がなく、スマートフォンを使ったアプリの世界では「フロントエンドを上手く提供できない」という問題がある。モバイルバンキングアプリ対応は最近増えているが、「アプリ決済」各社のように自社開発する余力を持つところは1,000行以上が存在するこの業界において決して多くなく、きめ細やかなサービス連携も行なえない。

こうした悩みを解決すべく、コード決済機能を付与して地銀のアプリの利活用をさらに促すべく登場した「銀行Pay」だが、ほとんど利用が進んでいないのが実態だ。

以前、横浜銀行がリリースする銀行Payの1つ「はまPay」を取材したが、同行もまた悩める銀行の1つだ。

iDやVisaのタッチ決済による非接触決済対応や鉄道券売機での出金サービスなどの施策を打ち出している横浜銀行だが、直近での取り組みとして「かながわPay」などの地域通貨や地域振興券への対応を行なっている。地銀の宿命として地域振興がその命題にあり、こうした自治体連携が1つの役割となる。これはPayPayのように全国展開するサービスでは対応が難しい部分で、ある意味で強みだ。実際、前述のPayPay馬場氏によれば、地域通貨系の案件は同社ではすべて断っており、あくまで連動キャンペーンの提供にとどまっているという。

神奈川県横浜市のみなとみらい地区にある横浜銀行本店

一方で前述のモバイルバンキングアプリや銀行Payにあるように、銀行はフロントエンドの作り込みが弱い。スピード感や広域でのブランディングも弱いため、ユーザーとの直接の接点が得られないという難点がある。その点で、「アプリ決済」を提供する資金移動業者と「auじぶん銀行」というブランドを抱える銀行業の両方を持ち、エンドユーザーに近いサービスを提供し続けるKDDIは両者の長所を組み合わせ、うまく弱点を補っているように思える。

オンリーワンやナンバーワンではないものの、業界で一定のポジションを得て確固たるビジネスを確立する……KDDIの金融サービスが位置しているのはそんなポジションだ。

国内SIerでシステムエンジニアとして勤務後、1997年よりアスキー(現KADOKAWA)で雑誌編集、2000年にプロフェッショナル向けIT情報サイト「@IT」の立ち上げに参画。渡米を機に2002年からフリーランスとしてサンフランシスコからシリコンバレーのIT情報発信を行なう。2011年以降は、取材分野を「NFCとモバイル決済」とし、リテール向けソリューションや公共インフラ、Fintechなどをテーマに取材活動を続けている。Twitter(@j17sf)