鈴木淳也のPay Attention
第35回
ルワンダとキャッシュレス。現金王国の独自の決済文化
2020年3月4日 08:15
皆さんはアフリカと聞いてどのような風景を想像するだろうか。なんとなくサバンナのような風景で野生動物と追いかけっこするワイルドなイメージを描いていたのだが、ここアフリカ中央部の小国はルワンダ、その首都にあたるキガリという街に降り立った直後のファーストインプレッションは、「なんか想像していたのと違う」。丘陵地帯に家が建ち並び、綺麗で安全な街並みだった。
1994年のルワンダ虐殺事件から20年以上が経過し、海外投資の受け入れと合わせ、この国は現在「アフリカの奇跡」といわれるほど急速に発展しつつある。
今回、このルワンダとICT協定を結んでいる神戸市が主催する現地起業体験プログラム「神戸スタートアップアフリカ」ツアーに随行取材する機会を得て、現地の金融やインフラ事情に触れることができたので紹介したい。
現金王国だがカードも使える貧富格差
ルワンダの首都キガリは、アフリカ大陸で最も安全な街といわれるほど治安がよく、街中を老若男女から外国人まで、多くの人が夜間も出歩いている。もちろん貧困問題もあるため物乞いなどは比較的出会うものの、強盗や誘拐、殺人などの場面に遭遇することは少ないだろう。そういった意味で現金を持ち歩くリスクは少ないといえる。
もはや現金をほとんど持ち歩くこともなくなった欧州やシンガポールと比べ、ルワンダは未踏の地。手持ちのカードがどこまで使えるかわからず、おそらくローカルな店ほど現金のみしか受け付けてくれないと予想していた。
そこで現地で両替がしやすいよう、直前まで滞在していたドイツとスペインで150ユーロほどをキャッシングしておき、到着直後に両替することにした。現地通貨はルワンダフラン(RWF)だが、この通貨は日本や欧州では入手できないため、あくまで到着後の両替が前提となる。
実際、街中には多くの両替所が存在しており、各店では呼び込みのスタッフがレートを示しながら自店のサービスを利用するよう駆け寄ってくる。両替ニーズがそれだけ存在するということなので、やはりここは現金社会なのだと改めて実感できる。
ルワンダに来て1つ気付いたのが、物価がそれほど安くないということだ。キガリという街は複数ある丘全体に市街地が広がっている地勢であり、大雑把にいって丘の上の方のエリアが政府関係や外国人の利用するホテルやレストラン、そしてルワンダ人でも比較的富裕層の済む場所。逆に丘の中層以下がスラムを含む貧困エリアとなっている。
現地の人が利用するローカルマーケットはおよそ想像通りの値段なのだが、今回取材で訪問したスタートアップ企業のほぼすべてが富裕層エリアにあり、ランチだけでも1万RWF前後ほど取られたりする。日本円で1,200円ほどであり、正直いって「高い」。筆者の泊まっていたホテルは悪路に面したちょうど貧困エリアと隣接する丘の中層に位置するため、レストランでの食事はその半額程度。
これも外国人向け価格なのだと思うが、正直日本の食事の方がアフリカよりも安いと感じることがあると思わなかった。
その代わりというわけではないが、今回行動した富裕層エリアは多くの店やホテルでクレジットカードが使える。もちろん外国人が利用する可能性がある店が中心だが、このあたりのカード対応は比較的進んでいる印象だ。
もう1つ、現地をまわっていると珍しいものに遭遇する。「MastercardとVisaのQRコード払い」だ。こちらではEcobank Payという名称のアクワイアラとなっており、Masterpassまたは「mVisa(エムビザ)」と呼ばれるモバイルアプリ上でQRコードを表示することで店舗決済が行なえる。このmVisaはケニアなどで利用されている「MPesa(エムペサ)」とは異なるものなので注意したい。
フィーチャーフォンで使える「モバイルペイメント」
ルワンダにおける現在の“公式”の携帯普及率は80%程度といわれる。そのうちスマートフォン比率は40%に迫る勢いで、おそらく来年にはフィーチャーフォンと比率が逆転するだろう。同国での携帯普及率はここ数年で20%以上一気に増加したが、その原動力となったのがスマートフォンの普及とみられる。一方で、多くのユーザーはいまだフィーチャーフォンを使い続けているわけで、2-3年以上前にルワンダで携帯向けサービスを立ち上げた事業者は、当然ながらスマートフォン向けアプリではなく、フィーチャーフォンでもスマートフォンのどちらでも利用できるようサービス設計を行なう必要があった。これは安価なフィーチャーフォンとスマートフォンで10倍以上価格差がある以上、今後もある程度続く傾向だと考えられる。
こうしたルワンダ向けにモバイルの金融サービスを提供しているのが、同国最大の携帯キャリアのMTNだ。ルワンダは「Unbanked」と呼ばれるエリアで、いわゆる国民の銀行口座保有率が低い。携帯キャリアが銀行サービスの一端を担うことで、便利な出入金や送金サービスを提供している。
ルワンダの2大携帯キャリアのMTNとairtelは街の商店や街道、人の集まるようなポイントの至るところにロゴのついたテントを掲げた出張所を設けており、これが一種の携帯ショップの役割を果たす。特にMTNはしつこいくらいに出張所を持っており、郊外の道路を走っていても必ず見かけるほどだ。ここでは料金トップアップ(チャージ)用のスクラッチカードのほか、現金の預け入れや引き出しのような簡易ATMのようなことが可能だ。特に「MTN MoMo」と呼ばれるロゴを掲げた出張所ではこの金融系のフルサービスが利用できるようになっている。銀行が足りない分を携帯キャリアのサービスが補完する形だ。
前述の通りMoMoはフィーチャーフォンをターゲットにしたサービスでもあるため、提供形態はモバイルアプリではなく「USSD(Unstructured Supplementary Service Data)」と呼ばれるSIMカードから直接起動するタイプのテキストベースのメニューとなる。これはスマートフォンでも同様で、メニューの案内に沿って数字を入力していくことで、送金や支払いといった金融サービスが利用できる。
これを使って店舗での支払いも可能だが、多くの店ではMTNによる支払いが対応可能であることを示すアクセプタンスマークを出していないため、実際に利用できるかは店員に確認するしかない。そのため、「ときどきそういう問い合わせがある」というレストラン店主の声もある。
このほか、モバイル金融サービスは銀行系の「Eazzy Banking」や新興系の「SPENN」などが同国で展開されており、こちらはスマートフォン向けのアプリとなっている。ただ今回取材を行なったローカルマーケットの店主によれば「SPENNとかの新興サービスは怖くて信用できない」ということで、銀行のようにお金を預けることに不安を抱く声も少なからずあるようだ。