西田宗千佳のイマトミライ

第212回

Apple Watchは「買った後でもカーボンニュートラル」 各社が進める「サステナビリティ」の今

アップルの発表が行なわれたSteve Jobs Theater

今年もアップルの新製品発表会が行なわれた。「iPhone 15」シリーズや新しい「Apple Watch」など、多数の新製品が公開されている。

iPhone 15 Pro。カラーはナチュラルチタニウム

筆者は今年もアメリカ・アップル本社に行き、発表を取材していた。すでにいくつか記事も掲載しているので、併読していただければ幸いだ。

今回の製品の技術的な特徴などはすでに他の記事に書いたが、1つ大事なことを本記事ではまとめておきたい。

それは「サステナビリティ対策」だ。

こういう話をちょっと醒めた目で見る人もいるかもしれない。だが非常に重要なことであり、アップルは明確にサステナビリティを進めている。

そして、サステナビリティを意識するのはアップルだけではない。ソニーやGoogleも先週、サステナビリティに関する大きな発表をしている。

今回は、あらゆる製品に必須となった「サステナビリティ」について、テック企業がどう取り組んでいるかをまとめてみよう。

アップルが「母なる自然」にサステナビリティ進捗報告?!

アップルの発表会でサステナビリティが語られるのは珍しいことではない。一方で、その部分がニュースで大々的に紹介されることも少ないように思う。消費者にとってまず気になるのは「新製品がどんなものなのか」ということで、CO2がどれだけ削減されたかは二の次だからだ。

それを否定しても始まらない。

サステナビリティはとても重要なことだが、やっぱりなかなか注目は集めにくい。

今回アップルは「寸劇」でこのジレンマに挑戦した。

舞台はアップル本社の会議室。アップルのトップエクゼクティブが揃い、緊張した面持ちで待つ。

そのうち、雷鳴・地震とともに部屋に現れたのは「母なる自然(Mother Nature)」、要は神様だ。

オクタヴィア・スペンサーが演じる「母なる自然」に対し、ティム・クックCEOなどがサステナビリティ進捗を報告

オクタヴィア・スペンサーが演じる「母なる自然」に対し、パッケージでのプラスチック素材採用の取りやめや再生可能エネルギーの活用など、社内での取り組みを紹介した。

「母なる自然」への報告会ビデオ。ここだけ切り出してビデオにするくらいアップルは力を入れている

アップルは「製造の段階でリサイクル素材を使う」ことや、「輸送に航空機を使う量を減らす」試みを続けている。

アルミニウムについてはすでに再生アルミニウムがほとんどだし、チタン素材についても、昨年発表した「Apple Watch Ultra」ではバージン・チタンだったものを、今年の「Apple Watch Ultra2」では、再生チタン素材の比率を95%まで高めている。

輸送についても、周辺グッズを含めた関連製品の輸送を50%まで船便に変えることでCO2の排出量を減らしている。

消費者の手にある間の「気候に対する影響」もゼロに。2030年までに実現

さらに、このビデオの中でティム・クックCEOが強調したのが、「2030年までに、すべてのアップル製デバイスが気候に与える影響を実質ゼロにする」という計画だ。

これは製造や輸送、販売に関わることだけでなく、「デバイス自体が使う電力」を含めた影響について、アップル側がカーボンオフセットを行なうことで、消費者が製品を選ぶだけで気候への影響を抑える、という考え方である。

これを実現した最初の製品となるのが、「Apple Watch Series 9」と「Apple Watch Ultra 2」ということになる。

今回発表された「Apple Watch Ultra 2」と「Apple Watch Series 9」。どちらも「消費者の手にある間のサステナビリティ」に配慮した製品となった

Apple Watchがどのように充電され、どのくらいの電力を消費しているかを、アップルは統計的に把握している。そこで、その分を加味してCO2排出権の取得や再生可能エネルギーをトータルでの組み合わせで、製品の製造から利用までの気候に与える影響をゼロにする……というアプローチだ。

、Apple Watch Series 9のケースに100パーセント再生アルミニウムを使用

「Apple Watch Series 9」と「Apple Watch Ultra 2」のパッケージ外装には、目標を達成した製品の印として、以下のようなロゴが付くことになる。

計画を達成した製品のパッケージにはこのロゴがつく

ソニーも年度内の「小型製品のプラスチック包装材全廃」を宣言

サステナビリティの中で考えられる「カーボンオフセット」は、計算上のことではある。だがアップルとしても単に机上の空論として展開するだけではなかろう。重要なのは「消費者の手に渡った時まで影響を考慮する」ことだ。アップルはそれを「2030年までにやる」と宣言した。これは大きい。

年間にスマートフォンは12億台作られる。1台あたり厚さ8mmとすると、すべて縦に積み上げると9,600kmに達する。それだけの量産をしているのだから、環境への影響は大きい。

ニーズがあり、産業でもある以上「作らなければいい」わけにはいかない。だとするなら、作ることによる環境負荷を減らすことは必須。大手メーカーにとってサステナビリティは「かっこいいお題目」ではなく、やらなければ将来のビジネスが成り立たないもの。文字通り「ビジネスのサステナビリティ(持続性)」に必須のものなのだ。

サステナビリティに着目するのはアップルだけではない。

9月14日、ソニーグループは「サステナビリティ説明会」を開催した。その中で同社は、新規設計の小型エレクトロニクス製品について、2023年度中に、プラスチック包装材を全廃すると宣言している。

ソニーはプラスチック包装材を小型エレクトロニクス製品から全廃していくと発表

アップルも同様に、2024年末までにプラスチック包装材を全廃する計画なので、この流れは1つのトレンドと言っていい。

GoogleはChromebookの自動更新期間を「10年」に拡張

またGoogleは、Chromebookの自動更新期間について、基本的に「10年」へと広げることを発表した。

これまで、ChromebookのOSに関するアップデートはメーカーごとにバラバラで、おおむね5年から8年とされてきた。アップデートが終わると機器を安全に使えなくなるので、製品が実質的に使えなくなった。Googleのサービスに依存するChromebookにとって、自動更新の終了は、PCのOS更新終了以上に大きな意味を持つ。

このことは日本のGIGAスクール向け端末でも課題とされてきたものだ。

そこでGoogleは、2024年以降、2021年よりあとに発売されたChromebookでは更新の提供期間を一律に「10年」とし、2021年以前に提供された機器についても、発売後10年間動作させるオプションを提供する。ただしそちらの場合には、全ての機能が発売から10年間動作するとは限らない。

製品が長く使えることは、消費者の懐にとっても、サステナビリティという面でも重要だ。

実際にはバッテリーの寿命などもあり、10年修理なしに使うのは難しいだろう。だが、修理の簡便化や新機種購入時の旧機種回収などを進めることで、少なくとも「使い捨て」よりは持続性を高められる。

各社がサステナビリティに取り組むことで、市場全体で「配慮するのが当然」という流れが生まれ、消費者も一定の配慮がある製品を選ぶのが基本……という形になっていくのが望ましい流れだ。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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