西田宗千佳のイマトミライ

第202回

NTTドコモ・新料金プランにみる「顧客目線」の不在

ドコモの新たな2つの新「料金プラン」とahamo

NTTドコモは7月1日から、新料金プラン「irumo」「eximo」をスタートする。

しかしこのプラン、今のところ実に評判が良くない。

「わかりにくい」「名前が覚えにくい」と散々な言われようだ。まあ、筆者も「わかりにくい」と思う。

ただ、よく見てみると、料金施策として、irumo・eximo後のドコモの体系がわかりづらいか、というとそんなことはない。

それでも「なんかよくわからない」感を醸し出してしまうところが、今回の施策の欠点と言えるだろう。

では、なぜそうなっているのか? ドコモはどうすべきだったのかを少し考えてみることにしよう。

irumo・eximo・ahamoの3つの料金プランで展開する

なぜirumoは「わかりづらく感じる」のか

前述のように、ドコモの「新料金プラン」は、整理して並べると、そこまで難解な話ではない。段階性+小容量のirumo、全領域をサポートするeximo、オンライン中心のahamo、と並べれば、「なるほど」と思う程度の複雑さでしかない。

ドコモの戦略に合わせて並べてみると、プランの性質の違いはそこまでわかりにくいわけではない

ただ、新料金プランがわかりづらいと感じる理由はシンプルである。顧客目線に立つと、サービス名とサービスの位置付けが不明確だからだ。

irumoは「あなたにiru(要る、必要とされる)」「あなたのそばにiru(いる)」を示した名前とされているが、まあ、消費者から見れば「謎のアルファベット5文字」でしかない。

なんの予備知識もない状態で、「irumoとeximoとahamo、どれが安いもの?」と聞いて、名前だけで答えられる人はいないだろう。それが必須とは言わないが、他社が「シンプルS/M/L」「最強プラン」と、誤解が難しいレベルの名前を使うようになっている今、「ドコモだけよくわからない」と言われても仕方ないだろう。

なにより問題なのは、「irumo/eximoは、価格で分かれているようでそうではない」というところだろうか。

NTTドコモはこれらのサービスを「ドコモ品質のサービス」と強調する。店頭でのサポートもあり、回線品質も同一だ(ただし、irumoはネットワーク混雑時などに他の料金プランよりも先に通信速度の制限を行なう)。

だが、従来のeximoが「ギガホ」「ギガホ プレミア」系を引き継いだ「ドコモのプラン」そのものであるのに対し、irumoは既存の低容量プラン「ギガライト」のリブランドではない。「シェアパック」や「2台目プラス」のようなデータ型のサービスが併用できず、キャリアメールは有料(月額330円)。ドコモショップでの設定サポートも有料だ。

irumoについては、既存のドコモ料金プランからの移行について制限があり、多数の注意事項がある

現実問題としてirumoは、NTTドコモの料金プランというより、他社でいうところの「サブブランド」に近い内容だ。

これをストレートに「ドコモのサブブランドです」と言えば、話はもっとシンプルに見えてくる。しかし、「どれも同じドコモのサービスです」というから、それぞれの違いが見えにくくなる。

プラン刷新が「7月1日」でなければいけない理由

そもそも、なぜこの時期に料金プランの刷新が必要だったのだろうか?

価格的にも特に大きく下げているわけでもない。他社と価格面での競争が重要な側面でもない。

会見でNTTドコモ側は「低容量プランで、NTTドコモでないことによる顧客離脱があった」と語っている。

NTTドコモは「エコノミーMVNO」として、MVNOによる低価格サービスを併売する流れを採ってきた。

しかし、それがやっぱりわかりづらい上に売りづらく、特にわざわざ店頭まで来るような顧客層からは、「料金を安くしたくてきたが、ドコモのサービスは売ってない」と思われる状況になった、ということなのだろう。エコノミーMVNO路線は、筆者の目から見てもわかりにくいし無理があった。

そんな中、NTTグループ再編の1つとして出てきたのが、「OCN」ブランドを展開するNTTコミュニケーションズをNTTドコモの子会社とする動きであり、MVNO事業である「OCNモバイルONE」をはじめとした個人向け事業は、同じくNTTドコモ子会社のNTTレゾナントへ移管した。そしてさらに、今年7月1日に、NTTレゾナントはNTTドコモに吸収合併される。

エコノミーMVNOとして売ってきた「OCNモバイルONE」は、会社再編としてNTTドコモが取り込むことになる。そうなると、うまく行っていなかった「エコノミーMVNO」という枠組み自体の価値が薄くなり、「ドコモが別枠としてOCNモバイルONE由来のサービスを持つ」形になる。

実のところ、irumoの正体はこれであり、ドコモ内の「料金プラン」を作り直したものではない。サブブランドに近い内容で、サブブランドに近い建て付けの方が理解しやすいのも当然だ。

7月1日に吸収合併を予定している以上、その時に合わせて料金体系の変更が必要になる。

すなわち、この料金体系変更は、NTTドコモ側の事情が主たる理由であり、消費者向けのサービス改善、という意味合いはそこまで強くないのだ。

「顧客の方」を向いたサービス構築を

ならばドコモは、最初からそう言えばいいのだ。

会社事情でのサービス改変が悪いわけではない。サービスの切り替えは強制されておらず、旧来のまま使い続けることもできる。「この日から、事情があって新しいプランを提供することになりました」と、正直に説明すればいいだけの話である。

だが会見でも、NTTレゾナントに関する事情は質疑応答になるまで言及されることがなかった。できる限り言いたくなかったのだろう。

さらに言えば、前述のように、irumoは素直に「サブブランドです」と説明すべきだ。その上で、「ドコモとしての信頼性は同じです」などの説明を加えた方がわかりやすい。

こうした説明の仕方は、どれも顧客の方を向いていない。改善すべきことだ。

そこには、過去に総務省と政権側からチクチクと続いた「横槍」の影響も見える。政府が「サブブランドでの値下げ」を嫌う発言をし、それを引きずっているのでは……と指摘する人も多い。

NTT再編について総務省への接待疑惑があったこともあり、エコノミーMVNOにおける旧NTTコミュニケーションズとNTTドコモの関係が微妙なものになったであろうことも「邪推」できる。

NTTは、良くも悪くも特別なところのある会社だ。結果として、政治の側の顔色を窺ったり、ブランドとしての位置付けを「サービスとは別のところ」から気にしなければいけなかったりと、色々な足枷もあることだろう。

ただ、料金プランやブランド名施策などは「顧客のため」に行なうものだ。そこがぶれてしまうと、そのことは顧客の側にも伝わる。結局は、シェアのためにも顧客の理解のためにもプラスにはならない。

さらに、NTTドコモは現在、都市部などで回線品質の問題に苦しんでいる

「ドコモのサービスである」という点が強いアピール力を持つには、まず回線品質の問題を改善する必要がある。十数年前のように「ドコモは他社に比べ圧倒的に回線品質が良い」と言える状態なら、話は違っていただろう。だが現在はそうではない。サポートなどはもちろん重要だが、顧客の長期安定を目指すなら、本丸は回線品質そのものであるはずだ。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『マンデーランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Twitterは@mnishi41