西田宗千佳のイマトミライ

第165回

任天堂もSIEもいない「東京ゲームショウ」から見る今のゲーム業界

「東京ゲームショウ2022」は千葉市・幕張メッセで開催された

9月15日から18日まで、千葉市・幕張メッセで「東京ゲームショウ2022」(以下TGS)が開催された。コロナ禍もあって、過去2年間はオンラインをメインに展開してきた。今年はハイブリッド開催ではあるのだが、過去のようにたくさんの人を集めて開催する「リアルイベント」として開催された。

日本でもイベントの「リアル回帰」が始まっているが、TGSはその1つと言って差し支えない。4日間の来場者数は13万8,192人。過去には約30万人(2018年)に到達したこともあるので、それに比べるとまだ少ないように見えるが、もともとチケットの用意が15万人分であり、小学生以下の児童の参加を禁止していたこともあり、ほぼ運営側の想定通り、という結果である。

東京ゲームショウ2023、9月21日~24日の日程で開催決定

今年のTGSは、リアル回帰以外にも雰囲気が違うところがあった。それは日本のゲーム界の変化を表すものであったが、同時に、ちょっと誤解を生んでいる部分もあるように思う。

以前、業績などからゲーム業界の状況を分析しているが、今回はTGSから見える部分を中心に、別の形で解説してみたい。

家庭用ゲーム機プラットフォーマーのいないTGS

今年のTGSにはわかりやすい特徴が1つあった。

それは、「家庭用ゲーム機プラットフォーマー」が1社もブースを構えていない、ということだ。

TGSは任天堂のイベントに対抗して始まった、という経緯があることから、任天堂自体はブース展開をしていない。ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE、過去にはソニー・コンピュータエンタテインメント)は出展を続けてきたが、オンライン開催+ビジネスデーのみ小規模現地開催となった昨年より出展を取りやめ、今年も出展しなかった。マイクロソフトは断続的に出展してきたが、今年はリアル出展を行なっていない。

現在は3社とも、オンラインで独自に情報を配信することを重視しており、業界イベントへのリアル出展は少なくなっている。今年のTGSについても、各社はTGSには出展しないものの、時期を合わせ、TGSのタイミングで映像配信を使って発表を行なう形になった。

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TGS2022にて「Xbox Stream」が9月15日18時より配信決定

MSエクゼクティブ来日 「Xbox」と「GamePass」の好調をアピール

出展こそしていないが、各社は関連企業とのミーティングや視察などを行なっている。一方、公式にエクゼクティブが会場を訪れたのがマイクロソフトだ。

マイクロソフトはXbox事業のトップであり、Microsoft Gaming CEOのフィル・スペンサー氏と、同社コーポレート・バイスプレジデントでXbox ゲーム クリエイター エクスペリエンス統括のサラ・ボンド氏が来日し、Xboxをアピールした。

筆者もサラ・ボンド氏と単独インタビューをする機会に恵まれた。ボンド氏は現在のXboxの状況について、以下のように話す。

マイクロソフトCVP・Xbox ゲーム クリエイター エクスペリエンス統括のサラ・ボンド氏

ボンド氏(以下敬称略):ここ数年、アジアではXboxが素晴らしい成長を遂げています。特にXbox Series Sは、アジアでの売上の50%以上を占めています。今世代のゲーム機としては最もお求めやすい価格であり、これは非常に重要なことです。GamePassの会員数も過去2年間で2倍以上に増えました。Xbox向けのタイトルを積極的に開発している開発者は250人を超え、そのうち150人はすでにタイトルを出荷し、日本からは100タイトルがGamePassで配信されています。

低価格で生産も好調なXbox Series Sは、市場でも手に入りやすくなっていることから売れ行きは好調だ。同時に、会員制の遊び放題サービスである「Xbox GamePass」の存在も、Xboxの魅力になっているのは間違いない。

ボンド:昔は、ゲームを遊ぶには70ドル払わなければいけなかった。このモデルが悪いわけではないのですが、知らないゲームに挑戦する可能性は低くなります。でも、GamePassであれば違います。結果として、(非契約者に比べ)40%多くのタイトルをプレイするようになりました。また、30%以上の人が、これまで未経験のジャンルをプレイしています。開発者の方々からは、GamePassがプレイヤーの皆さんにタイトルを試してもらうきっかけになっているという、非常に一貫したポジティブなフィードバックをいただいています。

追加コストが発生しないので新しいものにチャレンジする、という傾向は、映像や音楽の「定額制サービス」でもみられたものだ。ゲームの場合、遊んでみないと自分に合っているかどうかがわかりづらい部分があり、そのことが「続編」「大作」偏重につながっていた部分がある。GamePassは「お得」と言われるのだが、それだけでなく、新しいゲームへとゲーマーを誘導する役割も果たしている、と同社は主張しているわけだ。

活況なインディとPC 家庭用ゲーム機との関係は

TGSの花形は、大手ゲームメーカーの大きなブースである。一方でここ数年、TGSの柱は大手だけではなくなっている。規模が小さい独立系ゲームクリエイター、いわゆる「インディーゲーム」の作り手がもう一つの目玉だ。今年もその傾向は変わらない。

インディーゲーム・コーナーは年々活況に

インディーゲームは家庭用ゲーム機でも発売されるが、PCも大きな市場だ。そうした関係もあって、今年のTGSは「PCゲーム」がフォーカスされたように見えたのも事実である。

1つのトピックとして、PCゲームのトッププラットフォーマーであるValveの「Steam」で販売されるゲームを動かせるポータブル機である「Steam Deck」の実機展示があったから、という点も「PCの隆盛」を感じさせるところではあった。

年内の日本出荷を控えた「Steam Deck」体験ブースも

【TGS2022】「Steam Deck」体験ブースでその実力をチェック!

以前の記事でも書いたように、確かに現在、日本でもPCでゲームをする人の数は増えている。欧米ではもう10年近く前から大きなシェアを持っていたが、日本ではようやく盛り上がり始めたところだ。

では、家庭用ゲーム機プラットフォーマーが出店せず、PCゲームが盛り上がっているTGSを見て、「家庭用ゲーム機からPCへシフト」と言えるのか?

これもまた、違うように思う。

世界市場を見た時、PCは無視できる状況にはないし、日本でもユーザーは「PCも選べる」ことを求めるようになってきているのは間違いない。

ただ、PCゲームが元気な欧米であっても、家庭用ゲーム機はちゃんと売れている。コロナ禍の影響を抜けつつあり、販売数量こそ多少減ってはきたが、どのゲーム機も売れ続けており、需要は旺盛である。ゲームができる性能のPCを揃え、設定などを行なうのは金銭面・使い勝手両面でハードルがある。ゲーミングPCは家庭用ゲーム機に比べて高く、気楽にプレイできるわけでもない。マス向けにはやはり家庭用ゲーム機の市場があり、濃いゲームファン向けにPC市場がある、という構造になっている。日本においてはその傾向がさらに顕著だろう。

ゲーム機も性能の陳腐化がゆるやかになる傾向はあり、ハードウェアが十分に普及するまでの時間、そして普及してからソフトが売れ続ける時間も長くなっている。PCなら互換性は保ちやすいし、ゲーム機の方も、PS4とPS5、Xbox OneとXbox Series X/Sのように、前の世代と互換性を持つようになってきている。ゲーム販売の主体もオンライン化が進んでいる。

TGSに家庭用ゲーム機プラットフォーマーの姿がなかったのは、「イベント」という形態よりもオンラインでの映像配信や、それに合わせた体験版の配布といった形の方が、より多くの人々に訴求できる傾向が強いからでもある。一方で、インディーゲームのように知名度がまだ低いものは、「体験」を通して知ってもらう形の方がいいし、開発者とパブリシャー、ゲーマーが直接コミュニケーションを取れる場が重要でもある。

一方で、PS5の入手難もあり、ゲーム機への逆風があることもまた事実。PS5の入手性は少しずつ改善されつつあるが、それでも、「店に行けばいつでも買える」わけではない。そんな中で大規模なイベントを開きづらい、という事情もありそうだ。SIEとしては、まずPS5の入手性、という課題を解決する必要もある。

マイクロソフトもXbox Series Xは供給の課題をまだ抱えているが、前述のように、GamePassが好調でもある。日本のユーザーと開発者にアピールする好機と考え、トップエクゼクティブが来日した……ということなのだろう。

コロナ禍で「体験機会」を失ったVRが人気に

一方で「体験」が重要なものもある。VRだ。

Metaは「Meta Quest 2」を、中国・Picoは「Pico Neo 3」を大きなブースでアピールした。

Metaは広告とブースで「Meta Quest 2」をアピール
PicoもMetaに対抗。ブースもMetaの正面に構えた。

Pico Neo 3は今年6月に日本で発売されたばかりだが、Meta Quest 2は発売から2年が経過しており、新しいものではない。だがどちらも長い行列ができており、体験を求める人々が少なくないことがわかる。

コロナ禍では店舗やイベントでの体験もやりづらかった。店舗などで体験は恥ずかしい、という人もいたかもしれない。一般の目から見ると、VRはまだ目新しいもので、その体験ができる場所が求められていた……と考えると、MetaやPicoの狙いは正しかった、と言えるだろう。

一方で、SIEはTGS直前に「PlayStation VR 2」の実機を公開し、プレス向けに試遊取材の機会も用意している。

こちらはTGSでは、カプコンブースで体験できたのだが、朝早いうちに整理券を配り終えてしまい、たくさんの人が体験できたわけでもないようだ。

この辺は、供給問題を抱えるSIEとしては歯がゆいところかもしれない。

PS VR2はカプコンブースにのみ展示
西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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