西田宗千佳のイマトミライ

第97回

カラフルで薄い「新iMac」の価値

先週行なわれたアップルの新製品発表は、2021年に入って初めての大きなものだったことも関係してか、実に中身が多彩だった。

M1搭載iPad Proや24インチiMacなどアップル春の新製品

中身と同じくらい多彩だったのが、新しい「24インチiMac」だ。デザインは2017年以来の大幅変更となり、カラフルになった。PVを見ながら、実際には流れていないローリング・ストーンズの「She’s a Rainbow」が脳内に流れたのは筆者だけではあるまい。

注:She’s a Rainbowは、1999年のiMacのCMで使われた曲

歴代のiMac

大胆なカラーバリエーションというiMacの伝統が戻ってきたわけだが、それだけではない。かなり興味深い点もあるし、インテル版を単純に置き換えられない部分もある。

今回は新iMacについて、今わかっていることを解説してみたい。

ノートPCのアーキテクチャで生まれた「薄型iMac」

新iMacは、ほとんど板といっていいくらい薄くなった。理由はシンプル。プロセッサーを「M1」にし、熱設計上の余力が生まれたため、大きなクーリングファンやメモリー、ストレージのためのスペースを用意する必要がなくなったからだ。

逆に言えば、iMacはM1を使っているからと言って、MacBook AirやMacBook ProのM1と大幅に違うものを採用したわけでもない。ノートPCと同じ中身でデスクトップPCを作っているから、その分薄く・小さくなったと言っても過言ではない。

「そりゃあそうですね」という感じだが、重要なのは「それでも十分な性能があるだろう」ということだ。

M1は高性能なプロセッサーである。もちろん、インテルやAMDの最高性能CPUや、NVIDIAの最新GPUには敵わない。「ノートPCとしては十分に快適で高性能」という話である。

ただiMacで言うなら、過去最高性能であった「iMac Pro」も、最上位モデルを除けば、すでにM1に比べパフォーマンスで有利、というほどでもない。Mac自体が、「最高性能のCPUとGPUを使ったモデルがすぐに出てくるWindowsマシン」に比べ不利な状況にあり、その中では「M1搭載なら有利な状況」である、と言った方が正しい。

アップルはプロ向けに「M1よりハイパフォーマンスな製品」を必要としている。今のインテル版はそれを満たせていない。だが、M1の次・上位の姿はまだ見えてきていない以上、M1で対応するしかない。そして事実、PCやタブレットに求められる大半のニーズにとって、M1は「必要にして十分以上」なパフォーマンスを与えてくれる。

マス向けのノート型はすでにカバー済みである以上、マス向けのデスクトップとしてのiMacにそのままM1が使われ、M1に合ったデザイン=ディスプレイしかないような薄型の製品になるのは必然と言える。

裏の色に拘ったのは「置き方」が変わったゆえか

その上で、本体の裏をアピールするようなカラーになったのは面白い選択と言える。iMacはずっとカラーリングとして「表ではなく裏」を重視してきたので、その伝統を守ったとも言えるだろう。

また、壁に寄せてPCなどを置くのではなく、ノートPCと同じように、普通にリビングの机に置くのであれば、裏が見えた時の色だって重要になる。

ちょっと面白いのは、新iMacでは「マグネット式の電源ケーブル」が復活していることだ。ノート型のMacがみなUSB Type-Cであるのに、なかなか外さないはずのデスクトップ型でマグネット式なのは少々不思議に思える。

しかもどうやらこのコネクター、マグネットの力はそこそこ強力であるそうだ。MagSafeのように簡単に外れるわけではなく、今までの差し込み式ケーブルを抜く時と同じくらいの力が必要であるという。要は、そんなに抜き差しはしない……という前提なのである。

ではなぜマグネットなのか?

答えは「本体を後ろに向けなくても、手探りで簡単に電源をくっつけられるように」という配慮なのだそうだ。ちょっと意外だが「なるほど」と思う解決方法ではある。

ということは、そこまで頻繁に場所を変えはしないけれど、レイアウト見直しでサッと持ち運ぶことくらいは考えられているのかもしれない。

だったら、5分か10分しか動かない程度でいいので、小さなバッテリーも搭載しておいてほしかった。それがあれば、停電や不意の電源切断にも動じる必要がなくなるのに。

VESAマウント対応は「別モデル」。インターフェース仕様には注意も

先ほど述べたように、性能面でM1版iMacは「普通に使う分には問題ない」だろうと思われる。というか、ほとんどの人にはまったく問題ないだろう。

イーサネット付きの電源アダプターは今後アップルから「サプライ用品」として購入することができるようになる模様だ。また、USB経由でインターフェースをつけることもできるから、ここはさほど大きな問題とは言えなさそうだ。

キーボードは指紋センサー搭載の「Touch ID対応」モデルになっている(上位機種)。別売は用意されないが、他のM1搭載製品でなら、Touch IDを含めて利用は可能。M1搭載製品以外では、キーボードは使えるがTouch IDは機能しない。

壁掛けなどの場合にはVESAマウントが欲しくなるが、新iMacの場合には、もともとついているスタンドを外してもVESAマウントは現れず、最初から「VESAマウント対応モデル」を選ぶ必要が出てくる。ここは注意が必要だ。

若干気になるのは、メモリーがノート型と同じく16GBまでしかないこと、標準では外部ディスプレイが1つしかつけられないことだろうか。

上位モデルだとUSB 4/Thunderbolt 3端子が2つ、USB 3端子が2つ(全て形状はUSB-C)となっているが、下位モデルではUSB 4/Thunderbolt 3端子が2つに削減されている。周辺機器接続はノート型より多くなる傾向にあると考えられるが、そう思うと少し物足りない。特にビデオ編集などで外部ストレージを多数接続したい場合などは、今のM1のソリューションでは不満が出る人もいそうだ。

そこは「そういうもの」と思って諦めて使い分けるか、今後ハイエンドが出るまで待つか、ということになるだろう。逆に言えば、今後来るハイエンドにおいてまず求められるのは、単純な処理性能以上に「インターフェース周り」とも言えるだろう。

購入時には、そうしたインターフェース周りの違いを確認した上で検討してほしい。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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