西田宗千佳のイマトミライ

第76回

インテルを追い立てるAMDとアップル。PC向けプロセッサー競争の激化

AMDが好調だ。

先週はデスクトップ向けプロセッサーである「Ryzen 5000」シリーズを発売した。

AMD、Ryzen 5000シリーズを6日に国内発売

一方で今週には、アップルがオンラインイベントを開催、新製品を発表する。詳細は不明だが、予告済みでまだ未発表の製品、アップル製半導体を使った「Apple Silicon Mac」の発表が行なわれるものと予想される。

WWDC 2020でApple Slicon搭載Macの発売を予告している

AMDのシェア向上、Macへののアップル製半導体への移行など、インテルには逆風が吹いている。その状況を考察してみたい。

PC各所で広がる「AMD採用」

プロセッサーに関する競争、特にPC向けプロセッサについては色々な側面がある。もはやメインストリームと言える薄型・クラムシェルタイプのノートPCをめぐる戦いもあれば、ハイエンドPC・ゲーミングPCを想定したものもある。一般ユーザー向けでなく、サーバー向けの製品もある。

現在、それらの製品は全て「違うもの」と言っていい。求められる消費電力やコストが全く違うからだ。サーバー向けやノートPC向けではいまだインテルが強く、ハイエンドPC向けでは明確にインテルとAMDが拮抗している。ノートPCについても、消費電力よりもパフォーマンスが優先されるシーンではAMDのものを採用する流れがある。

現在のPCシーンを考えると、メインはビジネスを軸に据えたノートPCだけれど、高価でも売れていて伸びしろが大きいのは、ゲーミングPC。特にディスクリートGPU搭載のノート型の広がりが目立つ。そこではコストとパフォーマンスのバランスから、AMDのRyzen+NVIDAのRTXシリーズ、という組み合わせも多くなっている。デスクトップも同様で、これもまた、「高性能シーンでのコストパフォーマンス」ゆえのことだろう。

考えてみれば、11月10日・12日に相次いで発売される新型ゲーム機「Xbox Series S|X」「PlayStation 5」のどちらもが、AMDと共同で開発したプロセッサーを搭載している。共同設計やライセンシングに関する考え方がインテルと違う、というビジネスモデル上の条件が大きいものの、こちらでもAMDが市場を席巻している。

Xbox Series S|X
PlayStation 5

マスはまだまだインテル。薄型PCなどで優位だが……。

もちろん、インテルはまだ強い存在だ。

特に、通称「Tiger Lake」こと第11世代Core iシリーズをはじめとした、インテルのPC向けプロセッサーの力を侮ることはできない。特に、Evoプラットフォーム採用の薄型ノートPCの完成度は高い。続々と製品発表が続いているが、このジャンルではインテル優位だと筆者も考えている。

第11世代Core iシリーズ

Intel、第11世代Coreプロセッサーを正式発表

今も、そして今後も多くのPCがインテル製プロセッサーを採用することは間違いない。PCにおけるファーストチョイスがインテルからいきなりAMDになる、とは考えづらい。

しかし、AMDがサーバーでも2桁のシェアを獲得するようになり、「PCといえばインテル」「プロセッサーといえばインテル」というわけではなくなっているのも事実だ。x86系CPU全体でAMDが2割を超えるシェアを獲得し、課題であったノートPCでも歴代最高のシェアになってきた事実は見逃せない。

AMDのシェアが約13年ぶりに22.4%まで回復。ノート向けは歴代最高

PCメーカーとしても、薄型PCなどのインテルが強い部分以外でAMD製を採用し、調達リスク軽減とコストパフォーマンス改善を狙っている……との声は聞く。

PC自体の販売数は拡大傾向にあり、価格競争もある。その中でリスクヘッジを狙うのは、ある意味健全な市場構築と言えるのではないだろうか。

新iPad Airのベンチマークから「Apple Silicon Mac」を予測

一方、アップルはまた別の論理で動く。自社製にシフトしていくことは、アップルのような、「設計は垂直統合」を志向する企業にとってプラスの戦略である。

Apple Silicon Macの正体はまだわからず、互換性についてもパフォーマンスについても、将来性についても、正確な論評をするのは難しい時期だ。発表後にはまた別途考察したいと思うが、現時点でもわかることは多少ある。

それは、「第一弾製品のパフォーマンス」についてだ。

アップルはApple Siliconの設計について、iPhoneやiPadとの共通化を進めている。同じものが使われるわけではないが、同じ世代では基礎設計は共通となる。CPUやGPUのコア数、中に組み込むIP、メインメモリーの量やクロック周波数などで差別化するのだろう。

だとすると、現在のiPhone 12・iPad Airに採用された「A14 Bionic」と、iPad Proに搭載された「A12Z Bionic」から、「最低このくらいのパフォーマンスになるのではないか」という類推はできる。

マルチプラットフォーム・ベンチマークテストの「Geekbench 5」の値から、かなり保守的にApple Silicon Macでのテスト結果を予想した値が以下の表になる。緑がベンチマークの値、青が予測値だ。

マルチプラットフォーム・ベンチマークテストの「Geekbench 5」の値から、Apple Silicon Macの性能を予測。青が予測値。これ以上の値になるなら、かなり魅力的な製品になりそうだ

iPad Pro用の「A12Z Bionic」は、iPhoneやiPad Air用と比較した場合、高い処理に使われる高性能CPUコアの数が4つに増え、GPUコアが8つに増えている。ここから、最新の「A14 Bionic(高性能CPUコア2、GPUコア4)」を使ったiPad Airのスコアをもとに、「仮に、A12Zと同じくコア数が増えた場合」を想定して作ったのがこの予測値。

消費電力重視の「高効率コア」分の処理能力の分、A12Zと同じ値を足している。メインメモリーの量やクロック周波数の違いは想定していない。

それでも、性能はかなり高くなる。参考までに入れた、現行のインテル版13インチMacbook Proと比較した場合の差は歴然だ。

現状、iPad ProとMacBook Proを比較した場合、OSの違いからか、作業の多くがMacBook Proの方が快適であるものの、動画の書き出しやゲームなどではiPad Proの方が優位で、かつ、CPUファンがないという利点がある(メインメモリー量が全く異なるので、実際の作業の快適さはまた別の話)。

その点を考えると、純粋なベンチマークの値としては、「このくらいは期待できる」と考えても、さほど的外れではないように思う。個人的には、高負荷時にファンの音が大きくなることが減ってくれればありがたい。一方で、ハイパフォーマンス領域(MacBook Proの16インチやiMac Pro、Mac Proなど)がどうなるのかはまだ気になる。

どんなものが出てくるにしろ、競争は基本的にプラスだ。AMDにしろアップルにしろ、PCのあり方に変化をもたらしてくれていることを歓迎したい。

こうなると、確かにインテルとしては厳しい部分はあるだろう。今後のプラットフォームでいかに盛り返すか……という点にも強い興味が出てくる。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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