石野純也のモバイル通信SE

第47回

変化する子どものケータイ ドコモ「キッズケータイ コンパクト」の狙い

ドコモが夏以降に発売するキッズケータイ コンパクト。同シリーズ初のスマートウォッチ型端末だ

ドコモは、「キッズケータイ コンパクト」を発表した。夏以降の発売を予定している。“ケータイ”と銘打っているが、その形状はどちらかと言えば、スマートウォッチに近い。バンドを装着し、腕に巻き付けることが可能だ。一方で、このモデルはバンドを外し、ランドセルやカバンにつけることも可能。ストラップをつけて、首からぶら下げるような使い方もできる。

ストラップに付け替えて、首から下げたり、カバンにつけたりする使い方も想定されている

キッズケータイ市場の変化

現行のキッズケータイは、基本的にスマホをベースにしながら、機能を大幅に制限したものが多い。Googleのサービスこそ搭載されていないが、OSはAndroidをベースにしており、操作もタッチパネルで行なえる。

デザインも、スマホをギュッとコンパクトにした格好で、'23年に発売された「キッズケータイ」はカメラも搭載されている。タッチ操作できる点は同じだが、今回発表された「キッズケータイ コンパクト」はその形を大きく変えた。

キッズケータイKY-41C
キッズケータイ コンパクト。できることはかなり限定されているが、通常のキッズケータイと同様、タッチパネルで操作可能。+メッセージにも対応する

実は、キッズケータイの所有率は、年々低下している。

ドコモのモバイル社会研究所が1月に発表した調査結果によると、'18年には小学校1年生から3年生の約2割がキッズケータイを所有していたのに対し、(23年はその割合が半減しており、10%まで低下している。代わりに伸びているのが、スマホだ。

同様に、小学校4年生から6年生も、'19年の30%をピークに、その割合は年々低下。こちらも'23年にはおおよそ半減の16%にとどまっている。ただ、スマホはペアレンタル・コントロールを適切に設定しなければならず、リスクもある。きちんとコントロールしなければゲームや動画視聴もできてしまうため、学校や習い事に行く際に持たせる見守りデバイスとして、最適とは言えないだろう。

キッズケータイの割合は年々低下しており、変わってスマホが増えている

拡大する「見守りGPS」を狙う?

こうした中、伸びているのがIoTデバイスの見守り用GPSだ。

ケータイやスマホとは異なり、基本的には電話やメッセージサービスは利用できないが、子どもの位置情報を親が簡単に管理できる。バッテリーの持ちもよく、数週間充電が不要という点も評価されている。学校によっては、通話などが可能なケータイやスマホの持ち込みに許可が必要なこともあり、より手軽に使える見守り端末として、こうした端末の市場規模が拡大している。

有名なところでは、MIXIの「みてねみまもりGPS」や、ビーサイズの「GPS BoT」、ソフトバンク傘下のBBソフトサービスが+Styleブランドで展開する「まもサーチ」などだ。仕組みはおおむね同じで、モバイルネットワークを通じてGPSやWi-Fiで取得した位置情報をサーバー側に送り、親側のスマホからそれを参照するという仕組みだ。

当然、キャリア各社も参入しており、KDDIは「あんしんウォッチャー」、ソフトバンクは「どこかなGPS」という名称でサービスを提供している。

MIXIのみてねみまもりGPS。各種調査でも満足度が高い

これに対し、ドコモは見守り用GPS端末を発売していなかった。キッズケータイ コンパクトは、その穴を埋める端末と言えるだろう。通話やメッセージの操作をタッチパネルでできるという点では、見守り用GPSに対する優位性がある。スマホとは異なり、機能も限定されているため、基本的には見守り用として利用可能。サイズ感も見守り用GPSに近く、ランドセルにぶら下げておくことができる。

「キッズケータイプラン」で利用でき、月額料金も550円とリーズナブル。見守り用GPSの料金との差は小さく、家族への通話や+メッセージのデータ通信に追加のお金はかからない。GPSで位置情報を検索するための「イマドコサーチ」に220円の料金がかかるため、合算するとやや見守り用GPSより割高だが、機能差を考えれば納得感はある。スマホは持たせたくない一方で、見守り用のGPSではいざという時に通話ができず、もどかしいというニーズを満たした端末と言えるだろう。

キッズケータイプランは、料金が550円。イマドコサーチをつけても770円に収まるため、見守り用GPSと戦える価格設定だ

常時携帯させるには見守り用GPSのサイズ感がいいが、通話やメッセージができないのはもどかしい……そんなすき間を狙った製品と言えるだろう。バンドをつけた形状はあたかもスマートウォッチのようだが、どちらかと言えば、カバンや首からぶら下げられるところに、この端末の価値がありそうだ。

キッズケータイ コンパクトの課題と期待

ただし、見守り用のGPSトラッカーも、いざという時に連絡ができないもどかしさがあり、最近では「みてねみまもりGPSトーク」のように、音声メッセージ機能に対応した機種が発売されている。また、キッズケータイ コンパクトは、その名の通り携帯電話で、ディスプレイがなく、消費電力を極力抑えた見守り用GPSと比べると頻繁に充電する必要はある。

見守り用GPSにも、通話や音声メッセージ機能を備えた機種が徐々に増えている。写真はMIXIのみてねみまもりGPSトーク

例えば、筆者が子どもに持たせている「まもサーチ3」は、1回の充電で約2カ月間、利用できる。これに対し、キッズケータイ コンパクトはあくまでケータイ。現時点では、連続待受時間などは公開されていないが、542mAhというバッテリー容量は通常のキッズケータイの1/3。長くても数日程度、短ければ1日か2日で充電が必要になるはずだ。

また、見守り用GPSの多くは、あらかじめジオフェンスを設定しておけば自動で数分おきに位置情報を検索し、特定の場所に出入りした際に親に通知やメールを飛ばすことができるが、イマドコサーチの場合、バッテリーの消費を抑えるため、検索する時間を親側が区切っておかなければならない。

加えて言えば、あくまで携帯電話のため、見守り用GPSと違い、学校に持ち込む許可が出ない可能性もある。東京都 品川区のように、KDDIとタッグを組み、通話機能をつけられる端末を全児童に貸与する先進的な自治体もあるが、残念なことにこれはかなり限定的な事例だ。製品としての魅力はあるため、ドコモの自治体を巻き込んだ取り組みにも期待したい。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya