石野純也のモバイル通信SE

第17回

見えてきた本物の5G SA活用。ゲーム低遅延+高速を両立する複数スライス

KDDIとソニー、エリクソンは、5G SAで複数のスライスを単一アプリに同時適用する実証実験に成功

KDDIとソニー、エリクソンは、12月16日に複数のネットワークスライスを同時に適用する実験に成功したことを発表した。ネットワークスライシングとは、用途ごとに応じたスペックを持つ仮想のネットワークを作り、それらを切り分けて(スライスして)提供する機能のこと。5G専用のコアネットワーク設備を使う5G SAの中で注目を集めている仕組みで、コアネットワーク側の実装も対応も必要になる。4Gのコアネットワークに依存するNSA(ノンスタンドアローン)の5Gでは、実現できていなかった機能だ。低遅延、高信頼といった5Gの特徴を活かすには、ネットワークスライシングの導入が必須と言える。

ネットワークスライシングの意義

ネットワークを切り分けるとは、どういうことか。

アプリケーションが求めるネットワークの最適な仕様は、その用途によって異なる。ネットワークスライシングとは、それに合わせて、ネットワークを最適化し、スライスとして提供することを意味する。例えば、IP電話アプリで双方向の通話をしている際には、通信のスピードよりも遅延の少なさの方が重要になる。逆に、動画のストリーミングでは、安定して高速であることが必要だ。運転時に利用するような通信は、信頼性が高いことが求められる。

ネットワークスライシングは、こうした機能を提供するために、仮想的にネットワークを区切るための仕組みだ。同じ基地局につながった端末でも、低遅延スライスと高速通信スライスでは振る舞いも変わってくる。実際、KDDIは2月(報道陣への公開は3月)にソニーと同機能の実験を行なっており、ゲームの遠隔操作にネットワークスライシングを適用していた。プレイステーションのリモートプレイを、5G SAにつながったスマホで操作するというのが、その内容だ。

ネットワークスライシングの概要。無線からコアまでを仮想的に異なるネットワークに仕立て上げることができる

3月に取材したデモでは、安定性を高めたスライシングに接続した端末と、通常の5Gにつながった端末をそれぞれ用意。リモートプレイで接続した遠隔地にあるプレイステーション5に接続して、格闘ゲーム(ストリートファイターV)の挙動にどのような違いが出るのかを検証した。

この実験では、5G SAの安定性を高めたスライシングに接続した端末は、あたかもローカルのプレイステーションを操作しているかのように、スムーズに操作ができた。もう少し要素を分解して言えば、スマホを操るプレイヤー側の入力がタイムリーに反映され、それが滑らかな画像として表示されたということだ。これに対し、5G SAにつながっていない端末は、映像がところどころコマ落ちしてしまっていた。

左がネットワークスライシングを適用した端末。右の映像にブレがないのは、コマ落ちして固まっているためだ。ただし、このデモでは、ゲーム以外のアプリにも同じスライスが適用されていた

一方で、2月時点のネットワークスライシングは、あくまで端末全体にしか適用することができなかった。本来はゲームのリモートプレイ用に安定性を高めているだけだが、ブラウジングや動画視聴にも、同じチューニングが適用されてしまっていたというわけだ。これでは、無駄が多い。安定性を高めたスライシングならまだいいが、低遅延に特化し、速度を抑えたスライシングが全体に適用されてしまうと、かえって使い勝手を損ねることになりかねない。

自動運転や遠隔医療にネットワークスライシングを適用する場合なら、回線1つ1つに同じ設定をすれば十分だ。これに対し、スマホは汎用機器とも言える。ユーザーがその上で何をするかは、アプリケーションに左右される。このような端末にネットワークスライシングを適用する際には、より制御を細かくする必要がある。

操作は低遅延、映像は速度+安定。複数のスライスを持つ意義

今回、KDDIとソニー、エリクソンが連名で行なった実証実験は、この課題を解決するためのものだ。鍵となるのが、「URSP(user equipment route selection policies)」という新機能。URSPは、4Gや5Gなどの通信規格を規定する3GPPの標準仕様に基づいた仕様で、エリクソンはいち早くこれを取り入れ、1月には「Dynamic Network Slice Selection」という機能を発表している。このURSPは、コア側と端末側、それぞれに実装して協調させる必要がある。実証実験で使用したXperiaには、このカスタマイズが施されていた。

エリクソンは、1月にDynamic Network Slice Selectionを発表。URSPもサポートしていた

URSP自体はすでにエリクソンが実装していた機能。6月には、OPPOが「OPPO Find X5 Pro」をカスタマイズして、ネットワークスライシングの実証実験を同社とともに行なっていた。OPPOとの実験では、個々のアプリケーションに対して、それぞれ異なるスライシングを適用している。

これに対し、KDDIやソニーは、ゲームという単一のアプリケーション内で操作用のスライスと映像表示用のスライスを分割している。

エリクソンとOPPOは、Find X5 ProをカスタマイズしてURSPの実証実験を行った。写真はMWC Barcelonaで撮影したFind X5 Pro

一口にゲームと言っても、「操作」に求められる要件と「映像」を表示するための要件は異なる。前者(操作)は遅延を減らしてユーザーが入力した信号をタイミングよく送ることが重要。速度は二の次だ。一方の映像は、一定の通信速度と通信の安定性が求められる。この要件を満たすため、アプリごとにスライスを切り分けたうえで、アプリ内でも複数のスライスを適用したというわけだ。

操作信号と映像信号で異なるスライスを生成。それぞれに最適な通信を実現した

KDDIとソニー、エリクソンの発表はあくまで実証実験だが、URSPの制御を細かくできるようになれば、コンシューマー向けにサービスを提供する道筋も見えてくる。

あくまで一例だが、ネットワークゲームを遊ぶユーザー向けに、ゲームコンテンツとゲーム用スライスをセットにしたサービスをオプションとして提供するといったことも考えられる。LINEのような音声通話やビデオ通話を、より安定的に利用できるようになるスライスがあってもいい。コンテンツやアプリとネットワークを連動させたサービスができれば、キャリアにとって、新たな商材になる可能性もある。

こうしたサービスが実現できれば、“なんちゃって5G”と揶揄されることもある、4G用の周波数帯を転用した5Gも生きてくる。転用周波数帯は帯域幅が狭く、5G用に割り当てられた高い周波数帯より速度は出にくい一方で、低遅延や高信頼といった5Gのメリットは生かせるからだ。転用周波数帯の5Gはエリアも広く、サービスを一気に全国区に広げられるのもキャリアには有利だ。

現状ではスポット的にしか利用できない5G SAだが、そのエリアを広げる機運が徐々に高まってきたと言えるだろう。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya