レビュー

MR機能の進化が凄い 新定番VRゴーグル「Meta Quest 3」

Metaから最新のVRゴーグル「Meta Quest 3」が発売された。Metaの公式ストアや家電量販店など、幅広いチャネルで販売されている。価格は128GBモデルが74,800円、512GBモデルが96,800円。

Questシリーズは、Metaが買収したVRゴーグルメーカー「Oculus(オキュラス)」の流れを汲む製品だ。2020年10月発売の「Meta Quest 2」から3年ぶりの製品更新となる。

Quest 3は、2022年10月発売のプロ向けモデル「Meta Quest Pro」に比べても、プロセッサやディスプレイ、カメラなどが強化されている。Pro独自のアイトラッキングやフェイストラッキングといった実験的な機能を使わないなら、Quest 3の方が実質的な上位モデルとなる。

今回はそんな最新モデルのMeta Quest 3を発売前にご提供いただいたので、定番VR音ゲー「Beat Saber」のプレイ時間だけで1,200時間以上という偏ったVR世界の住人である筆者が使い勝手などのレビューをお届けする。

そもそもQuestってどんなデバイス?

まずまったく知らない人向けにQuestシリーズの基本情報を解説しよう。

Meta Questシリーズは単体でも使えるVRデバイスだ。Meta Quest 3自体がハイエンドスマホ並みのプロセッサを内蔵していて、ゲーミングPCがなくても、そこそこのVRコンテンツを楽しめるようになっている。

一方でWi-FiかUSBケーブルでゲーミングPCとつなげば、よりリッチなPC向けのVRコンテンツを楽しむこともできる。PC向けVRプラットフォームのSteamVRでは、利用者の半数以上がQuest 2というくらい、PC向けVRゴーグルとしてもよく使われている。

Meta Quest 2。ストラップとかは非純正品なのでかなりゴツくなってる

先代のQuest 2は価格の安さと使い勝手の良さからブレークし、「VRならとりあえずQuestを買っておけ」というくらいの定番のVRデバイスとなった。おかげでアプリは多数配信されているし、ネット上の情報交換も活発だし、サードパーティ製アクセサリも多い。後継モデルのQuest 3も、その資産の多くを利用できるのが大きなアドバンテージだ。

Questシリーズは視点の向きだけでなく視点の位置も反映するタイプ、いわゆる6DoF対応のVRなので、メインのコンテンツは三次元空間を使うVR/MRのアプリとなる。高画角ビデオや立体ビデオも視聴できるが、ビデオ視聴のためだけに買うにはオーバースペックなデバイスだ。

Meta Quest 3を着用する筆者

立った状態でも座った状態でも使えるが、基本的に自宅など屋内での利用が想定されている。立った状態でプレイするなら、手を振り回してぶつからない広さ、大雑把に2.5m四方くらいの床面に何も置かれていない空間が必要だ。アプリによってはもうちょっと広い方が良かったりする。

Questシリーズのアプリは、ストアからダウンロードできる。Androidスマホのように、非公式のストアからアプリを導入することもできるが、基本的にはMetaの公式ストアに頼ることになる。ちなみに基本無料のゲームはほとんどなく、有料のゲームがほとんどを占めている。

コントローラーでポイントし、トリガーでクリック。すぐに慣れて正確に操作できるようになる
コントローラーをどこかに置いたままにすると、手がトラッキングされ、輪郭がCGで描かれている

アプリの購入や各種設定などの一部の操作は、スマートフォン上のコンパニオンアプリでも可能だが、基本的な操作はQuest 3を装着しての仮想空間上で完結する。

UIは、付属のコントローラーでポイント&クリックするという、VRデバイスによくある形式だ。しかし、Quest 3はハンドトラッキングにも対応するので、素手でも基本的な操作は行なえる。ただしハンドトラッキング対応のアプリは多くはない。

Quest 3ではMR機能が一気に進化

Quest 3の最大の進化ポイントは、現実世界と仮想世界を融合させる表現、いわゆるMixed Reality=MRだ。

Quest 3の前面。左右がカメラで中央が深度プロジェクター、らしい

Quest 2もトラッキングのためにモノクロカメラが搭載されていたのだが、Quest 3では前面の2か所が高解像度なカラーカメラとなり、より自然に現実世界を表示できるようになった。さらに「深度プロジェクター」も搭載することで、現実世界のモノの立体形状を認識できるようになっている。

こちらはQuest 2。カメラは外向きに付いている。設計段階ではMRはあまり想定してなかったっぽい

これにより、現実世界の机の上でテーブルゲームをプレイしたりとか、現実世界の部屋の壁を崩しながら外から侵入してくるエイリアンを捕まえたりとか、現実世界の部屋や家具を活かしたMRアプリが使えるようになる。

アプリを起動しないホーム状態でパススルーをオンにすると、こんな感じで現実空間を背景とし、空中にUIが浮いて表示される

Quest 3の現実世界の表示解像度は、肉眼には及ばないが、近づければスマホの文字も判読可能なレベルだ。遅延も少なく、着用したまま難なく家の中を歩けるレベルだ。とはいえ、距離感がズレたり、視界の端が歪んだり、視界が狭くなったりするのは避けようがない。家の中を歩くにしても、階段はキケンだし、不慣れな場所や不慣れな家具配置だと足の小指をしこたま痛めつけることになるだろう。

Quest 3のMR利用で「First Encounters」をプレイ

MR以外の進化ポイントは大きくはないけど堅実な強化

MR性能が向上した以外のポイントは、進化しているものの、Quest 2から体験が一気に変わるかというと、そういうことでもない。

たとえばGPU性能はQuest 2の2倍に向上したとされているが、ほとんどのVRゲームはQuest 2に最適化されて作られているので、Quest 2で不足を感じることはほとんどない。

Quest 3の接眼レンズはQuest 2に比べると一回り大きくなった

しかしVRは高いフレームレートが安定しないと酔いやすくなるので、GPU性能が高いのは、大きなアドバンテージだ。ディスプレイ解像度はQuest 2の1,832×1,920からQuest 3では2,064×2,208へ約30%増えており、単純に考えるなら、2倍に強化されたGPUであれば、フレームレートを1.5倍にできる。

解像度が増えたが、画角が縦横90度から縦96度、横110度へと拡大しているので、高精細になったというより視界が広くなったイメージもある。視界の広さは没入感に関わる部分なので、ここが広がったことはかなりデカい。大きめのメガネ・サングラスよりちょっと広いくらいの視界がある。

現状のアプリでも、画角が増えたりフレームレートが安定したりといったメリットは享受できるはずだが、筆者が試用した限りでは、既存のアプリではQuest 2/3の差はハッキリとは体感できなかった。しかしQuest 3発売後は、Quest 3の性能を活かすような高精細な3Dモデルを実装するアプリも登場することが期待できる。

ちなみにディスプレイは液晶で、初期の有機EL採用VRゴーグルに多かったピクセル間の格子が見える現象、いわゆるスクリーンドア効果はほとんどない。高価なPC向けVRゴーグルよりも見え味は良いくらいだ。

スピーカーはバンドの付け根部分に内蔵されている。そこそこ高音質で、音楽ゲームでもイヤホンを付けようという気にならない。ヘッドスピーカータイプと違って耳に触れるものがないのも快適だ。

内蔵バッテリ容量は3,640mAhから5,060mAhへと大幅に増えているが、カタログ記載の「一般的な使い方」での駆動時間は、2時間から2.2時間への控えめな進化にとどまっている。ディスプレイの高解像度化などの影響で消費電力も増えているのだろう。ちなみにモバイルバッテリなどに接続しながら使うことも可能だ。

「着心地」はそこそこ 頭の形状や使い方、アクセサリ次第

左がQuest 3で右がQuest 2。前端からフェイスクッションまでの距離が浅くなっている

デザイン面では、ゴーグル本体はちょっと薄くなった。レンズ部から顔面までの距離は調整できるようになっているので、メガネ非着用で接眼レンズを近づけられる人は、重心を顔の近くに寄せることで、顔を振ったときのブレが少なくなる。これはVRの快適さでは重要な要素だ。

Quest 3の標準ストラップ。なんというか、かなり簡易的な作りで、長時間着用は若干キツい印象

標準ストラップは、長さ調整できるものの、伸縮性のあるバンドの弾力で締め付ける構造だ。シンプルで壊れにくい作りだが、激しい動きに対応するには強めに締め付ける必要があり、しかし締め付けが強すぎると頭が痛くなりやすい。

標準フェイスクッションは柔らい布系の素材だ。肌触りが良いが、汗を吸いやすいので、筆者のように汗だくになりながらエクササイズ系ゲームをプレイする脳筋プレーヤーには向かない。筆者の経験からすると、数ヶ月で「中学校の剣道の防具」みたいな臭いを放つと思う。クッションが硬質パーツと一体化してるので、洗濯も難しそうだ。

ただ、クッションが汗を吸ってくれるせいか、内蔵冷却ファンが関係しているのか、汗だくになりながら1時間とかプレイしても、レンズは曇りにくい印象だ。

ストラップもフェイスクッションも、標準品から付け替え可能で、純正品でもいくつかのバリエーション製品が発売されている。サードパーティでも、Quest 3向け製品をアナウンスするメーカーも登場している。発売後、数カ月で選択肢の幅は広がっていくハズだ。

BOBOVRによるQuest 2向けストラップ。ダイヤルを回すと締め付けられる

たとえば筆者は、Quest 2ではMOMOVR(海外ではBOBOVRブランド)のストラップとフェイスクッションを愛用している。このストラップのバンドは伸縮性がなく、後頭部のダイヤルで長さを調整するタイプ(そこそこ価格帯のVRゴーグルでは主流のデザイン)で、締め付けを調整しやすい。フェイスクッションは汗を吸わないタイプだが、換気ファン付きでレンズの曇りも防ぎやすい。オデコ支持デザインで万人向けというわけでもないが、筆者はMOMOVRのQuest 3向け製品を待とうと思っている。

ストラップとフェイスクッションは、どのデザインが自分に合うかわからないので、こだわるなら、あるいはヘビーユースのためにこだわらざるをえないなら、買って試して気に入らなければ捨てる、みたいなことを繰り返すことになりがちだ。アクセサリにはけっこうコストがかかる。

レンズと顔面までの距離を調整できるようになっているので、メガネ着用者も使いやすい。しかし家族などと共有せずに使うなら、度入りの処方レンズアタッチメントを強くオススメする。着用感が良くなるし、視界も広く見えやすくなる。今回はMeta社の公式ストア上でZenniという光学メーカーによる「VR度付きレンズ」が紹介されている。筆者のオーダーだと、価格は送料込みで10,098円だった。

インターフェイスはどうなってるの?

ストラップバンドの付け根部分にUSB Type-Cポートがある。この形状、Oculusのロゴに似てる

本体の左側面には充電とデータ通信のためのUSB Type-Cポートと電源ボタン、右側面にはイヤホンジャック、下部には音量ボタンと瞳孔間距離(IPD)の調整ダイヤル、充電ドックのための接点がある。

Quest 3の下部。瞳孔間距離の調整はQuest 2に比べて柔軟になっている

瞳孔間距離の調整可能範囲は58~71mm。子どもの利用は基本的に想定されていない。子どもがVRゴーグルを使ったときの影響はまだ研究途上の分野だが、斜視になるリスクなどが指摘されているので、小さな子どもの利用は避けよう。ちなみに対象年齢は13歳以上とされている。

Quest 3(左)とQuest 2(右)のコントローラー。リング部以外には大きな違いはない

コントローラーは、Quest 2では光学トラッキングためのリングが付くデザインだったが、Quest 3ではリングがなくなった。これにより光学的にトラッキングされない瞬間が増えると推測されるが、そうした瞬間でも加速度センサなどで補完する機能があり、実際に使っていても、トラッキングが完全に外れる瞬間は少なかった。

コントローラー形状は素直で、握れば自然にボタンに指が行く

コントローラーの電源は単三電池なので(Quest 2も同様)、利用頻度が高いと電池交換が面倒だ。別売りの充電ドックを購入すると、本体もコントローラーもドックに置くだけで充電できるようになるが、この純正充電ドック、約2万円とちょっとお高い。ここはサードパーティ製品にも期待したいところだ。

ちなみに別売り純正アクセサリの「Meta Quest Touch Proコントローラー」(左右セットで37,180円)は、付属スタンドで充電するタイプとなっている。ゴーグルの死角でもトラッキングするので、充電ドックの代わりにトラッキング性能向上も狙ってこっちを買う手もあるな、とか思ったりもする。

どんなアプリがあるの?

Quest 3は発売されたばかりだが、Quest 2やQuest ProでもMR機能は使えたので、MR対応アプリはすでに存在している。しかしその数は決して多くはない。そもそもアプリ開発側もMRの活用方法を模索している段階で、作業用アプリや音楽ゲームなど、背景がどうでも良いアプリで、背景に現実空間を表示させる、みたいなMRがメインだ。

VRアプリはというと、Quest 2向けのアプリがQuest 3でもほぼすべて使えるので、かなり充実している。主流はゲームやメタバースだが、YouTubeなどの動画アプリやパソコンのデスクトップを表示するリモートデスクトップアプリなんかもある。

ここでは大雑把にアプリの紹介や解説をしよう……かと思ったが、長くなりすぎるので割愛する。スマホやパソコンとは異なる傾向を持ちつつも、ホント、いろんなアプリがある。Quest向けのアプリストアは、パソコンのWebブラウザやスマホのコンパニオンアプリから見られるので、興味がある人は、直接確認してほしい。

マルチタスク作業は苦手 期待してるんだけど……

基本的にほとんどのアプリは全空間を占有し、スマホのようなシングルタスクで使うことになる。一部のマルチタスク用2Dアプリは、いつでも表示できるユニバーサルメニュー上で3つまで起動できるが、この機能、使い勝手も洗練されていないし、そもそも使えるアプリが少なすぎて、実用性は低い。

3つの2Dアプリを並べた状態。もうちょっとウィンドウサイズを自由に調整させて欲しい……

マルチタスク作業をするなら、Quest向けのリモートデスクトップクライアントアプリを使う手もあるが、近くにパソコンがないとダメだし、だったら物理的なマルチディスプレイ環境の方が見やすくて使いやすい。Quest 3は解像度が上がったとはいえ片眼2Kなので、安価な4Kディスプレイを3枚くらい並べた方が実用性も見やすさも快適さも上だ。

2Dアプリは遠くに大きく表示することもできる、が表示モードは近くと遠くの2種類のみ

価格的にライバルと言いにくいが、アップルのVision Proは、公開されているビデオなどを見ると、全空間を占有するVR/MRアプリはあまり登場せず、一方で2Dアプリを空間に多数並べて作業するといった、マルチタスク作業環境としての使い方が多めに紹介されている。iPadアプリがほぼそのまま使えるらしいので、となると発売前から実用・エンタメなどあらゆるアプリがそろっていることにもなる。

アプリストア上の2Dマルチタスクアプリ。原稿執筆時点で配信されてるのはこの9個のみっぽい

たとえばQuest 3でも、AndroidアプリをVR/MR空間上の好きな位置に好きな形状で好きな数だけ配置できる機能が追加されれば、マルチタスク作業環境としての実用性は飛躍的に向上する。ビジネス的に難しいところがありそうだが、必要な要素はシンプルだ。

過去を見ると、アップルが先行的に導入したUI/UXを他社が後追いの形で実装し、結果としてアップル以上のシェアを獲得し、広く普及した例はある。Questシリーズもその道をたどり、パソコンやスマートフォンに続く実用デバイスとして定着することも期待したいところだが……。

新規ユーザーにもオススメできる新定番VRゴーグル

いろいろ試させてもらったが、細かい精度や使い勝手を見ても弱点が少なく、それでいて豊富なQuestシリーズの資産が使えるなど、Quest 3はVRユーザーから見ても新定番に相応しいVRゴーグルになっていると思う。

作業用途にはまだ弱いが、そもそもXRゴーグルをマルチタスク作業環境と定義してるのは未発売のApple Vision Proくらいであり、現段階でQuestシリーズに求めるべきところではないだろう。

Quest 2とQuest 3は、性能差がそこそこあるが、Quest 2ユーザーが買い換えるほどかというと微妙なところだ。しかしMR機能には大きな差があるので、Quest 3向けのMRアプリで使いたいものが登場すれば、買い換える価値がある。しばらくはアプリストアを眺めながら、買い換え時を探るのも良いだろう。

Questシリーズを持っておらず、初のVRゴーグルとして買うのであれば、Quest 3はオススメだ。MR機能をまったく使わないなら、安価なQuest 2でも良いと言えば良いのだが、面白いMRアプリが登場するかも知れないし、新しいプロセッサの方が長期間サポートされやすい。いま新規に買うなら、ストレージが少ない128GBモデルでも良いのでQuest 3を優先候補にするべきだ。

白根 雅彦