レビュー
復活のHomePod。アップルの素晴らしき世界
2023年2月17日 11:30
アップルの新しいスマートスピーカー「HomePod」が2月3日から発売された。スマートスピーカーは、AmazonやGoogleが先行し、価格も安く、周辺機器も充実していることから人気を集めている。アップルは後発かつ、2020年のHomePod mini以来、2年以上新製品がでていなかったため、存在感を失っているようにも見えていた。
しかし2023年1月、突如第2世代のHomePodとして復活した。使ってみると、確かにアップルならではのハードウェアのよさを感じられる。価格は44,800円で、2台だと89,600円だ。今回は2台のHomePodに加え、Apple TV 4Kを借り、その実力を試してみた。
価格はスマートスピーカーとしては少々高い。ただし、アップル製品との組み合わせを増やしていくことで、その価値は価格以上に増していくように思える。
シンプルなデザインと超簡単な設置
HomePodの本体はシンプルだ。継ぎ目がないメッシュ生地を使用しており、手に取ると手に馴染みつつも柔らかく凹む弾力に高級感が感じられる。見た目だけでなく触れた感じでも、いい質感があるのだ。
外形寸法は142×168mm(直径×高さ)で重量は2.3kg。今回は120×70cmの仕事用のデスクの上で主に使っているが、ステレオで使っても大きすぎずギリギリおけるなという感じ。Amazon Echo Studioだと、デスク上はやや大きすぎると感じるがHomePodのサイズ感はちょうどいい。
第1世代のHomePodから基本的なデザインイメージは踏襲しているが、第2世代では天板のバックライトがSiriの呼びかけや操作にあわせて柔らかく隅から隅まで光るTouchサーフェスとなって高級感を増している。
また、第2世代における大きな違いとして、電源ケーブルが取り外せるようになっている。電源ケーブルも本体色とあわせた高級感のあるもので、長さは約1.5m。
セットアップは非常にシンプルでiPhoneやiPadから行なう。というかiPhone/iPad以外からは設定できないので、完全にアップル製品ユーザー向けのスピーカーだ。ちなみにMacでもHomePodの初期設定はできない。
ただし、iPhoneユーザーであれば設定はとても簡単。電源ケーブルを繋ぎ、iPhoneをHomePodに近づけて、本体をカメラの枠の中に入れればセットアップを開始してくれる。Wi-FiルーターのSSIDやパスワードを入れる必要もなく、iPhoneの画面に従って使う部屋を選択し、連携する機器を選ぶだけで設定が終わってしまう。ファームウェアのアップデートも自動的に行なわれるため、設定してしばらく経てば最新の環境でHomePodを利用開始できる。
2台のHomePodを組み合わせて使う場合「ステレオペア」の設定を行なうが、その設定もこの画面で行なえる。とにかく何も考えなくていいというのが素晴らしい。
HomePod 1台で音楽を聴く
まず1台で使ってみよう。最初に結論を言うと、iPhoneを使っていて、なおかつApple Musicを使っている音楽ユーザーであれば、HomePodは間違いなくオススメのスピーカーだ。
そして、2台組み合わせるとさらに魅力を発揮し、MacやiPad、さらにApple TV 4Kを使っていると、オススメ度が増していく。要するにアップル製品に“囲まれている”ことで真価を発揮するのが、HomePodというスピーカーなのだ。
まずは、仕事用デスクの上にHomePodを1台おいて、Apple MusicとiPhoneでの操作を中心に音楽を聞いてみたが、音の広がりと情報量もしっかりあり、バランスのよい音質。印象的なのは、低音がしっかり出ているにも関わらず、歪感が少なく、上品に感じられること。無理をして迫力を出すことはなく、サウンド全体のバランスを保てるギリギリの範囲に抑えられており、スッキリとした音場で音楽を楽しめる。こうした形状のスピーカーでありがちな低域の“暴れ”がきっちり制御されているようだ。
第1世代のHomePodを使ったのが3年前なので記憶が曖昧だが、第2世代のほうがより上品な印象だ。競合といえるEcho Studioもかなり低音が強く出るが、それに比べるとスッキリと見通しの良いサウンドがHomePodの特徴と感じた。
HomePodでは、近くの面からの音の反射を認識し、壁から近いか離れているかを判断して、サウンドをリアルタイムで調整する「室内検知テクノロジー」を搭載している。この効果かはわからないが、情報がすっきり整理されて聞きやすい。また、部屋のどこで聞いても音楽の聞こえ方があまり変わらないという点も特徴で、間違いなく高音質なスピーカーといえる。
機能面で便利なのは、iPhoneで再生している音楽やポッドキャスト、通話をHomePodに直接引き継げるというもの。他のスピーカーのようにアプリから「キャスト」するのではなく、iPhoneのスピーカーで再生しながらでも、近づけるとHomePodに音楽を引き継げるのだ。特に仕事場などのデスクの上で使っている場合に便利で、手放せなくなりそうだ。
2台ステレオペアで魅力が倍増以上
1台でも十分高音質なHomePodだが、2台を組み合わせるとより魅力を増す。今回、初めてHomePodで2台をステレオペアで使ってみたが、デスクの上の比較的狭いスペースでも本格的なサウンドシステムを構築できた。
設定もホームアプリで2台のHomePodを「グルーピング」するだけ。設定すると、数分間の自動調整の後、2台の連携再生が可能になる。また、HomePodでは、空間オーディオやApple TV 4Kと連携したホームシアター利用にも対応するが、それらもホームアプリから設定できる。
1台でも広がりがあり、バランスのよさが感じられたHomePodだが、音楽再生においては2台で本領を発揮という感じで、本格的なオーディオ体験を簡単に構築できる。
宇多田ヒカル「BADモード」では、シンバルの小さな掠れやギターの響きなどで空間を包み込むような感覚がグッと増し、部屋の空気が変わったような印象を覚える。ゴリッとしたベースも力強さを増し、ボリュームが3割を超えるあたりから6畳の部屋が音楽に満たされるような感覚が味わえる。
Silk Sonicの「Leave the Door Open」では、冒頭からドゥーンと歪む低音が入っているのだが、これがその歪の空気の震えの中に情報量が感じられる。一聴すると音が少なめでスッキリした曲の中に隠された響きやテクスチャがあらわになる。Vaundyの「怪獣の花唄」では、音像がシャープで、後半の「眠らない夜に~」というコーラスが1台のときよりも立体的に感じられる。
また、スピーカーの正面だけでなく、聞く場所を少し変えてもしっかり聞こえるので、部屋中のどこでも音楽を気持ちよく楽しめる。
筆者が普段PC用で使っているGENELECのスピーカー「8020D」で同じ曲を聞いてみたが、大きく印象が違ったのが「Leave the Door Open」の低域だ。重量感がHomePodのほうが力強く、ディテールも豊富に感じられる。「BADモード」では、シンバルの細かなニュアンスなどはGENELECのほうが見通しが良いのだが、曲の気怠い質感・雰囲気とHomePodがマッチしているように感じられる。
なお、8020Dの価格は2台で12万円。HomePodの2台で89,600円より高価だ。
ちなみに、BADモードはApple MusicからHomePodで再生すると空間オーディオ(Dolby Atmos)になるので、Spotifyからも再生してみたが、少し気怠い感じが抜けて、「宇多田ヒカルが顔を洗った後」みたいな印象にはなるが、楽曲の雰囲気を反映しているのは、やはりHomePodのように感じられた。
そしてGENELECとHomePodの一番の違いが、「部屋のどこでも音がいい」がということ。立ち上がってストレッチをしながら聞いていても、HomePodでは音楽としてバランスよく聞けるし、頭の位置が左右にずれても問題なし。GELENECはモニタースピーカーなので、スイートスポットが狭いこともあるが、頭の位置を動かすと音の聞こえ方はかなり変わってくる。その差はとても大きい。
GENELECは音楽制作用のスピーカーなので、環境によらずにいつでも同じ音を出せるのがメリット。単純にHomePodで代替できるタイプの製品ではない。ただし、リラックスして音楽を愉しめるのはHomePodなのは間違いない。
また、筆者の場合はWindows PCを使っているのでパソコンのスピーカーとしてHomePodはあまり活用できていない。ただし、Macと組み合わせれば、パソコンの音質も強化できるはず。Macユーザーであれば、魅力は更に増すだろう。
1台より2台の方がいいHomePodだが、さらに魅力を増すのがApple TV 4K連携によるホームシアター環境だ。
これが本命? Apple TV 4Kで映画を見るが最高
ホームアプリで設定するだけで、Apple TV 4KとHomePodを連携し、簡単にホームシアター体験を強化できる。Apple TV 4Kと連携することで、ディスプレイやテレビに接続されたデバイスのオーディオシステムとしてHomePodを使えるようになる。
Apple TV 4Kではアップルによる「Apple TV+」のほか。NetflixやAmazon Prime Vide、Hulu、U-NEXTなどの動画配信サービスを見られるが、Apple TV 4K+を繋いだテレビやディスプレイの音をHomePodから出力できる。
個人的にはHomePodの様々な利用のシーンの中でも、Apple TV 4K連携がもっとも魅力的に感じている。まず設定がシンプルで使いやすいこと、そしてとにかく音がいいのだ。
ASUSの27型4Kディスプレイ「PA279CV」と組み合わせて仕事用デスクの上で、Apple TV+で購入した「トップガンマーヴェリック」を見てみたが、オープニングテーマからして迫力が凄い。Dolby Atmos音声にも対応しており、戦闘機が空気を引き裂く音や、空気の震え、ミサイルの移動感など、ディスプレイやテレビの内蔵スピーカーとは比べ物にならないレベルだ。戦闘機が急旋回した後の空気の歪みが音として遅れて届く感触は、自分も戦闘に参加しているかのような臨場感が味わえる。映画“体験”が明らかに向上する。
また、音楽では比較的「上品」な低音を出していたHomePodだが、映画では低音の扱いが変わるようで、デスクが揺れるような重低音が出る。トップガンマーヴェリックの戦闘機の離陸シーンなどは、部屋中が震えで満たされるような轟音が気持ちよく感じられる。
低音がデカい映画として、Netflixで「DUNE/砂の惑星」を見てみたが、砂嵐に巻き込まれるシーンでは、サブウーファーの震えをガンガン感じられながら、砂に包まれ前後不明になる恐怖が体験できる。音の広がりや囲まれ感もしっかり出るほか、Apple Musicのミュージックビデオも高画質かつ高音質に楽しめるので、単なる音楽スピーカー用の時以上にHomePodを使うことが楽しくなっている。
また、映像体験の向上以外でも特筆したいのは「使いやすさ」だ。
筆者は2年前からASUSの27型4Kディスプレイ「PA279CV」を使っている。画質は良く、写真レタッチや動画編集、テレビ会議などの“画面”用途では満足していた。しかし、搭載スピーカーが貧弱、かつボリュームも小さなボタンでメニュー操作の必要があるなど、音に関しては使いにくく、PC接続以外ではほとんど活用できていなかった。
しかし今回、Apple TV 4KとHomePodを組み合わせることで、コンテンツ選択や再生、ボリューム操作がApple TV 4Kの付属リモコンやiPhoneで行なえるようになり、音質面でも非常に満足度の高い映画/ドラマ/アニメ視聴環境が簡単に構築できた。PA279CVの映像表示時の画質が思いのほか良いことにも気づかされ、購入から2年経って初めてその実力を感じられたようにも思う。ディスプレイにおける映像体験が良くなると、ついでに仕事部屋用のイスも新調したくなってきてしまった(ちなみにHomePodとApple TV 4Kはまもなくアップルに返却する)。
似たようなことは、Fire TVとEchoスピーカーでもできるはずなのだけれど、HomePodとApple TV 4Kの組み合わせの使いやすさや、音質とサイズのバランスが優れていると感じる。
テレビでApple TV 4K+HomePod。これが至高
最後にHomePod 2台とApple TV 4Kの環境をリビングに移し替えて、55型のテレビ「REGZA 55X920」で「トップガンマーヴェリック」を視聴した。ボリュームの半分を超えると15畳以上あるリビングでも音で満たされ、重低音の迫力が凄い。
上下や前後の移動感もバッチリ感じられ、やはり大きな画面で見る楽しさは格別だと感じるし、音に見合うようにもっと画面を大きくしたくなってくる。
テレビで簡単にサウンドを強化する手段としては、「サウンドバー」を追加すればよいのだが、サブウーファが外付けのサウンドバーの場合、ここまでの低音強化は難しい。音の広がりや迫力、そして画面を妨げない(設置環境によるが)設置性など、HomePodの魅力は非常に高いと思う。仕事部屋でも気に入っていたが、どちらかを選ぶのであればテレビ周りに設置したいと感じた。
とにかくHomePodは、Apple TV 4K連携で魅力的なサウンド体験を実現できるのでオススメだ。Apple TV 4Kユーザーは、HomePod連携を積極的に試してほしい。
温・湿度計などスマートホーム対応強化
スマートホーム系の機能では、新たに「温度・湿度センサー」を搭載。部屋の温度と湿度がHomePodでわかるようになった。温度・湿度は「ホーム」アプリで表示可能なほか、Siriで「室温は?」などと話しかければ教えてくれる。ちなみに、3年前に発売されたHomePod miniでもファームウェアアップデートで、温度・湿度センサーが追加された。
この温・湿度センサーにより、周辺機器と連携し、部屋が特定の温度に達したときに自動的にブラインドを閉めたり、扇風機をオンにするといった「オートメーション」も作成できるようになる。
さらに、今春のソフトウェアアップデートでは「サウンド認識」に対応。煙と一酸化炭素の警報音を検知し、ユーザーに通知を送るという機能だ。HomePodに煙や一酸化炭素を検知するセンサーが入っているわけではなく、市販の警報機の「警報音」を検知すると、ユーザーに通知する。日本でも春に対応予定とのことで、セキュリティカメラなどとあわせて、家庭の「見守り」の機能もHomePodを中心に強化していくようだ。
こうした見守り機能やセキュリティカメラなどは、GoogleやAmazonのスマートホーム連携が先行している部分だが、Appleも積極的に追従する姿勢を見せている。
その契機となっているのが、スマートホーム周辺機器の標準規格「Matter」だろう。Amazon用スマートデバイスでは「Works with Alexa」などが定められており、現状Apple、Amazon、Googleのスマートホーム向け機器に互換性はない。しかし、近い将来にこれらがMatter対応となれば、相互のプラットフォーム上で利用可能になる予定だ。エコシステム構築ではやや出遅れたAppleだが、スマートホームやホームオートメーション機器がMatterに統一されれば、対応機器のラインナップの点では追いつける。HomePodの再登場もこうしたエコシステムが一新される時期を狙ってのことかもしれない。
林檎の木の下で
HomePodは1台より2台、さらにApple TV 4Kを組み合わせるなど、アップル製品が連携すれば連携するほど、便利で使いやすく、体験が向上していくという、非常に魅力的かつ悩ましい製品だ。
筆者のパソコンはWindowsだが、Macに変えれば、パソコン用のスピーカーやマイクとしてもHomePodを活用しやすくなる。なのでいっそMacも欲しくなってしまう。それぐらいマルチなスピーカーとしての魅力を感じる製品だ。もちろんその魅力には、デザインや触り心地を含めた仕上げのよさも含まれる。
1台で44,800円、2台で89,600円という価格は、やや高価ではあるが、それに見合うだけの価値は感じられる。ついでに、Apple TV 4K(19,800円~)も単品ではFire TV Stickに対してコスパ面では物足りなさを感じていたが、この体験を実現できるのであれば、2万円は安いと思うようになってきてしまう。アップルのエコシステムにはハマればハマるほどその魅力は増してゆくのだ。
HomePodは、アップル製品をどれだけ持っているか、あるいはアップルとどこまで一緒に歩みたいかによって、価値が大きく変わる製品といえる。一気にアップルエコシステムに移行するのもいいが、長期的なオーディオ環境や仕事環境などをイメージしながら、徐々に好みのシステムを構築していくのも楽しいかもしれない。