レビュー

アップル「HomePod」の実力。Apple Musicユーザーには最適

HomePod(ブラック)。価格は32,800円

アップルのスマートスピーカー「HomePod」が、ようやく日本市場で販売される。アメリカを中心とした英語圏では1年半前に発売を開始していた製品だが、今回、音声認識を含めた日本語化が行なわれ、国内での正式販売が今夏に開始される。価格は32,800円。

筆者はHomePodのアメリカ版について、過去にレビューを執筆している。そこから日本語化によってどう変わったのかも含め、改めて「HomePodの意味」を確認していきたい。

HomePodをテスト。Appleスマートスピーカーはシンプル&音質に魅力

とにかくシンプル、iPhoneからの設定は簡単

HomePodは、とにかくシンプルだ。パッケージもシンプルなら本体もシンプルだ。

中に入っているのは本体とちょっとしたマニュアルだけ。

パッケージには本体しか付属せず、本体にはコネクター類を挿す場所はひとつもない。電源ケーブルが直接本体から生えており、これをコンセントに差し込めば使えるようになる。本体の上部がタッチパネルになっており、動作中には光るのだが、ここを使うシーンは非常に少ない。「Wi-Fiでホームネットワークにつなぎ、音声で操作する」ことに特化した機器といっていい。

電源ケーブルは本体直結。これをコンセントにつなぐと使えるようになる。
本体上面にはタッチパネル。音量の調整やミュートはここから行うが、普段はほとんど使わない。操作は「音声」が基本だ。
動作中。音声を認識中は上部に「Siri」マークが点灯するが、それ以外の時は表示もなく、シンプルな「筒」のようなたたずまいだ。

セットアップも恐ろしくシンプルだ。ただし、それにはいくつかの前提がある。

まず、iPhone・iPod Touch・iPadなどのiOS/iPadOS機器が必須だ。これを、HomePodを設置したい家庭のWi-Fiネットワークに接続しておく必要がある。また、HomePodで使う音楽サービスである「Apple Music」や、アップルのホームネットワーク規格「HomeKit」で利用する各種ネットワーク家電は、先にiPhoneなどの「設定に使う機器」に登録しておく必要がある。

文章で書くと難しいことに見えるが、実際にはそうでもない。「iPhoneなどを普段家で使う状態にセットアップしておく」だけだ。HomePodはセットアップ中に、iPhoneなどのiOS機器から、Wi-Fiの設定情報をはじめとした、必要な情報を転送する。そのため、必要な設定はすべてiOS機器の側で行っておく必要がある。逆にいえば、すでに動いているホームネットワークの中にHomePodを追加するなら、「なにもする必要がない」ということでもある。ほとんどの人はそうなのではないだろうか。

iPhoneなどを電源が入ったHomePodに近づけると、画面に接続設定のダイヤログがポップアップする。あとは何回かタップするだけで、文字入力などは必要ない。場合によっては、セットアップ終了までちょっと待たされることがあるが、気になるのはそのくらいだろうか。

HomePodを電源につなぎ、iPhoneを近づけると「設定」メニューが現れる

詳しくは後述するが、HomePodは2つ同じ部屋の中に配置すると、それらのHomePodからは「ステレオ」で音が鳴る。そのための連携設定についても、単にiOS機器をHomePodに近づけるだけで行なえるようになっている。

2台目のHomePodを「ステレオスピーカー」としてセットアップする際には、このような表示が。同じ部屋で「2台目のHomePodを設定する」過程で現れる

多くのスマートスピーカーは画面がないため、どれもスマホアプリからセットアップするようになっている。決して難しい作業ではないが、アカウントの入力など、面倒だと感じる部分も多い。

HomePodはそうした文字入力もなく、非常に簡単。セットアップの簡単さ・シンプルさでいえば、他の製品より優れている。

一方、大きな問題は、「iOS機器がないとセットアップが一切できない」ことだ。Windows PCやAndroidはもちろん、Macですら無理だ。自分や家族がiOS機器を一切使っていないなら、HomePodを買うべきではない。

どこに置いても「カジュアルないい音」、芸が細かい自動チューニング

HomePodはスマートスピーカーなので、音声で命令を与え、様々な情報を訊ねたり、音楽を再生したりできる。

特にHomePodは「音楽」に特化している。アップルのストリーミングミュージック・サービスである「Apple Music」に直接アクセスし、音楽を再生する形になっている。

Apple Musicは独自の「Apple Digital Masters」という仕組みを使い、高音質な配信を実現している。最大ビットレートは256Kbps・AAC方式での配信で、いわゆる「ハイレゾ」ではないのだが、聴感上は大きな差がないよう工夫されている。HomePodは、Apple Musicの音質を最大限に活かせるように作られており、常に256Kbpsのデータを取得し、再生する。

音質はかなり、いや、相当に良い。

世の中には多数のスマートスピーカーがある。すべての製品を試したわけではないが、HomePodより良い音質のスマートスピーカーはないのではないか。特に低音の響き方は圧倒的だ。あまりに低音の響きが良すぎて、集合住宅では音量を大きくするのに慎重になるほどだ。

音質が良いといっても、ピュアオーディオ的な良さとは違う。聴き疲れしにくく、部屋のどこにいても同じように楽しめる「BGMとしての良さ」を追求した品質だと感じる。

そうなっている理由は、オートチューニングを最大限に活用していることにある。

スマートスピーカーのような機器は、モノラルスピーカーで部屋全体に音を響かせる構造になっている。だが、こうした構造の場合、「壁際」や「本棚」にスピーカーを置くと、反射する音が混ざって不自然な音になる。

HomePodでは、まず周囲に音を飛ばし、その反響を確かめる。反響の遅れから「自分の周囲のどこに壁があるのか」を把握し、それを加味して音質をチューニングする。このチューニングは数秒から数十秒で終わるため、変化を体感するのはかなり難しい。

このチューニングは完全に自動で、HomePodを置き直すたびに行なわれる。そうすることで、部屋のどこにいても同じように良い音で聴けるようになっているのだ。

HomePodを2つ用意すると、連携させて「ステレオ」にすることもできる。この場合、ステレオ効果が正しく感じられる方向は一方向に限られるため、単体で使った時とは違う音質傾向になる。カジュアルさは多少減るが、こちらもいい音だ。ステレオ化した時のスピーカーの間隔による音場構成も自動化されていて、ユーザーはなにもする必要がない。

2つHomePodを用意すると「ステレオスピーカー」モードになる。

「ユーザーはなにもしなくても、その場で最適な音になる」のがHomePodの最大の美点だ。だが一方で、ユーザーが、音場感や低音の効き具合を調整する、といったことはできない。HomePodは、「音を自分好みに変える」といった楽しみ方をするスピーカーではない。

HomePodに関する設定画面。音量自動調節のオンオフくらいはできるが、低音の効きや音場の調整などはできない

Apple Musicありきの設計、iPhoneの「スピーカーフォン」にもなる

先ほど述べたように、HomePodはApple Musicを使うことを前提に作られている。そのため、他のストリーミングミュージック・サービスをHomePodに登録して使うことはできない。AlexaやGoogleアシスタントが他のサービスにも対応していることを考えると、選択肢の狭さが気になる。

一方で、サービスと機能のインテグレーションはかなり高度だ。

音声アシスタントであるSiriを使い、楽曲を呼び出して再生できるようになっているのだが、この時には、これまでの再生履歴などを活かして「Radio」が作られ、条件に合う曲を次々と再生し続けるようになっている。HomePodでの再生履歴や、再生したRadioはApple Musicの利用履歴にすべて残るので、iPhone上などから確認し、改めて再生することもできる。もちろん、曲名やアルバム名、プレイリスト名を直接指定して再生することもできる。

iPhoneの「ミュージック」からApple Musicでの再生履歴を確認。中央の「Radio」とついているのがHomePodで再生した項目。音声での命令にあわせて、その場で最適なものが作られ、再生されている

流れてくる曲の名前やアーティスト名がわからなかったら、Siriに訊ねればいい。そのあと、その曲をプレイリストに追加したりもできる。

この辺は他のスマートスピーカーと大きな差がない。もっとも大きな違いは、「iPhoneのとの連携」が強化されていることだ。

iPhoneに電話が着信すると、近くにあるHomePodにも着信音がなり、HomePodを「スピーカーフォン」代わりに通話ができる。他のスマートスピーカーの場合、ネットでのボイスチャット系との連携はできるのだが、携帯電話の着信を受けるのは難しい。

アップル製品を複数使っている人ならば、この「着信機能」は、iPhoneとMac、iPhoneとiPadなど、アップル製品でできているものと同じであることに気付くだろう。まさに「アップル製品ですでに出来ている」ことをスマートスピーカーにも組み込み、価値を高めているのがHomePodの良さだ。

「iPhone+Apple Music」利用者にお勧め。ステレオモードのコスパも気になる

逆にいえば、iPhoneと組み合わせない場合や、Apple Musicと組み合わせない時に「全機能を使えない」ことがHomePodの制約である。

特に、Apple Musicを使わない時の制約はかなり大きい。SiriでのHomePodからの音楽再生が難しくなるからだ。他のストリーミングミュージック・サービスを使う場合、iPhoneやMacなどから音を「AirPlay」を使って流す必要がある。AirPlay対応の高音質スピーカーとしてはいいが、せっかくのSiri連携が無駄になる。

アップルもそれがわかっているからか、Apple Musicに契約していない端末をHomePodにセットアップしようとすると、「Apple Musicを組み合わせて使おう」というプロモーションが表示されるようになっている。HomePodを使うなら素直にApple Musicを使うべきだし、Apple Musicを使わないなら、他のスマートスピーカーを選んだ方がいい。

セットアップ中には「Apple Musicと組み合わせて使う」ようにプロモーションも表示される

なお、Apple Musicを使っていないとHomePodから「音声で曲再生ができない」のか、というと、そうではない。iTunesで過去にアップルから購入した楽曲は、HomePodを介して再生可能になっている。これは、Apple IDをHomePodに登録するために可能になることだ。

iPhoneを持っていてApple Musicを使っていて、さらに「音楽を重視」する人にとって、HomePodは最適なスマートスピーカーといえる。

だが、そうでない人にとっては、HomePodは「高いが機能の一部しか使えないワイヤレススピーカー」に過ぎない。32,800円という価格が、なによりのハードルだ。ステレオモードで使うために2台買うと、65,000円を超える出費になる。それだったら、別の選択肢も出てくる。

また、Siriが音声アシスタントのプラットフォームとして、他に比べ「一周遅れている」印象があるのも気になる。

例えばAmazonのAlexaでは、「スキル」と呼ばれる音声アプリが、たくさんの企業により開発されている。Amazon自身が用意していない機能やサービスについても、スキルの増加により自動的に増えていき、活用の幅が広がっている。

だが、アップルのSiriをベースにしたプラットフォームでは、それがまだできていない。今後の進化によって対応する可能性はあるが、現状では見劣りする。

そこまで考えた時に、HomePodは本当に魅力的と言えるのだろうか?

「音質の良いスマートスピーカー」として、iPhoneの利用者が買うのはお勧めするが、「音声アシスタントプラットフォーム」として選ぶなら、他のものの方が現状は良い。

その点を含めて、「アップルの機器とサービスに特化する」ことをどう判断するかが、HomePodの評価に直結している。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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