レビュー

スマートウォッチを超えたスマートさ。「wena 3」を使う

「wena 3 metal」。本体はバックル部分だが、バンド込みの製品だ。写真はメタルバンドでブラックの「WNW-B21A B」。直販価格は35,000円(税別)

ソニーのスマートウォッチ「wena 3」が11月27日に発売された。スマートウォッチとしての機能をバックル(バンドの留め具)部分に集約し、時計部分は自由に選べるという異色のスマートウォッチで、シリーズが掲げているコンセプトが一応の完成を見た製品となっている。

本誌では製品発表時の記事のほか、開発者へのインタビュー記事も掲載しているので、製品の仕様、コンセプト、今後の展開などについてはそちらを参照していただきたい。今回は、実際に使ってみた感想を中心にお届けする。

時計部分(ヘッド)は自由に組み合わせることが可能。写真は「wena×beams」コラボモデルの「Chronograph Premium Black BD -beams edition-」(WN-WC03B-H)。量販店での価格は39,880円(税別)
革バンドの「wena 3 leather」(WNW-C21A B)。量販店での価格は32,000円(税別)。このほかにラバーバンドのモデルもある

厚みは許容範囲内

まず腕に装着した感想だが、wenaシリーズで「ヘッド」と呼ぶ時計部分が一般的な腕時計と同じである(流用できる)ことに加えて、今回のwena 3はバンドも普通の腕時計と変わらないため、驚くほど腕時計然とした使い心地だ。

手首の内側を自分に向けると、バックル部分のディスプレイが点灯し、そこがスマートウォッチであることが分かるが、消灯していると、もうスマートウォッチであることすら分からない。腕時計のクラシックな使い勝手はそのままに、バンド側にスマートウォッチの機能を集約したい、バックルにすべて内蔵したいという、wenaシリーズが掲げてきたコンセプトは完成したとみていいだろう。

バックル部分にすべて内蔵し、小型化も図られたことで、腕時計として自然に使える

では、装着感などの面で、まだwena 3を使っていない人、あるいは使い始めてすぐの段階での懸念事項は何だろうか。ひとつはwena 3本体のバックル部分の厚みだろう。wena 3本体のバックル部分の厚みは実測で約9mm。筆者は「許容される範囲だが、厚さがあるほう」と感じる。これは、使用者の腕時計遍歴にもよるので一概には言えないが、これまで革やナイロンベルトなどの腕時計を中心に使っているなら、wena 3のバックル部分は厚みを感じるだろう。

試しに筆者が現在所有している腕時計のバックル部分の厚さ(手首の中央付近の最厚部)を測ってみたが、NATOタイプのストラップ(ナイロンベルト)は6mm、wena 3が9mm(心拍センサー部分は除く)、ダイバーズウォッチのラバーベルトは11mmだった。

バックル部分の厚さの比較。NATOタイプのストラップは6mm、wena 3が9mm、ダイバーズウォッチのラバーベルトは11mmだった

例えば、普段からメタルバンドの腕時計を使っている人は、wena 3を取り付けてもそれほど違和感を感じないのではないだろうか。タフな造りをコンセプトとした腕時計やダイバーズウォッチはバンドの厚みも増す傾向にあり、必然的にバックルも厚くなる。筆者は過去、オメガのシーマスターを使っていたが、そうした時計のメタルバンドのバックルと比較すれば、wena 3の厚みは馴染んだ手応えという印象だ。

もっとも、手に馴染んでいても、例えばパソコンのキーボードを打つ際に、左手首だけバックルで持ち上がり、少し違和感があるという点は変わらない。これは慣れの問題ではあるのだが、これまで厚みのあるバックルの腕時計を使ってこなかった人は、留意しておく必要があるだろう。

パソコンのキーボードを打つ際に、左手首だけバックルで持ち上がる。これまで厚みのあるバックルの腕時計を使ってこなかった人は、留意しておく必要があるだろう

ふたつめの懸念点は耐久性だ。腕時計のバックルは、特にパソコンなどのデスクワークが多いと、最も傷が付きやすい部分といっても過言ではない。筆者も日常的に使用してきた腕時計はもれなくバックルが傷だらけになった。今では、バックルは「傷つけたくない」ではなく、「傷だらけになって当たり前」と考えているが、ディスプレイを搭載し大部分がガラス面になっているwena 3だと、少し事情が違ってくる。

wena 3のディスプレイは表面ガラスにコーニングのGorilla Glassが使用され、傷つきにくさには一定の配慮がなされている。また外側のステンレスパーツはディスプレイからわずかに盛り上がったリブ構造で、平面への接触ではディスプレイが傷つきにくい構造になっている。とはいえ、使用時間が長くなれば、やがてこのステンレスパーツが傷だらけになることが予想される。

これは製品の落ち度というわけではなく、一般的な腕時計のメタルバックル同様に、日常使いをすれば、ピカピカのまま使い続けることは難しいと覚悟しておくべきだ。なお、ミヤビックスからはwena 3用の液晶保護フィルムが発売されているので、心配ならそうした製品の使用を検討するのもいいだろう。

メタルバンドはコマ調整も忘れずに

メタルバンドの場合は、手首に合わせてサイズ調整も必要になる。サイズ調整の手間を省いてルーズに着けるのはおすすめできない。

wena 3には心拍センサーが搭載されており、こうした機能を利用するにはセンサー部を手首にある程度密着させる必要があるからだ(締め付けるほど密着させる必要はない)。バンドのコマの調整には専用工具が必要で、時計店に調整を依頼することが推奨されているが、手先が器用なら、自己責任となるものの、工具を用意して自分で調整することもできる。

調整の際に腕時計を装着する場所だが、尺骨(しゃっこつ、腕の外側の骨)の終わりにある、丸く膨らんだ部分より体側に着ける、あるいはこの部分にひっかかるように着けて、手の甲側にズレないようにするのが、腕時計の着け方のセオリーだ。本製品はセンサーの都合でちゃんと固定して装着する必要があり、正しい装着場所がより重要になる。尺骨の膨らみより先(手の甲側)に着けると、手首の動きを妨げ、手首の動きでバンドに不必要な負荷がかかるほか、リューズが手の甲にあたって痛かったり、リューズやボタンの誤操作をしたりするという弊害もある。

尺骨(腕の外側の骨)の端は、見たり触ったりすると丸く膨らんでいる部分が分かる。ここより体側に着けるのが基本

もちろん、どこに着けるのかは最終的にはユーザーの自由だ。映画のワンシーンや、著名人のあえてセオリーを外した着こなしは、この限りではない。

だが一方で、例えば高級ブランドのうち、公式Webサイトに「人が腕時計を装着した写真」を多数掲載しているロレックス、IWCなどは、ほぼすべてのケースで、尺骨の膨らみより体側に腕時計を装着した写真を掲載している。国内の時計メーカーが公式に掲載する写真もほとんどがこのセオリー通りだ。腕時計の正しい着け方が分からないなら、こうした写真が正しい装着場所を判断する材料になるだろう。

待望のSuica、Androidスマホだけでセットアップ可能

wenaシリーズは従来からFeliCaを搭載し、楽天Edy、iD、QUICPayの電子マネーを利用できたが、初期設定時にだけiOS端末が必須という仕様があり、今日に至るまで、Androidオンリーのユーザーが気付かずに買って憤慨するというケースが散見される。採用したFeliCaのプラットフォームの素性など、ソニーだけでは変更し難い部分も含まれているため、仕方がないといえるが、宣伝や告知方法など、販売前の段階でもう少し、やりすぎぐらいに案内してもいいのではないかと思う。

wena 3から新たに対応したSuicaは、基本的には、チャージ式のシンプルな交通系電子マネーだ。Suicaの電子マネーのほか、相互乗り入れしているPASMOなど各社のブランドを含めた交通系電子マネーとして利用できる。街中での買い物はもちろん、電車やバス、タクシーなど公共交通機関の利用が多い人には、圧倒的に便利な決済ツールになる。

wena 3から新たに対応したSuica。Androidスマートフォンだけでもセットアップが可能

wena 3のSuicaは、Androidスマートフォン向けの「wena 3」アプリだけで、初期設定や発行、チャージが行なえる(もちろんiOS端末でも可能)。発行後は、店頭や駅でリーダーライターにかざして、現金によるチャージも行なえる。すでにスマートフォンなどでSuicaを利用していても、新規に発行が可能。筆者はAndroidスマートフォンだが、初回のみ、Google Payに登録済みのクレジットカードで1,000円以上のチャージが必要になる。初回のチャージ上限額は5,000円で、一定期間利用すると最大2万円分までチャージできるようになる。

「wena 3」アプリではチャージや利用履歴を確認できる。また事前登録や利用登録が必要だが、wena 3のSuicaは「JREポイント」「新幹線eチケットサービス」「スマートEX」「タッチでGo!新幹線」に対応している。

wena 3アプリでSuicaの発行やチャージ、履歴の確認が行なえる

wena 3のSuicaは、FeliCa搭載スマートフォンの「おサイフケータイ」機能として提供されている「モバイルSuica」とは仕様が異なる。例えば、Suica定期券として利用できない、グリーン券を購入できない、オートチャージに対応していない、プラスチックカードのSuicaを取り込めない、といった制限がある。

wena 3本体の電源が入っていなくても、Suicaの電子マネーやチャージを利用可能。また本体が充電切れでも、搭載される予備電源により、約24時間以内(5回程度の利用を想定)なら電子マネーの機能を利用できる。

瞬時に決済でき、常に残高が分かる。手首の向きはひと工夫

なんでもスマートフォンを利用する今の時代、「スマートフォンを持たずに外出する」という機会は減っているかもしれないが、それでも腕時計だけで電子マネーの決済ができるのはシンプルに便利だ。

また、瞬時に残高を確認できるのも楽だ。「wena 3」にはディスプレイが搭載されており、初期設定ではホーム画面にSuicaのチャージ残高が表示されている(Edyの残高に変更も可能)。腕を持ち上げると自動的にディスプレイが点灯し、すぐに残高が確認できるのは、スマートフォンのアプリやプラスチックカードにはない究極の簡単さだ。

認識速度は高速で、リーダーライターにかざしてから決済が終わるまでは一瞬。プラスチックカードやスマートフォンのSuicaを使っている感覚と変わらない。また、厚みにもよるだろうが、服の袖程度なら生地越しでも認識できた。

スマートウォッチ+電子マネーという組み合わせは、すでにApple Watchなどで使い勝手が語られているが、近所を散歩し、コンビニや自販機で買い物をして帰ってくる程度なら、腕に着けたwena 3だけで済んでしまう。多めにチャージしておけば食事も十分に可能だ。左手に装着していると、駅の改札を通る際には左手を右側に持っていく必要があり、けっこう無理な体勢になる、というのもApple Watchと同様だ。

飲食店の店頭、Suicaの電子マネーで決済するところ。認識速度はスマートフォンやプラスチックカードなどと変わらない

wena 3独自のウィークポイントは、その機能が手首の内側に搭載されていることだろう。後述するようにディスプレイとしてはむしろ一般的なスマートウォッチより便利だが、リーダーライターにかざすとなると、ひと工夫したくなる。特に大手コンビニのレジや自販機のリーダーライターなど、タッチ面が垂直に近い向きのリーダーライターに対しては、手首(の内側)を向こう側に向けるためにグイッとひねる必要があり、けっこうつらい体勢になる。自販機はリーダーライターの高さがまちまちだが、高いのはマシで、低いとかなり無理がある。こうしたケースでは、wena 3のバックル部分はワンタッチで緩められるので、いっそのことサっと手首から抜き、手から外しきらずに、指に巻くように持ってリーダーライターにかざす、というのも手だ。

自販機やコンビニのレジのリーダーライターは垂直に近く、手首の内側を向こう側にかざすというのはけっこうツライ。薄い袖なら生地越しでも認識した
ワンタッチで外せるバックルなので、サっと手首から抜き、指に巻くように持ってリーダーライターにかざすというのもひとつの方法だろう

良好なタッチ操作ディスプレイ、メニューはカスタマイズ性も高し

電子マネー以外の機能では、定番的なものとして歩数、カロリー消費、最大酸素摂取量(VO2 Max)、睡眠の質、心拍数の測定が可能。心拍センサーはデュアル光学式で、心拍数のゆらぎも検知し、ストレスレベルや体の“エネルギー残量”を「Body Energy」として表示するのもユニークだ。

スマートフォンアプリの通知を表示する機能があり、「wena 3」アプリから、通知を表示するアプリを選択できる。通知の振動の種類やLEDの色も細かく設定できる。通知は最新のものから最大10件が履歴として参照でき、1件につき約80文字まで表示される。

ストレスレベルや「Body Energy」などの活動ログにも対応する
Gmailアプリの通知。文字サイズを大きくすることもできる

カレンダーを同期してスケジュールを表示する機能や、内蔵マイクでAlexaと連携する機能、「Qrio Lock」の鍵になる機能、スマートフォンとの組み合わせでお互いを捜せる機能も用意されている。

wena 3本体のタッチ操作ディスプレイは反応も良く、キビキビと動作する。細い横長の画面だが、上下左右へのスワイプ操作を駆使して、さまざまな内容を表示させることが可能だ。階層構造をなるべく廃し、平面上に展開するようにメニューが配置されており、慣れると現在表示している場所がどこなのかだいたい分かるようになる。通知の履歴をwena 3本体の操作で消去できない(それほど弊害はないが)といった点や、現在位置により「戻る」操作のスワイプ方向が変わるため、慣れないうちは戻る操作を探しがちになるといった点はあるものの、狭い画面のための、工夫を凝らしたUIだと感じる。

スマートフォンの「wena 3」アプリでは、wena 3本体で表示するメニューの表示順なども細かく変更でき、よく使う機能を優先的に表示できるなど、思いの外カスタマイズ性に優れている。

「wena 3」アプリは本体のカスタマイズも詳細に行なえる

なお、「wena 3」アプリの配信が開始された直後から利用しているが、スマートフォンの機種によっては、Bluetoothによるwena 3との通信が不安定な場合があった。今後のアップデートで解消されることに期待したい。

スマートウォッチを超えたスマートさ

wena 3はバックルに機能を集約しており、手首の内側に装着される。前述のように電子マネーとして使う際は、垂直なリーダーライターに少しかざしにくいという点はあるものの、ディスプレイとしてはむしろ一般的なスマートウォッチより使いやすい面もある。

例えば、一般的なスマートウォッチでは、ディスプレイに通知が表示された際、アプリやメールの件名が隣にいる人に見えてしまってちょっと恥ずかしい思いをした、という事はないだろうか? 外側に向いたディスプレイだとそういう事が起こりがちだが、手首の内側に向いたディスプレイは基本的に外から隠れており、だいたいのケースで「自分だけが見る」という動作が可能。よりプラベートなディスプレイという印象だ。

「ウォッチ」としてのデザインや配置の縛りから開放されているwena 3は、図らずも、スマートウォッチに本来求められる高いプライベート性を獲得しているように思える。

一般的な腕時計とスマートウォッチは、手首に着けるという点こそ共通しているものの(そして不幸なことに排他利用だ)、本質的な「向き」は正反対だ。「外向き」である腕時計は、現代では周囲に披露するファッションとしての性格が強く、時刻表示という機能も、誰に見られても問題のないものだ。一方のスマートウォッチは「内向き」で、表示する内容のほとんどは極めてプライベートな情報だ。理屈だけをいえば、スマートウォッチのディスプレイが外側を向いている必要があまりないのだ。ディスプレイがだいたいの時間において消灯して真っ黒なのは、プライバシーの面では正しいとさえいえる。wena 3は、外側に腕時計を装着しつつ、内側にスマートウォッチの機能・ディスプレイを搭載したことで、腕時計とスマートウォッチが持つこうした本質的な「向き」のどちらにも忠実になっている。従来型の腕時計が好きで、スマートウォッチも気になっている人にとっては、唯一無二の選択肢になるだろう。

wena 3は本体で通話や音楽を再生したりアプリをインストールしたりといった先端的な使い方はできないが、現実的な視点で機能が取捨選択されており、無駄がなく、「腕時計の相棒」「日常の相棒」としては十分以上の機能・性能を備えていると感じる。

腕時計が好きな筆者にとっては、この製品で「腕時計デビュー」する人が増えてくれたら嬉しいとさえ思う。

気に入っている腕時計が、今日からSuicaも使えるスマートウォッチになった――こんな楽しいことがあるだろうか? 世間には、日替わり定食ほどの価格から、都心で一軒家が買える価格まで、星の数ほどさまざまな腕時計が販売されており、デザインのバリエーションも含めて、その広がりは一般的なスマートウォッチの選択肢とは比べ物にならない。ぜひさまざまな腕時計を見て、検討して、wena 3と組み合わせて、「スマートになった腕時計」を楽しんでほしい。

太田 亮三