ミニレビュー

小さくてジンバル内蔵「Insta360 Link」が凄い。異様に万能な“Webカメラ”

Webカメラ「Insta360 Link」

Insta360と言えば、スポーツなどのアクティビティを撮影するアクションカメラや、全方位を撮影する360度カメラなどで知られるメーカーだ。そこに最近新たに加わったのが、「Insta360 Link」というWebカメラ。これまではどちらかというとアウトドア指向な製品をラインアップしてきたところに、完全インドアなWebカメラ市場へ殴り込みをかけてきた格好だ。

無数の製品が存在し、市場としてはもう飽和状態になっているような雰囲気もあるだけに、「今さらWebカメラか」という声も聞こえてきそうではある。ところがどっこい、この「Insta360 Link」、さすが注目度の高い製品の数々を世に送り出してきたメーカーだけに、他のWebカメラとはひと味もふた味も違う中身になっている。価格は45,800円と、Webカメラとしてはちょっと……いや、かなりお高めだが、試してみた。

ジンバル内蔵で傾きを自動調整

「Insta360 Link」は、パソコンと組み合わせて使うマイク内蔵のWebカメラ。バッテリーは搭載されておらず、USBケーブルでパソコンと接続することで給電し、動作する。パソコンのモニターの上に載せたり、デスク上にそのまま置いたり、本体底面に用意されているねじ穴(1/4サイズ)を使ってカメラ用三脚などに取り付けたりして使える。

付属品はUSBケーブル、USB Type-C to Type-Aアダプター、クリーニングクロス
手のひらに載せるとこんな感じ
正面から。F1.8のレンズを搭載
背後から。USB Type-Cケーブルでパソコンと接続する
底面に三脚取り付け用のねじ穴
重量は実測105g

手のひらに載せた写真を見るとわかるように、本体はけっこうなミニサイズだ。全体の高さこそ7cm近くあるが、土台となる部分にちょこんと生えているカメラレンズ部の「首」から上がスリムなこともあって、数字以上にコンパクトな印象を受ける。重量は実測105gと、このサイズにしては高い密度感のある重さだが、ノートパソコンのディスプレイに掛けて使っても問題ない。見た目は、ドローンで有名なDJIのスティック型ジンバル内蔵カメラ「DJI Pocket 2」の首部分にそっくりである。

パソコンのモニターの上に載せてみたところ
デスクなどに直置きして使うのもアリ
三脚に取り付けることもできる
天板のレッドが映える、14型ノートPC「mouse X5-R5」と組み合わせてみる
mouse X5-R5にはWindows Helloの顔認証対応Webカメラが内蔵しているので、それを遮らない位置に取り付けた
使っていないときは自動でレンズが下向きになりプライバシーモードに。「見てないよ!」とでも言いたげに、クルッと下向きになるのがなんかカワイイ

そんな「Insta360 Link」の一番の特徴は、なんといってもジンバル内蔵であること。ジンバルというのは、自動で傾きを検知して水平を保つことで、本体が揺れたりしても安定した撮影ができる機構のことだ。レンズ部が上下左右方向への首振りと、奥行き方向を軸とした回転に対応しており、設置した場所の傾きなどに応じて適切な角度に自動調整してくれる仕組みを備えている。

たとえば、Webカメラをパソコンモニターの上に設置したとき、モニターやカメラが微妙に傾いていたとしても、勝手に水平を保つようレンズ部を自動調整する。これにより被写体、つまりはユーザーの姿を常にまっすぐ正しい角度で捉えることができるわけだ。

ジンバル内蔵で、本体を横向きにしてもレンズ部は水平を保つ

傾いていたら手で直せばいいんだから、普通のWebカメラで問題ないのでは、と思うかもしれない。たしかにそうだ。だいたいは置きっぱなしになるWebカメラだし、最初にしっかり固定しておけばいいだけの話でもある。ただ、(Webカメラを載せた)モニターの角度を微調整するのはままあることで、その都度カメラ位置を調整するのはやっぱり手間。

しかも、「Insta360 Link」でできることはそれだけに止まらない。他にもさまざまな機能が盛り込まれている。

手を伸ばさなくてもカメラの向き変え、ズームイン・アウトが自在

「Insta360 Link」はパソコンに接続すればすぐにWebカメラとして認識されるが、基本的にはWindows/macOS対応の専用ソフト「Insta360 Link Controller」とセットで使うのが前提となる製品だ。同ソフトを使うと映像の画質調整、カメラの向きやズームイン・アウトの制御、後述する動作モードの切り替えなどが可能になる。

専用ソフト「Insta360 Link Controller」はWindowsとmacOSに対応

明るさやホワイトバランス、彩度、シャープネスといった画質調整については他のWebカメラ(もしくはOS自体)にもある機能なので珍しくはないが、カメラの向き変えは首振り可能な「Insta360 Link」ならではだ。ソフト上の上下左右ボタンをクリックするか、映像をドラッグすることで、カメラ(レンズ)の向きを好きなように変えられる。

露出、ホワイトバランス、彩度、シャープネスなどの画質調整が可能
ボタン操作や画面ドラッグでカメラ向きの変更、ズームが可能。後述する「プリセットポジション」は6パターンまで記憶しておける

従来のWebカメラだと、この「自由度の高い向き変え」が意外と難しかったりするもの。通常はカメラを物理的に動かすしかないし、モニター上に引っ掛けて固定するWebカメラだと、ほとんどモニターごと向き変えする必要があるので、ベストポジションにするのが難しい。製品によってはソフトウェア的に映像の一部を切り取る「クロップ」の形で仮想的にフレーミングできたりもするが、画質は落ちる。

ところが「Insta360 Link」の場合は、実際に首振りして被写体を中心に捉えることができ、ジンバル機能により水平も維持するので、被写体(自分)の位置に応じて設置場所を細かく調整しなくてもいい。言い換えると、カメラの置き場所が自由になる。正面に置く必要はないし、会議室でオンラインプレゼンするようなときでも、立ち位置に合わせて設置場所をあらかじめ決めておくような必要もない。しかも映像をクロップすることもないので常に高画質が保たれるメリットもある。

さらにデジタルながら最大4倍のズームイン機能ももつ。カメラの設置場所から少し離れたところにいる場合でも、室内全体を映すことなく、被写体周辺のみ相手に見せることが可能だ。フルHD(1,920×1,080ドット、30/60fps)はもちろん、最大4K(3,840×2,160ドット、30fps)解像度にも対応することから、画質は折り紙付き。デジタルズームでも毛穴までくっきり見えるようなクオリティで映し出してくれる(多くのWeb会議ツール上では解像度はそれより落ち、映像が圧縮されるので画質も劣化してしまうが)。

ズームしていない最も引きにした状態
4倍デジタルズーム

ちなみにカメラ向きやズームレベルは、「プリセットポジション」として最大6パターンまで記憶しておける。デスク上でWeb会議する分にはあまり活躍の機会はなさそうだが、会議室で参加メンバー全員が見えるようにフレーミングしたいとき、発言者1人にフォーカスしたいとき、テーブルに置いた物を見せたいときなど、想定されるシーンに合ったポジションを記憶させておくと良さそう。

そうすれば、ボタンクリック一発でそのポジションを呼び出して、瞬時にカメラ向きとズームレベルを変更できる。ライブ配信で視点を随時変えたいような場面でも活躍してくれるだろう。

AIで自動追尾。配信者向けの縦長撮影モードも

次に面白い機能が、「トラッキング」「ホワイトボード」「オーバーヘッド」「デスクビュー」という4つの動作モード。なかでもWeb会議用途で使いこなしがいがありそうなのは、AIを活用した自動追尾機能の「トラッキングモード」だ。

カメラ映像の下にある4つのボタンで動作モードを切り替える

専用ソフト上でボタンクリックするか、カメラに手のひらを向けるジェスチャーで「トラッキングモード」の有効・無効を切り替えることができ、有効にすると人物の顔・バストアップ・全身のいずれか(「詳細設定」画面で変えられる)を自動認識して中央にフレーミングするように追いかけてくれる。姿勢を変えたりしたときに、いちいち自分でカメラ向きをマウスで調整することなく、オートマチックに最適な映り方にしてくれるわけだ。逃げるように動いても、こちらに振り向いてくれる姿はなんとなく愛らしい。

「トラッキングモード」をオンにすると左右に大きく避けても追従してくれる

「ホワイトボードモード」は、ホワイトボードの四隅に所定のマーカーを貼り付けておくと、それをホワイトボードとして認識し、フレーミングしたうえで適切にズームインしてくれるもの。プレゼンでホワイトボードに書いてある内容を相手にはっきり見せたいときに活用できる。これもソフト上の操作だけでなく、カメラに向かって指でVサインを作ることでも有効・無効を切り替えられる。

また、「オーバーヘッドモード」と「デスクビューモード」は、機能としては近いものだが、前者が吊り下げて固定するアームなどを併用し、真下にカメラを向けて手元を映すモードであるのに対し、後者はモニター上などに設置した状態で、真下よりはやや手前向きの角度にカメラを向けるモードのようだ。キーボード・マウス操作やお絵描きの様子なんかを説明・配信するときに使いたい。

「デスクビューモード」ではキーボード・マウス操作している手元を映し出せる

それら4種類のモードとは別に、「ポートレートモード」というものも用意されている。これは「詳細設定」画面で「配信者モード」をオンにすると利用できるようになるモードで、要するに高画質な縦長映像で記録したいときに使うもの。スマートフォンの動画配信アプリのなかには縦長動画が主流のものもあるが、撮影するときにはいったんカメラを普通に横置きで撮影して後で縦長にクロップするか、カメラ自体を縦置きして動画編集時に映像を90度回転させるかする必要があった。いずれにしろ編集・加工しなければならなかったわけだが、ポートレートモードであれば無編集・無加工でそのまま縦長映像として記録されるので手間がない。

「ポートレートモード」にするとカメラレンズが縦向きに
縦長映像を撮影できるので、クロップなどの後加工が不要。左下の解像度選択では選べる項目が増えている
フルHD解像度以下ではHDR撮影にも対応。こちらはオフ
HDRオンにすると背景が白飛びせずに見える

万能感あふれるWebカメラ

高機能かつ使いやすいInsta360 Linkだが、1点使い勝手の面で惜しいと感じる部分もあった。Webカメラを使用していない状態だと10秒でプライバシーモードに入り(レンズ部が完全に下向きになる)、再びWebカメラを使用する(Web会議アプリを使い始める)ときには素早くオンになって復帰するのだが、プライバシーモードに入る前までに有効にしていたポジションや動作モードがリセットされた状態になるのだ。

なので、Web会議に「トラッキングモード」有効で臨みたいときは、Web会議アプリを立ち上げてカメラがオンになった後、ジェスチャーで有効にするか、専用ソフトを立ち上げてボタンクリックでモードを切り替えるしかない。

できればジェスチャーでサクッと有効にしたいけれど、Web会議が始まった後にジェスチャー操作すると相手に不審に思われかねないので、専用ソフトで操作することになるのでやや手間だ。このあたりはいずれアップデートで改善されることを期待したい。

細かい要望はあるものの、Web会議はもちろん、会議室でのプレゼンから動画配信まで、多くの用途に高品質な映像で対応できる万能感あふれるWebカメラが「Insta360 Link」と言える。

首振り機能をもつWebカメラは、何も「Insta360 Link」の専売特許というわけではなく、ビジネス向けオンライン会議システム用のWebカメラにも同様の機能を備えているものがある。が、それらの多くは巨大でお手軽とは言えないし、顔認識で自動追尾する機能を備えているものはまずない(代わりに光学ズーム機能を備えていたり、声の方向を追尾したりするものはある)。その意味でもカワイイ小型サイズに賢いAI機能を詰め込んだ「Insta360 Link」のアドバンテージは計り知れない。

日沼諭史

Web媒体記者、IT系広告代理店などを経て、フリーランスのライターとして執筆・編集業を営む。AV機器、モバイル機器、IoT機器のほか、オンラインサービス、エンタープライズ向けソリューション、オートバイを含むオートモーティブ分野から旅行まで、幅広いジャンルで活動中。著書に「できるGoProスタート→活用 完全ガイド」(インプレス)、「はじめての今さら聞けないGoPro入門」(秀和システム)、「今すぐ使えるかんたんPLUS+Androidアプリ 完全大事典」シリーズ(技術評論社)など。Footprint Technologies株式会社 代表取締役。