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特別展「画鬼 河鍋暁斎×鬼才 松浦武四郎」を静嘉堂@丸の内で見た

特別展「画鬼 河鍋暁斎×鬼才 松浦武四郎」

静嘉堂@丸の内で、特別展「画鬼 河鍋暁斎×鬼才 松浦武四郎」が始まった。会期は4月13日(土)~6月9日(日)。

5つのエリアで構成される会場内の、ハイライトである《武四郎涅槃図》を含む、3つのエリアは撮影が可能。以下は、主催者の撮影許可を得たうえで掲載している。


    展示会名:静嘉堂文庫竣工100年・特別展
     画鬼 河鍋暁斎×鬼才 松浦武四郎「地獄極楽めぐり図」からリアル武四郎涅槃図まで
  • 会期:2024年4月13日(土)~2024年6月9日(日)
  • 会場:静嘉堂@丸の内
  • 入場料:一般 1,500円、大高生 1,000円、中学生以下 無料

河鍋暁斎と松浦武四郎とは誰か?

2人の名前を聞いたことがない、もしくは聞いたことはあるけれど具体的に何をした人なのかピンとこない人も多いだろう。

まず河鍋暁斎は幕末から明治時代に活躍した、1831年生まれの絵師だ。浮世絵師の歌川国芳に弟子入りした後に、狩野派の門を叩き、最初に妻としたのは江戸琳派・鈴木其一の次女で、様々な画風の作品が遺されている。また弟子の一人に、ニコライ堂や三菱一号館を設計した、ジョサイア・コンドルがいたことでも知られ、欧米での人気も高い。

静嘉堂が所蔵する、河鍋暁斎の代表作《地獄極楽めぐり図(部分)》
《地獄極楽めぐり図(部分)》。静嘉堂蔵

松浦武四郎は江戸後期の1818年に生まれた。現在の北海道である蝦夷地の各地を探検し、歴史や地理、文化や風俗などを自ら著した、関連書籍を多く出版したことで知られる。また「北海道」の名付け親と言われることもある。

だが、今回の展覧会では、彼の好古家としての側面にフィーチャーしている。好古家とは、読んで字の如く「古(いにしえ)を好む者」ということなのだが、特に古文書や仏像などの遺物を収集し、その研究に打ち込んだ、江戸時代後期から明治時代の人たちのこと。今で言えば、歴史や民俗に興味や関心を抱き、骨董収集家である人というイメージだ。

晩年の松浦武四郎は全国各地を巡り、骨董品のほか奇石や古銭、勾玉(まがたま)の収集に熱中したという。さらに、集めたコレクションを解説した『撥雲余興(はつうんよきょう)』という図録を、1878(明治10)年と1883(同15)年に出版。この時に、挿絵を依頼したのが、河鍋暁斎などの絵師だった。

なお今回の特別展では、松浦武四郎の古物コレクションのいくつかと、それらが描かれた『撥雲余興』の該当ページを並べて見られる。

松浦武四郎のコレクションである《六鈴鏡》と、図録『撥雲余興 二集』明治15年(1882)、松浦武四郎著・出版、福田行誠序、静嘉堂蔵
《鉄鏡》と『撥雲余興 二集』明治15年(1882)、松浦武四郎著・出版、福田行誠序、静嘉堂蔵

釈迦涅槃図をパロった《武四郎涅槃図》

今展のハイライトは、なんといっても《武四郎涅槃図》。松浦武四郎が寝転がっている脇に、彼の様々な愛蔵品を描き込んだ、河鍋暁斎の大作だ。

展示室(Gallery 3)の真ん中にかけられた《武四郎涅槃図》を見ると、「これが、最後まで好きなことをして過ごした松浦武四郎さんが、河鍋暁斎さんにせっついて描かせた涅槃図か」と感じ、感慨深い。

《武四郎涅槃図》松浦武四郎記念館

「涅槃図(ねはんず)」とは、そもそも釈迦が亡くなった時の様子を描いたもの。毎年の2月15日の法要、涅槃会(ねはんえ)の際に掲げられることから、古来より数多く制作されてきたし、《武四郎涅槃図》のようなパロディー作品も少なくない。元ネタである「涅槃図」は、博物館や寺院などでも時折見かけるので、これを機に、ColBaseなどでチェックしておくことをオススメする。

涅槃図の作例が見られるColBase(国立文化財機構所蔵品統合検索システム)

そして《武四郎涅槃図》を目の前にして、まず目が行くのは、中央の床の上に横になる釈迦……ではなく、自慢の「大首飾り」を首からさげたまま、体を横たえている松浦武四郎だ。安らかな顔をしているとも、昼寝をしているようにも思える表情。少し笑っていないか? と感じる人もいるだろう。なにせこの絵は晩年とはいえ、松浦武四郎が亡くなる8年も前に、自身が発注したもの。本作の軸木には、「北海翁松下午睡」としたためられている。

《武四郎涅槃図(部分)》には、大首飾りを首からさげ、火之用心袋を手にする松浦武四郎が描かれている。今回の特別展では、いずれも実物が、同じスペースに展示されている
静嘉堂文庫に所蔵されている《大首飾り》。縄文時代?近代

8本の沙羅双樹(さらそうじゅ)ではなく松の木の下には、寝転がる松浦武四郎のほか、釈迦の死を悼む人や十二支の動物たちではなく、聖徳太子や西行法師の像など、彼の大事なコレクションが数多く描かれている。松浦武四郎の足に触れて泣き伏している人は、当時の妻の“とう”だと言われている。さらに空には元ネタと同じく満月が描かれているが、駆けつける摩耶夫人の代わりには、浮世絵に描かれていただろう遊女などの姿が見られる。

今展が貴重なのは、絵の中で松浦武四郎が首からさげている「大首飾り」をはじめとしたコレクションの実物が、同じ空間で見られること。松浦武四郎記念館と静嘉堂文庫に現存する、35点が一堂に会しているのだ。

元ネタでは麻耶夫人などが描かれているのに対して、《武四郎涅槃図》では、浮世絵に描かれたような女性たちが描かれている
同じ展示室に、絵の中にも描かれている《西行法師坐像》や《田村将軍肖像》などが見られる。いずれも静嘉堂文庫蔵

展示室を巡る時には、それらコレクションと《武四郎涅槃図》とを、「あぁこの像は、涅槃図のここに描かれているのか。こっちはどこに描かれている?」などと交互に見比べると、より味わい深い。同展のチラシには大きく《武四郎涅槃図》が描かれているので、1枚持っておくかスマートフォンなどに保存しておくと便利だろう。

また、《武四郎涅槃図》の中に細かく描かれたコレクションの数々をじっくりと見るためにも、単眼鏡などを持っていくと便利。この絵のある展示室は撮影可能なので、望遠寄りのレンズを備えたカメラでも良いだろう。また美術館スペースの手前にあるミュージアムショップでは、一般的な図録よりも薄くて軽い『徹底分析「武四郎涅槃図」』も購入可能(1,500円)。同図録で、《武四郎涅槃図》と展示品を照合してから、特別展を見ると、より深みを感じられるはずだ。

美術館の外にあるミュージアムショップ

国宝《曜変天目》が見られるのもうれしい

特別展では、河鍋暁斎の代表作《地獄極楽めぐり図》や、前項の《武四郎涅槃図》のほかにも、見るべきものは多い。例えば第4章では、松浦武四郎の幼馴染で、静嘉堂文庫を拡充した岩崎小彌太(こやた)とも交流があった、伊勢の豪商・川喜田石水の旧蔵品なども揃う。また同館所蔵の、国宝《曜変天目》が見られるのも格別だ。

第4章の展示風景
中国の南宋時代(12?13世紀)に作られた《曜変天目》。国宝に指定されている