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ビル管理もお任せ ロボットが働きやすい環境を作る「ロボフレ」

経済産業省と日本機械工業連合会は3月8日、東京ポートシティ竹芝で「ロボットフレンドリー×施設管理 令和4 年度成果報告会」を開催した。「革新的ロボット研究開発等基盤構築事業」の一環。三菱地所・東急不動産・森トラスト・パナソニック ホールディングス等が参画している官民連携プロジェクトで、少子高齢化における労働力不足の解決、ロボット普及やロボットを導入しやすい(=ロボットフレンドリーな/ロボフレな)環境の実現を目指している。

経産省では2019年度に「ロボット実装モデル構築推進タスクフォース」を設置、事業を進めてきた。2022年10月にはロボットフレンドリー施設推進機構(RFA)を設立。RFAは施設管理分野でロボフレ環境を推進している。

具体的には警備・配送・清掃等のサービスロボットを導入・稼働しやすい環境を整備するための規格やガイドラインの策定を行なっている。「ロボットとエレベータ・セキュリティとの連携標準化」、「施設の物理環境(床や壁)の標準化」、「異種複数ロボットの群管理制御の標準化」の3領域で研究や導入事例を積み上げたり、普及のための規格化やガイドライン策定を行なっている。今回はその2022年度の成果発表が行なわれた。2024年度を一定の目処として今後社会実装を進めていく。

左からYUNJI GOGO、自動搬送ロボット「ハコボ」、ロボット掃除機実証モデル
左からCuboid、Servi Lift、MRS02

ロボットにやさしい「ロボフレ」とは

経済産業省 製造産業局 産業機械課長 兼 ロボット政策室長 安田篤氏

まず経済産業省 製造産業局 産業機械課長 兼 ロボット政策室長の安田篤氏と同 室長補佐の板橋洋平氏がロボットフレンドリー施策全般について紹介した。

安田氏は「ロボットに対する期待、ニーズは大きくなっている。だが製造現場以外の日常空間ではなかなか普及・稼働していない。その状況を受けて官民連携でロボフレのコンセプトを打ち出した。ロボフレとはユーザーにも協力いただき、ロボットが動きやすい環境を作り出すこと。この柱の一つが『施設管理』。ロボットとエレベーターとの連携、物理環境の標準化に取り組んでいる」と紹介した。

そして昨年、ロボットフレンドリー施設推進機構を設立したことに触れ、「大々的に取り組みを推進している。グローバルな社会課題解決に大きく貢献していく」と挨拶した。

経済産業省 製造産業局 産業機械課 ロボット政策室 室長補佐 板橋洋平氏

経済産業省 製造産業局 産業機械課 ロボット政策室 室長補佐 板橋洋平氏は「ロボフレは未導入分野にロボットを普及させていくための取り組み。今は現場ごとに個別対応してシステムを構築・導入している。それは競争力でもあるが個別のユーザー向けであり、高コスト。これが普及の課題。そこで導入しやすい環境(業務プロセス、物理環境)を標準化しユーザーが整えれば、ロボットが低コストで導入できるようになる」とコンセプトを改めて紹介。新技術導入には導入環境のイノベーションが不可欠であり、ロボットも同様だと述べた。

経産省では施設管理、食品製造、小売、物流倉庫の4分野でロボット導入に取り組んで、ロボフレ事業を進めている。ユーザーとメーカー一体の推進が重要だと考え、RFAも設立された。今後はRFAを中心に施設分野のロボフレ環境化を進める。ロボットがセキュリティドアやエレベーターと連携する通信方法の標準化、床など物理環境の標準化、異なる種類のロボットを運用するための標準化の3点を重視して事業を進めている。今後、官民連携して有効なユースケースや協調領域を特定し、標準化を推進する。

板橋氏は最後に、ロボフレ推進において重要な点は「人々の寛容さ」だと強調した。

多数のロボットメーカーとユーザーが参画している
重要なことは「人々の寛容さ」だという

RFAコンセプトムービーには声優の東山奈央が出演

続けて、ロボフレ施設管理のコンセプトムービーが公開され、声をあてた声優・歌手の東山奈央さんが登壇した。東山奈央氏は『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』の由比ヶ浜結衣、『ゆるキャン△』の志摩リンなどを演じている。今回はMCとして司会も行なった。ムービーの設定は、ロボットがより身近な存在になった世界を、主人公が駆け抜けるというもの。詳細設定はこちら

声優・歌手の東山奈央さん

東山さんは「アニメの色味にもこだわりを感じた。何気ないシーンにもロボットが身近になった社会の描写が隠れている」とコメント。そして「素敵な近未来の世界は遠い世界の話ではなく近々訪れるかもしれない。祖母はエスカレーターがない時代に生まれて時代の変化を感じてきた。自分も生きているあいだに色々な変革があるのかもしれない。物語と現実が近づいている気がした」と語った。

またロボットについては駅に設置されている案内ロボットについてふれて「実際に触れ合う機会が増えていけば何ができるかわかるし、もっと仲良しになれると思う」と述べた。そして「フレンドリーになるには『かわいい』と思ってもらえることが第一歩。声優としてはロボットに声を搭載していければいいなと思う。癒される声は人によって好みが違うのでカスタマイズができるといい」と語った。

オフィスフロアへの完全無人配送を実現

三菱地所 管理・技術統括部 兼 DX 推進部 統括 渋谷一太郎氏

このあと各事業者が発表を行なった。まず、三菱地所 管理・技術統括部 兼 DX 推進部 統括の渋谷一太郎氏が「ロボフレ施設の新しい付加価値 オフィス・ワーカーの利便性を向上する次世代ロボットサービス実現に向けて」と題して、エレベーターや設備との連携、サービス開発成果について発表した。

設備連動に適した大型物件での先進事例を構築するためには複数エレベーターメーカーをまたぐ連携事例と、ワーカーの利便性に直結する実用サービスを実現する必要がある。そこで三菱地所ではメーカーフリーなエレベータ・ロボットの連携システムと、オフィスワーカーへの配送サービスの構築を目指した。

エレベータ・ロボットの連携とワーカーへの配送サービスの構築を目指した
設備連携の開発成果

ロボットと設備の連携を実現するため要件を洗い出し、配送ロボットの機能、建物設備の対応、デリバリサービスの機能拡張を行なった。具体的にはロボットは音声発話による注意喚起、積載物に第三者が触れられないようにした。複数エレベーターメーカーの横断・連携については、フラッパーや扉通行時の対人配慮や、走行ルール等の環境指標基準を定めた。フードデリバリーの機能拡張においては飲食店との連携、N対Nの連携によるオペレーション/サービスを検討した。そのほか人に対するストレス軽減などの研究開発も実施した。

注文・決済はLINEで
ロボットによるオフィスへの自動配送を実現

この結果、複数フロアオフィス内の100カ所以上へ完全無人配送サービスを実現。配送ロボット2種類がオーダーに応じて指定時間に商品を複数箇所に配送できたという。具体的にはLINEで注文・決済を行ない、コンビニや飲食店で商品をピックアップ後、セキュリティドアを通過、エレベーターに乗ってさらにゲートやドアを通過し、指定した特定の座席位置まで30分以内に商品を配送できた。

オフィスへの配送の様子
エレベーターでは人ロボットが共同乗車

従来は行きにくかった窓際の席への配送や、エレベーターにおける人とロボットの共同乗車にも対応した。実証開始から1カ月で約400オーダーをこなせたという。総注文金額は約12万円。4台のロボットを使い、30分の指定枠のなかに10オーダーが入った際にもタスクをこなせた。

1カ月で400件を配送
4台のロボットで複数タスクを遂行した

利用者の声は「また利用したい」が9割。「他の会社でも是非使ってみてほしい」という声もあったという。渋谷氏は「これは当社だけができるものではない。ロボフレ環境を実現すればどこででもできる」と語り、メーカー間連携のさらなる拡充、群管理を前提とした規格整備、ワーカー満足度向上サービスの横展開を目指すと語った。

利用者アンケートの結果は好意的

曲がり角での出会い頭の事故を防ぐには警笛が有効

東急不動産 ビル運営事業部 東京ポートシティ竹芝 総支配人 潮田喜一郎氏

続けてロボフレ化に向けた物理環境の課題整理と対策案についての講演が行なわれた。まず、東急不動産 ビル運営事業部 東京ポートシティ竹芝の総支配人 潮田喜一郎氏が、発表会会場でもあった東京ポートシティ竹芝での東急コミュニティー、ソフトバンク、日建設計の取り組みについて紹介した。

東京ポートシティ竹芝は2020年5月竣工以来、ロボット運用に与える課題の整理、対策案の比較検討などの取り組みを続けている。具体的には森トラストが制作した「ロボフレレベル評価」に基づいて課題を整理。建築上の課題や運用上の課題を洗い出した。たとえば保管場所をどうするか、曲がり角での出会い頭や人の対流にどう対応していくか検討を続けた。

東京ポートシティ竹芝で実際に活用されているロボット
ロボット運用上の課題の整理

物理環境に対してはロボフレレベルに合わせて対策を施す。いっぽう人とロボットが共存する館内走行においては課題を完全に排除することは難しい。そこで安全性を高めるためにどんな対策があるのか比較検討した。カーブミラー、ステッカー、警笛、一時的、大回りなど予備実験で有効な対策案の絞り込みを行なった。センサーを使った人流の定量かも実施し、対策ごとの軌跡の違いを分析し、もっとも効果が高かったのは警笛だった。

曲がり角での接触対策の比較検討
人流分析を行ない警笛がもっとも効果的と判断

その他の課題についても対策評価を行なっていった。潮田氏は「ガイドラインを策定していくことでロボット導入時のROI(費用対効果)の向上、導入ハードル低下が見込まれる。これらのために施設の仕様・管理の標準化を進めることも重要。これからも協力しあって、さらにロボットにやさしい社会を実現していきたい」とまとめた。

さまざまな評価指標に対し対策検討を実施
標準化によりロボット導入コストの低下が見込まれる

ロボット用の「標識」を整備

森トラスト 社長室戦略本部 デジタルデザイン室 部長代理 朝比奈泰裕氏

次に森トラスト 社長室戦略本部 デジタルデザイン室 部長代理の朝比奈泰裕氏が登壇した。ロボットと人が働く場所が区画化されている工場ではロボットは力を発揮している。だがオフィスやホテルではロボットだけを優先するわけにはいかない。しかし今後は、ある程度環境側を整えてロボットに合わせることも必要になる。

人の環境とロボットの環境を比べると、人の環境にはさまざまな標識がある。だがロボット向けのマーカーなどは未整備だ。そこでマーカーも物理環境の一部として整備を目指した。

ロボット向けの標識
コンセントの横に配置するようなイメージだという

森トラストは2021年度にロボット運用に影響を与える環境因子の項目に対し「ロボフレレベル」と「ロボフレマップ」を定義・策定している。建築基準法やバリアフリー法、消防法、社内基準などを参考にして、ロボット運用に影響を与える環境因子の各項目についてA~Cの3段階にてレベル分けしたもの。「レベルA」はほとんどのロボットが使用できる。「レベルB」はほとんどのロボットが使えるが場合によっては使用できない。「レベルC」はほぼ使えない。たとえば車椅子が走破できる環境は「レベルB」となる。この基準を用いることで、ロボット運用の効率化をどう進めるべきかが明確化され、ロボフレではない環境も整えるべき場所が分かりやすくなる。

ロボットの移動しやすさを分けたロボフレレベルとロボフレマップ
ビル内の多様な物理環境

ロボットはタイヤのつくりによって踏破できる段差や環境が全く異なる。それらの物理障害も明確化した。ホテル客室廊下でもアメニティカートの置き方一つでロボットが通れるかどうかが変わる。つまりオペレーションも整える必要がある。ロボットに位置情報を提供するマーカーも整備する。これらには産総研の成果などが反映されているという。

ロボットの車輪は多種多様
物理環境の違いだけではなくオペレーションによってもロボットが通れるかどうかは変化する

ロボット運用の基本ルール作りが重要

パナソニック ホールディングス 事業開発室 ロボティクス・アクセシビリティPJ 総括担当 黒川崇裕氏

パナソニック ホールディングス 事業開発室 ロボティクス・アクセシビリティPJ 総括担当の黒川崇裕氏は、NECネッツエスアイと進めた複数ロボットの群管理制御と今後の標準化に向けた研究開発について述べた。

今後は多様なメーカーのロボットが一つの施設のなかで用いられることになる。現状はロボット管理プラットフォームにロボットをつないで運用しているが、複数メーカーのロボットを異なる場所で動かすためには管理プラットフォーム間の調整が必要になる。パナソニックでは、配送ロボットと清掃ロボットの連携を実証した。

現在は個別メーカーが管理プラットフォームにつながっているが、今後はメーカーを超えたロボット間連携が必須に
多機種のロボットの連携を検証

清掃ロボットは塗り潰し清掃するため、通行する別のロボットの障害となる。そこで、清掃ロボットが掃除中であっても、配送するときは配送ロボットを優先するようにルートを作るようにした。

パナソニックによる課題抽出と実証
配送ロボットが通るときは掃除ロボットがいったん退避する

NECネッツエスアイはオフィスで考えられるロボットの動線を3パターン想定。たとえば3種類のロボットが一つのルートで出会ってもうまく走行できるように、順番待ちをさせるようにした。ロボットに経路設定するときには通路上に「ウェイポイント」(経路上の通過点)を設定する。そのルール化を行なう必要があることがわかったという。

NECネッツエスアイによるオフィス動線の検証
3台のロボットが出くわしたシーン

黒川氏はロボット管理プラットフォームだけではなく、ロボット運用のもっと基本的な、たとえば「原則左側通行」のようなルール作りが必須であることがわかったと語った。

経路途中のウェイポイント設定のルール化が必要
より基本的な標準ルールも必要

施設管理全体でロボットを使いやすくするために課題解決中

ロボットフレンドリー施設推進機構(RFA) 代表理事 脇谷勉氏

最後に一般社団法人ロボットフレンドリー施設推進機構(RFA)代表理事の脇谷勉氏がRFAの事業、主に標準化に関する取り組みについて紹介した。脇谷氏は「我々を含め、社会全体の考え方を変える必要がある」と語った。ロボットはまだ成長途上だ。だからロボットを活用するためには人がアシストしなければならない。

RFAではロボット導入のための規格化を進めている。独自に進めると千差万別になってしまい、社会で実装するのは難しくなってしまうからだ。

RFAは経産省のタスクフォースからスピンアウトした組織。テクニカル・コミッティを作り、規格策定を実施している。具体的にはエレベーター連携TC、セキュリティ連携TC、物理環境特性TC、ロボット群管理TCを作り、それぞれの課題解決を進めている。

業界横断的な組織としてRFAが2022年に設立
さまざまなタイプのロボット導入を進めやすくするために規格策定中