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パナソニック、時速50kmの電動アシスト「ケイリン先導車」。8月4日五輪デビュー

パナソニック サイクルテックは、東京2020オリンピックの自転車競技「ケイリン」で使用される電動アシスト先導車を開発した。競技場内で時速50kmの電動アシスト走行を実現する。

先導車は、ケイリン競技で選手達の先頭を走る車両。ケイリンは7人までの選手によってトラック6周で行なわれる競技で、開始直後からペースメーカーとなる先導車が選手達の風よけとなり先頭を走る。ペースメーカーが段階的に速度をあげ、選手達はその後ろでポジション争いをする。先導車は時速50kmまで速度をあげてペースを作り、残り3周で離脱後、選手だけでレースの勝敗を決する。

ケイリンは日本の国内競技「競輪」をベースとする自転車競技で、ケイリンの先導車は元々オートバイなどで行なわれていた。しかし、オートバイの場合は排気ガスが後続の選手たちにかかるなどデメリットがあり、公式スポンサーでもあるパナソニックが、電動アシストによる先導車を開発することになった。8月4日のケイリン競技で使用される予定。

なお、「競輪」の先導車では、オートバイなどの使用は認められていないため、本車両が使用されることは当面ないという。

電動アシストケイリン先導車

一般車とは全くことなる設計

通常、日本国内の一般道を走行可能な電動アシスト自転車は、時速24kmまでのアシストが認められているが、実際には時速10km程度からアシスト力が徐々に弱まり、時速24km付近ではほぼアシストを行なわない。しかし、今回開発されたケイリン先導車は、競技場内での使用に限られることからアシストに制限がないため、時速50kmで楽に巡航できるアシスト性能を実現した。

ベースとなったのは、従来から発売されている電動アシスト自転車スポーツタイプの「XU1(BE-EXU44)」。ケイリンが行なわれる本会場・伊豆ベロドロームでの試験を重ねて完成させた。

競技では、半周毎に決められた速度があり、それになめらかに合わせられるコントロール性の確立や、すり鉢状に45度の傾斜がついた競技場で安定走行ができ、正確にラインをトレースできるハンドリング性能などが求められる。これを、高出力モータによる速度と、なめらかで安定した加速を可能にするアシスト制御、あらゆる速度域でラインをトレースし直進安定性を確保するフレーム設計によって実現した。開発期間は約1年半。

モーターは専用機としてカスタマイズされ、一般市販車に対して約1.4倍高速化、出力は3倍に強化。バッテリーは、約1.4倍の電力量としている。これによりスペック上は最大時速60kmまでアシストが可能。

モーターの出力は一般の3倍
バッテリー

アシスト制御はアルゴリズムを作り込み、漕ぎ出しの出力を保ちつつ、速度の2乗に比例して増加する空気抵抗分のモーターパワーをなめらかに加えることが重要とした。試作段階では最初からフルパワーを出せる制御としていたが、加速しすぎて使いづらかったという。ケイリンでは一定の速度で先導することが必要なため、単に速度を上げるだけでなく、選手が追従しやすく、かつ漕ぎ手も速度を調整しやすい制御を追求した。

ハンドル部分には半周毎に定められた速度で巡航する目安が表記されている

フレームは、正確なライントレースと直進安定性を確保するため、従来車よりもハンドル位置を110mm低位置に、重心は67mm低減したほか、ヘッド角も変更。これにより安定した走行を実現した。

フレームは低重心で安定性を重視
競技場では一般道のような急ブレーキは必要ないため一般的なディスクブレーキを採用

時速50kmまで簡単に加速

会場では、ローラー台を使用した試乗体験も行なわれた。一般的な電動アシストでは、時速10kmから15kmあたりがアシストのスイートスポットで、それ以上の速度ではほぼアシストをしないため、速度を出せば出すほどペダルは重くなる。しかし、ケイリン先導車では、漕ぎ出しから一般車と根本的に異なる加速で、漕げば漕ぐほどグイグイと速度があがり、筆者のような素人でも簡単に時速50kmまで速度を上げることができた。スペック上の上限となる時速60kmも容易に到達する。ケイリン先導車という特定の目的のため、変速機も装備しないが、変速機がなくても漕ぎ出しからなめらかな加速が体験できた。

自転車用ローラー台での試乗
変速機は装備しない
時速50kmまでなら簡単に出すことができる
脚力があれば時速80km台も可能

今回開発した電動アシスト車両は公道走行不可能のため、同社では技術をそのまま製品に転用することは考えておらず、開発で得られたパラメータ開発の知見や設計ノウハウを製品に活かしていくという。

ケイリン先導車譲りの低重心「新型XU1」

同社は、ケイリン先導車のベースとなった「XU1」の新モデルとして、東京2020オリンピック公式電動アシスト自転車「XU1(BE-EXU244)」を8月5日より発売する。価格は251,000円。

ケイリン先導車で得られた様々なデータを開発にフィードバックし、新設計した車両。市販車としてハンドリングのしやすさと、ケイリン先導車譲りの低重心を特徴とし、重心を旧モデルより40mm下げることで、跨ぎやすく初心者でも扱いやすい仕様とした。アルミリアキャリアやアルミフェンダーも標準装備する。カラーはマットロイヤルブルーとシャインパールホワイト。

マットロイヤルブルー
シャインパールホワイト
ケイリン先導車との比較。形状は似ているが全くの新規設計

タイヤサイズは700×50C。変速機方式は外装9段シフト。1充電あたりの走行距離はパワーモードで約44km、オートマチックモードで約57km、ロングモードで約82km。全長は1,840mm。全幅は590mm。重量は約24.5kg。