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正確な位置情報が変える世界。3単語で全世界の場所を表示「what3words」とはなにか

世界を57兆個の正方形に分割し、3つの単語でその住所を表す位置情報テクノロジー「what3words」。世界全体を3m四方の正方形に分割し、その正方形一つ一つの住所を3つの単語のみで言い表すという独自の位置情報システムだ。

先日、Sony Innovation Fundからの出資も発表されたが、メルセデス・ベンツなどの自動車メーカーからの出資や、カーナビのTomtomでの対応、さらに一部の国では民泊の「Airbnb」や、宅配ピザの「ドミノピザ」などでも用いられている。

言語も英語だけでなく、日本語を含む26言語に対応。22日には中国語対応も行なわれる予定だ。

特徴は3つの単語だけで、どんな場所でも表記できるということだ。

例えば、

「///しなもの・くうこう・うちあげ」

は、渋谷のスクランブル交差点の中心あたりを表す。スクランブル交差点ではなくて、中心あたりの3m四方まで指定できるのがポイント。従来の住所や道路表示に比べて、より正確に場所を表示できるのだ。

///しなもの・くうこう・うちあげ

iOSとAndroidの「what3words」アプリを使えば、だれでも「3つの単語の世界」を試せるようになっている。ただし、同社のビジネスは自動車メーカーなどBtoBを中心としたものを想定しているという。

3ワードアドレスの特徴は「正確性」

what3wordsのジャイルズ・リース・ジョーンズCMOは、この仕組みが生まれた理由について、「創業者のクリス・シェルドリックは、音楽イベントを運営し、屋外での集合場所や配送場所などをバンドなどに伝えていた。しかし、皆迷ってしまう。GPSも使い始めたが18桁のコードを普通の人が覚えるのは困難、というより不可能だった。そこで『なにかいいアイデアはないか』という根本から発想して生まれたサービス」と語る。

what3words ジャイルズ・リース・ジョーンズCMO

日本や多くの先進国では、住所やストリート名などが全国に割り振られているが、発展途上国などでは、「住所がない」という地域も多い。しかし、テクノロジーの発達により、そうした場所にも新たな生活や産業が生まれつつある。それらの課題を解決するのがwhat3wordsの狙いだという。

世界には住所がない地域も多い

一方、既存の住所の問題は「正確さに欠ける」とことだという。たとえば、大きなホテルやスタジアムだと住所上は1カ所だが、複数の出入口や待ち合わせスポットなどがある。そうした場合に、「スタジアムのこの位置」で待ち合わせ、といった指示はとても難しい。

また、ストリート名でも、例えばロンドンでは「Church Road」という道路が10以上あるので間違いの元にもなりやすいという。

ビルや大規模施設では、その施設の“どこ”が重要
ストリート名が混乱のもとになることも……

本日の説明会は、東京・赤坂の「赤坂ガーデンシティ」で行なわれたのだが、大規模ビルなので複数のエントランス(入口)がある。逆側の入り口に着いてしまうと数分のロスになる可能性がある。

そこでwhat3wordsの3つのワード「3ワードアドレス」を使うと

・青山一丁目側メインエントランス「///ぐざい・きこむ・うける」
・赤坂見附・赤坂側エントランス「///りんかく・すます・かいぎ」

青山一丁目側「///ぐざい・きこむ・うける」
赤坂見附・赤坂側「///りんかく・すます・かいぎ」

といったように、利用する駅ごとに近い入り口を指定可能となり、正確な到着時間を割り出せるようになる。

ジャイルズ氏が、日本における活用事例としてあげたのは、「花見での待ち合わせ」。

広い公園での花見での待ち合わせは、アドレスなどがないので、目印となる施設などを示して、「○○門の近くの木の下」といったあいまいな指示になってしまう。しかし、3ワードアドレスであればピンポイントでその位置を指定できるようになる。例えばピザ宅配などが3ワードアドレスに対応すれば、その場所に簡単に宅配依頼できる。

「正確性」を実証するデータとしては、国際物流のアラメックスが、3ワードアドレスを使ったところ、配達速度が通常の42%増となり、走行距離は22%減となった。また、顧客に電話確認することもなくなったという。

駐車場の位置を指定

“地図がない場所”で、3ワードアドレスを使った事例として紹介されたのは、モンゴルにおける「Airbnb」。

旅行者は「モンゴルでテントに泊まる」という体験を求めて、Airbnbでテント泊を申し込むが、テントのある地域には住所はない。さらに季節ごとにテントを移動するという習慣のため、春と夏ではテントの設置場所が異なる。場所を指定してあげないとゲスト(Airbnbの客)はテントまでたどり着けない。

3ワードアドレスの導入により、テントを設営した後で、現地でテント泊を管理する会社にアドレスを教えるだけで、Airbnb上で正確なテント位置を反映可能となり、ゲスト不着という問題を解消できたという。

また、海外のホテルガイドブックやホテル自体のホームページでは、3ワードアドレスを導入している企業も増えており、旅行ガイドブック「ロンリープラネット」のモンゴル版などでも3ワードアドレスが記載されている。日本でも観光SNSの「Deaps」が導入している。

音声入力のための3ワードアドレス

3ワードアドレスは、GPS座標を変換するため、ドローンや自動運転車などでも利用可能。

例えばメルセデスベンツは3ワードアドレス対応の音声入力ナビを備えた自動車を発売予定で、3語を言うだけで目的地を指定可能とする。3ワードアドレスは不変のため、クルマ側にアドレス情報を内蔵していれば、インターネット回線がない状態でも利用可能という。

世界をひとつのアドレスで表記するのであれば、「英語だけ」のように言語を絞ったほうがわかりやすいようにも思うが、ジャイルズ氏は「そうではない」と語る。

その理由は、「話しかけて使うには、自分の言語、母語がよい」という。自動車などで手が離せない環境でも声で正確に位置を指定できる技術・サービスとしてwhat3wordsを位置付けている。

そのために、使うワードは、「短くて、覚えやすい、話しやすい」、そして「一般的に使われている」ものを選別している。失礼な言葉や下品な言葉は排除、またアラビア語ではアルコール関連のワードを排除するなど、言語ごとの細かな選択基準を設けているという。

なお、3ワードアドレスはいったん確定されると、そのまま固定され、変更はできない。これまでも変更したことはないという。最初に実装された英語では、「おもしろアドレス」的なものもできてしまったが、変更はできないとのこと。

また、ワード選別の注意点としては、発音が似ているワードの場合、あえて距離を話すようにしているという。

///table.chair.lamp
///table.chair.damp

などの間違いやすいワードは、一方が米国、一方がオーストラリア、といったように距離を離すことで、明らかに間違いであることを示す。これにより、誤った誘導を排除するという。

このように、「住所革命」を標榜するwhat3wordsだが、既存の道路名や住所を置き換えるものと考えているわけではない。ジャイルズ氏も「相互に補完するものだ」と語る。

例えば、現在の3ワードアドレスでは、「高さ」の指示はできない。そのために高層ビルや複数のフロアがある場所は、3ワードアドレス+18階のような表現が必要になる。ジャイルズ氏も、現在は「平面(2D)に注力している。3Dの高さ対応も検討はしているが、その際には3ワードでは対応できなくなるだろう」とした。

ビジネスとして重視するのは、「自動車やモビリティ」と「旅行」。また、宅配、物流にも「コンシューマのフラストレーションがある」として、その解消に3ワードアドレスを活用していく。

現在の利用者数は非公開だが、メルセデスベンツやTomTomへの技術提供では、1台ごとにライセンス料を得ており、こうしたビジネスソリューションとしての導入、事業拡大を目指す考え。宅配アプリなどにも、その導入を増やしていくという。

なお、ホテルやお店が案内用に3ワードアドレスを用いることは無料。また、公共機関などには無料で技術提供しており、9カ国の国営郵便サービスで活用されているという。

ジャイルズ氏は、「正確な位置情報により、安全な移動や正確な配送を可能にする。また、渋滞の解消や時間やお金の節約、ひいては公害の減少も目指せる」とwhat3wordsの利点を強調。導入拡大を訴えた。