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ハートフルなコンビニのためのデジタル化。ローソンはマチの基盤になる
2018年10月19日 09:45
千葉の幕張メッセで開催された最新技術の総合展示会「CEATEC JAPAN 2018」において、「ローソンのブース」が好評だ。経済産業省やコンビニ5社らが提言する「コンビニ電子タグ1,000億枚宣言」のコンセプトに基づいた、2025年までにRFIDタグを使った流通や会計の効率化を実現するという、未来型店舗を体験できる「ウォークスルー型」出張コンビニのほか、さまざまな最新技術を組み合わせた提案型の各種サービスなど、同社が考える「2025年のローソン」を体現した内容となっている。
開催初日にあたる16日には同社代表取締役社長の竹増貞信氏による基調講演が行われ、なぜ同社が業界他社に先駆けて最新技術やサービスを取り入れていくのか、そして未来型志向で進める店舗改革の先に見据えるものが何なのかについて説明している。
コンビニネイティブ世代の登場と社会の受け皿としてのコンビニ
コンビニ業界でも新しいモノやサービスを積極的に取り入れて話題を振りまくローソンだが、2016年の社長就任以降メディアへの露出も多い竹増氏は、自身とローソンの歴史を重ねてその歩みを説明する。もともとダイエーの系列店として1975年に大阪府豊中市での1号店からスタートしたローソンだが、隣接自治体出身の竹増氏にとっても馴染みのある店だったという。その後、三菱商事で自身のキャリアをスタートさせた同氏は、同社のローソン買収を経てコンビニ業態の経営へと関与していくことになる。
こうしたバックグラウンドの話で興味深かったのは、就職後に生まれた同氏の子どもの話題だ。竹増氏が物心ついたころには、すでに生活圏にローソンを含むコンビニが存在していたというが、まだまだ「ちょっとした買い物ができる町の便利屋さん」という存在に過ぎなかった。だが同氏の子どもが小学生になるころには、すでに友達とコンビニに買い物に行くことが普通になり、たいていの用事はコンビニで完結するまでになっている。同氏はこうした世代を「コンビニネイティブ」と呼んでいるが、若い世代ほど生活がコンビニ中心にあることを示した言葉だ。つまり、コンビニが「町の便利屋さん」から基本的な生活環境を提供する「インフラ」へと変化したことを意味する。
一方で、竹増氏が示すグラフにもあるように、年々店舗を拡大させるコンビニは「そろそろ拡大の限界だろう」という評価とも隣り合わせにある。人口が減少へと転じ、今後さらに高齢化が進む日本において、小売店の成長余地は限られるという考えだ。だが、コンビニという業態にはまだまだ可能性があるというのが竹増氏の意見だ。店舗や商品、サービスを増やして単純に売上を増やすのではなく、より利用者のニーズに密着し、さらに今後日本で起こる変化を先取りすることで、来たるべき時代の「マチの生活プラットフォーム」として機能させようというものだ。
労働人口減少と高齢化を乗り切るローソンの秘策とは
今回竹増氏が出した講演スライドでも興味深いのが、自治体の人口規模とサービス立地の可能性を示したグラフだ。インフラを維持するための最低人口規模というのが存在するが、病院や銀行などは人口密集度の少ないエリアでは存在しにくい。ローソン銀行設立のほか、CEATECブースで紹介したコンビニ店舗内での遠隔医療サービスなど、ローソンが2025年を見据えて打ち出したサービス群は、今後の人口減少で存在が危ぶまれるサービスを店舗内で吸収することを狙ったものとなる。
人口減少というと「利用者減少」のようなものを連想するが、実際にそれより深刻なのが労働人口問題だ。ローソンは他社と比べても外国人労働者の呼び込みに熱心な企業であり、実際に都市部では外国人店員を頻繁に見かけることが多い。自動釣り銭装置が取り付けられ、多言語での操作に対応した新型POS導入をローソンが急いでいるのも、こうした将来的な労働人口の急減に対応したものだ。また、安倍内閣では「働き方改革」をスローガンに、高齢者による労働環境の拡大を見込んでいるが、従来であれば単なる年金受給者となるだけだった高齢者を労働市場で活用し、将来的な労働人口不足を充当することを検討している。一方で、高齢者の就労は難しいのが現状で、政府方針とのギャップが存在する。
また、核家族化のさらなる進展や単身世代の増加、女性の社会進出など、人々のライフスタイルも大きく変化しつつある。食事に使える時間が減ったり、あるいは家庭での単位あたりの食事量が減る結果となる。そのため、ライフスタイルの変化のニーズに対応するためには、よりこうした世代に向けた食品ラインナップを揃えることが小売には求められる。単純に作り置きの総菜を揃えるのもいいが、ローソン店舗の半数近くにキッチン施設を設けて「できたて食品」を提供したり、あるいは一流シェフ監修の料理を用意しておき、コンビニだけで世界中の美味しい料理を楽しめるという工夫もいいかもしれない。
昨今は発注業務も半自動化が進み、以前の職人芸的な長年の経験による発注スタイルからの変化が進みつつある。機械化の進展でコンビニの商品管理も進んだが、一方で清掃やバックヤードでの品出し、調理業務など、いまだ人手に大きく依存した業務がある。興味深いことに、こうした作業は1975年の創業時から40年以上まったく変化がないという。CEATECのローソンブースでは餃子の自動製作ロボットが展示され、「この手際なら人がやった方が早いんじゃないか?」という意見も散見された。だが実際のところ、ローソンが目指しているのは単なる見世物的なロボット導入ではなく、より本格的な「総菜工房」としてのロボット活用に期待しているように思う。
キャッシュレス経済という言葉が最近日本でブームになっているが、ローソンのデジタル対応は、さもすれば単純な効率化にも見える。だが竹増氏によれば「効率化のためのデジタル化ではなく、ハートフルなコミュニケーション溢れるお店を実現するためのデジタル化」だという。よく「病院が高齢者の社交場になっている」というニュース報道を見かけるが、将来的にはこれが「コンビニがマチの人々の交流スペースになっている」という表現に変わるかもしれない。こうした未来を実現するため、ローソンは日々研究を続けており、潜在的なパートナーとともにそれを為し得たいと考えている。