西田宗千佳のイマトミライ

第65回

Xperia SIMフリー全面展開の意味

Xperia 1 II

8月18日、ソニーモバイルは、「Xperia 1 II」「Xperia 1」「Xperia 5」のSIMフリー版を日本国内でも発表した。

SIMフリー版「Xperia 1 II」「Xperia 1」「Xperia 5」登場

注目は「Xperia 1 II」だろう。この機種はこの春にNTTドコモやKDDIから発売されたばかりの新機種。それが SIMフリーで出る、というのはニュースだ。その背景と、「他のスマホへの影響」なども考察してみたい。

ソニーモバイルの動きは「ようやく」の一手

ソニーモバイルはこれまで、SIMフリー市場にあまり積極的とは言えなかった。だが、今回は「全面展開」と言っていい。

従来、自社オンライン販路で少々特殊なモデルを売る形に限られていたが、今回の3モデルは一部量販店やECサイトなど、一般的な販路へと販売が拡大する。要は、他のSIMフリースマホと同じような売り方が行なわれるのだ。最新機種も含め広く展開することになるのは、同社にとって大きな販売戦略転換だ。

とはいえこれは、ソニーモバイルにとっては「ようやくの決断」と言っていい。同社側は「昨年発売したXperia 1 Professonal Editionの選択理由が影響している」と話す。プロ向きだから、という話以上に「SIMフリーだから」購入した人が多かったのだ。

現在の携帯電話市場では、携帯電話事業者から購入する場合であっても、通信料金と端末販売料金を分けて扱う「分離プラン」が徹底されている。携帯電話事業者で割賦契約ができるため、スマホを分割で買いたい人には未だ携帯電話事業者経由が有利とはいえ、一括で購入する人にとって、スマホに詳しい人にとっては、SIMフリーモデルを購入する方がシンプルで楽だ。

日本はソニーの本国であることもあって、Xperiaの人気が高い。SIMフリーモデルを求めてわざわざ海外から輸入するマニアもいたが、今後はその必要も減ってきそうだ。

とはいえ、今回の措置は本当に「ようやく販売にこぎつけた」に過ぎない。大手携帯電話事業者が販売済みのモデルを遅れて購入できるようになっただけで、「同時販売」ではない。Xperia 1 IIの発売は10月30日で、NTTドコモ・KDDIからは半年近くあとのことになる。

Xperia 1 II

iPhoneの場合、今は日本でも、新機種発売と同時に、SIMフリー版がApple Storeで販売が開始される。それに比べるとやはり「遅い」印象を持つ。

Xperia 1
Xperia 5

ソニーモバイルは過去、明確に「携帯電話事業者への端末販売」を軸にビジネスモデルを構築してきた。それはやはり、結局のところ「SIMフリーで端末だけ買う人より、携帯電話事業者から買う人の方が圧倒的に多い」という事実があり、それを考えると、携帯電話事業者という大口顧客を重視せざるを得なかったからだ。

2020年5月、MM総研が発表した「2019年度通期 国内携帯電話端末出荷概況」によれば、日本国内におけるSIMフリースマートフォンの出荷台数は301万台。スマホ出荷台数に占める比率は10.5%となっている。これは過去最大の数字であり、拡大傾向にあるのは間違いないが、逆に言えば「まだ9割の人々が携帯電話事業者からスマホを買っている」ということでもある。

だが、状況は変わってきた。

大手携帯電話事業者が扱う端末の差が小さくなり、「分離プラン」で高付加価値な端末を安く売るビジネスモデルも使えない。その状況下でスマホの販売を安定させるには、「欲しいと思う人を逃がさない」方が重要な判断になる。今回の3機種はその最初のモデルであり、発売時期のズレは準備の足並みが揃わないがゆえ……という好意的な解釈もできる。

もちろん、今後も大手携帯電話事業者との関係が重視され、SIMフリー版の販売が遅くなる可能性は否定できないのだが。

SIMフリー市場は「低価格」と「ハイエンド」に分かれる

メディアとしてはハイエンドモデルのXperia 1 IIに注目したくなるところだが、販売で考えると、数が多いのは「それ以外」と筆者は読んでいる。

Xperia 1 IIはさすがに高いが、Xperia 1やXperia 5なら少し安くなる。SIMフリースマホとしてはそれでも高めだが、「SIMフリーでXperia」を求める人にはわかりやすいモデルだ。5Gの普及にはまだしばらく時間がかかることを考えても、Xperia 1 IIを選ぶ人は一部のマニアに限られる。

Xperia 5

また、「特別なモデル」という意味では、文字通りプロ仕様となる「Xperia PRO」も年内に市場投入される。こちらはその性質を考えても、大手携帯電話事業者経由より、SIMフリー市場の方が向いていると感じる。Xperia 1 II が10月末発売であることを考えると、Xperia PROの動向を見てから選んだ方がいいような気はしている。

ソニーモバイルが5Gミリ波対応の「Xperia PRO」開発へ、業務用途見込む

「Xperia 1 II」の価値はフォーカスにあり

筆者は、SIMフリー市場は、「低価格なスマホを求める人」向けと、「スマホが好きで特別な機種を気軽に使いたい人」向けの市場に、これまで以上にはっきりと分かれていくのではないか、と思っている。

今の日本におけるSIMフリースマホは前者の市場だが、今後後者がゆっくりと立ち上がる。iPhone新機種のSIMフリーモデルやXperia 1 II、ASUSのハイエンドゲーミングスマホなどは後者に属する。

そういう意味で、ちょっと注目しているのがマイクロソフトの2画面スマホ「Surface Duo」だ。

Surface Duo

2画面Androidスマホ「Surface Duo」、米国で9月10日発売

日本では販売するかどうかすら公表されていないが、アメリカでは予約が始まった。仮に日本で販売されるとしても、従来のように携帯電話事業者から売られる……という形は厳しいかもしれない。数は限られるかもしれないが、最初からSIMフリー市場で「わかる人向け」として展開する方が向いている端末、と言えるかもしれない。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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