2001年12月

vol.23『オーシャンズ11』

vol.22『プリティ・プリンセス』

vol.21『ピアニスト』

vol.20『アモーレス・ペロス』

2001年11月

vol.19『ハリー・ポッターと賢者の石』

vol.18『殺し屋1』

vol.17『ムッシュ・カステラの恋』

vol.16『インティマシー』

2001年10月

vol.15『Short6』

vol.14『メメント』

vol.13『GO』

vol.12『赤ずきんの森』

vol.11『ドラキュリア』

2001年9月

vol.10『陰陽師

vol.9『サイアム・サンセット』

vol.8『ブロウ』

vol.7『ブリジットジョーンズの日記』

2001年8月
vol.6『おいしい生活』

vol.4『キス・オブ・ザ・ドラゴン』

2001年7月
vol.3『まぶだち』

vol.2『がんばれ、リアム』

vol.1『眺めのいい部屋』


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  ちょび髭で無教養、愛すべきムッシュ・カステラが恋したお相手は?

 

  ムッシュ・カステラは中堅企業の社長。といっても仕事にそれほど情熱を持っているわけではない。会社のエリート社員の態度は気に入らないし、大事な契約を前に24時間自分を警護しているボディーガードも目障りだ。会社で英語の個人授業を押しつけられたってやる気なんてゼロ。そんなある晩、彼は妻と一緒に観に行った舞台で主役を演じる女優に一目ぼれ(なんと、その女優は昼間追い返した英語の教師だった)。その日から、カステラは彼女に気に入られようと、英語に芸術鑑賞にと、健気な努力を開始するのだが・・・。



  寒い季節にピッタリ! 心温まるフランス映画がやってきた。

 

  なんとも可愛らしい作品である。主人公のムッシュ・カステラは中小企業の社長をしているちょび髭の中年オヤジであるというのに、だ。本作は芸術なんかにはまったく疎かったカステラ社長がつきあいで観に行ったお芝居で一目惚れしてしまった舞台女優クララとの関係を中心に構成された群集劇。カステラのボディーカードをつとめる恋にのめり込めない性格のフランク、自由奔放だけれどそんな自分を反省することも多いウェイトレスのマニー、遠距離恋愛している彼女から2ヶ月連絡が途絶えても彼女を心から信じているお抱え運転手のブリュノなど、各登場人物が抱える悩みや人生観なども二人の関係に平行して浮き彫りにされていく。監督はアニエス・ジャウイ。これまで脚本家、女優として活躍してきた彼女の監督デビュー作となる。本作ではカステラ役を勤めるジャン=ピエール・バクリと共同で脚本も執筆し、発展家マニーを演じてもいる多才な女性だ。『ムッシュ・カステラの恋』は本年度セザール賞主要4部門を受賞し、アカデミー賞にもノミネートされた大ヒット作。彼女はフランス映画界きっての期待の星と言えるだろう(ちなみにジャウイは先週このコーナーで紹介した『インティマシー/親密』の監督であるパトリス・シェロー主宰の演劇学校出身でもある)

 映画本編に話を戻そう。とにもかくにもカステラ社長が少しでもクララに近づこうと英会話を頑張ったり、芸術に親しもうと涙ぐましい努力を重ねる姿がひたすらいじらしい。クララが「口ひげの男は嫌い」と言ったらすぐ剃っちゃうし。普通、こんな中年のオヤジに強引に迫られたらたいていの女性はひいちゃうと思うんだけど、観ているこっちは気付かないうちにこの愛嬌たっぷりなムッシュ・カステラを心から応援してしまっている。また、フランクとマニーの恋やカステラ夫人と義理の妹の関係など、周囲の人々の関係性は少々ツッコミ不足とも思えるが、登場人物それぞれのセリフが粋でいい。例えばフランクとマニーはよく結婚に関する会話を口にする。「いつ結婚する?(フランク)」「いつでも(マニー)」「今の仕事を終えたらすぐ(フランク)」「いいわ(マニー)」「冗談だ(フランク)」「私もよ。新婚旅行の後でこの家で同居よ(マニー)」といった具合である。お互いどこまで冗談でどこまで本気かはわからない。恋に臆病なフランクと恋多き女のマニーが相手の気持ちを探りあいながら交わすセリフは、恋愛に長けたフランス文化ならでは(?)と言った感じだ。


  人間関係における無意識の思い込み、誤解に気付かせてくれる作品

 

  また、この映画は、人間は無意識のうちに相手を見た目や先入観で分類してしまっているという点に気付かせてくれる。クララはカステラを芸術などまったくわからないと思いこんでいたが、実はカステラはひけらかす知識がない分、純粋に芸術を鑑賞しているし、心から楽しんでいるという意味で真の愛好者と言える。また、カステラは会社に居るエリートの部下は自分をバカにしていると感じていたが、実は彼はどうしても他人にエラそうにしか話せないことをずっと悩んでいた。人間というのは見た目や言動などで、相手をよく理解しないうちに「こういう人だ」「この種のタイプだ」と分析してしまったり、優劣をつけてしまっている。この誰もが心当たるであろう人間の習性が、いかに人間関係に摩擦や誤解を生み、本当は仲良く出来る人を知らないうちに失っていることだろうか・・・。 さて、カステラ社長はクララに恋をしたことによって、これまで目に止めなかった芸術を愛するようになったり、自分の人生を見直すようになる。彼の変化を見ていると、人間はいくつになっても恋をすると変わるし、人の感受性を豊かにする恋愛って素晴らしいなと再認識させられる。大体ヒロインのクララは女優をやっているとは言え、さほど美人なわけでもなく、もう若くもない。本人もそれを充分認識しており、将来の不安に怯えている。また、当初クララは文化的素養のまったくないカステラを毛嫌いしており、違う世界の人種として接していたのだ。そんな二人がついに心を通わせるシーンにはとてつもないカタストロフィーがある(カステラ夫人には悪いが)。ラスト近く、クララが見せる笑顔のなんと愛らしいこと! 昨今心温まる映画が少ないなかで、本作は心から「じ~ん」とさせられるとっても貴重な一本。寒い冬にこそ是非観にいきましょう。


(谷本 桐子)

11月下旬より銀座テアトルシネマにて公開


監督・脚本・出演:アニエス・ジャウイ
製作総指揮:ジャック・アンスタン
製作:シャルル・ガソ、クリスティアン・ベラール
製作担当:ダニエル・シュヴァリエ
脚本:ジャン=ピエール・バクリ
撮影:ロラン・ダイヤン
美術:フランソワ・エマニュエル
衣装:ジャッキー・スティーヴンズ=ビュダン
編集:エルヴェ・ド・リューズ
音楽監修:ジャン=シャルル・ジャレル
出演:アンヌ・アルヴァロ、ジャン=ピエール・バクリ、アラン・シャバ、アニエス・ジャウイ、ジェラール・ランヴァン他

2000年/フランス/1時間52分/カラー/ドルビーSRD/全6巻

配給:セテラ




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