2001年12月

vol.23『オーシャンズ11』

vol.22『プリティ・プリンセス』

vol.21『ピアニスト』

vol.20『アモーレス・ペロス』

2001年11月

vol.19『ハリー・ポッターと賢者の石』

vol.18『殺し屋1』

vol.17『ムッシュ・カステラの恋』

vol.16『インティマシー』

2001年10月

vol.15『Short6』

vol.14『メメント』

vol.13『GO』

vol.12『赤ずきんの森』

vol.11『ドラキュリア』

2001年9月

vol.10『陰陽師

vol.9『サイアム・サンセット』

vol.8『ブロウ』

vol.7『ブリジットジョーンズの日記』

2001年8月
vol.6『おいしい生活』

vol.4『キス・オブ・ザ・ドラゴン』

2001年7月
vol.3『まぶだち』

vol.2『がんばれ、リアム』

vol.1『眺めのいい部屋』


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  「赤ずきん」というあまりに有名な童話をモチーフに紡ぎ出される新感覚ヨーロピアン・ホラー

   ウィルフリッド(ヴァンサン・ルクール)、ソフィー(クロチルド・クロウ)、マチュー(クレマン・シボニー)、マチルド(モー・ピュケ)の4人の学生劇団のメンバーが森の奥深くにそびえたつ古城の主人アクセル(フランソワ・ベルレアン)に招待される。アクセルの幼い孫ニコラ(ティボー・トリュッフェール)の誕生祝として、城の中で「赤ずきん」の芝居を上演するよう要請されたのだ。しかし、ウィルフレッド達は城を訪れた刑事から、この森では、美しい女性ばかりを狙う連続殺人鬼がさまよっていることを知らされる。そして「赤ずきん」の物語さながら、殺人狼の魔の手が襲いかかる恐怖の夜が開幕する・・・・。



  正統派ホラー映画の血を受け継ぐ、完成度の高い映像美

 

 オープニング、古城に向かう4人の若者達の車をカメラが俯瞰で捉えているシーンで、キューブリックの『シャイニング』をふと思い出した。それに始まり、本作では過去のホラー映画を彷彿とさせるシーンが数多く溢れている。また、“森にそびえたつ古城”、“謎めいた城の主”など、この作品では恐怖映画としての様式美をわかり易いほどに押さえているばかりか、若者達を一箇所に集めて惨劇を展開するというホラー映画としてオーソドックスな設定も使用している。このように、ホラー映画のお約束を利用した正統派ホラー映画の伝承作品とも言うべきこの作品なのだが、これが実に新鮮でスタイリッシュなのだ。ミュージックシーンでも、最近80年代のヒット曲などをサンプリングした曲がヒットチャートにのぼり、我々の耳に新鮮に響いているが、この映画にも同じようなことが言えるかもしれない。

 SFXを駆使したスプラッター・ホラーやメタ・ホラーなどを経た今だからこそ、本作『赤ずきんの森』のような正統派ホラー映画の血を受け継ぐモノがとても新しく感じられるのだ。しかし、こうした理屈よりなにより、とにかく本作の映像がいい。これから起こる惨劇を予期させるような、不気味な色彩感覚、人間の恐怖の源泉である“闇”の表現力など、映画はやはり“映像”によって観客を説得させるものだと素直に納得してしまう。この完成度の高い作品を撮った監督リオネル・デルプランクは弱冠28歳の新人だと言うから今後が非常に楽しみだ。ホラーという範疇とはちょっと違うが、フランスにはフランソワ・オゾンなどの独特のイヤ~な後味を残す監督などもいる。『スクリーム』のようなスピード感あふれる恐怖もいいけれど、今後こういった上質のヨーロピアン・ホラーがたくさん現れてくれることを期待したい。


  恐ろしい“人狼”の正体は!? 映画を観た後、友人と大いに語り合って欲しい

 

 さて、このテの作品はあまりストーリーを知らない方が楽しめると思うので、ここではあまり触れないようにするが、簡単に言ってしまえば、フランス人のなんでもアリアリ(あっちでエッチ、こっちでエッチ)な演劇若人達がお金欲しさに訪れた古城で「赤ずきん」のお芝居を演じたその夜から、狼の仮面を被った殺人鬼の毒牙に一人、また一人とかかっていき、映画の最後にこの恐るべき人狼の正体が明かになる?! というわけだ。多少もたつく場面もあり、「おいおい、そんなこと説明してる時間があったら、はよ殺せや」といった、火曜サスペンス劇場的ツッコミを入れる余裕を観客に与えてしまう部分もあるにはあるが、映画を観た後も、大いにイヤ~な感じと余韻が残る。映画を一緒に観にいった友人と「あれってこういうことだよね」などと、結末や伏線を確認する作業がホラー映画やサスペンス映画を観た後の楽しみであるが、本作も充分に友人達と“人狼”について語り合って欲しい。それにしても、2クール前の藤原紀香主演のTBSドラマ「昔の男」といい、この作品といい、赤ずきん=怖いという図式がすっかり定着してしまった私(分かる人にだけ分かるネタでスミマセン)。大体、映画の中で若者達が演じる「赤ずきん」のお芝居自体、すでになんか怖かったもん。

 最後にキャストだが、『サルサ!』でその美青年ぶりが注目を集めたヴァンサン・ルクールが野心あふれる劇団員の男を演じており、筋肉モリモリの立派な肉体を披露している。古城の主アクセル役に、『さよなら子供たち』や『無伴奏「シャコンヌ」』などの名優フランソワ・ベルレアン。彼の演技のおかげで映画に緊張感がみなぎっている。また、カラックス映画で常連のドゥニ・ラヴァンが気味の悪い庭師役を演じているので注目。本来彼は恋愛映画よりもこういった役柄の方が断然似合ってると思う。また、一言もセリフがないアクセルの孫である少年ニコラ役を演じたティボー・トリュッフェール君だが、大人達に負けない存在感があった。ニコラと言えば、妄想少年ニコラ君を描いたそのものズバリ『ニコラ(原題はLA CLASSE DE NEIGE)』という映画があったけれど、フランスでは“ニコラ”って、なんか不気味さを連想する名前なのかな? 日本で言う“貞子”みたいな(笑)。んなわけないか。あ、あと、アル・パチーノを太らせて、かなり間抜けにしたみたいな刑事(ミッシェル・ミュレール)があまりにも役に立ってなかったので印象に残ってしまった(笑)。

 なにはともあれ、上質の赤ワインを飲んだような気分にさせられるこの映画、ホラー映画好きな方は是非ともお試しあれ。


(谷本 桐子)

2001年秋、シャンテシネ他にてロードショー

監督:リオネル・デルプランク
脚本:アナベル・ペリション
脚色:リオネル・デルプランク
製作総指揮:ピエリック・ゴテール
製作:マルク・ミッソニエ、オリヴィエ・デルボスク
音楽:ジェローム・クーレ
撮影ドゥニ・ルーデン
編集:ポム・ゼット
美術:アルノー・ドゥ・モレロン
衣装:エディット・ブレア
出演:ヴァンサン・ルクール、クロチルド・クロウ、クレマン・シボニー、アレクシア・ストレシ、モー・ビュケ、フランソワ・ベルレアン、ティボー・トリュッフェール、ドゥニ・ラヴァン他

2000年/フランス映画/90分/1:2.35/カラー/ドルビーデジタル

提供・配給:ポニーキャニオン 東京テアトル

配給協力:メディアボックス




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