2001年12月

vol.23『オーシャンズ11』

vol.22『プリティ・プリンセス』

vol.21『ピアニスト』

vol.20『アモーレス・ペロス』

2001年11月

vol.19『ハリー・ポッターと賢者の石』

vol.18『殺し屋1』

vol.17『ムッシュ・カステラの恋』

vol.16『インティマシー』

2001年10月

vol.15『Short6』

vol.14『メメント』

vol.13『GO』

vol.12『赤ずきんの森』

vol.11『ドラキュリア』

2001年9月

vol.10『陰陽師

vol.9『サイアム・サンセット』

vol.8『ブロウ』

vol.7『ブリジットジョーンズの日記』

2001年8月
vol.6『おいしい生活』

vol.4『キス・オブ・ザ・ドラゴン』

2001年7月
vol.3『まぶだち』

vol.2『がんばれ、リアム』

vol.1『眺めのいい部屋』


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  セックスだけの関係によって親密になっていく男女を克明に描く

 

  冬のロンドン。水曜日の昼下がりに女が男の部屋を訪れる。二人は言葉を交わすことなく、愛を交わす。男の名はジェイ。妻と離婚しており、一人暮しのバーテンダーだ。女はアマチュア演劇に熱中している主婦のクレア。翌週もクレアはジェイの元にやってきて、何も話さずにセックスをする。最初はクレアを行きずりのセックスの相手としか思っていなかったジェイだったが、いつしか彼女に親密さを感じ、ある日ジェイは彼女の後を追う。彼女が夫も子供も居る幸せな主婦であることに驚いたジェイは、クレアが舞台に立つ芝居小屋が併設されたバーに通い始めるが・・・。



  曇り空のロンドンがとっても似合う、大人の男女の陰鬱な情事の結末は?

 

  70年代の名作『ラストタンゴ・イン・パリ』や、最近だと『ポルノグラフィックな関係』など、セックスによって生まれる男女の愛の形は古くから描かれているテーマであるが、この作品の特徴は、彼らの関係を克明に描き出している点にある。この世のあらゆるカップルの数だけその二人がいかにして“親密”になっていくかの過程が存在するように、ジェイとクレアのセックスから始まった出会い、肉体だけの関係から愛情が芽生え始める様、やがて彼らの犯した失敗による関係の悪化、その影響によって変わる彼らのセックスなどを、丁寧に、細やかに見せている。例えば映画の中で二人のベッドシーンが何度となく描かれる。別に変わった趣向のない、毎回非常にスタンダードな二人の営みだが、愛情が段々と芽生えてからは相手に優しく触れてみたり相手を見つめたりするようになる。また、関係が悪化した時は服を着たままで行為を行ったりと、メンタルな部分がどのようにセックスに影響するかこと細かく計算された演出なのである。当たり前と言えば当たり前のことなのだが、本作ほど二人の関係性と緻密に結びついたラブシーンを描いた作品はなかなかないのではないだろうか。

 しかしなんちゅうか、まだまだ若輩者の筆者には、主役の二人の地味なキャラクター、そして二人の若くない肉体の交尾シーンを何度となく見せられるのは結構辛かった。だって、ケリー・フォックスのお腹、たっぷんたっぷん揺れてるし・・・。いや、もちろん、本作ではそれは狙ったものであるわけで、地味で若くない(美しくない)二人の姿を描くからこそ、この映画になんとも言えない生々しいリアリティが加わっているのである。この作品はベルリン映画祭金熊賞(他三部門)を受賞しているし、欧米人はこの種の物語が好きなのかもしれず、成熟した大人の方が楽しめる作品なのだろう。が、本音を言うと、中年は中年でも、そうだなぁ・・・日本で言えば原田美枝子みたいなボイン(死語)で艶のある女性のベッドシーンを観たいよぉと思ってしまったのは私がお子ちゃまだから!? すんません、もっと精進します。


  二人の関係から浮き彫りにされる現代の恋愛事情や男女関係のあやういバランス

 

   肉体だけの関係で上手くいっていた二人だが、ジェイがそこから一歩踏み出そうとしたことによって二人のバランスは崩れていく。『ラストタンゴ・イン・パリ』でのマーロン・ブランドも似たような過ちを犯していたが、女は追いかけてはいけない絶対に(笑)。まあ、何度も関係を重ねていけば相手のことを知りたいという欲求が出てくるのは自然なことだと思うので、一概にジェイのことを責めるわけにもいかないと思うが、なんといっても、その後のジェイの恨みがましい、女々しい言動や行動はいただけない。職場では若いバーテンダーから慕われるしっかり者のジェイだが、その実、性格は子供っぽい。結婚に失敗した心の傷からか、他人との関係性が上手く保てない。いや、幼児性が強く、他人との関係性から逃げ出してしまう性格だからこそ結婚が破綻したと言えるかもしれない。そしてある種身勝手で貪欲なクレア。そう、ジェイとクレアの恋愛は非常に現代の男女の恋愛を象徴した関係と言えるのだ(ヨーロッパ映画にはよく見かける構図とも言えるが)。

  さて、男と女の間に生まれる親密さとは何か。男と女はどうしたら一緒にいられるのか。様々な問題定義を投げかけてくれる『インティマシー』。(多分)欧米人に比べて愛について考える時間が少ない日本人にとって、たまにはこういった作品を鑑賞する時間があってもいいのではないだろうか。

2001年ベルリン映画祭 金熊賞受賞・銀熊賞受賞・嘆きの天使賞受賞


(谷本 桐子)

2002年正月、恵比寿ガーデンシネマほかにて公開予定

監督:パトリス・シェロー
脚本:アンヌ=ルイーズ・トリヴィディク、パトリス・シェロー
原作:ハニフ・クレイシ「ぼくは静かに揺れ動く」アーティストハウス刊
撮影:エリック・ゴティエ
美術:ヘイデン・グリフィン
音楽:エリック・ヌヴー
エグゼクティヴ・プロデューサー:シャルル・ガソ
プロデューサー:パトリック・カサヴェッティ、ジャック・アンスタン
出演:ケリー・フォックス、マーク・ライランス、ティモシー・スポール、アリステア・アルブレイス他

ドルビーSRD/カラー/シネマスコープ/2時間1分/フランス/オリジナル英語台本/2000年

配給:日本ヘラルド映画




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