2001年12月

vol.23『オーシャンズ11』

vol.22『プリティ・プリンセス』

vol.21『ピアニスト』

vol.20『アモーレス・ペロス』

2001年11月

vol.19『ハリー・ポッターと賢者の石』

vol.18『殺し屋1』

vol.17『ムッシュ・カステラの恋』

vol.16『インティマシー』

2001年10月

vol.15『Short6』

vol.14『メメント』

vol.13『GO』

vol.12『赤ずきんの森』

vol.11『ドラキュリア』

2001年9月

vol.10『陰陽師

vol.9『サイアム・サンセット』

vol.8『ブロウ』

vol.7『ブリジットジョーンズの日記』

2001年8月
vol.6『おいしい生活』

vol.4『キス・オブ・ザ・ドラゴン』

2001年7月
vol.3『まぶだち』

vol.2『がんばれ、リアム』

vol.1『眺めのいい部屋』


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  平安の陰陽師、安倍晴明が映画となって平成の世に蘇る

    西暦794年。四つの神の呪(しゅ)の力によって守られた京の都・平安京。400年の栄華を誇った平安時代は、貴族文化が花開いた一方で、人々が鬼、魔物、あやかしを心底恐れた闇の時代でもある。そんな平安の世に暗黒の世を鎮め、鬼やあやかしをこの世の理をもって制する陰陽師と呼ばれる者達が存在した。右近衛府中将 源博雅(伊藤英明)は、怨霊にとりつかれた上官の命を救うべく、当代切っての陰陽師・安倍晴明(野村萬斎)のもとを訪ねる。それが運命的な出会いとなり、その後、数々の事件に二人は協力して立ち向かうことになる。藤原師輔の娘、任子(国分佐智子)が帝の子を産んだ。しかし、生まれたばかりの赤ん坊に異変が起きる。晴明はその子に“呪”がかけられていることを見破る。しかし、その出来事は、これから起こる壮絶な戦いの前触れに過ぎなかった・・・。


  晴明ファンならずとも楽しめる、歴史エンターテインメント作品の秀作

 

  さすが、伝統芸能の世界に生きる人は違いまするのう~。萬斎殿はよい漢(おとこ)じゃ・・・というわけで、この『陰陽師』、キャスティングの勝利である。というか、安倍晴明役の野村萬斎の力量で魅せている作品と言いきってしまっても過言ではない。原作者夢枕 獏が熱烈に出演依頼をしたといったエピソードにもしごく納得。そこいら辺のただ単に顔の整ったタレントがこの役を演じていたら、きっとこの作品は観られたもんじゃなかっただろう。

 さて、近年大ブームとなっている、陰陽師・安倍晴明。陰陽師とは、簡単に言うと占い師、幻術師のようなもの。星の相、人の相、方位を観たり、呪によって人を殺したりもする。安倍晴明は陰陽師の中でも最も優秀であり、平安中期の数々の帝から絶大な信頼を受けた実在の人物だ。出生に関しても、母は白狐だったなどという説もあり、晴明に関する事柄はミステリアスな謎に包まれている。原作でもそうだが、晴明の捉えどころのない飄々とした人柄は映画でも健在で、とても魅力的である。晴明にとっては、別に帝も平安京も実はどうでもいい。鬼の出現を含め、この世の事象をどこか楽しんでいる風でもある。本作では謀反の濡れ衣によって自殺に追い詰められた早良親王(萩原聖人)や帝に捨てられた祐姫(夏川結衣)の恨みを利用して帝を滅ぼし、この世を支配しようとする宿敵、導尊(真田広之)との戦いを軸に、「呪がかけられた瓜」など、晴明にまつわる有名なエピソードが物語のあちこちにちりばめられている。劇中で登場する衣装や美術は天野喜孝が担当。当時の平安京はCG合成機材DOMINOによって再現され、全景・俯瞰、(ちょっとハムナプトラ入ってる)空に舞い上がる鬼たちの姿など、スクリーン一杯に平安絵巻の世界を繰り広げている。

  内容に関しては、早良親王の祟りがあっけないとか、DOMINOを使っているのにせこい映像シーンが多い、ワイヤーアクションシーンはいまひとつだったなど、いろいろと細かいツッコミどころはあるにはあるのだが、全体的には神秘的な力を持つヒーロー晴明、博雅との友情、ロマンス、導尊との死闘、幻想的な平安京の世界、と、歴史ロマン、エンターテインメント作品としての要素はきっちり盛り込まれており、安倍晴明ファンならずとも充分楽しめる作品に仕上がっている。まあこういう作品が肌に合わない人もいると思うが(特に男性)、その昔「日出処の天子」に涙したようなお耽美趣味の女性(つまり私)になら、きっと堪能していただけると思う。



  セリフの言いまわし、立ち居振舞い、これまでになく魅力的な安倍晴明の誕生

 

 前述した通り、とにかく全編に渡って野村萬斎バージョンの安倍晴明の魅力が満載(寒)。口早に呪文を唱える言い回しといい、身のこなしといい、とにかくキマっていらっしゃる。ときにこちらが赤面してしまうくらい晴明になりきったそのお姿に、シビれてしまうこと請け合い。意外にも(失礼)好演していたのは、晴明とは不思議な縁で結ばれ、ともに悪霊と戦う楽を愛するおとぼけな殿上人、源博雅役の伊藤英明。晴明が唯一心を許すのも理解できる素朴で純粋なキャラを上手く表現していた。彼は二枚目役よりも、こういったボケ役の方が向いているかも。しかしそれ以外の人はいまひとつパっとしない。

  優秀な陰陽師でありながら悪の権化となり、帝暗殺を企てる晴明の最大の敵、道尊には、いまやベテラン俳優となった真田広之が扮しているのだが、アクションスターとしての活躍を経て、日本人として初めてロイヤルシェイクスピアカンパニーに参加するなど、演技派俳優として円熟の域に達している彼も、本作では野村萬斎に食われている印象を受けた。狂言師、萬斎の雅さが光るこういった時代劇においては、さすがの真田も分が悪いといったところか。また、不老不死の謎の女、青音を小泉今日子が演じているが、不老不死にしては、かなり老化しすぎちゃってるような・・・。せっかくDOMINOを使っているんだったら、もうちょっとなんとかならなかったんだろうか。帝の夜離れを恨み、鬼と化す祐姫には夏川結衣。でも、鬼になってもあんまり怖くないのよね~。こちらがゾっとするような情念が感じられないのだ。晴明に仕える式神・蜜虫を演じる元SPEEDの今井絵里子や早良親王役の萩原聖人に関しては以下略といった感じ。

まあそれはさておき、今から1000年も前に生きた彼の、平安の世を達観していたその人柄に魅せられる人は多い。また、京都の晴明神社には、毎日何千人もの参拝者が訪れるという。日本が生んだ、まったくもって日本人らしいヒーロー、安倍晴明の魅力がぎっしり詰まった『陰陽師』、時間があったら是非劇場に足を運んでくだされ。


(谷本 桐子)

10月6日、全国東宝系公開

製作総指揮:植村伴次郎
監督:滝田洋二郎
企画:近藤 晋
製作:原田俊明、気賀純夫、瀬崎 巌、江川信也、島谷能成
プロデューサー:林 哲次、濱名一哉、遠谷信幸
脚本:福田 靖、夢枕 獏、江良 至
音楽:梅林 茂

出演:野村萬斎、伊藤英明、真田広之、小泉今日子、夏川結衣、岸辺一徳、今井絵里子、萩原聖人、柄本 明

上映時間:1時間56分/ドルビーデジタル/ビスタサイズ




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