2001年12月

vol.23『オーシャンズ11』

vol.22『プリティ・プリンセス』

vol.21『ピアニスト』

vol.20『アモーレス・ペロス』

2001年11月

vol.19『ハリー・ポッターと賢者の石』

vol.18『殺し屋1』

vol.17『ムッシュ・カステラの恋』

vol.16『インティマシー』

2001年10月

vol.15『Short6』

vol.14『メメント』

vol.13『GO』

vol.12『赤ずきんの森』

vol.11『ドラキュリア』

2001年9月

vol.10『陰陽師

vol.9『サイアム・サンセット』

vol.8『ブロウ』

vol.7『ブリジットジョーンズの日記』

2001年8月
vol.6『おいしい生活』

vol.4『キス・オブ・ザ・ドラゴン』

2001年7月
vol.3『まぶだち』

vol.2『がんばれ、リアム』

vol.1『眺めのいい部屋』


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  “ドラッグ”でアメリカンドリームを実現させた、ジョージ・ユングの栄光と挫折

   自営業を営む父親(レイ・リオッタ)の事業が失敗し、幼い頃から貧乏な生活を余儀なくされたジョージ・ユング(ジョニー・デップ)。もっと良い暮らしを求めて、幼なじみのトゥナ(イーサン・サブリー)とカリフォルニアに移り住んだジョージは、60年代~70年代にかけてマリファナ販売で大儲けする。その後、マリファナ不法所持で服役中の刑務所で知り合ったディエゴ(ジョルディ・モリャ)と出所後にコカイン・ビジネスに乗り出したジョージは、アメリカ西海岸を中心にコカイン・ビジネスを大成功させ、最盛期にはアメリカのドラッグ・マーケットの8割を牛耳り、巨額の富を築く。美しく情熱的な女性マーサ(ペネロペ・クルス)と結婚し、愛する娘クリスティーナを授かり、幸福一杯のジョージだったが、人生の絶頂期は長く続かなかった・・・。


  時代の波に乗り、アメリカドラッグ界を牛耳った伝説の男、ジョージ・ユングの素顔とは?

 

 タイトルにある“ブロウ(BLOW)”とはドラッグ吸引を意味する俗語。この映画は1960~70年代のアメリカに君臨した実在の伝説的ドラッグ・ディーラー、ジョージ・ユングの軌跡を追う物語である。なーんて書くと、血なまぐさい陰謀や駆け引き、人々の欲望渦巻くドラマの展開を予想する方が大半だろうと思うのだが、「ブロウ」は所謂そうした映画とは趣が異なる作品だ。

  ジョニー・デップ演じるジョージ・ユングはごくごく普通の人。「アメリカドラッグ界を牛耳った伝説の男」なんて冠をつけちゃうと、ものすごーく暴力的で怖~い人って印象を受けるけど、彼の望みはお金に不自由ない暮らしをしたいってことと、幸せな家庭を築きたいという、とっても普通なモノ。

 ドラッグをやるのは確かにイケないことなのかもしれないけど、ヒッピームーブメント全盛のアメリカの若者だったら、マリファナを吸うことなんて普通のことだったんだろうしね。その後、コカイン販売に手を出して巨額の富を得ることになるジョージだけれど、たまたま商売の才能のあったアメリカの田舎の若者が、時代の流れにのって、トントン拍子に成功しちゃったアメリカンドリーム物語って感じだ。それにしても、コカインのコの字も知らなかったジョージがわずか数年でアメリカのドラッグマーケットの8割を手にしちゃうんだから、すごい。私としては、いかにしてまったくの素人だったジョージがドラッグ商売を成功させたのか詳細を知りたかったが、本作はドラッグ・ディーリングの世界をあくまで背景にしながら、アメリカンドリームの光と影、親子の絆、夫婦の愛などにスポットを当てた作品なので、あまりその部分には触れられていない。

  まあそれはさておき、人生はそう調子良くいくわけもない。度重なる逮捕や仲間の裏切りなどに合い、ジョージの人生はどんどん悪い方へと転がり始める。財産や友情を失い、贅沢に慣れきっている妻マーサ(ペネロペ・クルス)との仲もすっかり冷めきってしまったジョージは、最愛の娘、クリスティーナとの幸せな生活を夢見て、一度は足を洗った麻薬の世界に再び戻り、一攫千金を夢見るのだが。。。



  コカインで頂点を極めた男が一番欲したもの。それは家族の絆

 

 この映画、前半まではジョージ・ユングのトントン拍子の成功が描かれ、後半からは悲惨な転落となっていくのだが、ちょっと不思議な感覚の作品である。スタイリッシュな映像とともに、主人公ジョージのナレーションで語られていく物語は、ドラマティックではなく、むしろ冷めた感じである。かといって、乾いた感覚かというとそうではなく、親子の絆など、焦点として描かれるシーンはとても“人情的な部分”。中でもジョージの父であるフレッド(レイ・リオッタ)とジョージの関係が切ない。小さい頃、ジョージのヒーローは父親である。

  父親の乗るトラックが世界で一番でかく、父親が世界で一番えらいと思っていたジョージ。事業に失敗しても「人生には山があれば谷があるものだ。金なんて幻だ」とジョージに言い聞かせ、しょっちゅう家出する母を心から愛している父を、ジョージは大人になってからもずっと愛している。そして父もまた、麻薬密売に手を染める息子を叱ることもできずに見守っている。皮肉なことに、父親と同じ道は辿らないと心に決め、大金持ちとなったジョージは結局は破産し、父親と似たような末路を迎えてしまう。このあたりは親子の悲しい類似性(遺伝子?)といったところだろうか。

 劇中のジョージはコロンビアの麻薬の栽培人に約束以上のお金を支払ったり、大金持ちになろうとも、愛する女性には誠実に接し、子供を溺愛するなど、好感の持てる人物。それだけに、犯罪に手を染めたのだがら自業自得とはいえ、一番欲していた家族の絆を失ってしまうジョージの姿はカウンター・カルチャー時代の犠牲者とも見てとれる。

 ジョニー・デップははまり役。だけど、年老いてからの腹が出た姿はなんとかならんのか!? 不自然すぎる(笑)。ジョージの妻を演じたペネロペ・クルスはもう今が“旬”という感じで、美しすぎます。また、『ラン・ローラ・ラン』で走りつづけた赤毛の女の子を演じたフランカ・ポテンテがジョージのカリフォルニア時代のガールフレンドを演じている。


(谷本 桐子)

監督:デッド・デミ
製作総指揮:ジョルジア・カサンデス
製作:デニス・レアリー、ジョエル・スティラーマン、デッド・デミ
脚本:デヴィッド・マッケンナ、ニック・カサヴェテス
撮影監督:エレン・クラス
美術:マイケル・ハナン
編集:ケヴィン・テント
衣装:マーク・ブリッジス
出演:ジョニー・デップ、ペネロペ・クルス、ポール・ルーベンス、フランカ・ポテンテ、レイチェル・グリフィス、レイ・リオッタ

2001年/アメリカ/2時間3分/ドルビーデジタル、SDDS、DTS
ギャガ・ヒューマックス共同配給

9月15日より日比谷みゆき座他全国東宝洋画系にてロードショー




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