教員のICT活用 - こどもとIT

ポスト・コロナで目指す学校の姿は、“Face to Face”から“Side by Side”へ

――東京学芸大学附属小金井小学校 臨時休校実践レポート

2020年5月4日、政府は緊急事態宣言の延長を発表。学校については、地域に応じた感染拡大予防に配慮しつつ、段階的な学校教育活動の再開と、児童・生徒の学ぶ環境作りをうたう。文科省からも5月1日に分散登校など活動再開の新たなガイドラインが示されたが、これまでの学びを取り戻すにはほど遠い。

突然の休校が決まった2月末からすでに2ヶ月が経過し、学校や地域による対応の差も鮮明になりつつある。オンライン学習に移行している学校もあれば、教科書と課題のプリントを渡すことしかできていない、というケースも決して少なくない。残念ながら日本の教育現場のデジタル化は、世界はおろか日本社会の実情に対してすら圧倒的に遅れを取っていたため、この局面において経験値と環境整備が全く追いつかないのが実情だ。

それでも必死に子どもたちのために何かできないかと考え、実践を続けている教育者がいる。東京学芸大学附属小金井小学校の情報部長 鈴木秀樹教諭もその一人だ。同校が新学期に整えたICT環境と、それを支えたそれまでの実践研究の背景を、鈴木教諭が4月に行った2つの講演「学校再起動~Teamsが活性化する学びとコミュニケーション~」(2020年4月20日/Empowered Japan)と「Japan EduDay:休校期間を経て本質的な学びに立ち戻るために、学校現場のリーダーと先生方ができること(第1回)」(2020年4月23日/日本マイクロソフト)を元にレポートする。「ポスト・コロナ」時代に、教育観はどう転換するべきなのだろうか。

学校をどうやって「再起動」したのか?~優先すべきはハードではない

同校では3月の休校の緊急対応をする中、さらに4月からの学校再開が見込めない状況に直面し、児童の学習機会の確保に迫られた。オンラインのやりとりをしようにも、当時全校で導入できていたのは学校から保護者への一斉メール(NTTデータの学校連絡網サービス「フェアキャスト」)のみ。学校全体のICT活用は決して進んでいたわけではなく、ハード環境はWindows PC45台とiPad9台を全校で共用、教室は有線LANのみという状況だった。

そこで、鈴木教諭はグループワークツールである「Microsoft Teams」(以下、Teams)の全校導入を前提に、教育機関向けに無償で提供されているOffice 365 A1のライセンス取得と児童全員のアカウント発行に動いた。

オンラインセミナーで休校期間の取り組みを報告する東京学芸大学附属小金井小学校 情報部長 鈴木秀樹教諭

教科教育研究で名高い同校だが、決してICT環境に恵まれているわけではなかった。そんな児童1人1台のPCすらない同校が、なぜいきなりアカウント取得に動いたのか疑問に思うかもしれない。通常、オンライン学習の手段を整えようとすると、まず、ハードの整備をイメージするだろう。しかし、現在私たちが日常的に使うオンラインコミュニケーションの多くは、実はさほどハードに依存していない。インターネットを介して同じIDでログインすれば、PCでもスマートフォンやタブレット端末でも、ほぼ同じサービスが利用できる。データもクラウド上で管理することが圧倒的に増えた。

まず最優先でグループワーク環境と児童一人ひとりにIDを整備すれば、どんな情報機器からでも児童と教員が同じプラットフォームでつながることができる。ハードや通信環境の平等性をどう確保するかは次の課題として切り分け対応しながら、ひとまず前に進めるのだ。

同校では、家庭で所有する情報端末からアクセスしてもらう前提でTeamsの利用を開始した。新学期から1ヶ月経った今も、学校からPCの貸し出し等は行なっていない。全員が等しくアクセスできるとは限らないため、課題の連絡等、学習内容は一斉メールでTeamsと同じ情報を得られるよう保証しているという。

検討から新学期まで全く時間に余裕はなかったが、始業式にアカウント配布を間に合わせ、新学期から今までと違う形で学校が「再起動」した。

児童用アカウントを配布した始業式まで、急ピッチで準備が進められた

「スモールステップ」で始まった活用

Teamsはビジネスでも普通に使われるグループワークツールで、「チーム」と呼ばれるグループごとに「チャネル」でトピックを分けて、テキストや、画像、動画、ファイル等のやりとり、ビデオ会議等を行える。

今回Teamsを全校導入した背景には、昨年度まで鈴木教諭が担任する学級で行なっていた教育研究がある。1クラス分ではあるが、1人1台のPC環境を整備して積極的なICT活用を行う中で、Teamsも利用していたのだ。

しかし、多くの教員にとってTeamsは初めて使うツールだ。そこで鈴木教諭は教員向けの研修で、「スモールステップで使うこと」を強調した。いきなりビデオ通話で遠隔授業をしたり、クラス討論をしたりすることは目指さない。スモールステップの目安として、クラス全員が見ているチャネルにテキストで課題を出し、児童から質問があれば同様にテキストで答える、ということから始めたという。確かにこれなら難しい作業ではない。

同校では、1クラスを1つのチームとして編成しているので、先生が自分のチーム(クラス)のチャネルに課題を投稿すれば、クラス全員が見られるし、児童が質問をすればそれも全員に共有される。また、教員間でわからないことは教え合い、できないことは他の手段を使う相談をするなど、トライアル&エラーで使うことを呼びかけた。運用中に制限したい機能が出た場合などは、管理者である鈴木教諭がマイクロソフトの技術サポートを受けながら設定している。

同校Teams活用の概念図、管理者は鈴木教諭が務めている

東京学芸大学は教員養成で歴史の長い大学であり、その附属小学校の教員は、いわば教科教育の専門家集団だ。教室で授業ができない中、Teamsを前向きに受け入れ、ひとたび使い始めれば、どのような使い方をしたら効果的かということに、様々なアイディアが出てきているそうだ。

また、もともと教員が全員Office 365のアカウントを所有しており、日常的にパソコンを使っていたこともスムーズな導入のベースになった。そして、全く会えなくなった児童と双方向のコミュニケーションが出来るようになったことが、何よりも教員のモチベーションを上げているという。

子どもたちが必要としているのは「つながり」

鈴木教諭が今年度新たに担任するのは5年生。始業式以降、顔を合わせられていない学級だが、早速Teams上でのやりとりが始まっていて、課題に関すること以外にも使われている。例えば、Teamsで学級通信のPDFを配信した際には、そこで触れられていた教科書掲載の「カレーライス」という話を受けて、児童から次々に感想のレスポンスが投稿され、自然と学びが生まれたという。また、テーマの雑談の投稿の中には、児童たちが互いの日常や興味を知ろうとする様子が見えるそうだ。

Teamsで配信した学級通信をきっかけに児童が感想を投稿し、コメントや「いいね」がつけられるなど、課題ではないところで自然にやりとりが発生した

鈴木教諭はTeamsについて、「もともとは双方向の学習支援の手段として使い始めましたが、実は子どもたちのコミュニケーションを支える手段になっているのではないかと感じています」と話す。

実は前年度の鈴木教諭の学級でも、3月の休校期間、児童がPCを持ち帰りTeamsで学習活動を行なっていた。ある時、作品を投稿する場を設けたところ、教育版マインクラフトで教室のレイアウトを再現した画像が投稿された。これには児童同士の反応が特に大きかったそうだ。突然切り離されたつながりや、学校という場への児童たちの強い思いを鈴木教諭は感じたという。

料理や工作など様々な作品が集まる中、教育版マインクラフトで教室を再現した作品に特に大きな反応があった

また、この時期にTeams経由でフォームを活用し、健康観察を実施した同校の佐藤牧子養護教諭は、家で過ごす生活により、ストレスや運動不足など心身に影響が出始めていることを明らかにした。一方、Teamsで先生やクラスメイトとつながりを保てたことについては、プラスの感想ばかりだったという。

「休校になって嫌だと思ったこと、不安に思っていることなど」を選ぶアンケートでは、「学校の行事が中止になったこと」「友達に会うことができないこと」が多く、つながりを重視していることがわかる

学習というと課題のやりとりをイメージしがちだが、まず真っ先に、人とのつながりを感じられることが、学習にとって大切な要素なのだと感じさせられる。

教室での授業と同じことを再現するのではない

しかし、学校全体はスモールステップだとしても、鈴木教諭自身のTeams活用経験は長い。なぜ、ビデオ会議機能を活用してリアルタイム授業を行わないのだろうか。

鈴木教諭は、「よく考えなければいけないのは、Teamsでやる教育活動と教室でやる教育活動は圧倒的に違うものだということです。教室での授業と同じことを再現しようとするのではなく、Teamsならではの環境を生かして、ここでやるならばどうするのがいいだろうと考えた方が良いと思っています」と話す。

具体的には、前年度3月の休校中に鈴木教諭のクラスで行われたTeamsの実践例が参考になるだろう。オンラインでディベートを行なったのだ。

最初の3日間はグループごとに作戦会議を行う。休校中はリアルに集まることができないため、Teams上で意見交換をし、必要に応じてWeb会議サービスの「Zoom」を使ったビデオ会議も行なったという。4日目にはグループごとに「はじめの主張」を動画で公開したが、これには「Flipgrid」という動画シェアサービスを使用した。投稿された主張動画を繰り返しチェックしながら、Teams上で他グループへの質問案を相談する。5日目にはFlipgrid上のコメント機能でグループ間の質問と回答を行い、夕方、いよいよ代表者によるリアルタイム討論をZoomのビデオ会議で行なった。最後にフォームで投票を行い6日目にTeams上で結果発表して終了だ。

オンラインディベートの実施ステップ

教室という場ではリアルタイムに顔を合わせて活動するのが前提だが、このオンラインディベートの実践では、ディベートの手順をばらしてそれぞれに最適なオンライン手段を選んでいることがわかる。ビデオ会議のようなリアルタイムに顔を合わせる「同期」的な活動は実はごく一部で、Teams上での意見交換や動画シェアなど「非同期」的な手段を適宜組み合わせて行われている。

鈴木教諭は「同期と非同期を組み合わせることで、教室のディベートとは違う良さが生まれました。子どもたちはとても高い情報活用能力を発揮してくれ、結果的にその力を伸ばすことにつながりました」と話す。

この例は、ICT活用を重ねたクラスだからこそできる側面もあるかもしれないが、教室での授業をただ再現するのではなく、Teamsならではの環境を生かす、という意味がよくわかる。新しい形の学びが新しい能力を育てていることにも注目したい。

“Face to Face”から“Side by Side”へ

鈴木教諭は自身の実践と4月からの運用の実感をふまえ、今、学校や教師の役割が変わる瞬間に立ち会っているのではないかと指摘する。

鈴木教諭によれば、これまで学校というのは、「いつ」「どこで」「誰から」「何を」「どうやって」学ぶかが決まっているところであり、学びの主導権は教師の側にあった。“Face to Face”で教室にいる場合、子どもたちは教師の言葉が届く距離にいて、同じ方向に導いていく、という学級経営だ。

今、教室という枠が外れ、子どもたちは家庭にいる。オンラインを活用して学びを進めるこの状況下では、その主導権が子どもに移ろうとしている。子どもたちが自分の興味関心に従い、課題をいつどの順番でやるかを決めてよいし、興味のあることを深くつきつめるのも自由だ。教師はそれに寄り添っていく“Side by Side”の役割に変わろうとしているのではないかというのだ。

これまでの学校と(左)と、これからの学校(右)のイメージ

教室での授業では一人ひとりに寄り添うことは難しい。逆に、オンラインの良さは、一人ひとりの学びの内容やペースに寄り添えることだ。子どもたちがどんな学びをしているかをていねいに見て、アドバイスしたり、励ましたり、ヒントを与えたり、個別の違いにあわせていろいろな寄り添い方ができる。

「“Face to Face”の教育から学びの“Side by Side”へ移行することが、私の考える学校再定義です」と鈴木教諭は表現した。

鈴木教諭の考えるポスト・コロナの学校再定義

同時に、学びを“Side by Side”で支えるためには、教師に求められる力が変化することも指摘した。オンラインの特徴を生かした「授業デザイン力」、教室とは比較にならない量の情報を取捨選択する「情報処理能力」、オンライン上で児童間の良好な人間関係を築く「コーディネート力」の3つを挙げ、鈴木教諭自身も今まさにその難しさに直面しているという。

“Side by Side”で支えるために必要な教師の力

“Side by Side”とインクルーシブの視点

“Side by Side”という視点は、今この休校という事態に直面して急に出てきたものというよりも、昨年度まで鈴木教諭の学級で行なっていたICTを活用したインクルーシブ教育との接点を感じさせられる。昨年度までの「ICT×インクルーシブ」教育の研究では、特定の児童に対する個別のケアという視点を越えて、学級全員にICTを利用して多様な学習手段を保証してきた。

例えば国語ではデジタル教科書を使い、文章を「読む」ための手段は、紙の教科書通りのレイアウトで文字を黙読するだけでなく、文字サイズや背景色を変更して自分が読みやすくカスタマイズしても良いし、音声再生させてイヤホンで聞いても良い。他にも、手で文字を書く代わりに文字をタイプして感想を書き留めたり、口頭で発表する代わりに投稿して共有したりすることが、教室の中で当たり前に行われていた。

デジタル教科書の読み上げ機能とイヤホンを使って本文を確認する児童(2019年7月の公開授業セミナーより)
リアルな授業中にフォームで感想や意見を投稿する児童(2019年7月の公開授業セミナーより)

読み書き等に特別の困難さがあるLD(学習障害)傾向の児童のために、音声読み上げや拡大表示、PCによるノートテイクなど、特性に合わせた手段を認める事例は増えてきたが、はじめからすべての児童にとっての自由な選択肢にしたことが特徴的だ。これにより、事前に把握できた特性にかかわらず、快適な手段は個人によって少しずつ異なるという気づきがあったという。

ICTがこうした個人の違いにさりげなく寄り添える手段であるという視点が既にあったからこそ、自然と“Side by Side”という視点で学びをとらえることができるのだろう。今、休校対応で取り組んでいる学びのICT化は、自然とインクルーシブな学びにもつながる。

ポスト・コロナで向かう先は……

もはや、子どもたちが教室に集まって一斉に行なわれる均質な対面授業は、コロナが終息したときに戻る場所ではないのかもしれない。学びのICT化を場当たり的な代替手段に終わらせず、オンラインとオフラインが絶妙に混ざりあった、個人の差違に寄り添うポスト・コロナ時代の新しい学びに生まれ変わって欲しい。それには今、この機会にどれだけ本気で学びの形を変えられるかにかかっているのだろう。

鈴木教諭は、講演のたびに参加者から「できない理由」を告げられることが多いと言う。例えば「同僚が理解してくれない」「教育委員会が動いてくれない」「管理職が動いてくれない」「附属だからできるんでしょ?」という内容だ。また、さまざまなリスクがあることを理由に、反対されやすい学校現場の実情にも言及した。

しかし、それでも、一人ひとりが動いて欲しいと訴える。「今、何もしなかったらどうなるのか、そのリスクを考えてください。子どもたちの学びはどうなるんですか? 子どもたちが学べなかったというリスクは考えていますか?」と静かに語りかける鈴木教諭の言葉は、強く、重い。

教室に児童生徒の姿が戻ったとき、ICTが不要になるのではなく、ICTがリアルとオンライン両方の人のつながりを豊かにし、新しい学びの形が始まることを切に願う。

狩野さやか

株式会社Studio947のデザイナー・ライター。ウェブサイトやアプリのデザイン・制作、技術書籍の執筆に携わる。自社で「知りたい!プログラミングツール図鑑」「ICT toolbox」を運営し、子ども向けプログラミングやICT教育について情報発信している。