こどもとIT

ソフトバンク、高校の情報I・IIで活用できるAI教材「AIチャレンジ」を発表

――12月から体験版を提供、2022年1月より申し込みスタート

ソフトバンク、来年度から高校で始まる「情報I・II」で活用できる学習プログラム「AIチャレンジ」を発表

高校生がAIの活用法を学べる学習プログラム

 ソフトバンク株式会社は10月20日、高校生に向けたAI(人工知能)に関する学習プログラム「AIチャレンジ」の発表会を開催した。同日から問い合わせを受け付け、2022年春からの提供を予定している。

 発表会では、ソフトバンク CSR本部 本部長の池田昌人氏が今回の取り組みについて説明した。同社はこの先の世界の変革の中心はAIが担うと考え、昨年からは東京大学とのタッグによるAI研究拠点「Beyond AI」を設立している。

ソフトバンク CSR本部 本部長の池田昌人氏

 今回の「AIチャレンジ」は、対象を高校生とし、将来的なAI活用人材の育成を目指す教育プログラム。「AIを開発する人材が不足していると言われるが、AIを活用する人材も足りないという声が既に多く聞かれる。AIリテラシーを持った人材の輩出が重要」とし、実際にAIを使って何ができるのかを実践的に学ぶプログラムとなっている。

 プログラムとしては、4コマの「AI活用リテラシーコース」と、さらに6コマを加えた計10コマの「AI活用実践コース」の2つが用意される。「AI活用リテラシーコース」では座学でどんなAIがあるのかを学び、AIを使った企画を立ててプレゼンを行なう。

「AIチャレンジ」では2つのコースを用意し、実践的にAIの活用法を学ぶ

 「AI活用実践コース」の後半6コマでは、予測系AIの「Prediction One」、識別系AIの「Teachable Machine」、会話系AIの「Dialogflow」を実際に使用。AIがどのような結果を導き出すのかを実体験する。

最先端かつ使いやすいAIツールを実際に使用する

 これらのプログラムは来年度から始まる高校の新学習指導要領「情報I・II」に準じた内容となっている。教育現場で使われるプラットフォームも準備し、多くの学校で導入できる環境も提供する。なお今回は高校生を対象としているが、今後は部活動などにも対象を広げることを考えていくという。

新学習指導要領「情報I・II」に対応し、学校で導入しやすい環境を整える

 導入費用は、「AI活用リテラシーコース」は年間132,000円、「AI活用実践コース」は年間297,000円。費用は学校単位となっており、利用人数は問わない。なお費用については、ソフトバンクとして利益を取らない額を設定したという。

費用はソフトバンクが一部負担する形で、無利益で提供するとしている

 既に一部の高校ではトライアルを実施しており、実際に体験した教員からは「AIはプログラムを駆使する難しいものというイメージだったが、クリック1つで利用できる簡単なツールでやりやすかった」、生徒からは「桜の写真を撮って開花状況を知れるプログラムを考案した。AIは自分でも少しずつ使っていけるものだとわかった。アイデア次第で色々なものに使えると思う」という感想が聞かれた。

 ソフトバンクでは「AIチャレンジ」の成果として出されたAIの企画を集め、AI企画コンテストを実施する。時期は2023年1~3月を予定する。優秀校にはソフトバンクのAI部門へのインターンシップやスタッフとの交流の場を設け、より理解を深めてもらうという。

AI企画コンテストを実施

 「AIチャレンジ」の案内は10月20日から開始され、12月からは学校で導入を検討する素材として体験版を提供。2022年1月から申し込みを開始し、2022年春の新学期から教材を提供するとした。

2022年春からの提供。体験版は今年12月から用意される

AIを理解し、企画し、導入できる人材育成を目指す

 続いてゲストとして、日本ディープラーニング協会 人材育成委員の野口竜司氏が登壇。野口氏は『文系AI人材になる: 統計・プログラム知識は不要』という本を出版しており、高校でAIに関する授業を持った経験もあることから、「AIチャレンジ」の監修を務めることになったという。

株式会社ZOZO NEXT 取締役CAIO 日本ディープラーニング協会 人材育成委員の野口竜司氏

 野口氏は「AIチャレンジ」の教材に込めた3つのキーワードを提示。1つ目は、AIを使いこなす人材。「AIを作る人材だけでは社会実装が成り立たない。使いこなす側の人材をいかに増やすか」と述べた。

 2つ目は、引き算。「AIは難しく感じるもの。できるだけ詰め込まず、若い頃に知るべきAIのコツについてのみ厳選して学習体験を上げる」。3つ目は、AIネイティブキッズ。「AIを当たり前に使いこなす世代を作りたい。できるだけ早く、もっと若い人にもアプローチしたい」と語った。

 野口氏は「若い世代からAIを使いこなして、AIとともに働き、ともに暮らしていくような社会を作っていく。そんな人材をここから多く輩出したい」と、「AIチャレンジ」にかける気持ちを述べた。

 「AIを使いこなす人材とはどんな人か」を問われた野口氏は、「AIを理解していること、理解した上でAIを企画できること、企画した上でAIを導入できること、という3段階ができる人材。あるいは社会や企業にある課題と、AIにできることをしっかりマッチングさせられる状態を作れる人材」と語った。

現場で使われるAIツールを学習に導入

 続いてもう1人のゲストとして、ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社 法人サービス事業部 AI事業推進部で、「Prediction One」のプロジェクトリーダーを務める高松慎吾氏が登壇した。

高松慎吾氏。「Prediction One」はソニーグループのAI研修にも使われている

 高松氏は、AIの普及を妨げているのは専門家の不足だと指摘。「予測型AIは、企業の実績データに対して機械学習、AIを適用して予測していくことでビジネスに生かすもの。実績データは企業にあるが、AIを実用レベルにするには高い専門性と経験が必要で、多くの企業は専門家なしで進めざるを得ない」と述べた。

 「AIチャレンジ」に提供される「Prediction One」は、「AIによるデータ分析をワンクリックでできるツールで、専門家でなくても利用できる。AIの普及に貢献していきたい」という。既に21,000社が無料体験を利用しており、ソニーグループでは新入社員のAI研修にも利用されているという。

 高松氏は「AIチャレンジ」について、「AIは難しい印象があるが、実際に動かして実感を得るのが重要。AIを身近な問題と結びつけて考える視点が学生たちに生まれて欲しい。そこから人材が生まれることに少しでも貢献したい」と述べた。

 これまではAIと言うと、プログラムを学んで開発するという方向に行きがちだったものだが、「AIチャレンジ」ではツールを活用してAIを利用するためのリテラシーを身に着けるという趣旨になっている。今で言えば、PCを使う人がみなプログラミングをするわけではないのと同じようなものだ。そして近い将来、AIはそれくらい当たり前に使われるべきだ、という願いが込められたプロジェクトだとも言えるだろう。

現時点でも既にAIの専門家は不足しており、先々はより必要性が増すと見られる。高校生のうちにAIを学んでおくのは、将来的にも意義ある実践的教育と言える
石田賀津男

ゲーム等のエンターテイメントと、PC・ネットワーク等のIT分野の両方にまたがる分野を得意とするフリージャーナリスト。元GAME Watch記者で、現在はImpress Watch各誌を含むIT・ゲーム系メディアを中心に執筆。3歳男児の育児にも奮闘中。