こどもとIT

公立小学校の教員に聞く。GIGAスクール構想、学校現場の課題や苦労とは?

――『いちばんやさしいGoogle for Educationの教本』著者座談会

いちばんやさしいGoogle for Educationの教本』の著者(写真上から、二川佳祐氏、庄子寛之氏、古矢岳史氏)は現役の公立小学校教員。自身のICT活用経験や実践をもとに、公立校だからこそ大切したいマインドを本著にまとめたという

全国の小中学校で1人1台環境が本格的にスタートしているが、公立校では取り組みの差が広がりつつある。”どのように使っていいのかわからない”、”何かトラブルが起きたらどうしよう”など、教員の不安や課題を耳にする機会はまだまだ多い。

学校現場では今、ICT活用の何が課題なのか。活用を広げていくためにはどうすればいいのか。実際に、公立小学校でICT活用に取り組む教員らの声を聞いてみよう。協力してくれたのは、「公立校こそ、もっと使おう!」をテーマにした書籍『いちばんやさしいGoogle for Educationの教本 人気教師が教える教育のリアルを変えるICT活用法』の著者たち。GIGAスクール構想という大きな変化にどのように向き合っているのか、生の声を聞いた。

デジタル連絡帳で、日常的に使う機会を増やす

庄子寛之氏。東京都調布市立多摩川小学校 指導教諭。前女子ラクロス19歳以下日本代表監督。学研道徳教科書作成委員。2020年の休校中、企画したオンラインイベントには約2000名が申し込む。イベント登壇も多数

――GIGAスクール構想が本格的にスタートしましたが、先生方の学校はどのように取り組みを進めていますか?

庄子: 私の学校では教員が前向きに取り組んでいますね。良い意味で教員が横一列に並んで、一緒に進めているような感じです。配布する紙の量もかなり減ってICTによる効率化を実感する反面、タブレットを使う授業では「ここでどうするの?」と止まってしまうことも日常茶飯事です。でも、"今この大変さを乗り越えれば教育は変わる"という部分が見えてきて、前向きにがんばっています。

ICTは学習履歴がすべて残るので、授業の振り返りがしやすくなったのがいいですね。今までノートに書いていたものが、ボタンを1つ押すだけで一挙に見られるんです。教員は履歴を見ながら成績に加味できますし、子どもたちも「2か月前、こんな感想を書いていた」と、自分の成長を客観的に見ることができます。これまでのように、クラス全員分の科目ごとのノートにハンコを押して返却、というやり方では評価しきれないこともあります。タブレットに1つに集約できることは、すごく良いですね。

二川佳祐氏。練馬区立石神井台小学校 主任教諭。GEG Nerimaを立ち上げ、学びの機会を創出。オンラインとオフラインを掛け合わせた「BeYond Labo」のほか、習慣化の伴走をする「マイチャレンジサロン」を運営

二川: GIGAスクール構想以前は、練馬区は他の区に比べてICT環境の整備が遅れていたのですが、今はそれを跳ね返す勢いで進めています。私が大切にしているのは、「できることを、できる人が、できるサイズで」という姿勢です。ベテランの教員や管理職を巻き込んで、それぞれの学年や立場でできることを頑張っています。

たとえば、任意参加の研修をやっているのですが、そこに年配の教員が参加してくれて。最初はGoogleのログインもむずかしかったのですが、少しずつできることを広げて、今ではオンライン授業で児童とやり取りできるようになりました。ほかにも、1年生でタイピングに挑戦したり、3年生がドキュメントで提出したりと、最近は面白いことが起き始めています。

古矢岳史氏。東京都八丈町立三根小学校 主任教諭。情報教育担当兼プログラミング教育推進担当。東京都小学校理科教育研究会 研究推進委員。Viscuitファシリテーター。未来を創る子どもたちを育てるイベント「BEAT」を主宰

古矢: 私の学校は島しょ部ということもあって、国のざまざまなITの実証事業が進められており、GIGAスクール構想の展開も早かったです。2020年5月頃にはGoogle for Educationのアカウントが配布され、9月には端末が到着。11月には全校生徒の持ち帰りが始まりました。小さい自治体だから動きが早いこともありますが、これだけ環境がそろっているので、「私もやらなくては!」と思いながら進めてきました。

今では、子どもたちもタブレット端末に慣れてきて、学習の内容に応じて上手に使い分けていますね。ロイロノートで書く子もいれば、ノートに手書きする子もいたり。あと一番変わったのは、情報伝達のスピードが一気に加速したことです。連絡帳も、ノートからGoogle Classroom(以下、Classroom)に置き換わりましたから。

庄子: ICTの活用として、私たち3名に共通しているのは Classroomを連絡帳に使っていることですよね。私の学校では手で書くことも大事にしているので、紙の連絡帳とClassroomを併用していますが、タブレット端末の持ち帰りも実施しているので、連絡帳を書かなくても連絡内容が分かるようになっています。

二川: 私の学校は1~2年生には連絡帳を書かせていますが、3年生以上は毎日Classroomで連絡しています。保護者の方には確認してもらったら「見ました」というボタンを押してもらって、リアクションがない家庭の児童には、連絡帳を書くように個別に対応しています。

本書では、Classroomを連絡帳として活用する方法も紹介(Chapter1 Lesson6より抜粋)

庄子: 連絡帳をClassroomにしてから、明らかに忘れ物が減りましたよね。

古矢: あと、“宿題逃れ”もできなくなりましたよね(笑)。子どもが「宿題はないよ」と言っても、Classroomに書いてありますから。

連絡帳についてはいろいろな意見があると思いますが、私は低学年こそ連絡帳はデジタルの方がいいと思っています。書くことに時間がかかったり、書いても保護者に正しく伝えるのがむずかしい場合もあります。しかし、その日の連絡や出来事をClassroomに書いておけば、保護者の方も興味を持って見てくれるので、学校の様子も分かってもらえますよね。そういうこともあって、はじめのうちは「まずはClassroomを連絡に使って、端末を触る回数と時間を増やしませんか?」と提案していました。

ちなみに、本校では保護者用のアカウントも配布しているのですが、Classroomにも紐づければ、かなり便利に使えるのでお勧めです。

庄子: もうひとつ、Classroomの活用で言うと、私は夏休み中に子どもたちに向けて毎日、学級通信を出していましたね。

庄子氏が夏休みに実施した学級通信も本書で紹介。庄子氏の投げかけに、子どもたちがコメントで返答している(Chapter1 Lesson6より抜粋)

今まで夏休みって、子どもたちが1か月半の間、何をしているのか全然分からなかったのですが、Classroomでやり取りできるようになってすごく楽しかったんです。「オリンピックの開会式だね。みんなはどう思った?」と問いかけると、子どもたちがコメントを返してくれて。今までだったら見えなかったものが見えたり、保護者の方にも、私の人となりが分かってもらえたりして、個人的にはすごく良かったなと思っています。

1人1台環境の活用を広げるために、抑えておきたいポイントは?

――全国の学校現場では端末が整備されたものの、活用が進まない学校も多くあります。このような学校はどのように取り組みを進めていけばいいのでしょうか。

二川: ICT活用が進まないのは、授業でどのようにタブレット端末を活用していいか分からない、イメージできないということが原因のひとつにあると思います。でも、最初から授業で使う必要はありませんよ、って伝えたいですね。やったことがないことを1日1個やってみるとか、Classroomで使ったことのない機能を使ってみるとか。そんな感じで進めていくのも活用を広げるのに有効だと思います。小さなことでいいので、とりあえずやってみることですよね。

個人的には、ICTを広げていくには、クチコミが大事だと思っています。私も、少しずつつながりを増やしながら、練馬区で活動しています。

庄子: 二川さんはGEG Nerima(Google Educators Group Nerima)で練馬の先生たちを集めて、いろいろ研修をされていますよね。そういう声かけは、本当に大切だなと思います。

二川: そうですね。でも、ICTに得意な人だけが集まるコミュニティにはしたくなくて。先ほど「できることを、できる人が、できるサイズで」とお話しましたが、それはICTに限った話ではないと思うんですよ。私が以前組んでいた先生はICTが不得手な方でしたが、家庭科の授業がとても上手くて。逆に私は家庭科が苦手なので、お互いが自分の得意な分野で補い合う、Win-Winな関係が築けました。

学校や教員、人間って1つの尺度では測れないので、一人ひとりが誰かの役に立てればいい、そんな感覚でICTも進めていけたらと思います。

古矢: あとは、教員が”操作を教えなきゃ”とすべてを完璧に覚えようとしない方がいいですね。実際、子どもたちの方が早く順応していきますから。私も休校中に「Googleフォーム」を使ってアンケートをやったのですが、プルダウンやラジオボタンなど、子どもたちは勝手に触って覚えていきました。私の方が子どもたちに教えてもらうことが多かったくらいです。

庄子: たしかに、子どもたちの方が詳しいと思うことはよくあります。教員として、そういう状況に抵抗を感じる方もいるかもしれませんが、実はそこって、子どもたちを褒めるチャンスでもあるんですよね。「教えてないことはやっちゃダメ」と叱るのか、「そんなの知らなかったよ。みんなの前で紹介して」と言えるのか、その違いは教員のマインドの差が関係しているように思いますね。

子どもたちに自由に使わせると、早く終わった子は周りの子に教えてあげたり、タブレットで文字を変換して、まだ習っていない漢字を真似して書いたりする姿が見られますからね。教員が教えようとするのではなく、共に学ぶスタイルに変えていくことが大事だと思います。

本書ではツールの操作方法だけでなく、新しい学びに対するICTの位置づけや教員の姿勢などについてもまとめている(Chapter7 Lesson52より抜粋)

二川: すごく共感しますね。教員は子どもたちに学びの場や機会を与える存在であって、必ずしも、すべてを教える必要はないですよ。僕たち教員の役割は、場の安心・安全を守ったり、分からない子がいたら「分からない」と言えるような環境を作ることですよね。

ただ、せっかく頑張ってタブレット端末を使っても、思ったような成果を感じられなかったり、子どもたちから嫌な反応が返ってきたりすると、くじけてしまうこともありますよね。私は、そういう時に必要なのが、寄り添う伴奏者だと思っています。

つまり、先生が子どもたちに安心・安全な場を作るのと同じくらい大事にしたいのは、先生の安心・安全です。その安心感が職員室にあることが大切で、先生方が一緒に学び合えたり、「これならできそうだよね」と話し合えることが、結果的に子どもたちや保護者の信頼につながるのだと思います。

古矢: 共に学ぶという意味においては、特別支援を要する子どもたちや、書くことに困りごとを抱えている子どもたちにとって、ICTは活躍の場を広げてくれる大事なツールでもありますよね。そういう子どもたちって、パソコンで何かをやるのが単純に好きなので、それだけで1時間が彼らにとって全然違うものになるんです。自分でICTを使って、学びを楽しめる環境を作れるっていいですよね。

また共に学ぶ環境を作るためには、つながるツールとしてICTを活用することも大切です。たとえば理科の観察ではみんなでチャットをしながら「ここにカマキリがいたよ」と集まったり、みんなで楽しめる仕掛けを作るように心がけています。そうすると、子どもたちの方から「こういう使い方はどう?」と提案をしてくれることもあって共に学び合う姿が見られます。

良い使い手となるためのデジタル・シティズンシップを育てるために

――学校が配布したタブレット端末でトラブルが発生したり、ICTに対して不安の声もあります。皆さんは、どのように考え、どのような取り組みをされていますか?

古矢: ICTやタブレット端末の話題になると、ゲームやSNSが一緒になって、どうしてもマイナス面や不安が強調されますよね。私はいつも、保護者には良い面やプラスの効果も伝えるようにしていますが、「こういう危険があるから気を付けて使いましょう」と言うと、やっぱり不安を感じられます。

だからこそ、良い使い手となるためのデジタル・シティズンシップ教育が大事だと思います。仮にタブレット端末を取り上げたところで、いじめやトラブルはなくなりません。良い使い方を学び、それを発信していくことが大事だと考えています。

庄子: SNSって、大人の目が行き届いていないと荒れるんですよね。私のクラスのClassroomでは、新規投稿はできないけれど、子どもたちが自由にコメントを書き込めるようになっていて、保護者もそれを見ることができます。

これって公園と一緒だと思うんですよ。落書きがいっぱいある公園って悪いことが起きやすいような気がするじゃないですか。でも、監視員のおじさんが常駐して、大人が見守っている公園はきれいですよね。それと同じで、子どもたちも大人の目があると暗黙の了解で不適切なコメントはしないように自然と秩序を守っているように思います。

二川: 書籍では、Chapter7で「やらかし対応」という項目も挙げて、古矢さんの学校で起きた事例を紹介してくださったんですよね。こういう課題は多くの教員が直面するものなので、ぜひ手に取って読んでいただきたいですね。

古矢: そうですね。学校では、子どもたちもオンラインでのコミュニケーションが大好きなので、ルールを決めたなかでチャットやClassroom上でコメントのやり取りを楽しんでいます。ただ、端末配布当初は他人のアカウントでログインすることが頻繁に起こっていました。でも、パスワードやアカウントは家の鍵と一緒で、「どんなに仲が良い友だちでも、知らない間に家に入って好き勝手していたら気持ち悪いよね?」と指導すると、それ以後、大切そうに管理する姿が見られるようになりました。

先⽣⽅がこの本を読んでくださったときに「いい話ばかり並んでいるけれど、実際はやらかしもあるんでしょ︖」と思いますよね。そうした先⽣⽅の役に⽴てればと思って、実際に起きた事例を取り上げてみました。

Chapter7「担当者必読!『もしも』のときの対処法」では、どの学校にも起こりうる「アカウントの乗っとり」について、実際に対応した古矢氏の事例を紹介。また同章では「壊す、壊れる問題への予防線」「ネット依存」「保護者への理解」など、学校が向き合うべき課題について、どのように対応すればいいのか具体的なアドバイスも掲載(Chapter7 Lesson55より抜粋)

――先生方がこれから1人1台環境で挑戦してみたい授業や取り組みは何ですか?

庄子: 土曜日の夜にクラスの子どもたちをつないで、オンライン遊びがしたいですね。みんなで家を暗くしてキャンプファイヤー風にしたり、パジャマでアイスを食べながら集合とか。私だけが学校にいて、夜の音楽室をツアーするのも面白い。昨年の休校中も、オンラインならではアイディアを出したところ、いろんな方に協力していただいて実現しました。やっぱり声を出すことが大事だなと思います。

二川: 子どもたちが教科の枠にとらわれず、好きなものを追求して、それを発表したり、応援できる活動をしたいですね。公立校であっても1人1台環境があれば、カリキュラム・マネジメントで時間数を上手く調整して、学校の枠組みとしてできるんじゃないかと思うんですよ。子どもがやりたことや、小さな希望を叶えて、「いつか自分の夢は叶う」「なりたい自分になれる」って思ってもらいたいですね。

古矢: 離島の子どもたちは基本的に島の中で高校まで進学するので、たとえば小学生のサッカーの試合でも、島では良いプレイをするのに外では物怖じしてしまうことがよくあるんですね。そんななか1人1台環境が始まって、オンラインでつながる体験をしたことは子どもたちの視野が肌感覚で広がる素晴らしい体験になっていると思います。

以前、内地の学校のクラスとつないだことがあるのですが、Zoomでつなぎながら先生が海に飛び込んだりして、それだけですごい歓声が起こったんですよ。今は教員がコントロールしてクラスをつないでいますが、もっと子どもたちだけの小集団で1つのプロジェクトに取り組むなど、オンラインの取り組みを深めていけたらと思っています。

本多 恵

フリーライター/編集者。コンシューマーやゲームアプリを中心とした雑誌・WEB、育児系メディアでの執筆経験を持つ。プライベートでは2人の男子を育てるママ。幼稚園児&小学校低学年の子どもを持つ母として、親目線&ゲーマー視点で教育ICTやeスポーツの分野に取り組んでいく。