こどもとIT

300個のリレーでCPUを自作!? 小中高生が自分の「好き」を極めた“未踏”なプロジェクトたち

――未踏ジュニア 2020年度最終成果報告会レポート(前編)

小中高生の開発者を支援するプログラム「未踏ジュニア」の、2020年度「未踏ジュニアスーパークリエータ」が発表された。未踏ジュニアは、一般社団法人未踏が主催・運営する、17歳以下の小中高生及び高専生が対象のプログラムだ。採択メンバーは期間中、メンターや開発費(上限50万円)の支援を受けながら自らが企画したソフトウェア・ハードウェアの開発に取り組む。

最終成果報告会は無観客でライブ配信され、12人のメンターと採択メンバーは会場から直接、もしくはリモートで発表した

5年目にあたる2020年は、全115件の応募から15組22名を採択、中でも特に顕著な成果を残した以下8組10名は「未踏ジュニアスーパークリエータ」に認定された。

森谷安寿さん:Flight Fit VR -「飛行」をテーマに仮想空間で身体を鍛えるVR作品
三宅慧さん:Spaghetian - 電気と電磁石だけでCPUを自作する!
黒川陸さん:MER - 多機能電子リコーダー
山口裕弥さん:Levo - 全く新しい近未来的デザインのエアソフトガン
・平川晴茄さん:ぶらっしゅとーく - 小さな子どものための筆談アプリ
・五十嵐涼さん:Visible - Webアクセシビリティー診断 & 修正提案ツール
・安藤春香さん/大木康平さん:Skimer - 宿題管理アプリ
・伊藤祐聖さん/井上陽介さん:critica - 手軽で直感的なリアクション回収ツール
(※後半4組は中編で紹介

まずは本稿では、見事2020年度の「未踏ジュニアスーパークリエイタ」に認定された8組の中から「好き」を極めた4組のプロジェクトを紹介しよう。

森谷安寿さん(高専2年生):Flight Fit VR - 「飛行」をテーマに仮想空間で身体を鍛えるVR作品

「Flight Fit VR」を開発した森谷安寿さん

幼い頃から様々なスポーツにチャレンジしてきた森谷安寿さんは現在高専2年生。コロナ禍で様々な分野のリモート化が進む中フィットネス分野のVR化に着目。自身のスポーツ経験から競うためのスポーツではなく人生を豊かにする運動の存在を大切にしようと、美しい景色と音楽の中でリラックスしながらゆっくり身体を鍛えることをコンセプトに、「Flight Fit VR」をUnityで開発した。

「Flight Fit VR」の3つのゲーム「DRAGON FIT VR」、「PLANK IN HEIGHT」、「CHAIR ABS」

OculusのVRゴーグルで体験する3つのミニゲームで構成されていて、それぞれスクワット、プランク(体幹を鍛える姿勢保持)、腹筋の運動に対応している。例えば「DRAGON FIT VR」は、ドラゴンの背にのってプレイヤーのスクワットの動きで飛行する仕組みになっている。VRは2Dに比べて高い没入感があり、障害物をよける、高い場所を怖いと思うなどの状況で身体が反射的に動くので、筋トレが苦手な人でも楽しみながら長時間取り組めるのがメリットだ。実際に、運動が得意ではない友人がプランクを1分できるようになったという効果があったそうだ。

「DRAGON FIT VR」を動画で説明しているところ

開発中にはフィットネスジムでの体験会や、学校の昼休みに2ヶ月がかりで累計100名以上の体験会を行ない、たくさんのフィードバックを得た。それらをもとに、ユーザーのモチベーション維持のためのしかけなどをゲームに追加して改善につなげたという。自らBlenderでモデリングしたドラゴンに乗りたいという気持ちも開発の動機のひとつで、それがゲームの世界観にもつながっている。

【最終成果報告会での「Flight Fit VR」発表動画】

三宅慧さん(中学3年生):Spaghetian - 電気と電磁石だけでCPUを自作する!

「Spaghetian」を開発した三宅慧さん

中学3年生の三宅慧さんは、コンピュータの原理と言われる論理モデルである「チューリングマシン」や、70~80年代の古いコンピューターが大好き。今回、「リレー」でコンピューターを動かす自作CPUを作るプロジェクトに挑んだ。リレーというのは、大きな電流を操作側の小さな電流でON/OFFできるようにする仕組みで、構造はコイルとスイッチというシンプルなものだ。

左からクライアントA、サーバー、クライアントBの全3機。各機は上から下へ情報の流れをイメージできるように、段によって処理の役割が異なる構成にしている
この4つのLED部分が卓球ゲーム。クライアントAとBでタイミングよく操作ボタンをおせば、LEDが順に点灯していったりきたりしているように見える

小学生の理科の知識でもわかるリレーの仕組みを用いて作ることで、CPUは魔法のようなものではないことを示したかったという。自作CPU「Spaghetian」は、1機で約300個の「リレー」を使う大きな装置で、クロック数は3Hzであるもののれっきとしたコンピューター。これを3機制作し、サーバー1機とクライアント2機の構成でネットワーク対戦の卓球ゲームのプログラムを組んで、発表会場でデモンストレーションを行なった。

「Spaghtian」1機単独で動かしているデモ動画

1機の「Spaghetian v1.0」の動作動画と、3機の動作動画は三宅さん自身のYouTubeで公開している。カシャカシャとスイッチが音をたてLEDが明滅する様子は、コンセプチュアル・アートやインスタレーションのような感じを受ける。

【最終成果報告会での「Spaghetian」発表動画】

黒川陸さん(中学3年生):MER - 多機能電子リコーダー

「MER」を開発した黒川陸さん

中学3年生の黒川陸さんは、小学生の頃からリコーダーが趣味。簡単に音が出せるリコーダーが好きで演奏してきたが、同じ奏法で他の音色も出せたらとウィンドシンセサイザーの演奏にチャレンジ。ところが初めて吹くと一部の奏法が難しく感じられた。そこで、初心者でも簡単に演奏できるリコーダー型のウィンドシンセサイザー「MER(Multi-function Electronic Recorder)」を開発した。

初期バージョンから次第にバージョンアップしながら、管体を中央部でひねるように回転させることでピッチベンドをする機能、息継ぎで困らないように息の吸い込みでも発音できる機能を搭載した。いずれも黒川さんが既存のウィンドシンセサイザーの奏法では初心者には難しいと感じたポイントの改善だ。

6月の中間合宿時の「MER」。音はMIDIでパソコンから出力

ここから楽器としての完成度を高めるために、機能改善と機能追加を行う。管体はレーザーカッターで切り出して組み上げ、本体にFM音源を搭載して音が出るようにした上で、MIDIの出力にも対応。設定用のディスプレイやつまみを搭載し、マウスピースは着脱可能にした。Arduinoで全体を制御しているが、息は気圧センサー、ボタンは物理ボタン、ベンド機能のための回転角を見るロータリーエンコーダーなど、扱う入力値もさまざまだ。

最新バージョンの「MER」

筆者は、楽器の奏法は練習の積み上げで身に付けるものと思い込んでいたので、そこを技術力とハードウェアの開発で克服しようとすることに、拍子抜けするような視点の違いを感じさせられた。極めてエンジニア的な発想だ。

【最終成果報告会での「MER」発表動画】

山口裕弥さん(高校3年生): Levo - 全く新しい近未来的デザインのエアソフトガン

「Levo」を開発した山口裕弥さん

高校3年生の山口裕弥さんは、サバイバルゲームが趣味。しかし、一般的には「怖い」、「野蛮」というイメージが強いことや、周囲に理解されずに悲しい思いをしている人もいることから、そのイメージを変えたいと、オリジナルのエアソフトガン「Levo」を開発した。サバイバルゲームのファッションは戦闘をイメージさせないスタイルも増えているそうだが、エアソフトガンのデザインはまだ多様性に乏しいという。

銃身が長かったり出っ張っているパーツが多いといかにも銃という印象を与えると分析し、銃のイメージを極力排した近未来的なデザインを目指した。性能はそのままコンパクトな設計。実際にサバイバルゲームで使うと取り回しがよいというメリットもあるそうだ。

開発した「Levo」。特徴的なデザイン

外装は3Dモデリングデータを作って3Dプリントサービスへ、制御基板類も設計して作成サービスへそれぞれ発注。細かな構造を自分で組み上げている。トリガー下にモード切替セレクターを配置して利き手を選ばない構造にしたり、発射するまでのタイムラグを短くする「プリコック機能」を取り入れるなど、構造上もさまざまな工夫を施している。

Arduinoで制御。スマートフォン、本体のトリガーで入力

Arduinoでプログラム制御し、発射パターンの切り替え設定などをBluetooth接続でスマートフォンのアプリから設定することができる。アプリでは射撃回数のカウントも可能なため、競技ルールで弾数が決まっているときに全員の発射弾数を管理し、より厳正な競技を行える可能性がある。アプリは既製品を利用しているが、いずれオリジナルで開発したいと考えているとのことだ。

【最終成果報告会での「Levo」発表動画】

ここまでで4組、この密度からも若い才能の情熱と実力を感じ取っていただけたかと思う。続く中編(1/26公開)では「未踏ジュニアスーパークリエータ」4組による課題解決型のプロジェクトを紹介していく。

未踏ジュニア 2020年度最終成果報告会レポート

・【前編】300個のリレーでCPUを自作!? 小中高生が自分の「好き」を極めた“未踏”なプロジェクトたち(1/25公開)
【中編】小中高生がユーザーテストを回し、独自の視点と技術力で“未踏”の課題解決に取り組む(1/26公開)
【後編】小中高生の多様な好奇心が集う、“未踏”なプロジェクトの数々(1/27公開)

狩野さやか

株式会社Studio947のデザイナー・ライター。ウェブサイトやアプリのデザイン・制作、技術書籍の執筆に携わる。自社で「知りたい!プログラミングツール図鑑」「ICT toolbox」を運営し、子ども向けプログラミングやICT教育について情報発信している。