こどもとIT

グランプリは「おじいちゃんのお酒飲みすぎ防止システムⅡ」、小中学生が身近な課題解決にAIを活用!

――「Google キッズAIプログラミングコンテスト2020」ファイナルイベントレポート

プログラミング教育やAI人材の育成に力を入れるGoogleは、小中学生を対象にしたプログラミングコンテスト「Google キッズAIプログラミングコンテスト」を今年初めて開催した。AIやプログラミングを活用し、身近な課題を解決するというテーマのもと、全国から作品が寄せられ、最終的に6名のファイナリストを選出。2020年10月3日には、グランプリを決めるファイナルイベントが開催され、ファイナリストたちは、こだわりの作品をプレゼンテーションで披露してくれた。

グランプリを受賞した「おじいちゃんのお酒飲みすぎ防止システムⅡ」

小中学生対象のプログラミングコンテストをGoogleが初開催

小中学生を対象にした「Google キッズAIプログラミングコンテスト」は、Googleが提供する、誰でも短時間で簡単に機械学習モデルを作成できる「Teachable Machine」を活用したコンテストとして、今年初めて開催された。「ツールを提供するだけでなく、ツールを使って開発した作品を発表する場を作りたいと考えた」と本コンテストを担当するGoogleのコンピュータサイエンス教育プログラムマネージャ 鵜飼佑氏は語る。

Google コンピュータサイエンス教育プログラムマネージャ 鵜飼佑氏

コンテストのテーマは、「AI+Scratchでアイデアを表現しよう」。7月13日から8月31日の夏休み中に作品の募集期間が設けられ、個人でも、グループでも(4人まで)応募可能とした。応募件数は明らかにされていないが、募集期間から1か月の期間を経て6人のファイナリストが選ばれた。最終審査では審査員となった3人のGoogleのエンジニアに対して、1人5分の持ち時間で、作品を紹介するプレゼンテーションが披露された。

子どもたちは3人のGoogleのエンジニアにプレゼンテーションし、審査が行なわれた

6名のファイナリストと受賞結果は以下の通り。
グランプリ受賞
・mebumebuさん(11歳)「おじいちゃんのお酒飲みすぎ防止システムⅡ」
優秀賞
・tontokoさん(14歳)「感動読書」
・かりんさん(11歳)「ドレミダンス」
・水谷俊介さん(13歳)「Birds AI ぴーちゃん scratch ver.」
・川崎琳太郎さん(14歳)「マスクディテクター」
・小川りりかさん(11歳)「ヤンバルクイナ危機一髪」

ファイナリストに選ばれた子どもたち

身近な問題に着目し、AIを使ったアイデアで課題解決に挑戦!

ここからは、それぞれの作品を紹介しよう。

グランプリ受賞はmebumebuさん(11歳)作「おじいちゃんのお酒飲みすぎ防止システムⅡ」

6人のファイナリストの中からグランプリに選ばれたのは、岐阜県関ケ原町立関ケ原小学校に通う11歳の小学6年生、mebumebuさんの作品「おじいちゃんのお酒飲みすぎ防止システムⅡ」。

小学6年生、mebumebuさん。将来は「算数が好きだから、数学の教師になりたい」と話していた

mebumebuさんは、お酒をよく飲むおじいちゃんのために、飲みすぎを防止するシステムを作った。AI ロボット(NiBoSi)がお酒の飲む量を適切に管理してくれる。「僕が思う適切なアルコール摂取量は 1日 30g です。それを超えそうになると忠告してくれます。11種類のお酒などが認識でき、1 日ごとの摂取量をグラフで表しました」とmebumebuさんは説明してくれた。

このシステムは、micro:bitをベースに作った「自販機:bit」に、mebumebuさんのおじいさんが一日に飲むのに適切な量の瓶ビール2本が冷やされている。このビールを飲むためには、簡単な計算問題を解かねばならないが、3回正解しないとバーが開かない。さらに、椅子が揺れるという、おじいちゃんの酔った時のクセを3回感知した場合も、ビールが入ったボックスのバーが開かない。自販機:bitはmebumebuさんの声にのみ反応してバーが開く設定となっている。

おじいちゃんが飲むのに適切な量のビールが冷やされ、計算問題を解けばバーが開く仕組み

ちなみに、自販機:bitのベースとなる木の箱はおじいちゃんが作るのを手伝ってくれたそうだが、何のための木箱は伝えられず、「大きな貯金箱やなぁ」と言いながら木箱を作ってくれたそう。一方、おじいちゃんの飲み過ぎを心配しているおばあちゃんは、mebumebuさんの開発に大喜びだったという。ただ、実際に活用するにはサイズが大きすぎるそうで、「もう少し小さくして使っていきたい」とmebumebuさんは話している。

審査員の評価ポイントとなったのは、「おじいちゃんの飲み過ぎ防止という家族の問題点を、おじいちゃん自身の力も借りて、家族の力を借りて作り上げた」ところだという。mebumebuさん受賞について「発表の練習は結構しましたが、(最優秀賞となる)自信はありませんでした」と驚いた様子だった。

以前からプログラミングには取り組んでおり、AIプログラミングは初めての経験だったようだが、特に難しいとは感じなかったそうだ。プログラミングは今後も取り組んでいく予定で、「二足歩行ロボットを作りたい」という。

tontokoさん(14歳)作「感動読書」

鳥取県米子市在住の中学2年生tontokoさんは、お気に入りの本を、より感動的に楽しめることをめざして開発した「感動読書」。“この場面で音楽が流れてほしい”と思うページに付箋をつけておくと、付箋の色をAIが認識して良いタイミングで音楽が流れる仕組みとなっている。コロナ禍で自宅時間が増えていることから、おうち時間を楽しむことを考えた作品だ。

中学2年生tontokoさん。合唱部に所属しており、日頃から音楽に親しむ生活を送っているようだ

tontokoさんによれば、開発のきっかけは、父とマンガミュージアムに行ったとき。「自分が読んでいるマンガのラストシーンにぴったりな音楽が流れたら泣いちゃうんじゃないかな?と話したのがきっかけ」だという。

ページに付箋を貼っておくと、AIが付箋を認識し、本の場面に合った音楽を流してくれる

コンテストへの参加も、お父さんから「こんなコンテストがあるから応募してみれば?」と勧められて開発を思い立ったという。「AIを触ったのは初めてでした。作っていくのも面白いし、最初は言われたことだけをやっていた感じだったけれど、Teachable Machineを使うのが面白かったです」と開発を楽しめた様子を語ってくれた。

かりんさん(11歳)作「ドレミダンス」

11歳のかりんさんが開発したのは、AIがポーズを認識して、ドレミファの音を区別して演奏できる「ドレミダンス」。コロナ禍の自粛中でも家の中で運動を楽しみつつ、運動不足の解消も目指して開発された。ボタン操作で楽器を変えることもできるので、飽きないよう工夫されている。

11歳のかりんさん。小学校2年生くらいからプログラミングを始めたそう

かりんさんの話によると、AIにポーズを正しく判定させ、音を出すためにさまざまな工夫をしたようだ。「後ろを向いていても、手を上げれば反応するように色々と工夫しました。ポーズの数は10種類くらい考えたかもしれない」と苦労した様子も伺える。今回のドレミダンスは、初めてのAIを使ったプログラミング開発だったそう。

AIが10種類のポーズを認識し、ドレミの音を鳴らしてくれる

ただし、「プログラミングは好きです。普段の生活に役立つものを作ることも楽しいし、ゲームも大好きです」とデジタル生活を楽しんでいるようだ。今後取り組んでみたいのは、「普段の生活の中でも役に立つ、ロボットみたいなものを作りたいです」と話してくれた。

水谷俊介さん(13歳)作「Birds AI ぴーちゃん scratch ver.」

長野県安曇野市在住の13歳、水谷俊介さんは、「Birds AI ぴーちゃん scratch ver.」を開発した。水谷さんが自転車で転んで前歯を折った痛い経験から、事故の原因として一番多い出会い頭の衝突事故を、AIで予測したいというのが開発の動機だ。危険な場所を2000枚ほど機械学習させ、カメラで自転車走行中の道路の状況が安全かどうか、判断できるようにしたという。AIが危険予測し、音と絵で運転者に注意喚起する。安全確認から事故の予防につながることを目的とした作品だ。

画面左上の青いバーは道路が安全であることを意味する。カメラで撮影された道路状況をAIが判断し、安全な場合は青、危険な場合は赤で記される。自転車は危険なので、車でプログラムの起動をテストしたという

今回の応募について水谷さんは、プログラミング教室の先生から、『こんなのあるよ』と教えてもらって出場しました。グランプリが取れなかったのは本当に残念だけど、優秀賞に選ばれて本当に光栄です」と話している。

水谷俊介さん(13歳)。元々、独学でプログラミングを学習、その後、プログラミング教室へ行くようになり本格的に学び始めた

今後もプログラミングは続けていく予定で、「スマートフォンで動くアプリなどを作っていきたい。すでにJavaScriptでスマホでも動くアプリを作っています」という。将来どんな仕事に就きたいのかなどは決めていないというが、「人の役に立つものを作っていきたい」と話している。

川崎琳太郎さん(14歳)作「マスクディテクター」

東京都港区在住の14歳、川崎琳太郎さんが開発したのは「マスクディテクター」。コロナ禍でマスクをつけた生活が不可欠となっている中、カメラの前に立てば、マスクをつけているかどうかが音と絵でわかるシステムだ。目の見えない人も音でわかるようにしているほか、図書館などの静かなところでは音をOFFにすることもできるという配慮もされている。マスクを着用しているか否かは、カメラのデータからAIが判定する。

カメラの前に立てば、AIがマスクをつけているかどうかを判定する。結果は音と絵で知らせてくれる

AIを使った画像判定ということで、「トレーニングデータは自分の顔の写真で、マスクをつけた写真とつけてない写真を用意して、学習させました」と自らモデルとなって写真データを学習させたという。

川崎琳太郎さん(14歳)。お父さんから今回のコンテストを教えてもらい応募したという

川崎さんは「プログラミングは6歳頃からやっていました。自分で作ったものが自分の思い通りになることころがすきです。最初に作ったプログラムは、プログラミング教室にあったクマさんがフルーツをとるやつでした」と長年のプログラミング経験について語ってくれた。今回、初めてのAIプログラミングだったそうで、「やる前はすごく難しそうと思っていたけれど、やってみたら簡単でした。人がやるつまんないことをAIにやってもらえれば」とAIプログラミングにも意欲を見せている。

小川りりかさん(11歳)「ヤンバルクイナ危機一髪」

沖縄県国頭郡在住の11歳、小川りりかさんの作品は、「ヤンバルクイナ危機一髪」。タイトルからもわかる通り、沖縄県北部に生息する鳥「ヤンバルクイナ」が交通事故に巻き込まれるのを防ぐためにこの作品が作られた。小川さんは、Teachable Machineを使ってヤンバルクイナの鳴き声をAIに学習させ、鳴き声を感知したらLEDや音声でドライバーに知らせるという。

絶滅危惧種のヤンバルクイナが交通事故に巻き込まれるのを防ぐために作られたプログラム

参加のきっかけは、「お父さんが勧めてくれて出ることにしました。ヤンバルクイナは絶滅危惧種ですが、県内では交通事故死するものが多いことが社会問題になっています。ヤンバルクイナが減っていていなくなっちゃうのは嫌だったので、ヤンバルクイナについて何かできないかな?と考え、このアイデアを思いつきました。製作期間は夏休み、1ヶ月くらいで作りました。ファイナリストに選ばれて嬉しかったです」と話している。

小川りりかさん(11歳)は、お父さんの勧めでコンテストに参加したそうだ

プログラミングは幼稚園の頃に始めたそうで、「将来は皆を助けることができるAIを作りたいです」という展望をもっている。

今回のコンテストはGoogleとして初めての取り組みだったが、優秀な作品が多数集まったことから、来年にも同様のコンテストを開催することを予定しているそうだ。ファイナリストの子どもたちも、プログラミングは以前から取り組んでいる子ばかりだったが、AIプログラミングは「今回が初めて」という答えがほとんど。どの子どもたちもTeachable Machineを使って、身近な問題の課題解決に活かしている点が印象的で、このコンテストの経験を通して、将来は社会の問題を変えていける大人に成長してほしい。

三浦優子

日本大学芸術学部映画学科卒業。2年間同校に勤務後、1990年、株式会社コンピュータ・ニュース社(現・株式会社BCN)に記者として勤務。2003年、同社を退社し、フリーランスライターに。PC Watch、クラウド WatchをはじめIT系媒体で執筆活動を行っている。