こどもとIT

SDGs×プログラミング!日本の女子中高生100人がハッカソンに集う

――「iamtheCODE Hackathon」レポート

女子中高生など10代の女性を対象にした『世界的SDGs×女性のプログラミング教育推進運動「iamtheCODE Hackathon」』が、11月9日(土)、10日(日)の2日間にわたり開催された。一般社団法人Waffle(以下Waffle)、特定非営利活動法人みんなのコード(以下みんなのコード)、アフリカの非営利団体iamtheCODE(アイアム・ザ・コード)が協働して開催した本イベント、会場の日本オラクル社には100名の参加者が集い、SDGsの示す開発目標をテクノロジーの力で実現する発想を磨きあった。

おそろいのブルーのTシャツの参加者が100名、運営・メンターなどのスタッフを含めて150名が集った(写真提供:Waffle)

アフリカ発iamtheCODEの創設者によるハッカソン

ハッカソンは、今回来日したiamtheCODEのFounderであるMariéme Jamme(マリエム・ジャメ)氏が英語で進行した。

iamtheCODEは、アフリカをはじめとする世界中の女性や少女たちがSTEAMD(Science, Technology, Engineering, Arts, Mathematics, and Design)教育を受け、力をつけられるように、様々な支援をしている。2030年までに世界中の100万人の若い女性たちをコーダー(プログラマー)にすることをゴールにかかげていて、このハッカソンもiamtheCODEのプログラムの一つだ。協働で主催するWaffleはテクノロジー分野のジェンダーギャップを埋めることをミッションとし、みんなのコードは若年層のプログラミング教育を推進しており、iamtheCODEとの親和性が高い。

ファシリテートするJamme氏

SDGs(Sustainable Development Goals)というのは、2015年9月の国連サミットで採択された2016年から2030年までの国際開発目標のことで、開発途上国だけでなく先進国を含む全ての国が取り組むべきユニバーサルな目標として示されている。参加者は1日目にSDGsの基本的な学びと意見交換で理解を深めたあと、SDGsの開発目標を実現するプロダクトを開発することになった。

特にSDGsが示す17のゴールのうち、「4.教育(質の高い教育をみんなに)」「13.気候変動(気候変動に具体的な対策を)」「9.インフラ、産業化、イノベーション(産業と技術革新の基盤をつくろう)」「5.ジェンダー(ジェンダー平等を実現しよう)」などを扱うことや、世界中で利用できることなどが条件として示された。

参加者がメンターを選ぶというユニークな方法でグループ分けがされ、5つのチームに分かれて意見交換がスタートした。

機能やデザインを決めてプロトタイプ作り

2日目は各チームごとにアイディアを具体的な機能やデザインに落とし込み、プロトタイプ作りに取り組んだ。自然とリーダーとなる参加者が中心となり、1つのアイディアにどんどんまとめていっているチームもあれば、メンバーの意見をもう一度ていねいに出し合い、時間をかけているチームもある。各チームにはメンターがついているが、その関わり方も、見守りが中心のチームもあれば、どちらかというとメンターが要所でまとめ役を担っている様子のチームもある。

積極的に意見交換をする参加者たち

機能が固まったら、発表のためにプロトタイプを作る。どんなレベルのプロトタイプを作るかはチームに任されている。粘土や模造紙、マジックといったアナログなツールがひと通り用意され自由に使えるようになっているし、技能と時間があればパソコンでプロトタイプになるレベルのものを作っても構わない。今回はその技術面に重点が置かれたわけではなく時間も限られていたため、どのチームもパソコンで作成したスライドやアナログな手法で機能等を説明してプロトタイプを示していた。

細かい機能や、材料の調達に必要な調査など、細部まで検討している様子がわかる

各チーム、プロトタイプと並行してプレゼンの準備をするグループを分けるなど、分業して進めていく。機器の扱いに慣れている参加者が、個人のスマートフォンや個人所有の持ち込みパソコンをどんどん使って自由に作業を進める様子が印象的だ。

日本の学校現場では、パソコンなどのICT機器が学習に十分活用されていないことが指摘されたり、スマートフォンの校内への持ち込みの是非などが話題になることが多い。しかしこのハッカソンでは当然、機器の持ち込みは自由なので、彼女たちは、ごく当たり前に思考や調査やまとめの道具としてパソコンやスマートフォンを駆使していた。参加者の中には普段パソコンを使わない人もいただろうが、同じ年代の人が、学習のために機器を使いこなす様子を目の前で見ることは、きっといい刺激になっただろう。

部屋の各所に分かれて作業を進める、パソコンを使ったり粘土を使ったり実現方法はさまざまだ

学習用組み立てコンピューター「KANO」の体験

プロトタイプのアイディアを実際にプログラミングで形にすることは、基礎知識も十分な経験も必要なので、今回のハッカソンではそこにまで至らなかったが、テクノロジーやプログラミングへの理解を深めるために、学習用のコンピューター「KANO」が活用された。

KANOはRaspberry Piを使ったコンピューターキットで、簡単な組み立て工程でタブレット型の画面を持つコンピューターを作ることができる。デザインが洗練されていて扱いやすく、子ども向けのプログラミング学習アプリケーションが多数搭載されているのが特徴的だ。

KANOのコンピューターキット

1日目にはチームごとにKANOの組み立てをして、コンピューターの基本的な構造を体感し、2日目にはKANOのプログラミング学習アプリを使って数名がプログラミングの体験をした。

プログラミングを体験している様子

参加者達がおそろいのTシャツを来て車座になっている姿からは想像がつきにくいが、参加した女子中高生たちのバックグラウンドはさまざまで、ここで初めて出会った人同士が多い。個別に聞いてみると、年齢はもちろん、学校も参加のきっかけも異なる。興味もSDGsが中心の人もいればプログラミングが中心という人もいた。また、初めて会った仲間とすぐに打ち解けられる人もいれば、関係を築くのに時間のかかる人もいただろう。

チームごとのプレゼンテーションで様々なアイディアが飛び出す

昼食をはさんで準備を続け、いよいよチームごとにプロトタイプの発表が行われた。各チームがオリジナルのアイディアを発表していく。

どのチームもSDGsの「4.教育(質の高い教育をみんなに)」を対応課題の中心に据えたが、教育の課題を解決する手段は様々だ。例えば、学習教材を映像や音声等で提供する機能を持つプロダクトを考えたチームもあれば、農作業支援のプロダクトを開発して、まず子どもが農作業を手伝う時間を減らすというアプローチをしたチームもある。ほかにも、プロダクトではなく教育のための施設を作るというチームもあった。また、開発や制作に伴う雇用の創出やリサイクル材料を使うことなどに言及して、教育以外の課題を同時にクリアしようとする視点も見られた。

プレゼンのスタイルも様々で、自分たちで作ったスライドを使った発表もあれば、模造紙を中心にプレゼンテーションをしたチームもある。積極的にできるだけ英語で発表をしたり、寸劇を入れたり、説得力を出すために統計データを紹介したりと、チームごとに工夫が見えた。

さまざまなプレゼンの様子

審査を経て、優勝チームが選ばれはしたが、どのチームも世界の大きな課題を解決するためのプロダクトを考え上げ、独自のアイディアを展開したことについて、Jamme氏はもちろん審査員各氏が高く評価し、称賛が送られた。壮大なアイディアも、運用面や技術的にすぐには実現が難しいアイディアも含まれてはいるが、このハッカソンでは問題ではない。2日という短い時間で、初めて出会ったメンバーがそれぞれの思いを表に出し、チームで一つのアイディアにまとめあげた過程に意味と価値があった。

審査員はみんなのコード代表の利根川裕太氏らが務めた
講評を聞く参加者たち

興味深かったのは、複数のチームが「スマートフォンとの差別化」に悩んだ様子だったことだ。ここ数年でスマートフォンでできることは格段に増え、「たいていのことがスマホで済んでしまう」という利便性のど真ん中に彼女達はいる。「なぜスマホではなく、わざわざこのプロダクトが必要なのか」という問いを繰り返してアイディアを練ったことは、技術に興味を持ったり、世界中の異なる環境に想像力を働かせる大きなきっかけになったはずだ。

Jamme氏から見た、日本の女子中高生の印象は?

iamtheCODEを立ち上げてからすでに66カ国でプログラムを実施してきたというJamme氏に、日本の女子中高生たちの印象を聞いてみると、「日本の女の子達は、自信がなく、意見を表面したり周りとコラボレートすることを怖れているように見えます」と表現した。一方で、その傾向をすぐに変えることは難しくとも、世界で起きていることをもっと知ることが、彼女たちが自らをよりオープンに表現するきっかけになるとも指摘する。

仮に、日本のカルチャーでは「控えめ」「謙虚」と捉えられるような態度であったとしても、世界標準で見れば、「自信のなさ」や「コラボレーション力の低さ」に映ってしまう可能性があることを、男女、年齢に関わらず大人も含めて改めて意識する必要がありそうだ。

議論や発想の「安全地帯」は学びの重要な環境

2日目の始めにJamme氏はメディテーションの時間をとり、「みなさんは、smart(かしこく)、beautiful(美しく)、strong(力がある)」「Believe in your power(自分の力を信じて)」など、内面に訴える言葉を静かに重ねた。そこにはJamme氏の、「もっと安心して自分を出して欲しい」という思いが込められていたのだろう。同じく2日目の始めに、WaffleのCo-founderである斎藤明日美氏が「『意識高い系』と言われることを怖れないでください。ここは真剣な思いを受け止める安全なコミュニティです」と語ったのも印象的だ。

真面目に身近な社会や世の中を変えようとする態度を「意識高い」などと揶揄する人は必ず一定数存在する。「控えめ」な態度の理由はそれらのノイズへの防衛反応であることも多いはずだ。揶揄するようなつまらぬ声に邪魔されることなく、意見を交わすことのできる安全な場が今回のハッカソンだったのだろう。

否定されることのない安心感の中で、思い切り自分の意見をオープンにする経験を重ねることが、Jamme氏の言う自信のある態度へと自然とつながっていく。問題解決の基礎体力をつける大切な学びの時期を過ごす若い人たちに、「安全な議論の場」が担保されることは、何よりも大切なことかもしれない。

同時に、社会を変えようとするには、強い気持ちを持つことや見識を広げることが必要だ。Waffle代表の田中沙弥果氏は、「自分が解決したいことを形にするには、パッションを持つこと、仲間を見つけること、行動を起こし続けることが大切です」と語りかけた。Jamme氏は、「今回のハッカソンを通して、みなさんはeducated(学びを得ること)、transformed(変化すること)、informed(知識を得ること)ができましたか?」と呼びかけ、確認した。

iamtheCODE Founder Mariéme Jamme氏(左)とWaffle Founder 田中沙弥果氏(右)(写真提供:Waffle)

ほんの2日間とはいえ、このハッカソンで考えアクションを起こしたことは、参加した女子中高生達の内面に小さな変化のきっかけを作ったはずだ。これからも家や学校を飛び出し、このような経験ができる場をたくさん利用して、自分の力を伸ばしていって欲しい。

帰り際にJamme氏を囲んで。皆打ち解けて晴れやかな表情なのが印象的

狩野さやか

株式会社Studio947のデザイナー・ライター。ウェブサイトやアプリのデザイン・制作、技術書籍の執筆に携わる。自社で「知りたい!プログラミングツール図鑑」「ICT toolbox」を運営し、子ども向けプログラミングやICT教育について情報発信している。