EdTechが変える教育の未来

料理研究家 行正り香氏が語る、EdTech(エドテック)のサービスを立ち上げた理由(わけ)

世界各国で「創造性」「課題解決力」「科学技術」を重視した教育改革が進み、さまざまなEdTech(エドテック、Education x Technology)の教育現場への実装が進んでいる。国内では、経産省主導のもと『「未来の教室」とEdTech研究会』が設置され、先日最終報告回を終了した。今まさに、これからの日本の学び方はどのように変わるべきか、が問われるタイミングといえる。本連載では、同研究会の座長代理を務めた佐藤昌宏氏(デジタルハリウッド大学大学院教授)のご協力により、著書「EdTechが変える教育の未来」(インプレス刊、以下本書)よりEdTechキーパーソンのインタビューを5回にわたって掲載する。

第1回 デジタルハリウッド大学大学院教授 佐藤昌宏氏(10月26日公開)
第2回 デジタルハリウッド大学学長 杉山知之氏(10月26日公開)
第3回 料理研究家 行正り香氏(11月2日公開)
第4回 ソニー・グローバルエデュケーション代表取締役社長 礒津正明氏(11月9日公開)
第5回 世界最高齢のプログラマー 若宮正子氏(11月16日公開)

「エドテックで起きていることを、もっと発信したい」

そんな想いをずっと持っていた私ですが、なかなか形にできずにいました。そんなときに背中を押してくれたのが、料理研究家で自身でもエドテックのサービスを立ち上げた行正り香さんです。行正さんとエドテックについて語りました。

行正り香(ゆきまさりか)。1966年、福岡県生まれ。カリフォルニア大学バークレー校卒後、電通でCMプロデューサーとして活躍し、在職中から料理本を出版。NHKワールドにて英語料理のホスト、アクティブラーニング教材「カラオケ! English」、キッズ無料サイト「なるほど! エージェント」などを手がける株式会社REKIDS代表。主な著書に『19時から作るごはん』(講談社)、『行正り香のインテリア』(講談社)、『ビリからはじめる英語術』(新泉社)など。新橋ではステーキハウスFood/Daysを運営する。

テクノロジーは使わないともったいない

佐藤 この書籍を書こうと思ったきっかけは、実は行正さんだったんですよね。以前からエドテックの情報を発信したいなと思っていたんですが、なかなか形にすることができなくて。そんな時にオンライン英語学習「カラオケ! English」を立ち上げた行正さんと知り合って。「エドテックの情報をもっと世の中に発信していきましょうよ」って言ってくれて、背中を押されましたね。

行正さんが立ち上げたオンライン英語学習サービス「カラオケEnglish」。英文法の例文を声に出す練習を繰り返すことで、発音と文法を体で覚えられる

行正 今から思うと、懐かしいお話ですね。私は料理や英語の仕事を通して、お母さんたちとよく関わるんだけど、エドテックの分野で語られていることも、もっとみんなに伝えたいなって思ったんです。今は子どもたちの学び方も選択肢がどんどん増えて、価値観も変わってきていますよって。

佐藤 そうだよね。知らない人に知ってもらうことって大事だと思う。そもそも行正さんは、どうしてエドテックに興味をもったの?

行正 私、高校生の時にアメリカに留学することになって、そこから英語を猛勉強したんです。当時は英会話教室も今ほどなかったから、辞書で単語を調べて、自分の声を録音して発音を確かめて、全くの自己流でしたね。

佐藤 自分の声を使って勉強したんだ。独特だね。

行正 ところが今、自分の子どもに教えようとしたら、動画もあるし、単語を調べるのも楽で、すごくセルフラーニングがしやすいじゃないですか。これは使わないともったいない! それが教育とテクノロジーに興味を持ったきっかけですね。

佐藤 行正さんは英語は得意だったの?

行正 トンデモナイ(笑)!! 高校まで福岡にいたのですが、勉強は落ちこぼれでしたよ。でも、ある英語の先生に「あなたは文法もできないし、テストも赤点ばっかりだけど、発音だけはいいわね」と褒められたことがあって。私はその時、アバの曲が好きでダンシング・クィーンとか歌っていただけなんですけどね。

佐藤 え、じゃあむしろ苦手だったんだ。

行正 そうそう、得意だった科目は一つもありません。でも英語は発音が褒められた。その後、進学するか、就職するかというタイミングで、父から「半径5キロ以内で一番になるものを仕事にしなさい」と言われて、発音だったら自信がある、留学してから英語を仕事にしようって思ったんです。

「好きなもの」より「マシなもの」

佐藤 それがなぜ、料理研究家に?

行正 今思うと、留学先のホストファミリーのお父さんがすごくビジョナリストだったんです。「誰でも行ける短大があるから、ウチに住んで学校に通ったらどうだ? 教養は未来を救うよ」って勧めてくれて。それで、料理と掃除の仕事をする代わりに、タダで住まわせてもらうことができたんです。短大では、人生をかけて本当にがんばって勉強しました。成績もほぼオールAをとって、大学に編入できたんです。

佐藤 なるほど、波乱万丈なストーリーだね。料理もその時鍛えたんだ。面白いのは、先生に「発音だけはいい」って褒められたことが行正さんの人生を変えたってことだよね。よく「好きなことを仕事にしよう」っていうけど、それが上手くいったんだね。

行正 人生を左右するような「好きなこと」を見つけるのって、なかなか難しいですよね。だから「マシなもの」を探すのがいいと思います。私、父に「マシなものは何だ?」と言われたことが自分の未来の仕事を考えるキッカケとなりました。好きなものより、マシなものは見つけやすい。

佐藤 「マシなもの」それいいね。マシなものを探している中で、少しずつ承認されて、強みにつながっていけばいいと思う。

考えることを大事にしたい

佐藤 それにしても、行正さんは、よくエドテックで起業しようと思ったよね。その理由は何だったの?

行正 起業しようと思ったのは、自分の子どもを持って、教育をデザインすることが必要だなと思ったからです。今の子どもたちはプログラミングやITリテラシーなど、新しく学ばなければならない内容が増えたけど、そのために時間を増やすことはできないですよね。だとしたら、基礎的な内容をテクノロジーで効率的に学べるようにすれば、空いた時間を使って新しい教養が学べると思ったんです。

佐藤 なるほど。起業にあたって、参考にしたサービスとかあります?

行正 参考にしたのは、アメリカでエドテックの老舗と言われている「BrainPOP(ブレインポップ)」ですね。本当に良くできていて、一方的に教えるのではなくて、興味を持たせることを大事にしているのがいいなと思ったんです。

佐藤 僕も、BrainPOPの仕組みは良くできていると思います。

「BrainPOP(ブレインポップ)」は1999年に設立されたオンライン教育コンテンツ。家庭学習やホームスクールなどのツールとして世界中で広く利用されている

行正 例えば、歴史のコンテンツでも一方的に知識を与えるのではなく「第2次世界大戦はなぜ起こったのか」を考えさせる仕組みになっているんですよね。それに、大戦で勝ったのはアメリカだけど、負けた国はこんな風に言ってるよ、と物事を多面的に見られるようになっているのもいいと思いました。

佐藤 教科書に載っていないことも学べるんだね。

行正 ええ。しかも、全てのコンテンツがアニメーションでできていて、楽しく学べる。エデュケーションとエンターテインメントを足した「エデュテインメント」という言葉がありますが、「カラオケEnglish」を作ったときも、どうやったら楽しく学べるかを、そして続けられるかを強く意識しました。

スマートフォン1台で自分の世界が変わる

佐藤 テクノロジーを使うと、本当に多様な学びを提供できるようになってきましたね。ところが、日本の教育現場ってテクノロジーの活用は遅れているし、教科を横断的に学べないことも課題だと僕は思う。

行正 私は自分の仕事の分野が横断、越境していますが、越境=不可欠な変化だと捉えています。時代も自分の置かれた状況も変化するならば、学びの内容も学び方も越境していく必要があると思います。時代の流れや状況、学びの内容が世の中の役に立つかどうかなど、自然に越境できるんじゃないかな。

佐藤 僕は、自分の世界を広げたい時に、エドテックがひとつの選択肢となればいいと思っているんです。学校に通わないと必要な知識や学びが手に入らないと諦めてしまわずに「スマートフォン1台で自分の学びを変えられる」ってことを知ってほしい。

行正 本当にそうですね。テクノロジーで何ができるのかを知っていれば、それだけで自分のアイデアを広げていくことができるし、チャンスだって多く得られます。どんな職業につくとしても英語とITリテラシーは必要で、それを学校や社会に任せるのではなく、保護者が学びをサポートしていけるようになるといいですね。

(本書P.90~98より、Web掲載用に一部改変して転載)

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佐藤昌宏

1967年生まれ。1992年、日本電信電話株式会社(NTT)入社。主に経営企画業務に従事。1999年、無料ISPライブドアの立上げに参画。2002年、デジタルハリウッド株式会社執行役員に就任。日本初の株式会社立専門職大学院デジタルハリウッド大学大学院の設置を経験。同年、Eラーニング開発、人材育成コンサルティング事業を運営する株式会社グローナビを立ち上げ、代表取締役社長に就任。2009年より同大学院事務局長を経て、専任教授としてEdTechの研究実践および学生の指導にあたる。また2017年には一般社団法人教育イノベーション協議会を設立、代表理事に就任。教育に関する国の委員や全国の教育系起業家の育成にも関わる。