EdTechが変える教育の未来

デジタルハリウッド大学大学院教授 佐藤昌宏氏が語る、EdTech(エドテック)の本質

世界各国で「創造性」「課題解決力」「科学技術」を重視した教育改革が進み、さまざまなEdTech(エドテック、Education x Technology)の教育現場への実装が進んでいる。国内では、経産省主導のもと『「未来の教室」とEdTech研究会』が設置され、先日最終報告回を終了した。今まさに、これからの日本の学び方はどのように変わるべきか、が問われるタイミングといえる。本連載では、同研究会の座長代理を務めた佐藤昌宏氏(デジタルハリウッド大学大学院教授)のご協力により、著書「EdTechが変える教育の未来」(インプレス刊、以下本書)よりEdTechキーパーソンのインタビューを5回にわたって掲載する。

第1回 EdTechの本質(デジタルハリウッド大学大学院教授 佐藤昌宏氏)
第2回 教育が変わるために必要なこと(デジタルハリウッド大学学長 杉山知之氏)
第3回 EdTechのサービスを立ち上げた理由(料理研究家 行正り香氏)
第4回 ブロックチェーンは教育をどう変えるか?(ソニー・グローバルエデュケーション代表取締役社長 礒津正明氏)
第5回 人生100年時代に学び続ける原動力とは?(世界最高齢のプログラマー 若宮正子氏)

※【ブルーバックス×インプレス】講談社ブルーバックスとのコラボレーションにより、著者・佐藤氏のインタビュー『教育の既成概念を根本から変える「EdTech」の実力をご存知か』も公開中︕
デジタルハリウッド大学大学院教授 佐藤昌宏氏

みなさんは、「エドテック(EdTech)」という言葉を聞いたことがありますか? 最近は、メディアでも取り上げられるので、知っている方も多いことでしょう。

エドテックとは、Education(教育)と Technology(科学技術)を組み合わせた造語で、2010年頃にアメリカで生まれた言葉です。しかし、日本においては、数年前までほとんどの人に理解してもらえず、知っている人がいたとしてもバズワード(一時的な流行り言葉)だと思われていました。私が初めてテレビの経済番組に出演したときも、エドテックが「江戸テックじゃないですよ!」というジョークになったくらいです。

それが、今やエドテックを取り巻く環境は大きく変わりました。エドテックは今、政府が進める成長戦略に組み込まれ、文部科学省のみならず、経済産業省と総務省も動き出し、国会議員がエドテック推進議員連盟を立ち上げています。私は2009年頃から、デジタルハリウッド大学大学院でエドテックの研究や実践に取り組んできましたが、今日ほどエドテックに注目が集まったことはありませんでした。

しかし、その一方で、いったいどれだけの人が、「エドテック」の真意を理解しているだろうか、と疑問に思うことがあります。というのも、あまりにも多くの人が、エドテックはAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)、VR(仮想現実)など、最新テクノロジーを活用した教材やサービスだと思っているからです。もちろん、それらもエドテックに含まれていますが、それだけではありません。スマートフォンやコンピューターを用いたオンラインの動画講座もエドテックですし、自宅や勤務先など、場所を問わずにオンラインで学べる英会話教室も含まれます。

つまり、テクノロジーを用いてこれまでの教育や学び方を変えていくことが、エドテックの本質なのです。本書では、エドテックを「デジタルテクノロジーを活用した教育のイノベーション」と定義しています。今、こうした既存の学びや教育を変えるサービスが日本でも多く登場しており、私たちの学び方に変化をもたらしているのです。

EdTechとは?
エドテックが持つ言葉の意味。従来の教育の仕組みや精度、産業構造などに大きな変革を起こす(本書P.40より抜粋)

日本には未だに、昔ながらの教育を尊重する風潮が根強く残っています。例えば「英単語は書いて覚えるべき」、「教育にテクノロジーを使うと人間味がなくなる」といったものです。私が2004年にeラーニングの会社を起業した当時と変わっておらず、「教育はこうあるべき」という強い既成概念が、多くの教育現場、そして保護者の中にあります。伝統的な学びの価値観を全て否定するつもりはありませんが、テクノロジーが教育にもたらす新たな可能性と選択肢を知ることは、激動の時代を生きる私たちの人生をより豊かにすると私は信じています。この信念から、エドテックのことをもっと多くの人に知ってもらいたいと思い、本書を執筆しました。

この本を通じて、みなさんにお伝えしたいメッセージは二つです。

ひとつは、エドテックが持つ未来の可能性や多様な学びの選択肢を知ってほしい、ということです。エドテックの世界を知ることで、「今の学びってこんなに効率的で楽しく取り組めるんだ!」とこれまでの常識を見直す機会になるのではと思います。

もうひとつは、誰でも手軽に使えるようになったテクノロジーを使って、皆さんの周囲にイノベーションを起こしましょう、ということです。イノベーションといっても大仰なものではなく、身近なことを便利にしたり、課題を解決したりすることを指します。きっと、こんなに簡単なことなのかとワクワクすることでしょう。

みなさんの「学び」がもっと豊かになること、この書籍で多くの気付きが得られることを願っています。

(本書P.3~5より、Web掲載用に一部改変して転載)

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佐藤昌宏

1967年生まれ。1992年、日本電信電話株式会社(NTT)入社。主に経営企画業務に従事。1999年、無料ISPライブドアの立上げに参画。2002年、デジタルハリウッド株式会社執行役員に就任。日本初の株式会社立専門職大学院デジタルハリウッド大学大学院の設置を経験。同年、Eラーニング開発、人材育成コンサルティング事業を運営する株式会社グローナビを立ち上げ、代表取締役社長に就任。2009年より同大学院事務局長を経て、専任教授としてEdTechの研究実践および学生の指導にあたる。また2017年には一般社団法人教育イノベーション協議会を設立、代表理事に就任。教育に関する国の委員や全国の教育系起業家の育成にも関わる。