EdTechが変える教育の未来

デジタルハリウッド大学 学長 杉山知之氏が語る、教育が変わるために必要なこと

世界各国で「創造性」「課題解決力」「科学技術」を重視した教育改革が進み、さまざまなEdTech(エドテック、Education x Technology)の教育現場への実装が進んでいる。国内では、経産省主導のもと『「未来の教室」とEdTech研究会』が設置され、先日最終報告回を終了した。今まさに、これからの日本の学び方はどのように変わるべきか、が問われるタイミングといえる。本連載では、同研究会の座長代理を務めた佐藤昌宏氏(デジタルハリウッド大学大学院教授)のご協力により、著書「EdTechが変える教育の未来」(インプレス刊、以下本書)よりEdTechキーパーソンのインタビューを5回にわたって掲載する。

第1回 EdTechの本質(デジタルハリウッド大学大学院教授 佐藤昌宏氏)
第2回 教育が変わるために必要なこと(デジタルハリウッド大学学長 杉山知之氏)
第3回 EdTechのサービスを立ち上げた理由(料理研究家 行正り香氏)
第4回 ブロックチェーンは教育をどう変えるか?(ソニー・グローバルエデュケーション代表取締役社長 礒津正明氏)
第5回 人生100年時代に学び続ける原動力とは?(世界最高齢のプログラマー 若宮正子氏)

※【ブルーバックス×インプレス】講談社ブルーバックスとのコラボレーションにより、著者・佐藤氏のインタビューを11月22日公開予定!

デジタルハリウッド大学を設立した同大学学長の杉山知之氏は、インターネットやコンピューターが普及する前から、21世紀の時代を予見していた人物です。デジタルテクノロジーの黎明期を知る杉山氏に、なぜ今エドテックが必要であるのかを聞きます。

杉山知之(すぎやまともゆき)。1954年東京都生まれ。87年よりMITメディア・ラボ客員研究員として3年間活動。90年国際メディア研究財団・主任研究員、93年日本大学短期大学部専任講師を経て、94年10月デジタルハリウッド設立。2004年日本初の株式会社立「デジタルハリウッド大学院」を開学。翌年「デジタルハリウッド大学」を開学し、現在、同大学・大学院・スクールの学長を務めている。2011年9月、上海音楽学院(中国)との合作学部「デジタルメディア芸術学院」を設立、同学院の学院長に就任。2016年より「一般社団法人デザイン&テクノロジー協会」理事長。

――デジタルハリウッドが開校したのは1994年。インターネットやウィンドウズ95よりも前の時代です。なぜこのような学校を創ろうと思われたのですか。

私は87年から90年まで、MITメディア・ラボに客員研究員として所属していました。ですが、最初の2週間で「21世紀はコンピューターによって大変な時代になる」と思いました。それまでのコンピューターは、人間が作り上げてきた世界観や見方の置き換えでした。でもMITの研究を目の当たりにして、今後はコンピューターが人間の能力を拡張し、ネットワークとつながることで世界が大きく変わると感じました。

――カルチャーショックを受けたのですね。

はい。それと同時に、人間は一人一人が強くならないといけないという危機意識を持ちました。そのために学校を作ろうと思ったのです。21世紀を生き抜くためには、自分の言いたいことをコンピューターで表現できなくてはならない。今だと「ITリテラシー」と呼びますが、当時から「読み・書き・コンピューター」が今後の必須スキルになると考えていました。デジタルハリウッドは最初、社会人対象の学校だったのでまずは仕事やスキルにつながるものとしてCG(コンピューターグラフィックス)を教えました。近い将来、ゲームコンテンツが産業として隆盛になると予想していたんです。

――3D格闘ゲームの「バーチャファイター」が登場したのが1993年、翌年にはソニーのプレイステーション、セガのセガサターンが発売されました。

読者の方の中には、当時夢中になって遊んだ方も多いのではないでしょうか。ただ、私の中では最終ゴールはコンピューターを使う専門職の育成ではなく、ITスキルを持った人が全ての産業にいる世界をイメージしていました。同時に、そのような世界が来るのは、当時30歳だった学生たちの子どもの世代ではないかとも思っていました。だから気長に、長期ビジョンを持ってやってきましたね。

――それから20年が経ち、杉山さんのおっしゃる子どもの世代になりました。デジタルハリウッドでの学びはどのように変わりましたか。

設立当時は「CGの大学」というイメージが強かったのですが、現在は留学生をはじめ多様な学生が集まるようになり、あらゆるデジタルテクノロジーが学べる場へと進化しました。以前は入学したい、というと保護者や高校の先生に反対されたそうですが(笑)、最近は反対に勧められて来た学生も多くなりました。起業する学生も増えて、大学発ベンチャー創出数では国内10位に入りました。私立大学に限れば早稲田大学に次いで2位なのです。

平成28年度大学発ベンチャー創出数
順位大学名創出数
1東京大学216
2京都大学97
3筑波大学76
3大阪大学76
5九州大学70
6早稲田大学62
7東北大学53
8東京工業大学50
9北海道大学48
10デジタルハリウッド大学43
11慶應義塾大学42
12九州産業大学38
12名古屋大学38
12広島大学38
15龍谷大学36

平成28年度大学発ベンチャー調査 調査結果概要(2017年4月 経済産業省 産業技術環境局 ⼤学連携推進室 作成)より抜粋

――杉山さんから見て、今の学生はどのような印象ですか。

彼らは「ググる」という言葉の通り、小さい頃からインターネットで調べるクセがついているので、興味のあることを探すのは非常に上手いなと思います。それに気付いたのは7〜8年前でした。私たちが大学で教えるよりも、はるかにレベルが高い映像を作る学生がいたんです。どうやって学んだか聞くと、「こんなのはユーチューブでいくらでも見られる」と言うじゃないですか。その学生は、海外の映像のプロが公開していたユーチューブを見ながら学んだそうで、やる気になればいくらでも学べてしまう時代になったと感じました。

――調べるのも早ければ、吸収するのも早いんですね。

一方で、興味のあることについては詳しいけど、それ以外のことはあまり知らないという学生も多いですね。だから、大学では一般的な教養を非常に重視しています。

――学びをテクノロジーが助けるエドテックについては、どのように思われていますか。

100パーセント賛成です。ただし、選択肢が多いことが大切で、これが王道、というスタンダードを作らなくてもいいと思っています。教育はそれぞれ信じる人が、信じるやり方をできるように選択肢をたくさん並べておけばいい。テクノロジーは個人に合ったソリューションを提供できるのがメリットなので、自分のペースで学習できることを大切にしていけばいいんじゃないかな。

学習に対するモチベーションも、テクノロジーではカバーできないっていう人がいますが、私はポジティブに考えています。それには、エンターテイメントが大切で、教育にもその要素を応用することができればいいと思います。

――エンターテインメントですか。

そう。例えばなぜ、子どもたちはあんなにもゲームを飽きずにやるのか。そこには子どもたちを惹きつける何らかの「仕組み」があるんですよ。しかも、競争が好きな子にはその世界、そうじゃない子には別の世界という具合に、エンターテイメントはバリエーションが豊富です。教育が排除しなければ、いろいろとやり方はあると思うんですよ。

――教育が変わるためには、何が必要だと思いますか。

僕らが子どもの頃、日本は諸外国に追いつけ追い越せでした。でも日本もすっかり成熟して、条例や仕組みも細かく作られて。そのルールの中にいると、守られている気がして安心なんですよね。だから、「このままで何がいけないの?」って多くの人は思っている。教育も社会の仕組みも、今までと同じ方が安心できるんですよね。でもね、そんな小ぢんまりしたことでいいのかな、って思う。日本は大丈夫かな、というよりは、全体がそんな風に小さくまとまってしまったら、結局一人一人の生活レベルが向上しないままになる。気付いたときには、解決策がなくなっている。それを心配しているんです。

――恐ろしいですね。

でしょう? 僕はね、人間は自由でいることが一番大切だと思っています。自由っていうのは、どんな選択肢も自分で選べるということ。今の時代は、本当に自由であろうとすると、相当な実力がないとできない。デジタルスキルを身に付けるということは、その実力が自分のものになるということです。自立のための必須スキルなんですよ。組織に属さなくても自分にはできることがある、そういう人間を育てていきたいですね。

(本書P.50~56より、Web掲載用に一部改変して転載)

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佐藤昌宏

1967年生まれ。1992年、日本電信電話株式会社(NTT)入社。主に経営企画業務に従事。1999年、無料ISPライブドアの立上げに参画。2002年、デジタルハリウッド株式会社執行役員に就任。日本初の株式会社立専門職大学院デジタルハリウッド大学大学院の設置を経験。同年、Eラーニング開発、人材育成コンサルティング事業を運営する株式会社グローナビを立ち上げ、代表取締役社長に就任。2009年より同大学院事務局長を経て、専任教授としてEdTechの研究実践および学生の指導にあたる。また2017年には一般社団法人教育イノベーション協議会を設立、代表理事に就任。教育に関する国の委員や全国の教育系起業家の育成にも関わる。