Watch+
「一緒に人類の未来を変えよう」 孫氏の「右腕」が見たソフトバンクが面白い
2026年10月31日 08:45
Impress Watchニュースレターに掲載した記事です。ニュースレターは無料で、毎週編集部員が会員向けのコラムなどをお送りしています。登録はこちらから。
「一緒に人類の未来を変えましょう」「人々を幸せにしたい」
こんな言葉が口癖な人がいたらどう思いますか? 「私はピュアでいい人そう」と思いながらも「ちょっと怪しいかな」とも思ってしまいます。
これが口癖な人が孫正義氏です。言わずと知れたソフトバンクグループCEOで、日本を代表する起業家、世界的な投資家です。
その孫氏の「右腕」だった、アロック・サーマ氏が書いた本が「右腕が見た孫正義『クレイジー』が世界を変える瞬間」です。この本がかなり面白かったので、唐突に紹介したいと思います。
サーマ氏は、ソフトバンクグループインターナショナルの元社長兼CFO。インドに生まれ、ペンシルベニア大学ウォートン校でMBAを取得し、投資銀行のモルガン・スタンレーのマネージング・ディレクターを務めたあと、ソフトバンクグループに入社した人物です。孫氏がかつて「後継者」として招聘したニケシュ・アローラ氏(現パロアルトネットワークスCEO)の友人で、アローラ氏に請われて入社したという流れです。
アローラ氏の天才性と孫氏のピュア? な魅力に惹かれてソフトバンクやビジョンファンドを担ったサーマ氏の視点から、ソフトバンクが手掛けた大型買収、Armの買収やSprint(スプリント)とT-Tobileの合併、Supercellの売却、クーパンへの出資、アリババ株の売却などが語られます。
成功した取引だけでなく、大失敗に終わったWeWorkへの出資なども本当のエグゼクティブの視点から語られるのが新鮮です。外部からはうかがい知ることができない、こうした大型案件について、彼らの中でどのような思考で投資が行なわれてきたかが追体験できます。
こうした大型ディールの背景に興味をお持ちの人にはオススメできる本だと思います。
正直、アローラ氏を孫氏が「切った」背景や、その際にあったイザコザなどの「ゴシップ」にも期待して購入しました。確かにそういう要素も出てくるのですが、「こうだった」という結論を出すのではなく、あくまでディールや人間関係を紹介するに留めています。どうやって人を、企業を、社会を動かすのか。そした様々なコミュニケーションが投資家の目線で、密度濃く紹介しているのがこの本の面白さだと感じました。
個人的に印象に残ったエピソードは、思い出せる限りだとこんな感じです。
- 汐留での孫氏との初めての出会い
- 孫氏の周囲を固めるスタッフとのコミュニケーション
- メディアを使った社内政治の激化
- アローラ氏とサーマ氏の信頼関係の構築
- アーム買収を巡る投資銀行の動きと政府への働きかけ
- なんでDiDiに投資しているのにUberにも投資しちゃうのか問題
- Sprintの合併など、政権交代の影響
それぞれのエピソードが面白いので、ソフトバンクを観察してきた人であれば、確実に楽しめると思います。
この中に、孫氏自身の言葉はそれほど出てこないのですが、サーマ氏のように身近な人から見た孫正義から、その実像が浮かび上がってくるように感じられます。
加えて、スパイ小説のような引き込まれるプロローグや、音楽や映画を引用した小見出しなど、ビジネスの世界を生き抜いてきたエグゼクティブらしからぬ「読ませる」「気になる」文章力も印象に残りました。
ビジネス系のエグゼクティブによる本では、本人に聞き取りながらライターが書く形の本も多い(それ自体は正しいやり方です)のですが、本書は節々に本人のこだわりや、人生観が滲んでいるようにも感じました。
なぜこれほど「読ませる」文章が書けるのか。その答えは本書の最後に明かされ、「なるほどな」と膝を打ちました。大企業のエグゼクティブというと、自分とは縁遠く、「雲の上の人」のように思えますが、本書を読み終えるとサーマ氏が身近に感じられました。


