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小柄な自分に合ったワークチェアが欲しい! 正しい姿勢とフィッティングのコツ

服は自分の体型に合ったサイズのものを選ぶのが当たり前ですが、ワークチェアだとそれが難しいことがあります。その理由は、一般的なワークチェアは男性の平均身長・体重を基準に作られていることが多いから。2019年の「国民健康・栄養調査」によると、30代の男性の平均身長は171.5cmなので、筆者の身長である150cmとは20cm以上もの開きがあります。女性や、小柄な男性の方が「自分に合ったワークチェアがない」と感じるのは、必然的なことなのです。

とはいえ、今やワーカーの半数は女性です。コロナ禍以降は、在宅ワークの機会も増え、オフィスでは難しくとも、せめて家では自分にピッタリ合うワークチェアが欲しい、と思っている方も多いのではないでしょうか。

小柄でも自分に合うワークチェアをあきらめたくない! という思いを胸に、訪れたのは高機能ワークチェアのセレクトショップ「ワーカホリック」。チェア選びのスペシャリストである伊藤僚範さんに、相談にのっていただきました。

ワーカホリックの伊藤僚範さん

伊藤さんによると、「コロナ以前は、当店でもパソコンが好きだったり、IT系のお仕事をされているお客様の来店が多かったのですが、最近は男性も女性も比率的には変わらないくらいです」とのこと。

小柄な人のよくある悩みは? と聞いてみると、「一番多いのは、サイズが合わないということ」だそう。とはいえ、専門家ではない一般の方にとって、どこがどう合っていない、と自分で説明することは難しいもの。チェア選びの際に、チェックすべき重要なポイントを詳しくうかがいました。

そもそも、理想の姿勢、正しい姿勢とは?

と、その前に、そもそも理想の姿勢、正しい姿勢とはどのような状態なのでしょう? 女性の場合「いい姿勢を!」と言われると、座面に浅く腰かけて、背もたれを使わずに骨盤を立ててピシッと座ってしまいがちではないでしょうか。かくいう筆者もその一人です。

しかし、それを見た伊藤さんがすかさず「その状態で何時間も座っていられますか?」とひとこと。うぅ、絶対無理です……。「記念写真の撮影など、短時間ならその座り方でも良いと思います。ただ、デスクワークの場合は長時間座って作業することになりますので、長くキープできて体に負担が少ないのが良い姿勢です」とのこと。

よくあるダメな姿勢は、猫背です。特にノートパソコンを使うと、画面が低いので前のめりになりがち。重い頭が前に出ると、それを支える首、肩、背中のすべてに負担がかかります。また、お尻を前にずらし浅く腰かけて、背もたれに寄りかかるのもNG。骨盤が後傾し、腰を傷める原因になってしまいます。

よくあるダメな姿勢。頭が前に出て猫背になっている

最も重要なポイントは、重量がある頭の位置です。「腰をしっかり座面の奥まで入れて深く腰かけ、背もたれに軽く寄りかかったときに、背骨が自然なS字カーブを描き、骨盤と肩、頭の位置が垂直線上に並ぶのが理想」とのこと。

もうひとつのポイントは下半身。「ひざの角度を約90度にして、ひざと股関節を結ぶ線が床と平行になるようにします。このとき、座面の前側と太ももの間に、うっすら指が入るくらいのゆとりがあるとベストです」。太ももの裏側が圧迫される状態だと、不快感や脚の痺れ、むくみにもつながるとのことなので、気をつけましょう。

最後のポイントは、腕の位置です。ひじは窮屈さを感じない程度に、自然に体の横に沿わせます。ひじの角度も、約90度が目安。この状態で、キーボードやマウスに無理なく手が届くのが理想です。

身体への負担が少ない良い姿勢

やってみよう、フィッティング!

以上のポイントをふまえて、実際に伊藤さんにワークチェアのフィッティングをしていただきました。理想の姿勢やフィッティングの流れは体格に関わらず同じですが、小柄な人だと「特にここが合わないと感じやすい」ポイントがあります。そちらも教えていただいたので、ご自身で試座やフィッティングを行なう際の参考になれば幸いです。

準備

  • ワークチェアと合わせて使うデスクの、天板の上面までの高さを確認する。一般的なワークデスクは、70cm、72cmのものが多い(ダイニングテーブルだともっと高いこともある)。お店で試座する場合は、自宅と同じ高さのデスクと合わせるようにする。
  • 靴を脱ぐ。自宅では裸足や靴下で過ごす方が多いはず。靴のまま試座してしまうと、靴底やヒールの厚みが誤差になる。そのため、靴を脱ぐか、薄いスリッパ等に履き替えるのが望ましい。
  • 座面とアームレストを最も低い状態まで下げておく。

ステップ(1) 背もたれと座面

座面と背もたれが合わさるL字の部分に、お尻がスッポリと収まるように深く腰かける。ちょっとお尻をつきだすようなイメージで腰かけると収まりやすい。背もたれに軽く体重をかけて、自然によりかかる。

お尻をしっかり奥まで入れて深く腰かけるのがポイント

チェックポイント
背もたれのカーブが、自分の背骨のS字カーブと合っているか確認する。小柄だと、腰の支え(ランバーサポート)の位置が合わなかったり、背もたれのフレームの上部が首や後頭部に当たってしまったりすることがあるので、違和感がないか確認する。

次に、座面の奥行きが合っているかをチェックする。深く腰かけた状態で、座面の前側のフチがふくらはぎに当たってしまうようなチェアは、残念ながら大きすぎ。ふくらはぎと座面の前端との間に指1〜2本分くらいのゆとりがあると良いのだそう。

座面のクッション性をたしかめる。小柄で体重が軽い場合、沈み込みが少ないので、特にメッシュの座面だとクッション性を感じにくいことも。骨が当たってゴリゴリする感じや、痛み、不快感がないかを確認する。

ステップ(2) アームレスト

肩の力を抜き、腕が体に沿って自然に下がった状態で、ひじを90度に曲げる。アームレストの上面がひじに沿うように高さを合わせる。アームレストの向きが調整できるチェアの場合は、軽くわきをしめた状態でひじが乗るように、アームレストを内側にもってくる。

アームレストの高さと向きをひじに合わせたところ

チェックポイント
高さが合うか? アームレストを充分に体に近づけられるか? をチェック。小柄な人の場合、アームレストがしっかり内側に入るチェアでないと、ひじが体から離れてしまいます。

アームレストが合わない場合、またそもそもアームレストがないチェアの場合は、デスクの天板に腕を乗せる方法で調整します。詳しくは、次のステップで。

ステップ(3) 座面の高さ

アームレストの上面と、デスクの天板の高さがそろうように座面を上げる。(余談ですが、筆者は今までいきなり座面の高さの調整からやっていました……。順番からして間違っていたんですね)

アームレストを使わない(あるいはない)場合は、体をグッとデスクに近づけて、ひじを90度に曲げた状態で天板にのるように高さを調整する。天板をアームレストの代替として使用するイメージです。このとき、肩が上がってしまわないように注意しましょう。

天板をアームレストの代わりに使う方法

チェックポイント
体を充分にデスクに引き寄せられるか、キーボードやマウスに手が届くかどうかを確認する。天板をアームレスト代わりにする場合は、チェアのアームレストを使うときよりもデスクに奥行きが必要になるため、自分のデスクに充分なスペースがあるかも考慮する必要があります。

ステップ(4) フットレスト(足置き)

ここまでのステップに沿ってフィッティングを進めると、小柄な人はほとんどの場合フットレスト(足置き)が必要になるはずです。太ももが床と平行になり、ひざが約90度に曲がる位置になるように、足の高さを調整します。このとき、つま先が自然な前上がりの状態になるように意識すると、腰の前すべりによる姿勢の崩れを防止できます。

フットレストを使って座面高すぎ問題を解消する

最後に、背もたれのリクライニングを画面が見やすい角度に微調整してフィッティングは完成です。

チェックポイント
座面の前側と太ももの裏側に、うっすらと指が入るくらいの余裕があるか。逆に、足が上がりすぎて、ひざや股関節が屈曲しすぎるのも血流の妨げになるのでNG。窮屈な感じがしないか、しっかり確認します。

太ももの裏のゆとりをチェック

天板に厚みがある、引き出しがあるといったケースでは、体を充分に引き寄せられないことも。天板の下側と太ももの間のスペースもしっかりチェックしておきましょう。また、足を組んだりあぐらをかいたりするクセがある人は、姿勢の変化に対応できる余裕があるかも試しておくと安心です。

正しいフィッティングで無重力感覚に!

こうしてプロに客観的に見ていただきながら完璧にフィッティングしたワークチェアは、体のどこにも負担がかからず、まるで宙に浮いているかのような無重力感覚! 永遠に仕事ができてしまいそうな心地よさでした。

ちなみに、フィッティングしていただいた時の感覚を元に、自宅のチェアを再調整してみたところ、それだけでも座り心地は格段に良くなりました。「これが理想の姿勢ですよ」というのをプロの技によって体感し、体に覚え込ませるのが大事なんだなと、改めて感じた次第です。

プロが選ぶ、小柄な人におすすめのワークチェア5選

自宅のワークチェアでこれなら、もっといいチェアがあればもっと快適になってしまうのでは!? ということで、ますます新しいワークチェアが欲しくなってきました。そこで、ワーカホリックが選ぶ、小柄な人におすすめのモデルを教えていただきます。

オカムラ「バロン」エクストラローバック

バロンのエクストラハイバック(左)とエクストラローバック(右)

小柄だと、ヘッドレストはどうせ合わないから、という理由でハナからあきらめている、という方が多いのではないかと思います(筆者もそうでした)。そんな方にぜひ試していただきたいのが、こちらのモデルです。

背もたれが低いローバックタイプに、ヘッドレストをプラスしたワーカホリックの別注品。今までどんなチェアでもヘッドレストが合った試しがない筆者にもピッタリでした。しっかり合うヘッドレストがあると、首への負担の軽さが段違いで、一度この快適さを知ってしまうと、もう戻れそうにありません。

ヘッドレストのありがたみを初めて実感!

アームレスト付きで、座面のタイプもクッションとメッシュから好みに応じて選ぶことができます。価格は約20万円と安くはありませんが、それだけの価値があるワークチェアです。

仕様例は、エクストラローバック可動ヘッドレスト、グラデーションサポートメッシュ、アジャストアーム、ブラックボディ、シルバーフレーム、ナイロンキャスター、座面クッションで201,740円。

ハーマンミラー「アーロンチェア リマスタード」

アーロンチェア リマスタード Aサイズ

高機能ワークチェアの代名詞ともいえる「アーロンチェア」が、実は服のように体格によって3種類の中からサイズを選べる数少ないチェアのひとつでもある、ということをご存知でしょうか。スモールサイズでもやや座面の奥行きは広めですが、小柄でも手足が長い体型の人であればマッチするはずです。

座面もメッシュの中では柔らかめなので、体重が軽い人でも座りやすくなっています。奥行きさえ合えば、腰の支えも抜群。強弱の調節ができるのもありがたいポイント。アームパッドの向きは調節できないものの、もともと面積が広いのでひじもギリギリのるかな? という感じです。

お値段は30万円弱となかなかですが、デザイン性の高さは折り紙つき。あの不朽の名作チェアが手に入ると思えば、高くはないかも?

仕様例は、Aサイズ、ミネラルフレーム、ダークミネラルベース、ビニールアーム、ブレーキングキャスターで277,200円。

UCHIDA「リーフレク」

リーフレク

アームレストは必須! でも価格は10万円前後でリーズナブルなものがいい、という方にはこちらのチェアがおすすめ。アームレストがかなり内側に入るので、ひじを体の近くにしっかりと寄せられます。

座面がクッションで、背もたれがメッシュというのは、ワーカホリックでも一番人気の仕様。クッションがふかふかで、体重が軽い人にもぴったり。カラーバリエーションも明るい色が多く、インテリアにもなじませやすいと女性に人気のワークチェアです。

仕様例は、ハイバック、アジャストアーム、ホワイトフレーム、ホワイト脚、ランバーサポート有、通常張地、ウレタンキャスターで115,720円。

オカムラ「シルフィー」

シルフィー

アームレストは必要ないので、なるべくシンプルなものが欲しい、という方にはこちらのモデルを。価格は9万円弱とリーズナブルですが、機能面でのぬかりはありません。背もたれにバックカーブアジャストという、胴回りのサポートの広さを調整できる機能がついており、細身の人でも、体格の良い人でも、しっかり骨盤を包み込んでホールドしてくれます。

座面のクッションも柔らかく、まるでソファーのような座り心地。アームレストがないチェアは、使わない時にはデスクにぴたっと寄せておけるので、場所をとらないというメリットもあります。見た目の圧迫感も少ないので、ミニマルなインテリアを目指す方にも。

仕様例は、ハイバック、背クッションタイプ、アーム無し、ブラックボディ、樹脂脚、張地インターロック(テラコッタ)、ウレタンキャスターで89,100円。

エルゴヒューマン「エンジョイ2」

エンジョイ2

夫婦で、あるいは親子でワークスペースを共有したい、という場合には、調整力にすぐれたこちらのチェアがおすすめです。背もたれを上下させて高さを変えたり、ランバーサポート(腰の支え)の強弱、高さを変えたりといった様々な調節が可能。アームレストの面積も広く、また30段階の角度調整が可能でしっかり内側まで入ってくれます。

座面の奥行きがやや長いのがネックですが、そこさえ合えば、多くの人に合わせられる調整力を秘めたチェアです。それでいて、9万円ちょっとの価格はかなりの高コスパ。体格の異なる家族との間でチェアを共有したいなら、かなり有力な選択肢になるのではないでしょうか。

仕様例は、ロータイプ(ヘッドレスト無し)、グレーボディー、ホワイトカラーで93,500円。

ワークチェアと合わせて使いたいアイテム

また、ワークチェアと合わせて、快適な環境づくりに役立つアイテムについてもうかがいました。

フットレスト(足置き)

小柄な人の場合は、必要になることがほとんど。最初は、雑誌を束ねたものや、家にあるクッションでも良いので、調整しながらちょうどいい高さを確認しましょう。自分に合う高さがわかったら、やはり専用品を入手するのがベター。自然なつま先上がりの姿勢をキープできるので、体への負担が少なくなります。

フットレストの使用例(オカムラ「ピエルポ」)

紹介していただいたおすすめのフットレストはボーダレス「フットクッション」、オカムラ「ピエルポ」の2つです。

ボーダレスはワーカホリックの関連会社。フットクッションは、置く向きによって高さを選べるのがポイントです。価格は9,900円。

ボーダレス フットクッション

ピエルポは、市販品の中では最も高さがあります。足を乗せる部分の角度も変えられるので、自然なつま先上がりの姿勢を作れます。価格は35,530円。

電動昇降デスク

スタンディングで仕事をするためのもの、というイメージの強い電動昇降デスクですが、実は小柄な人にもおすすめのポイントが。一般的なデスクは天面までの高さが70cm、72cmのものが多いのですが、電動昇降デスクの中には、それよりも低く天板を下げられるものがあるのです。天板が低くなれば、フットレストが不要になることも。デスクもこれから購入する予定という方は、選択肢のひとつにあげてみるのもいいかもしれません。

外付けディスプレイ・PCスタンド

せっかくフィッティングを完璧にしても、ノートパソコンをそのまま使っていると、画面が低い位置にあるので、目線が下がって姿勢が崩れてきてしまいます。目線を上げるには、画面の位置を上げる必要があります。一番の理想は、外付けディスプレイ+モニターアームの組み合わせです。モニターアームがあると、上下だけではなく前後位置の調整もできるので、常にベストな環境を作れます。

それが難しい場合は、PCスタンドを使うのがおすすめ。高機能なものからリーズナブルなものまで、多くの製品があるので、自分に合うものを見つけましょう。ただスタンドを使うと、PC本体のキーボードには手が届きにくくなってしまうため、Bluetoothのキーボードやマウスもセットで用意することを忘れずに。

PCスタンドは種類も豊富

傾斜台

チェアのアームレストを使わず、天板にひじをのせるセッティングをする場合、傾斜台を使うとひじの角度を90度に近づけやすくなります。最近では学生が家庭学習をするための傾斜台も数多く売られているので、それらをワークに取り入れるのもアリですね。

傾斜台があるとひじが理想的な角度に。写真はボーダレス「アングル10」(21,450円)

ワークチェアをオンラインで購入するには?

本記事を読まれている方の中には、家の近くに専門店がないので、オンラインで購入したいと考えている方もいると思います。最後に、その際の注意点についてもうかがいました。

「大前提として、やはり実際に座って確かめた上で購入していただきたいです」と伊藤さん。「背もたれの曲線がお客様ご自身の背中のS字カーブに合うか、座面の感触がどうかといった、スペック表でお伝えできないポイントが大事なので」。取材を通じて、筆者もまったくその通りであると痛感しました。それでも、どうしてもという場合は?

「家の近くにあるホームセンターや家具店で、とにかくあるものに座って試していただくのが良いかと思います。種類はあまりないかもしれませんが、『私はメッシュの座面が好きだ』とか、『クッションの方がしっくりくる』とか、特性の違いを知っていただくと、イメージがつきやすくなります」

その上で、いいなと思うチェアがあればそれを目安にして、素材や大きさが近いものを探す、というのはひとつの方法です。

このモデルがいいかも、とある程度の目星がついたら、日本国内のメーカーの場合、ホームページから問い合わせると自宅近くの試座できる販売店を教えてくれることもあるので、一度コンタクトをとってみるのもいいかもしれません。

どうしても実際に足を運ぶのが難しい場合は、電話やZoomなどオンラインでの問い合わせに対応してくれるショップもあります。一人一人に合うチェアは千差万別。特に、小柄だと自分に合う1脚を見つけるのは難しいもの。やはり、信頼のおけるプロに相談にのってもらうのが一番、ということのようです。

これからの季節は新生活のスタートという方も多いですし、そうでなくとも色々なことを心機一転したくなるタイミングです。この春、ワークチェアから在宅ワーク環境を見直して、仕事のモチベーションをアップにつなげてみるのも良いのではないでしょうか。

今回お話をうかがったワーカホリック店舗外観(東京都中央区日本橋馬喰町2-7-15 ザ・パークレックス日本橋馬喰町 1階)
ヨシムラマリ

ライター/イラストレーター。神奈川県横浜市出身。文房具マニア。子供の頃、身近な画材であった紙やペンをきっかけに文房具にハマる。元大手文具メーカー社員。著書に『文房具の解剖図鑑』(エクスナレッジ)。