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退院&帰宅した父の回復はいかに? 認知症の母との生活 両親W介護体験記(4)

家の中では手すりを使って移動

前回は退院に向けての準備のお話をしましたが、最終回となる今回はいよいよ退院・帰宅してからのお話です。入院中は週に2回ほど病院とやりとりして父の現状を知らせてもらいましたが、少しは看護師さんと話をしているようで、認知症の母の話も出てきた、とのこと。少しは良くなっているのかもしれませんが、この目で見て話をするまではどんな状態かわかりません。いったいどんな姿で帰ってくるのか、正直、不安でいっぱいでした。

退院のため病院へ。果たして少しは回復しているのか

そしてとうとう退院当日です。前もって現在口にしているものを聞いてみると、ミキサーにかけてとろみをつけたお粥と栄養ドリンクくらいだそうで、家ではどんなものを食べさせたらいいか確認しておきました。嚥下(食べ物を飲み込んで胃に送る一連の動作)は問題ないようですが、念のためレトルトのお粥やゼリー、ヨーグルトなどを用意しておくことに。ドラッグストアなどで売られている離乳食的なものもいいと言われたのですが、父は食にうるさいところがあるので、それはやめておきました。

病院に行くと本人が車椅子で登場。なんとびっくり、転院した時とは見違えるほどしっかり話ができるようになっていました。しかも、私はストレッチャーで移動すると思っていたのですが、車椅子で問題ない、とのこと。予想外の進歩に、一緒に迎えに行った兄とも「すげえ普通じゃん!」と驚いていました。

ただし、尿道カテーテルは抜けないままだったため、帰る前に看護師さんから尿の排出方法を説明してもらいました。コックをひねってバケツに出し、トイレに流すだけなので思ったよりも簡単そうです。

介護タクシーで父が入院中の話をしながら移動し、家に帰ってきました。退院した午後にはケアマネさんを中心に、訪問診療の先生、訪問看護と介護ヘルパーの責任者、福祉用具レンタルの営業さんなど、関係者が全員集合。皆さんに父の状態を確認してもらい、今後の計画を立てていきました。

最初の2週間は毎日看護師さんに来てもらい、状態確認やリハビリをしてもらうことに。訪問診療は2週間に1度、ヘルパーさんはひとまず様子見で、来てもらいたい時間帯ややって欲しいことが見えてきた段階で改めてお願いすることになりました。

家に帰って安心したのか問題だった食欲も次第に復活

退院してすぐに手すりをつたって自力でトイレに行けることもわかり、家族でやるべき介護も予想以上に少なそうで、とりあえず一安心です。そして、退院翌日から始めたのは食事の記録です。食欲の状況や食べたものがわかるように、朝昼晩の献立をノートに書き込むのが日課となりました。

食べたものをはじめ、排便や排尿についても毎日記録。1カ月後には普通に食べられるようになったので記録は終了

翌日はヨーグルトと栄養ドリンク、フルーツ缶詰から始め、父のリクエストを聞いて昼はタマゴサンド一切れとアイスクリーム、乳酸飲料、夜はおじやとシラスという感じで、量は少ないながらも食べられるものが意外と多いことが判明。父に聞くと、病院食はおいしくなかったようで、家に帰ってからは日に日に食欲が増していきました。やはり家に戻れて安心したことが大きかったのでしょう。

栄養不足が懸念されたため、看護師さんのアドバイスでMCTオイルも食事に導入。味がないので味噌汁などあらゆる料理に入れられる

最初はベッドのテーブルで食べていましたが「病院で食べているみたいでイヤだ」と言い、1週間もすると居間のテーブルで食べるようになりました。白いご飯や揚げ物など、食べられるものもどんどん増え、体力も徐々に回復。家のお風呂にも看護師さんの介助があれば入ることができ、驚異の回復力を見せる父。

もちろん、体調は万全とは言えず、最初は足のむくみがひどかったり、体にかゆみが出たりといろいろありますが、こちらも徐々に落ち着いてきました。

動き回れるようになり、バルーンがジャマな存在に

リハビリの効果もあり、家の中であればある程度自由に歩けるようになりましたが、ここで問題だったのが尿道カテーテルから繋がるバルーンの存在です。

ベッド脇やトイレにはバルーンを引っかけられる大きめのS字フックを設置

トイレやお風呂など、どこに行くにもこのバルーンを持ち歩かなければならないため、用意したのがショルダーバッグです。これなら両手が空いた状態で移動できるし、イスに座った時も背もたれに引っかけておけて便利です。

100均で材料を揃えて手作りしたショルダーバッグ。逆流を防ぐため、斜めがけをした時にバルーンがヒザあたりにくるようにストラップは長さ調整ができるようにした

本来ならカテーテルを抜いてしまうのが一番ですが、医師からも様々な理由から「もう抜くのは難しい」と言われています。リハビリでそろそろ外出してみようか、となった頃、看護師さんからある提案がありました。「DIBキャップに変えてみたら?」と。

「なんじゃそりゃ?」と思って調べてみると、DIBキャップとは尿道カテーテルに直接つなぐことができ、マグネットで開閉するふたを開けて排尿できる便利アイテムらしい。

カテーテルに接続するDIBキャップ。これがうまく使えればバルーンが不要になる

父の場合、尿意を感じるのでDIBキャップが使えるはず、と看護師さん。通常のトイレと同じく、尿意を感じたらトイレに行ってDIBキャップのフタを開けて排尿すればいいだけ。バルーンを持ち歩かなくて済むだけでなく、かなりコンパクトでズボンの中に隠せるため、カテーテルが入っていることすら傍目にはわからず、何をするにも楽になるわけです。

保守的で変化を嫌う父だけに、最初はあまり乗り気ではなかったのですが、看護師さんが他の人の例を話してくれたり、利便性を熱く語ってくれたりして、説得される形で「じゃあ、やってみる」となったのです。

DIBキャップの導入で生活が格段に楽に

実際に導入してみると、どれだけバルーンの存在が煩わしかったかを実感したようで「もっと早く使ってみれば良かった」と父。装着したまま湯船にも入れるので、お風呂も気軽に入れるようになりました。

DIBキャップを装着したところ。これだけ身軽になるし、扱いも簡単

とくに良かったのは、外出に対して意欲的になったことです。バルーンをぶら下げて出かけるのはカッコ悪いと思っていたようで、DIBキャップを使うようになってからは「これで気兼ねなく外出できる」「温泉にも行ける」と喜んでいました。DIBキャップ、最高! 看護師さん、ありがとう!

ただし、夜間の寝ている間だけはバルーンに戻すことに。やはり夜中に起きて一人でトイレに行くのは転倒のリスクもあるし、トイレに行く必要がなければ安眠にも繋がる。看護師さんとも相談し、寝る前にバルーンを付けることにしました。本来は付け替えが意外と面倒らしいのですが、看護師さんのアドバイスによりアダプターを導入。これがあればDIBキャップにバルーンへの管を直接差し込むことができるので、超簡単です。

指を差している先端の管部分がアダプター。バルーンに装着すれば直接DIBキャップに繋げることができる
夜はバルーンに繋げてこのスタイルに。ベッド脇のS字フックに引っかけて就寝し、朝にバルーンを外す

ちなみに、要介護の認定通知が届いたのは父が退院してすぐのことで、なんと介護度最高の要介護5でした。体調が最悪の時期に審査しましたし、この時は「寝たきりになるのでは?」と思うくらいの状態だったので、こう判定されたのでしょう。すでに回復傾向にあった父もこれを見て笑っていました。

実体験でわかったのは「介護は辛いことばかりではない」ということ

退院してからもうすぐ10カ月が経ち、今は元の生活に戻りつつあります。入院中に20kgも痩せたおかげで以前はひどかった膝や腰の痛みもなくなり、体の動きは入院前より良くなったくらいです。

ただし血圧が不安定だったり、脈拍数が極端に少ないことも多いので定期的な観察は必要ですし、カテーテルも月に一度は交換しなければならないので訪問看護もまだ外すことはできません。それでも週に4回ほどお願いしていたヘルパーさんも2回に減らすことができ、介護ベッドもマットもグレードを下げたりと、介護サービスの活用や回数も今後は減ってきそうです。

介護ベッドのリモコン。退院当初は高さと頭以外に足元が上下する3モーターだったが、ほとんど使わなかった足元のモーターを外して2モーターに変更

実家で暮らすようになって母に食事の支度を任せるのは無理だとわかり、現在も実家に寝泊まりしている筆者。正直、両親ともに80歳を超えた今、共に一人ではできないことも多くなっていて生活のサポートは不可欠になっています。

父は幸いなことに頭はしっかりしているので、サポートが必要なのは食事の用意と朝夕のバルーンの処理くらいまでに回復していますが、母は同居によって世話が必要な部分がたくさん見えてきて、生活の拠点は実家にせざるを得ない状態です。正直、まだまだ認知症に対する理解が足りず、母にはイライラしてしまうことも多いですが、楽しく暮らしてもらえるようにいろいろと工夫をしていきたいと思います。

全然関係ないけど、筆者は折りたたんだシャワーチェアを見るとおとぼけ顔でバンザイしているように見えて、見るたびに癒やされている。こういう意図があってのデザインなのか?

人生100年時代と言われ、介護は多くの方が体験することになると思われます。この体験記が介護に直面した皆さんに、少しでも役立てていただければ掲載した甲斐があるというもの。自分が体験してわかったのは、介護は決して辛いことだけではなく、介護したからこそ見えてくる面白さや楽しさもある、ということです。自分が倒れてしまったら大変ですから、息抜きを忘れずに自分を大切にしながら、今後も奮闘したいと思います。

中野悦子