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iPhone 15登場とさよならLightning これまでの歴史とUSB-Cの基礎

USB Type-CになったiPhone 15 Pro

iPhoneが最新の「iPhone 15」シリーズで、これまでのLightningに代わり、USB Type-C(Appleの表記はUSB-C)を搭載することを発表しました。

欧州委員会(EC)がスマホなど電子機器へのUSB Type-Cポート搭載を義務付ける法案を成立させたことで、近い将来にLightningからUSB Type-Cへと変更されることは確実視されていたとはいえ、実際にUSB Type-C搭載のiPhoneが登場したという事実は、なかなか感慨深いものがあります。

ここではこれまでのiPhoneのポートの変遷を簡単に振り返りつつ、USB Type-Cの特徴についても併せて紹介していきます。

iPhoneのコネクタ向けのケーブルを順に並べたところ。左から、USB Type-C、Lightning、30ピン(Dockコネクタ)

Lightningのこれまでを振り返る

まずはLightningのこれまでをざっと振り返りましょう。それまで使われていた30ピンのDockコネクタに代わり、Lightningが登場したのは2012年。「iPhone 5」が最初の採用事例となったこのLightningのメリットは、大きく分けて2つあります。

ひとつはコンパクトなことです。それまでの30ピン仕様のDockコネクタは幅が約22mmもあるため非常にかさばっていたのに対し、Lightningは横幅が6.5mmと小さく、Dockコネクタに比べて取り回しが圧倒的に容易でした。

また抜き差しの感触もDockコネクタに比べてスムーズで、あの独特の「カチッ」という手応えが心地よいと感じていた人も多いのではないでしょうか。

Lightningコネクタ(左)と30ピン仕様のDockコネクタ(右)
Dockコネクタは幅が約22mmもあるほか、表裏もあり扱いにくい

もうひとつは、端子がリバーシブル構造であることです。Lightningが登場した当時、AndroidスマホやはUSBの「MiniB」や「microB」を搭載した製品が一般的でしたが、いずれも端子には表裏があり、面を確認してから差し込む必要がありました。面を問わずに差し込めるLightningは、それだけで画期的だったというわけです。

Lightningは8ピンで、表裏がリバーシブル仕様
左から、Lightning、MiniB、microB
MiniB(左)とmicroB(右)はいずれも表裏がある

もっともこのLightning、諸手を挙げて歓迎されたわけではありません。Apple製品でしか使えない独自規格であること、またMFi(Made For iPhone/iPad/iPod)の認証が必須となり、互換ケーブルを含む周辺機器の選択肢が狭まったことに対しては、当初から否定的な意見も多く見られました。

MFi認証の導入によって設計不良品が排除され、目に見えない事故が減ったであろうことは明らかで、ユーザはかなりの恩恵を被っていたはずですが、それまで10年近く使われていたDockコネクタのケーブルや周辺機器からの買い替えが必要という、コスト面のほうが目立ってしまったというのが、正直なところかもしれません。

そしてUSB Type-Cが登場

さて、こうした中でLightningに遅れること2年、2014年に登場したのが「USB Type-C」です。Lightningと同様にリバーシブル構造を採用したこの規格は、Androidスマホに限らずPCなどさまざまなデバイスに採用され、今日では前述のMiniBやmicroBをほぼ置き換え、幅広く普及しています。

USB Type-C。USB-IFの推進する規格で、Lightningと同じく表裏のないリバーシブル仕様
Lightning(左)との比較。コネクタの径はUSB Type-Cのほうがわずかに大型

結果的にそこからiPhoneに採用されるまで約9年がかかったわけですが、直接のきっかけとなったのはUSB Type-C法案と呼ばれる、スマホなど電子機器へのUSB Type-Cポート搭載を義務付けるEUの法案が成立したことでしょう。これらの期限は2024年末で、それまでにLightningをUSB Type-Cに差し替える必要があったというわけです。

この間、Appleのデバイスでも、MacBookやiPadがいち早くUSB Type-Cを採用し、iPhoneへの搭載を期待する声が高まったにもかかわらず、そこから何年も採用されなかったことで、ユーザは待ちぼうけを食わされた格好になりました。今回のUSB Type-Cの採用自体は歓迎すべきことながら、ネット上にはツッコミの声が多く見られるのは、こうした背景があると言えます。

余談ですがLightningが登場した2012年、発表会の席上で、Appleのフィル・シラー氏が「このコネクタ(Lightning)は、今後10年間にわたって最新であり続ける」と発言した記録があります。この10年という期間にこだわったわけではないでしょうが、そこから1年プラスされた2023年になって、Lightningが事実上の引退を迎えたというのは、なかなか興味深いところです。

iPhone 14 Pro/Lightning(左)とiPhone 15 Pro/USB Type-C(右)

USB Type-Cは高速伝送が売りだが……

こうしてiPhoneへの搭載に至ったUSB Type-Cですが、従来のLightningと比べて、どんなメリット、あるいはデメリットがあるのでしょうか。

設計上のメリットとしては、ピンが外部に露出しておらず、耐久性が高いことが挙げられます。Lightningはピンがコネクタ先端に露出した設計ゆえ、先端が汚れるだけで認識されないケースがありましたが、一方のUSB Type-Cは、ピンはコネクタの内側に配置されているため、そうした恐れはほとんどありません。

もっともUSB Type-Cケーブルの場合、金属端子が外部からの圧で変形しやすく、その状態で無理に差し込もうとしてコネクタ内部のミッドプレートを破損させる危険はあります。仮にデバイス側の修理になると、コストが膨らみかねません。カジュアルな使い方では耐久性が高いものの、致命的な損傷も起こりうるのがUSB Type-Cだと言えます。

Lightningはピンが外側に露出している
USB Type-Cはピンは内側にあり、汚れや摩擦などには強い
チェアのキャスターで轢くなどすると、このようにコネクタが押し潰されて挿せなくなる場合も

データの転送速度では、Lightningが実質的にUSB 2.0(最大480Mbps)止まりであるのに対し、USB Type-CではUSB4やThunderbolt 4対応だと最大40Gbpsまで対応するなど、圧倒的に高速です。MacBookやiPadがいち早くUSB Type-Cを取り入れたのも、この転送速度が大きな理由だったと言われています。

ただし今回のiPhone 15シリーズは、付属のUSB Type-CケーブルがUSB 2.0仕様であるため、そのままだと480Mbpsが上限となります。iPhone 15 Pro/Pro MaxはケーブルをUSB 3.x対応品に交換すれば10Gbpsまで出せますが、iPhone 15/Plusは本体がUSB 2.0までしかサポートしないため、ケーブルを交換しても速くなりません。モデルの差別化のためとみられますが、いまどき480Mbpsが上限というのは、ややひっかかるところです。

なおiPhone 15の製品ページでは「USB 2」「USB 3」といった呼称が使われていますが、これは一般的な「USB 2.0」「USB 3.x」のことを指すと見られます。「USB 3.x」自体は最大20Gbpsまでサポートしますが、iPhone 15 Pro/Pro Maxの上限は10Gbpsにとどまっています。

つまりAppleの「USB 3」は、複数あるUSB 3.xの規格の中では「USB 3.1 Gen 2」「USB 3.2 Gen 2」に相当する……と推測できるのですが、このあたりは非常にややこしい上、一般的に覚えなくてはいけない知識というわけではありません。ひとまずは「Appleが言うUSB 2は転送速度が最大480Mbps、USB 3は最大10Gbpsなのだ」と覚えておけば(いまのところは)問題ないと考えられます。

USB Type-Cの問題点「機能の見分けがつかない」

その一方で、USB Type-Cにもいくつかのデメリットがあります。最大の問題点は多機能すぎて、外見からはどんな機能があるか判断できないことです。

前述のiPhoneのように、デバイス側に搭載されるUSB Type-Cポートの仕様はメーカーが公開している情報である程度知ることができますが、USB Type-Cケーブルはパッケージから取り出してしまうと、見た目でスペックを判別するのは不可能です。

具体的には、前述のようなデータの転送速度(USB 2.0/3.x/4など)のほか、充電は3A対応なのか5A対応なのか、また映像信号の伝送に対応するか否かは、ケーブルの外観からは判別できません。MFi認証を取得した製品ならばどれを使っても挙動が変わらないLightningとの最大の相違点と言えます。

USB Type-Cケーブルはその仕様を見た目で判別することは不可能
USB Type-Cを採用したケーブルのうち、Thunderbolt 3ケーブルやThunderbolt 4ケーブル(稲妻マークにバージョンが数字で記載)、認証済みUSB4ケーブル(速度とワット数が記載)ならば、仕様の判別も容易です

個人的には、iPhone 15に付属するケーブルとは別に、ハイスペックで信頼性の高いUSB Type-Cケーブル、すなわちUSB4ケーブルやThunderbolt 4ケーブルなどを1本調達し、前者は充電用、後者はデータ転送も含めたオールマイティな用途に使うのがベターなように思います。iPhone 15/PlusはUSB 2.0なので速度向上の恩恵は受けられませんが、信頼性の高いケーブルを1本持っておくと、なにかにつけて頼りになるからです。

ともあれ、特定のApple製品にしか対応しなかったLightningと異なり、Androidも含めたさまざまなデバイスで利用できる汎用性は、持ち歩くケーブルの本数を絞ったり、デスク上に常備しておくケーブルの種類を減らせるという意味でメリットがあります。

iPhoneの採用によってUSB Type-Cケーブルの入手性は上がり、価格は下がっていく可能性は高く、ユーザにとっては大いに歓迎すべきと言えそうです。

山口真弘