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Web3とはなにか:NFT以外の可能性

注目を集める「Web3」。NFT以外の可能性にはどのようなものがあるのだろうか?

スマニューラボの佐々木大輔氏、フリーランスライターの甲斐祐樹氏によるWeb3対談。Webの歴史からWeb3のポイント、NFTなどについて語ってきましたが、第3回はNFT以外のWeb3関連サービスを紹介します(聞き手:宮本拓海、編集部)。

佐々木氏(左)、甲斐氏(右)

銀行などを介さずに金融取引ができる「DeFi」

ーーここからはNFT以外のWeb3に含まれるコンテンツやサービスについて。まずは「DeFi」とはどのようなものなのでしょうか?

甲斐:DeFiは「Decentralized Finance」の略で、日本語では「分散型金融」と言われています。英単語の構造的には「中央ではない=分散型」ということですね。

一般的な金融は銀行や証券会社といった金融機関があって、その金融機関を中心に取引が行なわれています。これに対してDeFiは、ここまで説明してきたブロックチェーンの自律分散型であるという特徴を活かし、取引のデータをブロックチェーンに記録することで、金融機関が介することなく暗号資産を取引できるという仕組みが特徴です。

金融機関がいない代わりに、暗号資産の取引を承認する役割は「スマートコントラクト」と呼ばれるシステムで行なわれるようになっています。

DeFiのサービスとしては、暗号資産をやりとりできる取引所のほか、暗号資産を貸し付けて利息収入を得たりできる「DeFiレンディング」と呼ばれるサービスも提供されています。一般的な金融サービスと同様、保険や予測市場など関連するサービスもいくつもあるようです。

代表的な分散型取引所の1つ「Uniswap」

Uniswap

ユーザー同士で暗号資産の貸し借りができる代表的なDeFiレンディングの1つ「Aave」

Aave

佐々木:DeFiは、「もっともWeb3らしいサービス」と呼ばれることもあります。誰も管理している人がいないのに、金融サービスが動き続けているわけですから、ブロックチェーンやスマートコントラクトの特性がよく現れていると思います。

ブロックチェーンゲームなどのサービスも、低額の手数料でトークンの交換ができるサービスがあることを前提に、独自のトークンを発行したりしています。DeFiは様々なジャンルのコンテンツやサービスの前提になっていると言えます。

甲斐:DeFiはブロックチェーンを活用して行なわれていることですが、これまでも現実のお金での外国為替取引などがあるように、ビジネス的に新しいことが起きているわけではないと思います。しかし、それがブロックチェーンで実現されることで、銀行を介さずに金融の取引を実現するという試みが興味深いなと思います。

なお、DeFiは分散型であることが定義されていますが、国内の企業が運営する取引所は企業が運営するという意味では分散型ではありません。

こうした企業運営型の取引所をCEX(Centralized Exchange)と呼び、分散型の取引所をDEX(Decentralized Exchange)と呼びますが、CEXは分散型ではないかわりに日本語で利用できたり、暗号資産を日本円での取引ができたりというメリットもあります。これは2章で触れたプライベートチェーンとパブリックチェーンの違いに近いかもしれません。

新しい働き方としても注目を集める「DAO」

ーーDAOというキーワードも話題になっています。DAOはよくブロックチェーンと関係ない場所でも言葉が使われれているような気がします。

甲斐:DAOは「Decentralized Autonomous Organization」の略で、DeFiと同じ「Decentralized」という単語が使われていることからもわかる通り、「分散型自律組織」という分散型が特徴となっています。構造もDeFiに近くて、企業や組織といった代表者が存在せず、組織に参加するメンバー同士で意思決定を行なったり行動を取ったりという組織の形態を指す言葉です。

佐々木:なかでもNouns DAOは、かなり純粋性の高い自動化されたDAOとして注目されています。

Nouns DAO

「Noun」と呼ばれるNFTアートを作成するプロジェクト。NFTアートは24時間ごとに自動で一体作成されるとともにオークションに出品される。購入者は「Nouns DAO」というDAOの会員となり、1体購入ごとに1票の投票権を得て、DAOの運営の行動に対する提案や決定に参加できる
なお、佐々木氏がアイコンに設定している画像はNounsから派生した「LilNouns」のNFTアート

Nouns DAO

佐々木:もともとは、そして今でも、狭義の意味では報酬やガバナンスをスマートコントラクトで自動実行する組織のことですが、より広義に解釈されて使われる場面も増えています。私はもっとも広義に説明するときには「見知らぬ人がインターネットを介して一緒に作業するための安全で効率的な方法」と言っています。

甲斐:そうですね、実際にはDAOという言葉はブロックチェーン技術というより「分散型」というキーワードが注目されている感覚があります。ここ数年はコロナ禍の影響でリモートワークが普及したことで分散型(?)の働き方も増えたことから、結果としてDAOという言葉に注目を集めているのかもしれません。

DAOを実現するためのツールとしては、DiscordやDeworkというサービスがよく使われていますね。その中でもDeworkはとても面白いと思っています。

Discord

ビデオ通話や音声通話、テキストチャットなどの機能を備えたコミュニケーションサービス。ブロックチェーンを使っているわけではないが、Web3やDAOに注目するユーザーのツールとして愛用されている

Discord

Discord

Dework

Discordとの連携機能を備えたタスク管理ツール。暗号資産を使ったタスク管理機能などを備えている

dework

Dework

佐々木:Deworkはかつて自分たちのことを「Web3 native Trello & LinkedIn」と説明していました。ぱっと見では、「Trello」や「Asana」といったツールのようなカンバン方式の業務管理サービスに見えるのですが、タスクに報酬を設定して暗号資産の支払いができるというWeb3らしい特徴があります。

さらにDeworkは、DiscordのIDでログインすることができます。実際にログインすると、自分が参加しているDiscordサーバーの中でDeworkを使っているサーバーを一覧で確認し、そこで公開されているプロジェクトのタスクを見ることができます。

つまり、Discordを通じてタスクを実行してくれる人を募集して、タスクに設定した報酬を支払うことができるので、そのあたりが(ビジネス/求人SNSの)LinkedInと説明されている理由です。タスク管理から人材募集まで行なってしまうという発想です。

甲斐:Deworkの仕組みも今までなかったかと言われると、業務管理ツールはあったし、そこに報酬を支払う機能もあったのかもしれませんが、ブロックチェーンを使うことで、それらのサービスが一気通貫的に作れたことが特徴だなと思います。アウトプットとして生まれているものは目新しくなくても、これからの未来に期待感を持てるのが面白いところだと感じています。

暗号資産が報酬として得られることでゲームとしても注目

ーーWeb3ではゲームも話題ですね。

佐々木:Web3で扱われるゲームは、広くいうとBCG(BlockChain Game)、つまりブロックチェーン技術をベースとしたゲームと呼ばれます。その中でもユーティリティトークンとNFTの両方を使うものが「GameFi」(Game+Financeの造語)とか「Play to Earn」などと呼ばれたりします。

今年前半には、「STEPN」が大きく話題になりました。また、ユーティリティトークンを使わず、NFTだけを使うものは、単に「NFTゲーム」と呼ぶこともあります。

STEPN

移動に応じて報酬が得られる、Play to Earnの中でも「Move to Earn」と呼ばれるジャンルのゲーム。NFTで作られたデジタルスニーカーをゲーム内で購入すると、運動量に応じて独自の暗号資産を報酬として受け取ることができる

STEPN

甲斐:暗号資産という、ユーザー同士で取引できる貨幣のような存在のおかげで、プレイすると報酬がもらえるというゲームが注目を集めているようです。

個人的には「Superlocal」というゲームが気に入っています。これは特定のスポットにチェックインすると、ゲーム独自の暗号資産である「Local」がもらえるという仕組みで、さらに特定のスポットのオーナー権限を買うことで、そのスポットにチェックインした人からもLocalがもらえるようです。

Superlocal

Superlocal

個人的にチェックインアプリが好きという理由が一番なのですが、たくさんチェックインした人への対価が用意されているというのが面白いなと。これが上手くいくと飲食店の口コミレビューとかにも活用できるのかもしれません。

Superlocalのアプリ

Web3のこれから

佐々木:今、Web3に対して多くの人が静観しているようなムードがあるんじゃないかと思います。

第1章でも説明した通り、Web3とは何か、という定義については諸説あります。私はWeb3という言葉を、ブロックチェーンという技術が生まれ、そのブロックチェーンを活用したサービスやコンテンツの総称として使っていますが、Web3を思想やムーブメントと捉えて、「巨大プラットフォームによって支配された世界から人々を解放する技術だ」と考える人もいます。

私はこうしたWeb3を思想やムーブメントとして捉える考え方を「Web3ロマンティスト」と名付けています。一方で私がこれまでしてきた説明は「Web3リアリスト」と言えるでしょう。また、Web3そのものに対して懐疑的な考え方もあります。Web3について議論が複雑化しているのは、「Web3とは何か」という捉え方が人によって異なることが議論を呼んでいるのも1つの理由だと思います。

Web3懐疑派の人はなにか問題があれば発言が増えますが、いまWeb3のプロジェクトに関わっている人たちは、私も含めて淡々と静かにコンテンツやサービスを作っているのではないでしょうか。

もちろん、それはそれでいいと思うのですが、私としてはWeb3がもっと盛り上がって欲しい。懐疑派対Web3関係者だけでなく、Web3ロマンティストとWeb3リアリストの間でも議論が起こるといいなと思っています。ひとりの人がWeb3のあらゆるジャンルに専門性を持つことはほとんど不可能なので、その専門性を超えるような活発な議論には意味があると思っています。

甲斐:議論を活発にするという意味でも、もっとWeb3が普及して、使えるコンテンツやサービスが出てくるといいですね。現状は発展途上な面が多いですけど、面白そうな可能性がすごくあるので、これから利用人口がどんどん増えていく流れができてほしいなと思います。