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キャッシュカードでキャッシュレス。銀行DXを後押しする「Visaデビット」

ビザ・ワールドワイド・ジャパン(Visa)は、同社が推進する「Visaデビット」の戦略と、銀行のデジタル化の取り組みについての説明会を開催。Visaデビットを積極展開する千葉銀行の取り組みなどを紹介した。

利用者と“つながる” 銀行のDXにVisaデビット

Visaデビットは、Visaの加盟店で支払いできる決済手段。クレジットカードとほぼ同じように使えるが、発行する銀行口座と紐付いているため、すぐに引き落とされて決済額が確認できる点が特徴となる。多くの場合ポイントやキャッシュバックもあるため、現金よりトクというケースが多い。

こうした「消費者の利便性向上」のほか、銀行のサービスのデジタル化にもVisaデビットは活用できるという。

Visa コンシューマーソリューションズ部長 寺尾林人氏によれば、銀行におけるVisaデビット採用のメリットとしては、現金の運搬や管理、ATM設置を減らせるといった「社会的メリット」が大きいと語る。

海外においても、Visaデビットの利用が拡大し、2021年にはクレジットカードの取扱高を超えている。その理由として「銀行口座から引き落とすというシンプルな商品性が世界中で受け入れられている」とする。

英国では、2017年時点でデビットが現金を超えた。10年前は圧倒的に現金が多かったものの、現時点ではデビットがトップの決済手段になっている。

日本ではまだ普及の半ばで、採用銀行数は37、カード発行枚数は1,770万枚(2021年12月現在)。約2.5億枚というクレジットカードと比べると少ないものの、Visaデビットの取扱高は直近10年で20倍に拡大しており、「日本でも今後5年~10年で大きなシフトが起きる可能性がある」とする。

また、寺尾氏は銀行のDX(デジタル化)の観点からもVisaデビットの強みがあり、「銀行口座の使い方を変えることができる」という。

銀行口座は、キャッシュカードで現金を引き出して、現金を支払いに使う形が一般的になっている。しかし、Visaデビットを使えば、現金を引き出さずに口座から直接引き落とされるため、脱現金化でき、デジタル化やデータ化を進められる。

これまで銀行は、月に数回現金が引き出されるだけで、現金がその後どのように使われるかは把握できなかった。Visaデビットは毎日使われることも多く、口座がユーザーの「決済基盤」になっていく。また、これらのデータやポイントプログラムなどを組み合わせたマーケティングなども実現可能となる。

さらに、Visaデビットの利用は銀行との“接点”が強化されるという。Visaデビット利用者はATMの利用頻度が減るが、銀行のアプリ利用率は大幅に向上(40.7%→77.6%)し、残高を確認する頻度も高くなる。口座の「見える化」と貯蓄にもつなげていけるという。

キャッシュカードで払える。現金からVisaデビットを推進する千葉銀行

銀行の中でもVisaデビットを積極的に推進しているのが千葉銀行だ。

同行では以前からグループ内でクレジットカードの事業を持っている(ちばぎんジェーシービーカード、ちばぎんディーシーカード)が、それらに加え「銀行本体」でカード事業に取り組むこととしたという。

TSUBASAちばぎんVisaデビットカード

自行でカード事業に取り組む理由は、今後もキャッシュレスは拡大し、それとともに銀行が従来関与していた取引の縮小が見込まれること。そのため「銀行が本気になって取り組む必要がある」(千葉銀行 執行役員 カード事業部長 俣木洋一氏)と判断し、「TSUBASAちばぎんVisaデビットカード」の導入を決定した。

千葉銀行では2019年にVisaのライセンスを取得し、加盟店事業を開始。これまではカード会社のFCとして関連会社で加盟店事業をやっていたが、銀行側でシステムを内製化し、加盟店管理システムや決済センターも構築した。そして、2020年10月からはVisaデビット発行もスタートした。

以前はJCBデビットを業務委託して発行していたが、業務・システムを内製化したことでカードの年会費無料化を実現し、すべての利用者にカードを配布できるようになった。また独自のポイントプログラムなどのサービス展開も可能となり「加盟店事業とカード事業の競争力が増した」とする。

キャッシュレス決済手段としてVisaデビットを選んだ理由は、「銀行の強みを活かせるのは、口座からの即時引き落としができるデビットカード。多くの人が使っているキャッシュカードに買い物できる機能を皆さんに提供できると考えた。Visaは国内外で最も多くの店に対応しており、お客様の利便性は高い」と説明。そのため、「お持ちのキャッシュカードで買い物できることを伝え、現金をお使いの人もシンプルにキャッシュレスが使えることをアピールしていく」とし、キャッシュカードからVisaデビットカードへの切り替えを推進していく。

千葉銀行のVisaデビット導入のもう一つの狙いは、Visaが言及したように「顧客接点」の強化だ。

同行では顧客接点が、店頭やATMから銀行アプリに急速に移行している。コロナ禍以降「アプリ」の利用が急増し、2021年9月には1日のチャネル別利用の29%がアプリ経由となり、ATMの65%に次ぐ規模になっている。さらに、'23年3月にはアプリが69%、ATMが29%になるなど急速なデジタルシフトが見込まれている。

そのため千葉銀行ではアプリを一番の顧客接点と位置づけ、パーソナライズや地域のエコシステムの構築などを強化。購買データと属性などを活用したパーソナライズなども強化していく方針。その中で決済を担う鍵となるのがTSUBASAちばぎんVisaデビットカード」となる。

千葉銀行の加盟店事業開始から、2年3カ月で店舗数は8,000店舗となり、3月末には1万店舗となる見込み。決済金額は'21年12月単月で32億円。年間では300数十億規模となる。会員数はカード事業の開始から約1年3カ月で176,000人で、「思ったより利用されている」とのこと。12月のVisaデビット利用額は12億円。 俣木氏は、「現金からの置き換えにはデビットが最有力と信じている。その考えに基づいて、お客様利便性を取り入れていく。加盟店に喜ばれ、デビットのユーザーにも喜ばれる仕組みを目指す」と語った。

なお、17.6万人のVisaデビット発行のうち、実際にデビットカードとして使っているのは約20%。「大半の方は現金派だったが、多くの人がデビットカードを選んでいただいている」としており、今後もこの比率を拡大していく方針。従来のキャッシュカードは、期限なしで使えたが、Visaデビットは5年でカード更新となり、カードの発行手数料や配送料などは別途必要となる。しかし、ユーザー数の拡大やVisaデビット利用による手数料収入なども得られるため、「われわれが描いていた以上に回収スピードは早い」とした。