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なぜ1品から無料? ヨドバシエクストリーム便の凄さを藤沢社長に聞く

ヨドバシカメラのECサイト「ヨドバシ・ドット・コム」では、「こんなものまで売ってるの?」と思うことが度々ある。この幅広い品揃えをちょっとした謎と捉えつつ、便利に活用する人が最近増えているという。

今回はこの品揃えの謎に加え、スピーディに無料配送できる秘密や、効率よく商品を探すコツなどを、同社の藤沢和則代表取締役社長への取材で明らかにする。

品数豊富で迅速かつ正確に届けるエクストリーム便

ヨドバシ・ドット・コムでは、自社配送の「ヨドバシエクストリームサービス便(以下、エクストリーム便)」により、極めて迅速な商品の配達を実現している。到着予定時刻はかなり正確で、しかも配送料は無料だ。

現在の配送対象エリアは、東京都23区全域、および武蔵野市・三鷹市・調布市・狛江市・町田市の一部地域、神奈川県横浜市・川崎市・相模原市の一部地域、新潟市・甲府市・仙台市・札幌市・大阪市・京都市・福岡市(いずれも一部地域)。なお、対象エリア外でも配送業者を利用して無料で届ける。

配送の対象となる商品は、家電だけでなく日用品、食料&飲料、ベビー&マタニティ、カー&バイク用品、医薬品、書籍など多岐にわたる。

ヨドバシエクストリームの対象エリア

ヨドバシカメラの2021年3月期の全社売上高は7,318億円。そのうちEC売上高は前年比60.3%増の2,221億円。EC売上高の構成比は30.3%に当たる(出典:月刊ネット販売)。

EC購入品を届けるエクストリーム便は、EC戦略の中でも大きなウェイトを占めている。今後どのようにサービスを発展させ、売上を拡大していくつもりなのだろうか。

たくさん検索されている商品はすべて取り扱う

そもそもヨドバシカメラは、なぜ自社配送や幅広い品揃えにこだわるのか。配送や在庫のコストを考えると、取り扱い商品は専門分野の家電を中心に絞り、他のECサイトのように配送業者に運んでもらったほうがコストが抑えられそうに感じる。この疑問の答えを知るためにも、まずは同社がエクストリーム便を始めた背景について理解したい。

ヨドバシカメラがエクストリーム便を正式にスタートしたのは2016年秋のこと。それ以前から試験的に実施しており、当初から自社物流網を活用して無料で配送し、注文したその日のうちに届くこともあるとして話題をさらった。

藤沢和則社長は「エクストリーム便を始める前の背景として、店頭の取り扱い商品ジャンルが増えてきていたことがあります」と述べる。以前からカメラ系の本は取り扱っていたが、「技術書や一般の雑誌、小説も置いて欲しい」と要望が多くなり、10年ほど前から本を拡充しようということになった。

まずは本の取り扱いを拡充

すると、「洗剤やトイレットペーパーなどの日用品はないのか」「ペット用品はないのか」「食品やお酒はないのか」などと要望がどんどん増えていったのだそう。

「新しいジャンルを扱い始めると、また別のジャンルの要望がだんだん増えてくる不思議な現象を実感しました。ヨドバシ・ドット・コムでもさまざまな商品が検索されていて、もう思い切って、お客様がたくさん検索してくれているものは、全部取り扱うようにしようと決めたのです」(藤沢社長)

実際にどんなものがたくさん検索されていたのか聞くと「たとえば、味噌とか、醤油とかですね」と藤沢社長。当時はなぜヨドバシカメラで味噌や醤油を買いたがるのかと首を傾げたという。

現在ヨドバシ・ドット・コムで「醤油」と検索すると9,595件ヒットする

とはいえ、ヨドバシ・ドット・コムでは、店頭に置きづらい商品も取り扱える。そのため、顧客の望みをできるだけ叶えているうちに、どんどん取り扱い品数が増えていくことになった。

ヨドバシ・ドット・コムは配送が基本。売上は圧倒的に家電だが、利用点数では日用品のほうが高くなった。現在では、味噌、醤油はもちろん、飲料水や酒など、重たい商品の配送希望がとても多いそうだ。

なぜ無料でスピーディに配送できるのか

品数が豊富な理由に次いで気になるのが、配送をスピーディかつ無料で実現できる理由。物を速く運ぼうとすれば、特急料金のような余計なコストが掛かり、相当に無理を重ねているのではないかと心配になってしまう。

だが、藤沢社長はこの考えを即座に否定する。「実は物流の世界では、物を速く動かせば動かすほど、全般的にコストは下がるのです」。

在庫は回転が速いほどコストが下げられる。物の保管にもお金が掛かるからだ。運送する際の人件費も、移動に必要な燃料も、時間が短いほどコストは下がる。コストカットを重視するほど速く届ける取り組みが必要になり、速く届けられるからこそコストが抑えられて、送料無料が実現できるというわけだ。

速く届ける方がコストを抑えられる

「物流を他の会社さんにお願いすると、時間もお金も余計に掛かります。自社の物流センターで用意した商品が先方の営業所に行って、営業所から先方の仕分けセンターに行って、仕分けセンターからまた配送所に行って、そこからようやくお客様のところへ運ばれます。自社の物流センターから出荷できるのだから、それをそのままお客様のところへ届けたほうが速いのではないかと考えました。単純ですが、これがエクストリーム便をやろうとした最初の発想なのです」

現在、早いときは注文から30分で出荷まで漕ぎ着けることもあるという。今後、対象エリアを拡大し、もっと速く届けるために、物流センター、倉庫、配送センターなどの整備を急ピッチで進めている。新型コロナの影響で予定に遅れは出ているものの、一歩ずつ進めているので楽しみに待っていて欲しいとのことだ。

スピーディー、かつ無料で届けるために自社の物流センターと配送車を整備

「荷物ではなく商品」。店頭に立つのと同じ気持ちで届ける

ヨドバシカメラでは、エクストリーム便の配達員のほぼすべてに社員か契約社員を起用している。

「お客様に商品をお届けするに当たり、速く届けるだけでなく、できるだけお客様のご都合に合わせて柔軟に配達したいと思っていました。いろいろな点で店頭の接客にできるだけ近付けたいと思ったのです。たとえば、玄関先で『ヨドバシカメラです』『お買い上げありがとうございます』『商品をお届けに上がりました』とやったら、お客様に喜んでもらえるのではないか。そういう単純な話から始まったのです」

確かに「お買い上げありがとうございます」は、宅配業者の配達員には言えない。それに玄関先で、顧客に商品を渡すだけでなく、その場でフォローが必要なことに対応するには、ある程度ヨドバシカメラの人間としての意識を持った者を派遣しなくてはならない。

配達員にはヨドバシカメラのスタッフという意識を持ってもらう

「お客様が商品を受け取るとき、箱が潰れていたり汚れていたりしたら、がっかりして買い物の満足度が下がってしまいます。配送だからこそ、商品の受け渡しの段階に気を配る必要があるのです。当社では配達スタッフに、店員と同じ社員教育を施しています。店頭に立つのと同じ気持ちで、『自分が届けているのは荷物ではなく、お客様がお金を出して買ってくださった商品なのだ』という心構えで届けるよう言い聞かせています」

玄関のドアを開けてもらえませんでした

顧客が商品を受け取った時の顧客満足度を軽視しない姿勢は、数多くのトライアンドエラーによって改善し続けている。これまでの試行錯誤には、どのような例があったのだろうか。

「配達員の服装をスーツとネクタイにしたことがあります。玄関のドアをなかなか開けてもらえませんでした。ヨドバシカメラの配達員ではないと疑われたのです。そこで、店頭の制服姿での配達も試しました。これも開けてもらえませんでした」と藤沢社長。

世の中には配達員の振りをしてマンションの入り口から入る、迷惑な営業行為を行なう者もいるため、配達員は配達員らしい服装のほうが良いのだ。「試してみたから分かったことで、試さなかったら分からなかったことです」と、藤沢社長は笑う。

配達員の服装をスーツや店頭の制服にしたこともあったが、配達員であるか疑われたという。現在はユニフォームを採用

「あとは、現在一部地域で、お客様に梱包のダンボール回収をご提案するというテストを検証中です。お客様からのリクエストに応えてのものですが、実際に始めてみると意外と利用してもらえていません。ダンボールをビニール袋に変えても同じでした。配送員にも荷物の中身を見られたくないというお客様が予想以上に多かったのです」と藤沢社長は話す。

ただし、マンションと戸建てでは反応が少し違ったそうだ。ゴミを好きなタイミングで集積所に出せるマンションに対し、戸建てはゴミを回収日まで屋内に溜めておかねばならないケースが多い。このため、マンションよりは回収希望者も多い。

常連のユーザーも回収を希望するケースが見られるとのことで、今後はどのような提案の仕方が顧客にとって一番良いか、見極めながら展開を考えていく。

1品だけの注文に気後れしないでほしい

エクストリーム便は、小物1品から無料で届けることも話題になったポイント。藤沢社長は「小物1品だけだとなんだか申し訳ないとおっしゃるお客様もいますが、遠慮なく利用してください」と言う。

エクストリーム便の配達は、ルートの固定はしていないものの、ほぼ毎日同じようなルートを回っているため、その中に1品だけの配達があってもそれほどロスはないのだそうだ。

ほぼ毎日同じルートを回っているため、1品だけの配達があっても問題はないという

また、他社で利用が広がっている「置き配」についても聞いた。藤沢社長によると、実はヨドバシカメラは先行してテストしたのだそうだ。置いた商品をスマホで撮影して報告したが、当時はあまり受けなかったという。取り組みが早すぎたのと、「荷物ではなく商品」という考え方との温度差もあったのかも知れない。

現在は、顧客が置き配を希望する場合にだけ対応している。玄関先に「ここに置いておいてください」といった置き手紙がある場合などは置いていくが、基本的には呼び鈴を鳴らし、不在で宅配ボックスがあるときは利用しているそうだ。

受け取り時の印鑑も早くから不要にし、何ら問題がないと確認して現在も捺印は求めていない。

他にも、家電の設置も要望があれば引き受ける。12月15日からは東京23区全域で「深夜時間帯の配送設置サービス」も試験的に開始した。深夜配送料金が3,300円かかるが、配送時間を、22時~24時、24時~2時、2時~3時に指定でき、これまで日中の受取が困難だった人に対応するという。

こうした試行錯誤の数々を聞くと、ヨドバシカメラが、顧客から要望があった場合や、顧客に喜んでもらえそうなことは「まずはとにかくやってみよう」という精神で取り組んでいることがよく分かる。

ヨドバシ・ドット・コムでの商品探しのコツ

最後に商品を上手に探すコツを聞いた。正確な商品名が分からない時や、候補が多すぎてうまく絞り込むキーワードが思い付かない時など、求める商品に辿り着く手があれば知りたいところだ。

面白いのは、「拡張検索」を備えている点。現在は、あるキーワードで検索する際、その中から別のキーワードを除いた検索結果を表示する「NOT検索」が利用できる。事前に検索設定ページから「利用する」にチェックを入れる必要があるが、ページはわかりやすい場所にあるので問題ない。

NOT検索は、除外したいキーワードの頭に「 -」(半角スペースと半角のハイフン)を付ける。「ワイン -フランス産 -ノンアルコール」とすれば、「ワイン」の文字列が含まれ、「フランス産」「ノンアルコール」の文字列は含まれない商品が表示される。

ヨドバシ・ドット・コムの画面右上の「セーフサーチ 未設定」と表示されているところをクリックすると「検索設定」を表示できる
「検索設定」では、拡張検索であるNOT(-)検索の利用を設定できる

標準利用できるキーワード検索は「AND検索」と「OR検索」。AND検索は複数のキーワードをスペースでつなげて検索することで、それらのキーワードをすべて含む商品を検索できる。たとえば「ワイン 白」で検索すれば、商品名やメーカー名のどこかにこの2つが含まれる商品が表示される。

OR検索は複数のキーワードのいずれかを含む候補を表示するもので、2つ以上のキーワードを「|」(半角パイプライン)で挟んで検索する。「|」の前後にスペースは不要だ。「ワイン|ビール|日本酒」で検索すれば、この3つのいずれかが含まれる商品が表示される。

キーワード検索のほか、カテゴリ、メーカー名、価格帯、販売開始日などから絞り込める。また、見付けられないときは「お探しいたします」からリクエストも可能だ。

自分で探すのが難しい商品は、画面左の「お探しいたします」からリクエストすることで、商品探しを手伝ってもらえる
探している商品の手がかりを記入し、自分のメールアドレスを入力すればOK

ヨドバシカメラでは顧客のニーズをこまめに汲み取り、少しでも速く、少しでも便利に、満足度の高い商品を届けられるよう取り組んでいる。

スマホアプリも日々使い勝手向上の研究を重ねており、バージョンアップを続けている。どこまで進化していくのか、今後の展開が楽しみだ。