西田宗千佳のイマトミライ

第162回

Windows 11でAndroidアプリが動く。各社アプリストアの狙い

AndroidアプリでもWindowsアプリと区別なく動作する

マイクロソフトは8月25日から、Windows 11上で「Amazonアプリストア プレビュー」の提供を開始した。プレビュー版という扱いではあるが、対象は「すべてのWindows 11ユーザー」となっている。

同社は8月19日より、Windows 11のテストプログラムである「Windows Insider Program」で「Amazonアプリストア プレビュー」の提供を開始していたが、そこから一週間程度で、すべてのWindows 11ユーザーに対象が拡大された形となった。

この機能はどういうもので、どのような意図でスタートするのか。それを解説してみたい。

仮想の「Androidマシン」がWindows 11の上で動く

「Amazonアプリストア プレビュー」は2つの機能で成り立っている。

1つは、Amazonが展開している、Fireタブレット向けのアプリストア「Amazonアプリストア」をWindows上で利用可能にすることだ。そしてもう1つが、Fireタブレットが利用する「Fire OS」のベースとなるAndroid向けのアプリケーションをWindows 11上で動かす「Android Apps on Windows 11」を提供することである。

Windows 11でAndroidアプリが動くようにする、というのは、昨年、Windows 11の存在が発表された時点で公開済みだったが、機能の提供は「後日」とされてきた。

アメリカ向けには今年2月から「プレビュー」が開始されていたが、5月に開催されたマイクロソフトの開発者会議「BUILD 2022」では、フランス・ドイツ・イタリア・日本・イギリスの5カ国で追加展開されることが公表されていた。

今回、日本は他の国より先に展開がスタートした。アメリカに続き2カ国目にあたる。

Windows 11搭載の「Microsoft Store」を更新すればいいのだが、一番簡単で確実な方法は、Microsoft Storeで「Amazonアプリストア」を検索し、インストールすることだろう。すると、必要なソフトなどがダウンロードされ、Amazonアプリストアを介してAndroidアプリを使うことが可能になる。

Microsoft Soreで「Amazonアプリストア」を検索してインストール
インストール時に必要なソフトなども自動的に組み込まれる

Windows 11上でAndroidを動かすために、マイクロソフトは「Windows Subsystem for Android」という仕組みを使っている。これは簡単に言えば、仮想化技術を使って「Windows 11の上にAndroidマシンを用意する」ようなものだ。

Windows Subsystem for Android」が組み込まれ、Androidアプリ動作に活用される
Androidで見慣れたファイル構成。「Windows Subsystem for Android」が仮想的なAndroidとしてWindows上で動いている証拠だ

そのため、Androidアプリを動かすには、Windows Subsystem for Androidが動くための条件をクリアーしている必要がある。具体的に言えば、CPUやBIOSが「仮想化」に対応していることや、メインメモリーが8GB以上あることなどだ。条件を満たしていないとエラーが出て動作しない。

仮想マシンの動作など、必要な環境を満たしていないとWindows Subsystem for Androidが動作しない

動作条件さえ満たしていれば難しいところはなく、アプリを起動すればいいだけだ。Androidアプリの場合には、同時にWindows Subsystem for Androidも起動してくるので、ユーザー側は特に意識する必要はない。

また、Androidアプリをマルチウインドウで複数動作させることもできる。

「自由なストア展開」が狙い。アップル・Google対抗の意図も

マイクロソフトはなぜこのような機能を搭載したのか? 理由は「Microsoft Storeの活性化」だ。

Microsoft Store(旧Windows Store)は、2011年に「Windows 8」とともに登場した。iPhoneやAndroid搭載スマートフォンにおける「アプリストア」の拡大に危機感を抱き、Windows PCの上でもアプリストアモデルを構築して対抗したい……というのが狙いだった。

ご存知のように、この方針はうまくいかなかった。いわゆるPCアプリ(Win32アプリ)ではない、Windowsストアアプリ(その後のUniversal Windows Platform、UWPアプリ)の配信に限定した結果、PCの利便性を削いでしまう結果となったからだ。

その後、Windows 10の時代に方針転換もあり、Win32アプリなども配布可能となったものの、自由度や位置付けが中途半端なままではあった。

Windows 11のローンチに合わせ、Windows Storeは大幅に刷新された。Win32アプリにウェブアプリ(PWAアプリ)と、多様なアプリを配信可能になっただけでなく、ゲームプラットフォームである「Xbox」向けのゲームタイトルも並列に並ぶようになった。

さらには、「自社で決済をするならマイクロソフトはストア使用手数料を取らない」という方針を打ち出し、アップルやGoogleとの差別化も打ち出した。

アプリの安全な入手やアップデートの管理を考えると、アプリストアは多くの人にとってプラスである。PCは「自由にアプリをインストールできる」ことが利点ではあるが、アップデート管理や機種移行の手間を考えると、アプリストアはあった方が良い。ゲームなどについては、PC上でも「Steam」などのアプリストアが成立している。他のアプリについても、アプリストアが管理してくれる方が楽でいい。

その上で、スマホプラットフォーマーとの差別化として「自由」をアピールするために、他社ストアとの併存・共同展開も可能なビジネスモデルを構築することになる。PCの利点である自由度を活かすための発想だ。

これが、Windows 11に向けた「Microsoft Store」刷新の狙いである。

他社ストアも併存できる、という発想をさらに進めたときに出てくるのが「Androidアプリも配信する」という形だ。Androidアプリを仮想マシンやエミュレーションで動作させるのは難しいことではない。ならば公式にやってしまおう……というのがマイクロソフトの狙いだ。

Android用アプリストアとして圧倒的にシェアを持つ「Google Play」は利用できない。それは、Googleとの間でストア展開の合意がなされていないからだ。しかし、Amazonならば可能である。

というわけで、「Amazonアプリストア」が提供されることになったわけだ。

ストアの検索機能は統合されているので、Amazonアプリストアで提供アプリであっても、Microsoft Storeから検索できる。ただし、そこからの「決済」「ダウンロード」は、あくまでAmazonアプリストア・アプリ内で行われることになる。

Microsoft Storeの検索機能でAmazonアプリストアのアプリも見つかる
実際にダウンロードする際には、Amazonアプリストアが開く

だから、利用にはAmazonのアカウントでAmazonアプリストアにログインしておく必要がある。二階建てのような構造だが、だから、マイクロソフトの決済とは別れた形で、Amazonの決済が使えることになる。

最初に使う時には、Amazonのアカウントを入力する必要がある
Microsoft Storeを使わず、Amazonアプリストア単独で使うことも可能

なお、Googleは現在、Windows PC上でGoogle Playで公開されたゲームを遊べるようにする「Google Play Games」という仕組みをテスト中だ。8月25日にはベータテストの対象をオーストラリア、香港、韓国、台湾、タイ地域における全ユーザーへと拡大したが、日本は対象外である。

そして、この取り組みはあくまでGoogleが独自に行なっているものだ。Windows 11でAmazonアプリストアとWindows Subsystem for Androidが展開されていることとは、直接的な関係はない。

使いたいのはゲームくらい? 活発な利用には疑問点も

Amazonアプリストア+Windows Subsystem for AndroidによるAndroidアプリ提供は実用的なのだろうか?

現状はテストという扱いなので、提供されているアプリは非常に少ない。一部のゲームが中心だ。対象アプリを動かしてみた限りで言えば、意外と問題なく動いているし、パフォーマンスも悪くない。

ただ、積極的に使うかと言われれば「Androidでプレイしたいゲームがあるなら」という印象を受ける。AndroidアプリをPC上でわざわざ利用するシーンを考えると、ゲームくらいしか思い浮かばないのだ。

「スマホアプリが動く」という意味では、Appleシリコン搭載のMacが先行している。iOS/iPadOS用のアプリがMac用のApp Store経由で配布されるようになっているからだ。

Appleシリコン搭載Macの上では、iOSやiPadOS用アプリも動くようになっている

この要素は、たしかに「あって損はしない」のだが、現実問題として、Macの上でiOSアプリをたくさん使っているか、というとそうではない。やっぱり一部のゲームくらいにしか使っていない、というのが実情だ。

Windowsでも事情は変わらないように見える。だから、活発に使われると考えるのは難しい。Windowsにおけるアプリストアの価値拡大ではあるのだが、「Windows PC上で使いたいAndroidアプリが出てくる」前提でのことではある。

ゲームメーカーの目線で見れば、利用できるプラットフォームの拡大=販路拡大なので、悪い話ではないだろう。Amazonでも展開しているアプリなら、そこまで大きな手間をかけずに販売も可能だろうと想定できるからだ。

Amazonも、Windows 11上でAndroidアプリを動かすための開発サポートページをすでに用意している

ただ、Windows上で動くようになることで、操作の自動化などのチートはしやすくなってしまう。運営上の懸念を考慮する必要はありそうだ。

また、あくまで「Amazonアプリストア」としての連携なので、スマホでプレイしたゲームの続きをするとか、スマホで買った課金アイテムを使うとか、そういうことは難しい。

ゲームなどで使う「コイン」などはAmazon上で決済して購入するので、スマホ上(Google PlayやAppStore経由)では使えない

実のところ、それをやろうとしているのは、Googleが独自に展開している「Google Play Games」の方なのだ。結局ここに「プラットフォームの影響力」が見えてくる。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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