西田宗千佳のイマトミライ

第61回

”巣ごもり”で活況のテレビ市場。テレビが売れた3つの理由

新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の流行以降、売れやすい商品ジャンルとそうでない商品ジャンルの差が大きくなってきた。その中でも、テレビは「勝ち組」と言われる。

今年は本来オリンピックイヤーであり、テレビが売れる想定の年「だった」のだが、それとはまた別の流れで、今はテレビが売れている。今年のテレビ市場の動向と商品の特徴について考えてみよう。

4K・大型化が進むテレビ

冒頭で述べたように、今年はテレビが売れている。先日取材した東芝映像ソリューションでは、「テレビは巣ごもり市場のヒーロー」という言葉も出できた。

大きすぎない”48型有機EL、「今年のレグザ」

データでその状況を見てみよう。次のグラフは、JEITA(一般社団法人 電子情報技術産業会)が毎月公表している「民生用電子機器国内出荷統計」から、テレビに関するデータを抽出したものである。統計基準の関係から、2018年4月以降でまとめているが、今回の用途では特に問題ないだろう。

JEITAが毎月公表している「民生用電子機器国内出荷統計」から、テレビに関するデータを抽出したもの。グリーンはサイズごとのテレビ販売数量を、赤の折れ線は4Kテレビ(単位はともに千台)

グリーンの部分(単位は千台)が29型以下からサイズ単位で統計された出荷数量の積み上げグラフであり、全体で「その月のテレビ出荷量」と考えていただいて構わない。赤い折れ線グラフは4K対応テレビのみを抽出したものである。

販売数量は全体で見れば緩やかな上り傾向、と言ってていい。トータルでの前年比は2月が約10%減、3月が約4%減であったものの、4月は約6%増、5月は約17%増とぐっと増えた。

それ以上に、販売傾向を見る上で重要なのは、50型以上の比率の上昇だ。50型、というと大型で少数、という印象を持ちそうだが、現在はすでにそうではない。数的に一番多いのは37型から49型(二番目に濃いグリーン)だが、50型もすでにそれに迫っている。特に販売数量増加は、50型以上で顕著である。前年比でいえば、4月と6月は約33%プラス、5月はなんと65%もの増加となっている。

大型テレビのほとんどは、今や4K。4Kテレビの販売数量(赤い折れ線)も、5月・6月と伸びている。いまや完全に4Kテレビが販売の大半を締め、特に6月はその傾向がより高まっている。大手テレビメーカーにとっては、大型・4Kといった「高単価製品」の販売比率上昇はありがたい限りだろう。

テレビが売れた3つの理由

なぜ大型・4Kの販売比率が上がっているのか? それには3つの理由がある。

ひとつは、2011年の地デジ移行の時期に購入されたテレビが、そろそろ買い替えタイミングに差し掛かっている、ということだ。

ブラウン管の時代に比べ、液晶・有機ELのテレビは故障しづらく、製品寿命は長くなる傾向にある。とはいうものの、10年近い時間が経過すると機能的にも古びてくる。

現在、放送以上にポイントとなってきているのが「映像配信」だ。10年前の機種は、テレビだけで最新の映像配信を見るには向かない。「映像配信をテレビでじっくり見る」という行為自体、この1、2年でようやく一般化した。そこにCOVID-19の影響による「巣ごもり消費」が出てくる。自宅で過ごす期間が長くなり、映像配信関連企業は軒並み業績を上げている。スマホやPCで見る人も多いが、慣れてくると「大きな画面でゆっくり見たい」と思う人が増えるもの。それは結果として「テレビを新しい、高画質で映像配信が見られるものに買い替えよう」というモチベーションにつながる。

そこに3つめの大きな要因があった。

それがCOVID-19対策としての「特別定額給付金」の存在だ。各世帯に給付された10万円の給付金は、生活のためにももちろん使われているのだが、同時に「まとまったお金が入ってきたので、これを機に家電を買い換えるために使おう」という発想も後押ししている。そこで売れているのは、「電子レンジ」「エアコン」「パソコン」などだが、同様にテレビも売れている……という風に考えればいいだろうか。

一方、特別定額給付金の申請期限はそろそろ近づいてきている。申し込んだ人々への給付も、いつまでも続くわけではない。とすると、特別定額給付金による「特需」はそろそろ終わり、買い替え需要をどう刺激していくか、というフェーズに入ってくる。景気悪化の影響はむしろこのあと本格化する可能性が高く、高額商品であるテレビの売れ行きについても、楽観視するわけにはいかない。

とはいうものの、市場が盛り上がっており、テレビの買い替えを促す要因が揃っていることに、変わりはない。

有機ELが充実

では、今季の各社製品がどのような傾向にあるのか、見ていこう。

画質重視のハイエンドが有機EL、ワンランク下でサイズ重視が液晶、というトレンドはここ2年くらい共通のトレンドだが、有機ELについては、画質向上・各社による画質構成の味付けの違いなどが、昨年以降明確になってきた。昨年まで、シャープは液晶のみを手掛けてきたが、今年は有機ELを使った「CQ1」を発売。大手すべてが有機EL+液晶でラインナップを構成するようになっている。

シャープ CQ1

特に今年の有機ELは、より各社の差が大きくなってきた。ディスプレイパネルの画質面の調整を、テレビメーカー側でより深く手掛けられるようになったこと、パネル以外のパーツでの独自開発が進んでいることなどが理由だ。各社共通の特徴としては、全体的により明るくなったことが挙げられる。

だがなにより、最も大きな変化は「48型有機EL」が市場に登場したことだ。要は、LGディスプレイが48型の有機ELパネルを供給するようになったために生まれた製品だ。今季の場合、東芝とソニーが市場投入している。

過去に比べ薄型化・小型化が進み、大型テレビへの移行が進んでいるとはいえ、都市部では「50型以上は大きい」という声も多い。有機ELシフトを進める意味では、48型の存在は重要だ。5年前に40型・43型あたりが担っていた要素を、48型の製品が満たすようになるのではないだろうか。

ソニー BRAVIA A9S
東芝 48X9400

パナソニックはDolby Atomos対応を軸にした「音」を武器にしている。もともと同社は映画志向の強い製品を作っているが、その一環としての音の重視、といっていいだろう。特に「VIERA HZ1800シリーズ」では、上むきのスピーカーを使った臨場感がポイントだ。

パナソニック VIERA HZ1800シリーズ

比較的各社とも、キャラクターの「濃い」テレビを製品化しているが、それはもしかすると、本当はオリンピック商戦期であり、そこに賭けていた各社の意気込みが発揮された結果なのかもしれない。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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