小寺信良のくらしDX

第4回

DXに取り残された? 「住所」というシステム

多くのトラブルが報告されているマイナンバーカードだが、こうしたエラーについて河野太郎 デジタル大臣は、住所の表記のばらつきについては、「将来的にはAIの技術を使って表記ゆれを判断することがあり得るかもしれない」と発言した

住所というのは、一見単純な仕組みに見える。都道府県から始まり、市町村名、ナントカ1丁目2ー3といった具合に、大きいくくりから小さいくくりへどんどん特定していく記述式である。海外では小さいくくりから大きいくくりへ記述する国もあるが、普段我々がコンピュータ上の特定のファイルへたどり着くためには、大きいディレクトリから小さいディレクトリへ辿っていくのが普通である。やはり大枠から細部へ向かって記述するのが、「そこへたどり着く」という目的に適う記述式だろう。

つまりそんな簡単な記述式に、AIで処理する余地があるのか、というのが多くの人の感想だろう。だが実は土地に番号を振るというシステムが2層構造になっていることは、ほとんどの人には知られていない。表記揺れの問題もさることながら、住所の問題をややこしくしているそもそもの原因は、この2層構造ではないかと思っている。

「番地」と「番」

このITの時代、昔ながらに手紙を出すという機会は少なくなったが、荷物を送る際には送り先の住所を伝票に書くという作業が発生する。このとき、住所のナントカ1丁目から下の数字は、「2ー3」のようにハイフンで繋いで書けば、相手には届く。だが実際にこの数字の部分は、正式には2番3号であったり、2番地3号であったりするはずだ。

番でも番地でもどっちだっていいだろう、と思われるかもしれない。実際そうしたかき分けが面倒だから「2ー3」のようにあいまいに書いていれば、届ける郵便局や宅配便事業社が頑張ってそれで届くようになっている。だが番なのか番地なのかは、役所や学校など公的機関に提出する書類では、間違えられない。どうして番と番地は、どっちかに統一されていないのか。

実はこの2つは、管理している法律が違う。まず、土地に番号を振って管理する必要が生じたのは、土地の所有者から税金を徴収したいからである。明治6年に「地租改正条例」が交付され、全国的に土地の測量が行われた。そこで所有者別に土地をきっちり分け、番号を振ったわけである。これを「地番」という。地番は、「○番地」という表記で表わされる。○番の土地、という意味である。

不動産用語では、1つの土地のことを「一筆」(ひとふで)という。土地を分けることは「分筆」(ぶんぴつ)、土地をまとめることは「合筆」(がっぴつ)という。どうして土地のことを「筆」と称するかと言えば、かつて土地台帳に、土地の番号と所有者を1行で書いていたからである。つまり一筆で一気に書いてしまうから、1つの土地の単位が一筆なのである。

この地番は、所有者と紐付けされる。つまり不動産登記する際に使われるもので、法務局で管理される。地番は所有者があるかぎり番号が振られるわけだが、納税が不要な国有地や、未登記の土地には地番が設定されない。

こうして土地に番号が振られているのは便利なので、人が住んでいる場所、すなわち住所としても使われていた。昔は地番と住所は同じだったわけである。

一方で、デカい土地に何件もの家が建ち始めたり(土地所有者と家屋所有者は同じでなくてもよい)、デカい土地を徐々に細かく分割して小売すると、「2番地2の1の4の1」みたいに果てしなく数字が別れていくことになる。そうなるとモノを届ける、あるいはその場所を訪ねていくには、加速度的に不便になっていく。

そこで1962年(昭和37年)に住居表示法(住居表示に関する法律)が制定され、地番とは別に、住所としての建物に名前や番号を振り直す事になった。土地に番号を振ったのが地番だが、建物に番号を振ったのが住所というわけだ。この数字が「番」と「号」である。この作業の主体は、市町村だ。住所なんて太古の昔からあるように思われているが、実はたった60年前に付け始めたのである。

永遠の過渡期

そうは言っても、人が住んでいる、あるいは建物が建っているすべての場所に番号を振り直すには、莫大なマンパワーがいる。実際には役所の担当者が現場まで来て、玄関の位置を確認したのち、町名や番号が割り振られるのだそうである。

そこで山間部や農村部などは改めて番号を振り直すほどではなく、地番のままでいけるところは、これまでどおり地番をそのまま住所に転用した。つまり、地番の「2番地の2」を、住所でそのまま「2番2号」にしていったわけだ。

一方都市部のように地番が果てしなく別れてグチャグチャになったところは、全部番号を振り直しである。だがこの作業は、未だ作業が追いついていない場所が今なお存在する。さらに市町村合併などすれば、また番号を振り直すところも出てくる。地名が一緒になることで、同じ番号の場所が複数箇所出てきてしまうからである。

そうなるとお気づきのように、1つの場所を表わすのに、地番と住所が2つある、しかもこの2つは地名も数字も違うというところが出てくる。

さらにそれをややこしくしているのが、「本籍地」だ。本籍地は、地番でも住所でも、どちらでも記載できる。住所も本籍も同じはずなのに、地名も数字も違うという方は、本籍が地番になっているのだろう。

本籍を管理しているのは、戸籍法だ。これは出生、死亡、婚姻、離婚といった情報を管理している。つまりこうした情報に変更が生じた場合には、本籍地を記入することになる。

最も利用頻度の高いのは住所だが、これが全然デジタル化する気配がない。宅急便はアプリからバーコードやQRコードを作ってそれをリーダーで読めば、紙の伝票が作れるまでにはなったが、まだ所詮は紙処理である。

保険証はマイナ保険証対応の病院も増えているが、最初の受付に使うだけで、問診票や同意書などには相変わらず住所氏名を手書きする必要がある。手書きなら、人が読めれば表記揺れなど関係ないからだろう。例えばハイフンが全角なのか半角なのか、手書きでは何の関係もない。

だがこれは誰かが裏でマイナンバーカードで読み取った住所氏名と目で照合しているわけで、人間が本人確認するのに、一番手っ取り早いからだろう。だが毎回住所を書く方はたまらない。

まあ、なんでこんなに長々と文句を言っているかというと、筆者の住所が、マンション名まで含まれるためにやたら長いからである。大抵の住所記入欄には1行では収まらない程度には長い。このクソめんどくさい「住所を書く」という儀式を、この社会はいつまでやらせるのだろうか。

表記揺れが問題になるなら、揺れていないことが確認できた情報をデジタル化していつでもそのまま使えるようになれば済む話ではないのか。住所を示せといった際に、スマホでQRコードを見せれば終わり、といった具合には全然ならない。毎回毎回住所を手書きや手入力させている限り、表記揺れは永遠になくならない。そここそが、本質的な問題だろう。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。