いつモノコト

50cmまで寄れる双眼鏡「パピリオ」で見る美術品のディテールに感動

ペンタックス パピリオ 6.5×21

今回は普段使っている“ちょっと変わった双眼鏡”を紹介したい。それはペンタックスの「パピリオ」(Papilio)というシリーズで、最短50cmからピントが合うという優れものである。

世の中のほとんどの双眼鏡は数m先からしかピントは合わず、近くを見る事はできない。これは人間も近くを見るときには寄り目になる必要があるのと同様、双眼鏡も近くを見るためには左右の対物レンズ間隔を狭めなければならないのだ。で、普通の双眼鏡はこれができないわけである。

その点パピリオは、近くにピントを合わせると自動的に左右の対物レンズの間隔が狭まる「ピント連動対物レンズ位置補正機構」を搭載しているのが特徴だ。このような機構を搭載している双眼鏡は、一般に販売されているものとしてはこのパピリオシリーズだけのようである。最近では、他社でこうした機構を使わずに近距離対応した安価なモデルも登場していて筆者も試したが、見やすさや使い勝手はパピリオが勝ると感じた。

「0.5m」のシールが目印
無限遠時の対物レンズ。近接するに従って斜めの溝に沿って動き、左右レンズの間隔が狭まる仕組み
最短にピントを合わせたところ。一般的な双眼鏡よりも“寄り目”になる

筆者が持っているのは「パピリオ 6.5×21」というもので、2012年頃に購入した。現在パピリオはコーティングを強化した改良版のII型になっており、「パピリオII 6.5×21」と「パピリオII 8.5×21」がラインナップされている。実売価格はいずれも税込12,000円前後だ。

ちなみに、双眼鏡の名前に付いている数字は「倍率×対物レンズ有効径」。6.5倍と8.5倍は迷うところだが、倍率が小さいほど明るいので(対物レンズ径が同じ場合)、6.5倍の方が使いやすいだろうと思ってこちらを選んだ。結果は正解だったようで、6.5倍でも倍率不足は感じなかった。また、低倍率の方が手ブレの影響を受けにくいというメリットもあった。

特殊機構を搭載しているが、見た目は普通の双眼鏡。全長114mmとコンパクトに収まっている
接眼部のフードはねじると飛び出すタイプで使いやすい

さて、この双眼鏡が真価を発揮する場所の1つが美術館や博物館、資料館といった展示施設だと思う。そんな場所で双眼鏡? と思うかも知れないが、何しろ50cmからピントが合うので美術品のディテールが手に取るようにわかって感動ものである。ガラス越しで近づけないような展示物も仔細に見られるのがよい。

また、こうした施設によくあるのがミニチュア、ジオラマといった展示物だ。これらをパピリオで見ると本当に面白く、時間を忘れるほどである。パピリオを買って最初に行ったのは、確か江戸東京博物館だった。ここには多数のジオラマがあるが、中でも日本橋のジオラマは有名。普通に見ても面白いのだが、この双眼鏡で見ると人形1体1体の顔までよく描かれているのがわかって驚いたものだ。

三脚穴も付いている

一方屋外では、植物や昆虫などをルーペがわりに拡大して見られるので、これもまた楽しい。もちろん近くだけでなく遠景も見られるので、ハイキングや山登りの時などにはもってこいのアイテムだろう。

なお、美術鑑賞向けとしては昔から「単眼鏡」(モノキュラー)という製品がある。これは単眼なので数十cm先からピントが合うのだが、片目で見るのと両目で見るのとでは段違い。やはり両目の方が圧倒的に見やすくて没入感もある。

パピリオはほとんど唯一無二の特殊機構を搭載しながら、1万円台前半で買いやすく、重さも約290gとギミックが入っている割りには軽量と思う。筆者としては近くパピリオを携えて、鉄道博物館や東武ワールドスクウェアあたりを見に行きたいと思案している。

武石修

1981年生まれ。2006年からインプレスのニュースサイト「デジカメ Watch」の編集者として、カメラ・写真業界の取材や機材レビューの執筆などを行う。2018年からフリー。